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ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!  作者: 奇蹟あい
第十章 定期公演 ~ Monthly Party 2024 ~ #7編

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第11話 これがホントのベアハッグ⁉

 若干の寝苦しさを感じて目が覚めてしまったよ。


 まだ外は暗い……。

 頭の上辺りを探って、目覚まし時計を見てみたら、4時を少し回ったところだった。4時って朝? それとも夜? 新聞のテレビ欄とかって、5時からがその日って感じあるよね。4時だと前の日扱いなのかな?


「んー、ちょっと散歩でもするかあ」


 と、ベッドから起き上がろうとして初めて気づく。

 なんかお腹が重たい……。


 まさか。


 そっと掛け布団を剥いで見ると……花子だ。

 

「まーた、布団に潜り込んできたな……」


 花子がボクのお腹にしがみつくようにして寝息を立てていた。

 これがホントのベアハッグ⁉

 あっちに専用のベッドを作ってやったのにすぐにこっちに入ってくるんだから困ったもんだ。エアコンが付いているから寒いのかな?


 しがみつく花子の両腕を外して、横に寝かせてみる。

 ぜんぜん起きる気配がない……。大の字で寝ているし。お前の野性はどこ行ったんだよ……。


 まあいいか。

 もうちょっとそこで寝てなさい。ボクは朝(夜?)の森林浴でもしてくるよ。


 花子を起こさないようにそっとベッドを抜け出す。

 日が昇るまではけっこう冷え込むし、ストールを1枚持っていこうかな。花子が起きてボクがいないって泣いたら困るな……。書き置き……文字読めるか? 念のため絵で描いておくか……いやいや、ボクは絵なんてぜんぜん描けなかったわ。……まあすぐ帰ってくればいいか。急に起きるなよー?


 静かに静かに部屋の扉を開けて外へ。

 最後、ドアを締める時も細心の注意を払って。

 

 よし、大丈夫そう。

 さてさて、探検にでも出かけよう!



* * *


「おー、思ったよりも寒い! ストール持ってきておいて良かった……」


 前乗りしてキャンプした時も若干感じていたけれど、ここって避暑地なんだなあ。朝(夜?)はめっちゃ冷え込む。普通に焚き火したいくらい。


 だだっ広い芝生、そしてその先の森を見つめる。

 思わず深呼吸。

 あー、肺が冷えるー。息が白い。


「へへ」


 なんか笑っちゃう。

 こんなので“生”を感じるのって変かな。変だよね。


 森のほうまで歩いてみようかな。

 うぉ、なんか森の奥から動物の鳴き声が聞こえる……。やっぱりやめておこうかな……。


「おう、楓。早起きだな」


 真後ろから声をかけられて、反射的に飛び退る。


「なんだ、驚きすぎだぞ」


 声をかけてきていたのは、麻里さんだった。


「いや……びっくりさせないでくださいよ……。今動物の鳴き声が聞こえてて……」


 タイミング的に襲われたかと思ったでしょ……。


「ってー、そのかっこうなんです? 雪山でも登るんですか?」


 夏、とは思えないほどの重装備。

 モコモコのダウンジャケット、耳まですっぽりかぶった毛糸の帽子。靴はムートンブーツだ。


「ここの朝は寒いからな」


「寒いですけど、それはさすがに着過ぎじゃないですか……」


 研究室から出なさ過ぎて環境に対応できていないんじゃ?

 もっと体を鍛えましょうよ。一緒にダンス練習とかします?


「麻里さんも朝の散歩ですか?」


 そんな重装備でわざわざ外に出てくるなんて。


「お前が1人外に出て行くのが見えたからな。保護者として様子を見に来ただけだよ」


「保護者って。そんなに子どもじゃないですけど……」


「まだ生まれたばかりだろう。私からしたら花子もお前も変わらんよ」


「ボクは一応17歳なんですけどね……」


 そんなに危なっかしいですかねえ。

 もっとしっかりしなきゃな……。


「それはそうとして、今回の合宿はどうだ? もう今日でラストだが、何か掴めたか?」


 麻里さんが毛糸の帽子を脱ぎながら聞いてくる。

 さすがにそれは暑かったんですね。


「まー、難しいですねー。『演技とは何ぞや!』みたいなのはわかったようなわからないような……。舞台と映画と声優の違いはわかったような気はするんですけど、わかったからと言ってできるかどうかと言われれば……」


「最初はそんなものだ。実践して失敗を重ねるしかない」


「それはわかってますけどー。ボクたちが失敗すると作品がこけちゃうというか、『棒声優』みたいに言われると原作の朝西自体に迷惑をかけちゃうっていうか……」


 仕事をするからには成功させたいって思っているんですよ。プロの声優さんみたいにできるなんて思っていないですけど、違和感がないくらいにはなんとかしたい……。


「肩に力が入り過ぎだ。普段通りで良いよ。もう映画で一度演じたキャラクターだ。その演技が評価されたからキャスティングされているんだ。もう少しだけ自信を持て」


 麻里さんはそう言って笑いながらボクの肩を叩く。


「自信ねえ……。マキの演技を見ちゃうと差があるなあって……」


「もし自信をなくしている担当アイドルが目の前にいたとしたら、お前はどんな言葉をかけるんだ?」


「あー、もしメイメイがボクみたいな状態だったら……」


 どうするかな。

「がんばれ」は違うし、演技に対するアドバイスをするのも違うし。


「自分の中で作り上げた役を信じろ……かな」


 それにズレがあったら、音響監督とかが補正してくれる。それをうまく飲み込んで理解して反映させればいい。


「ではその言葉をお前にも贈ろう。『自分の中で作り上げた役を信じろ』」


「ずるいなあ。わかりました、としか言えないじゃないですか……」


「でもそれでうまく行くんだろう?」


「そう、ですね……。自分の中でちゃんと準備したって思えたら、もうあとはそれをぶつけるしかないですよね……」


 それ以上悩んでも自分の中からは何も出てこないっていうか。こねくり回し過ぎたらおかしくなっちゃうかもしれないし。


「私は楓のことを応援しているよ。お前はいざという時になればやればできるんだよ。昔からそうだったな。お前は大切な場面で間違わない。だから大丈夫だ」


 やればできる、か。

 昔? オーディションの時とかかな? ボクって、麻里さんの中でけっこう評価高かったんだなあ。なんかすごくうれしい……。


「春のことも引っ張ってやってくれ。春は真面目過ぎるから、気をつけてやらないとつぶれてしまいかねない」


「そうですね。一緒に2人でがんばりたいと思います」


「良い宣言だ。よし、ここは寒いし、温泉にでも入るか」


 麻里さんがモコモコのダウンジャケットを脱いで、その内ポケットからタオルを2本取り出してきた。


「え、一緒にですか?」


「なんだ、嫌なのか?」


「嫌ってことはないですけど……」


 何を企んでいるんですか?


「そう警戒するな。たまにはいいじゃないか。家族なんだから、裸の付き合いがあってもな」


「研究室だといつもボクだけ裸ですからね……」


 違いない、と笑いながら、麻里さんが施設の中に戻っていった。


「あ、ちょっと、待ってくださいよー」


 麻里さんと2人で温泉かあ。

 まあそれも経験か!


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