第19話(仮)
馭者台へと半ば退避した二人に引かれているとは知らず。
ミノアは動き出す馬車の中、小さな身体を動かし棺桶の中身を整えていた。
材質が良いのか整備されていない路上から伝わる揺れも少なく、彼女の作業を妨げることもない。
「………」
死んだように眠る青年の髪を動かし、手を胸の前で組ませ、その上に彼が作ったというナイフを乗せ、服の乱れを正す。
時折床に置かれた杖を握り締め、既に展開されている魔法を調整する。負の方向へ調整された魔法により、青年の呼吸が深く、静かに、そして顔から血の気が引いていく。
棺桶の中身は確実に、死へと向かっていた。
しばらくした後、ミノアは自分の荷物を手繰り寄せ、そこから薄い桃色の花を取り出す。
死者へ手向ける花、其の二、である。既に散りばめられていた白の花を前に、少女は動きを止める。
「………」
一心不乱に花の置き場所を考え、置いては無表情のまま花を取り出し、置き直す。
そんな冷気が漂う人形遊びをしている一方で、外では景色を楽しんでる風を装っていたドゥールが、堪らず黒の幌を凝視していた。
彼の横で手綱を握っているフリギアへと顔を戻し、口を開く。
「ねねフリギア、後ろが静かすぎるんだけど」
「気になるならば、確認しろ」
「ヤメトキマス」
「賢明だな」
フリギアは只管前方を見て、手綱を操る。日が落ちる前に少しでも距離をかせぐべく、馬を走らせる。
本来ならば道中設けられた中継点で馬を交換するところだが、今はドゥールの回復魔法を馬にかけて使い続けている。
小さく首を振り、ドゥールは定期的に魔法をかけ続けている二頭の馬へと意識を切り替える。
「いくら回復魔法って言っても、お馬さんにかけるモノじゃないんだけど」
「仕方あるまい。全く、アイツと会わなければこうも時間を取られずにすんだものを…」
「会わなければって言うけどさ。フリギア、とっても楽しそうだったじゃん」
馭者台に小さな背を預けるドゥール。フリギアは確かにな、と前を向いたまま頷く。
「ミノアにも言ったが、あそこまで嬲り甲斐のある人間は久しぶりだったものでな」
「嬲り甲斐! うっわ! でたよ魔王!」
即座に台から背中を剥がし、飛び起きるエルフの少年。
他方、叫ばれた方は訳が分からない、と眉を寄せる。
「マオウ? なんだ、それは」
「あれっ、知らないの? フリギアさ、わるーい人間を罠にかけたり尋問する時、ものっすごいイキイキしてるじゃん。ソレね」
「活き活き?」
「なんか笑顔が悪魔っぽいってことで、魔王! キャハハハ! 確かにそれっぽいよね!」
「…心外だな」
大抵の場合、嫌々悪人を演じているのだ。それを活き活きなど言われたくないのだが。
内心を押し込め、憮然とするフリギア。まさかの反応に、ドゥールが目を見張る。
「ホントに自覚なかったの? 今度鏡見てみなよ!」
「そこまで言うか」
ガタン、と大きめの石に車輪が乗り上げ、身体が浮き上がる。途端、静かになる馭者台の二人。
しばらくして古びた看板が立てられた三叉路が現れるが、フリギアは即座にその一つへと方向を定める。
「グリスへ向かう。ミノアの魔法はシアムを殺す……だからこそ、取りたくない手段だったが…」
「ソレ、分かるけど、ホント急いだ方がいいよ? コレ冗談じゃないからね?」
「…あの様子で、お前が冗談を言うとはさすがに思わん」
静かすぎる幌を、二人はそろって仰ぐ。
「せめて、ミノアがシアムから離れればいいんだけどねえ」
「無理だな。引き剥がすと、こちらの身が危うい」
「フリギアが無理って言うなら、オレじゃますますムリだね!」
「嬉しそうに言うな」
ミノアならば、ほんの弾みであの青年を殺しかねない。
その上で、普段と変わらぬ表情、口調で言うのだ。
「死んだ」と。
「………」
「………」
不吉だが、予言以上に確実な推測。
口には出さないが、同じ予測に至った二人は揃って首を振る。
「急ごう、ね?」
「ああ」
馬を無理矢理走らせること数日。馬車としては驚異的な速さで、異音を響かせ街道を突き進む。
暴走寸前、葬儀用の馬車を狙う賊もおらず、ある意味安全な旅が続く。
短いですが、ここで一旦区切らせていただきます。二十話から、類似タイトルで続きます。
全体的な描写不足、ファンタジーであるにも関わらず淡々と進んでいく内容。
にも関わらずここまで目を通して下さり、有難うございます。
一気に読んでくださる方、更新のたびに目を通して下さる方。
実に嬉しい限りでございます。
なお、こちらは完結扱いになりますが、アクセス数などは随時確認しますので、放置状態にはならない予定です。
例えば…絶讃以下略(欺)開始後、飛びに飛びまして2018年8月4日現在のアクセス数
PV:16164
ユニーク:3616
ユニーク数が絶讃~(囮)に続いて3000を超えました。気づけば(謀)と(計)のユニーク数も3000を超えていました。皆様、有難うございます。
但し、PVについては「取り敢えず一話の最初数行だけ見てみよう」「間違って選択してしまった」というのも含まれていると思うので、この数字を素直に受けることはできませんが……が、とても嬉しいです。
そして、完結済になり相当の時間が経過しているにも関わらず、新たにお気に入り登録までしていただき、有難うございます。
見返していただく方がいらっしゃるのか、何かの偶然で目についたのか…はてさて真相は。
なにはともあれ、感謝、感謝でございます。
以上、ここまでの一読、有難うございました。
追記
絶讃~(欺)が完結したためか、第一話が置いてある(仮)から見ていただいている方がいらっしゃるようですが、その…各部分別に区切ってはいますが、絶讃以下略、全部で146話あるので、一気に流し見するのは健康によろしくないかと。特に目と頭が痛くなるかと。
ほどほどに、間を挟んで軽い気持ちで目を通していただければ幸いです。




