vs御影第一(7回裏~)
続く7回裏…御影第一の攻撃だったが、和泉のキレのある変化球に着いていけず三者凡退に終わってしまう。
そして8回表の雷鳴轟の攻撃……
和泉「ふぅ……」
生田「大丈夫?」
この回のファーストバッターの轟がバッターボックスへ向かった際に和泉がベンチに掛けてあったタオルで汗を拭いつつベンチの奥の方に腰かけると、その隣に先程まで投球練習をしていた和泉の従兄弟に当たる間柄の悠が一緒に座って話し掛けた。
和泉「悠か。あぁ、久しぶりの投球だったからね…」
生田「そっか。それじゃ、監督の等々力の叔父さんからの言伝ね。『8回は何とか投げきる事。もし点を取られても気にせず投げろ』ってね」
和泉「オーケー、了解したよ」
生田「確かに伝えたよ。僕も初登板だから張り切って三振とって見せるから!」
和泉「ハハッ、頑張れよ」
背の関係上、上目になりながら悠が和泉に言うと、和泉も頷いて頭を軽く撫でつつ了承した。
ちなみに、この時雷鳴轟ベンチでは「とてつもなくリア充に見えるけど、生田って男なんだよな…女じゃないんだよな……」「アレで男なんてやっぱり信じられない……」「絶対に生田は他の女子より女の子してるだろ……」等と言った葛藤をベンチに居たメンバー全員が抱いていたのは言うまでもない。
念のために言っておくが、生田悠は純粋な男であり、所謂男の娘なのだが……立ち振る舞い等が女の子を思わせるのだ。唯一男らしい所はピッチに立ったとき位だろう……
一方、打撃は高嶺の冷静な投球ペースに惑わされ内野ゴロの三者凡退で終わってしまう……
そして8回裏…御影第一は1番からの好打順となった。
和泉「さぁて、今日最後の投球だし……たちまちはキバって行こか!」
和泉は肩を回しながらベンチからマウンドへと向かった…………
和泉「って、先頭はこのバッターかぁ…………」
マウンドに上がって満は苦笑いをしつつバッターボックスに立った扇原を見詰めた。4回の表、和泉は一度彼に打たれているからだ。しかもそれなりのキレのある球をだ……それだからか、自然と苦笑いが溢れていたのだ。
和泉「(……まぁ、負けるつもりは無いし、勝ち投手が付くと良いけど!)」
泉野「(あの時打たれたのは確か少し甘く入ったシュート……変化球はアレを除いては見せている…………ちょっと考えないとな……とりあえずこれで)」
和泉「(了解!)」
和泉は泉野のサインを確認し、投げた。
カキィィン
しかし、和泉の投球は扇原の想定範囲内だった様子できれいに打ち抜かれた。
和泉「っ……!(今の完全に読まれていた……?)」
和泉は少し焦りを覚えながらも次の打者と対峙する為に頭を軽く振った。
しかし、その後も御影第一の打線が少しずつ活気付いていき、飯島にセンター頭越えのツーベース、十五夜にヒット、満月にツーベースヒットをくらい一気に3失点してしまった。
雷5-3御
泉野「……(完全に見抜かれているみたいかな?)タイム!」
泉野は何かを考えると一度タイムを取りマウンドへと向かった。
泉野「ちょっと流石に読まれ出してるみたいだな……でもフォームを試合中に変えるのは難しいだろ?」
和泉「そっかぁ……結構打たれだしたし…………やっぱり? 後、フォーム変えるのは流石にちょっと厳しいかな。俺はこの回終わったらでファースト戻るし、あんまり意味がないと思うんだよね……」
泉野「あぁ……恐らく今の状況じゃ大炎上しかねないかな勇気とは違ってお前の球は重くないしパターンも少ないから、パターンを相手に分かられると厳しいよ? 特にサイドスローの時は球威もあんまり無いし、これといった決め球も無いからね」
和泉「そっか……なら、アレを組み込むのは? アレなら決め球になりうると思うけど」
泉野「別に構わないが……まだコントロールが不安定だったろ…………?」
和泉「それでも、アレを加えれば投球パターン増えるし……なによりまだ見せてないし、決め球として使える程度にはコントロールを今からでも調整するからさ!」
泉野「……分かった。なら俺に任せてくれ。俺もアレを使う」
和泉「了解……お前も本気を出すんだな」
和泉と泉野の話し合いが終わり泉野はマウンドから戻った。泉野はキャッチャーマスクをかぶり直すと一度目を閉じて再び目を見開いた。
泉野「(次の打者は…橋枝三塁手。御影第一の中ではかなり長打力のある警戒すべき選手だけど……変化球にかなり弱い上に外角のカーブを当てるのが苦手だから…………これで)」
和泉「(……了解!)」
泉野は自身の頭の中に次に立っている打者の情報を頭の中に巡らせ、その中でも最善の一投を指示する。和泉もそれに頷き……投げた。
橋枝「(スライダー……いや、これ…………!?)」
カァァン
橋枝はその球に少し戸惑いながらも振り、打った……が
和泉「うっし!」
打球は和泉の真ん前にボテボテと転がり、あえなく凡退した。
橋枝「今のって……スラーブ…………」
立石「おいおい……あんなの隠し持ってたのかよ…………」
この一球で調子を取り戻したのか、和泉は次の立石を三振に、高嶺をファーストゴロでこの回を締めた。
和泉「ふぅ……流石に疲れたかな」
そして9回表、雷鳴轟の攻撃……俊二は左中間の抜くツーベースヒットを放つも、泉野はサードゴロに倒れる。続く和泉が気合いの右中間にボールを運び、1点奪うも片岡は打球を詰まらせてしまいこの回の攻撃を終えた。
雷6-3御
等々力「よし、生田! 最後締めてきぃ! 要もお疲れさん。慣れないなりによぉ頑張った!」
生田「オーケー!」
要「はいっ! 悠君頑張って!」
生田「任せて!」
~守備交代~
要(一)→生田(投)
和泉(投)→和泉(一)
そして、生田は投球練習を始めた。
飯島「うわっ……あの投手のストレート速すぎないか……?」
十五夜「あぁ……あの容姿と言い、新寺のあの投手と似てるな…………」
飯島「そうだな……」
柘植「よし、とりあえず相手の球種を読み取って見せる……!」
主審「プレイ!」
生田「さぁて……いっちょ、派手にやろうか…………」
泉野「(早速だが……これでいこう)」
生田「(オーケーっすよ、先輩)」
生田はそう呟くと泉野のサインを見て構えた……
柘植「(アンダーか…………どんな球投げるんだ……)」
主審「っ……ス、ストライク!」
柘植「はっ……!?(え、今……投げたのか?)」
柘植は思わずそう呟くと再び視線を生田へと向けると……
生田「(ニコッ)」
柘植「(こ、こいつ……とんでもねぇヤローだよ…………!)」
和泉「……今の、161だったな」
泉野「(よし、コイツは心配ないな生田のストレートにはついてけない)」
その後、柘植は生田の剛速ストレートに為す術なく三振に終わった。更に続く鍋田もストレートの速さに手が出ず三振に終わる。そして扇原の打席……
S●●
B●●●
O●●
扇原「(くそ……コイツ、ストレートしか投げないクセに速すぎて打てねぇ……)」
扇原は冷や汗をかきつつ生田を見やる。生田はニコニコとキャッチャーの泉野からボールを受け取ってロジンバックを手に取った。
和泉「(にしても、全部160以上を投げてんのに疲れが一切見えないな……)」
扇原「(クッソ、だがストレートだけなら何とか……)」
泉野「(さて、そろそろこれで締める!)」
生田「(オーケー!)」
生田はサインを見て頷き、投げた。
扇原「なっ……!?」
主審「ストライク! バッター、アウト! ゲームセット!」
扇原「ス、スライダー……!? ただのスライダーにしては速かった…………」
生田「やったぁ!」
扇原は最後の球を信じられないと言わんばかりの様子で見送っていた。
雷6-3御
勝 和泉(7奪三振)
負 飯島(2奪三振)
S 生田(3奪三振)
その後、練習試合を終えた雷鳴轟野球部の殆どのメンバーは雷鳴轟学園へと戻るバスに乗り込んだ……が、監督の等々力と和泉だけはその場に残った。
等々力「それじゃあ、運転手さん宜しゅうお願いします。泉野も明日からの数日間の間の練習指示頼むで?」
泉野「はい、分かりました」
泉野が頷くとほぼ同時にバスは御影第一の校門を出発した。
等々力「ほな、いこか。この数日の間は練習試合も組まれとらんし、組ませんから安心しといてえぇ」
和泉「……はい」
等々力は和泉が声が小さくとも返事を受けて一緒に歩いて御影第一を後にした。
等々力「……心配か?」
和泉「…………何がです?」
等々力「明後日の会見の事や。生会見やし、日曜やからな……観とる人は多いやろ。それと知り合いがゆうとった話やと、広島のローカル番組も取材に来るらしいで。前にきとったローカル局と同じ系列のんが噂を聞き付けたらしいで。それと広島の新聞社も来るかもしれんな」
和泉「そうですか……なら、俺の過去を知ってる可能性が高いですね」
等々力「…………強いな、自分」
和泉「……いえ、俺は凄く脆いですよ。無理すればきっと崩れてしまいますから…………でも、言っておきますけど……」
等々力「……なんや?」
和泉「俺、どんな事あっても会見中は泣きません。涙見せたら終わりと思うんで」
等々力「…………さよか」
和泉「はい」
等々力「(やっぱり、強いやんか……)そんじゃ、この数日間は野球の事忘れぇ。儂が奢れる範囲で奢ったる!」
和泉「(監督、もしかして俺をリラックスさせようとしてるのか……)……ありがとうございます。お言葉に甘えさせて貰いますね」
等々力「(強がっとるけど、和泉もまだ子どもや。暫くはノンビリさせよか)泊まる所は儂の知り合いが長崎におるんでな、ソコに泊めてもらう手筈になっとる」
和泉「分かりました」
そんな風に二人は色々と話しながら歩いていった。




