生会見
御影第一との練習試合を終えた2日後……和泉と雷鳴轟学園野球部監督の等々力は長崎のあるテレビ局の一室で話し合いをしていた。
等々力「そうか……分かった。それなら儂も甲子園出場メンバーに勇気を入れとくわ」
和泉「はい、お願いします……そうだ、後どのくらいでしたっけ?」
等々力「会見は……11時20分やな…………後10分程で始まるで?」
和泉「そうですか……ちょっと、連絡を取りたいので、外に出ときますね」
等々力「分かった」
和泉は監督に了承を得て携帯電話を片手に自分達にあてがわれた控え室を出て、電話をかけ始めた。
和泉「……電話、出るとえぇけど…………」
数回コールすると、電話相手が出た。相手は……
???『はい……三二です』
和泉「あ、俺……和泉です」
三二『えっ……和泉さん?』
新寺の三二だ……と言うのも
和泉「実は……これから俺、生会見があってさ。ほら、練習試合の時のヤツ」
三二『え、あぁ……あの時の一浦へのアレですか?』
和泉「うん……その件でホントは勇気が出る筈だったんだけど、アイツ今日手術でさ」
三二『えっ……手術って…………もしかして、俺の打球が?』
和泉「……いや、それは違う。幸い、打球による怪我では無いんだけど……元々早期降板させるべきだったのにアイツが無茶して頑張ったんで元々あった怪我が酷くなったんだよ。それで一度手術をね」
三二『そうですか……』
和泉「まぁ、その他にも聞きたいことあるとは思うけど……詳しくはこれから○○テレビの臨時会見番組を見てくれ。そこで全て話すから」
三二『……分かりました』
和泉「あぁ……それじゃ…………あ、それと俺には敬語とか不要だから……野球やってる同士はみんな、仲間だと思ってるから」
三二『え、あ……おう。分かった』
時間にして僅か数分の会話だったが……和泉はある決意をした。
和泉「…………どんな事があっても、泣かない。少なくとも、会見の間だけは…………!」
そう呟いていると……和泉の元へ一人の男性がやって来た。
???「あ、もしかして和泉満選手ですか?」
和泉「? はい、そうですけど……」
???「私、今回司会を務めさせて頂く○○テレビのアナウンサーの稲垣勇司と申します。宜しくお願いします」
男性はそう言うと一枚の名刺を手渡した。
和泉「あ、どうも。雷鳴轟学園野球部副キャプテンの和泉です。生徒なもんで名刺は無いですけど……」
稲垣「いえいえ、ご丁寧にどうも。もう少ししたら時間ですので会見会場へと思いまして……」
和泉「あ、そうでしたか。では監督を呼んできます!」
和泉はそう言うと控え室へと戻り監督を呼び、3人で会見会場へと向かった。
そうして会見会場に着くと、稲垣アナウンサーが「私がどうぞと言ったら中へ入ってください」と二人に伝えると先に入っていった。そして少しして……
稲垣「今回の会見では雷鳴轟学園の野球部監督の等々力監督、そして同学校の野球部副キャプテンの和泉選手より先日の練習試合での件等の説明を頂戴したいと思っております。それでは、お二方……どうぞお入りください」
稲垣アナウンサーの声が聞こえ、まず最初に等々力監督……そしてその後に和泉が会見の行われる部屋へと入った。二人とも、部屋に入る前に一礼をしてから部屋へと入り……長机の所にあるパイプ椅子へと腰を下ろした。その間にも二人へ向けられたフラッシュの嵐は止まなかった。
稲垣「それでは、これより緊急生会見を執り行います質問のある記者は挙手をし、質問をお願いします」
稲垣アナウンサーの質問開始の言葉と共に数人の手が上がった。そして稲垣アナウンサーが指名した一人の記者が立ち上がって二人へと問い掛けた。
記者A「早速なのですが……あの時の死球に関して何か仰りたい事はありますか?」
記者の質問を受け、和泉はマイクを手に持ち立ち上がった。
和泉「……先日の新寺学園野球部との練習試合にて発生した一浦投手への死球ですが、あれは完全に自分達野球部の責任だと思っております。一浦投手、並びに新寺学園野球部の皆さん、そして一浦投手の御家族の方々に深くお詫びを申し上げます」
和泉はそこまでハッキリとした口調で言うと監督も立ち上がって二人で頭を深々と下げた。すると、今度はまた別の記者が和泉の言葉の意味を問う。和泉はそれに対し……
和泉「今回、新寺学園野球部は決勝戦前日という時にも関わらず練習試合を受けて下さいました。その時点で、我々は多大なる感謝の意を述べねばならない状況でした。しかし、そんな時にも関わらず新寺学園野球部のエース左腕である一浦投手への死球は完全にコチラの失態だと考えております」
和泉は相変わらずのハッキリとした口調で説明を続けた。
「死球箇所が右肩だったとはいえ、エースへの死球は許されないと思っております」
和泉はそこまで言うとマイクを下ろした。すると、今度はまた別の記者が手を上げ質問を投げた。
記者B「本日は当の友岡勇気投手が来ておりませんが……どういった事情なのでしょう?」
すると、それに対し監督がマイクに手を伸ばそうとしたとき、和泉が監督よりもいち早くマイクに手を伸ばし手に取ると再び立ち上がった。
和泉「本日、友岡勇気は肩の怪我の手術があり、コチラへ赴けない為その代理として自分がやって来ました」
記者B「それは新寺学園野球部の三二選手の打球による物ですか?」
和泉「いえ、それは違います。確かに打球を左肩に受け、それで負った怪我もありますが……それよりも昨年に受けた怪我が酷い為、本日はその怪我の手術であると担当医から聞いております」
そうして和泉はマイクを下ろした。すると、今度はまた別の記者が訊ねてきた。
記者C「では、友岡勇気投手は甲子園への出場は無い……と言うことで宜しいのですか?」
すると今度は等々力がマイクを手に取り説明を始めた。
等々力「その件に関しましては、Noと言わせて貰います。担当医の話によると、回を跨がない1イニングまたは20球限定でならその時の肩の調子と本人の意思によってはリハビリとしての投球が可能と言うことでした。本人にどうするかを訊くと「絶対に戦いたい打者がいる。だからもしも投げれるのなら是非とも投げたい」と言っておりました。ですので甲子園出場メンバーへの登録を消す事は致しません。尚、甲子園には友岡の付き添いでリハビリ担当の先生が来ますので、その辺も既に滞りなく進めております。そして……友岡は今年の甲子園での登板が終わり次第、広島へと戻り本格的な治療に専念するとの事です」
一瞬、記者達はザワついていたものの、等々力の説明を静かに聞いていた。そして、先程質問をしていた記者が再び問い掛けた。
記者C「それでは、甲子園での登板が終わるとそれ以降は如何なる試合であろうと出す予定は……」
等々力「ありません。そして、友岡の肩の完治は来年の春の中頃辺りだと聞いております」
等々力はそう言うと静かにマイクを置いた。すると、今度はまた別の記者が手を上げ質問を投げ掛けた。
記者「少し話は変わりますけど……和泉選手と言うと昔、3投法を使い分ける小学生として色々な野球チームから虐げられていたあの『凶童』の和泉選手で間違いありませんか?」
その質問に和泉はピクッと机の下に下げていた手を振るわせると、もう片方の手でマイクを手に取り問い掛けた。
和泉「……一応お聞きしますが、ドコの記者クラブの方ですか?」
記者D「……広島日報です」
記者の返答に和泉は少しうつ向きつつ言葉を続けた。その時の言葉は震えており、先程までの彼とは違い……弱々しい口調だった。
和泉「……確かに、『凶童』……そして、『怪童』と呼ばれた時期がありました…………」
問い掛けた記者は少し言い辛そうにしていたが……では、と言葉を漏らして更に問い掛けた。
記者D「何故一塁手兼投手という二刀流として登録を? 投手としての和泉選手は今の和泉選手にとっては辛い過去だt和泉「それでも」っ…………」
記者の問い掛けに途中で割って入り和泉が言葉を発すると、記者は静かに和泉の言葉を待った。
和泉は机の下でギュッと右手で握り拳を作ると真っ直ぐ前を向いて言葉を放った。
和泉「確かにあの時のバッシングや虐げは俺にとってはとても辛かった過去です。それでも……俺はそんな過去と向き合い、その過去を越えていかないといけないんです! それは……真っ正面から戦いを挑んでくる相手に対してソッポを向いている様なのは御免なので…………」
和泉の震え声ながらもシッカリとした受け答えに記者は少し間を開けて「ありがとうございました」と感謝の意を述べて席に着いた。
その後も質疑応答は続き、30分程で会見は終了。最後に会見会場を出る際にも和泉は記者陣に深く一礼をして会場を出た。
等々力と和泉は少し歩き、ベンチに腰を下ろした。
「ふぅ……疲れたのぉ…………? どうしたんや、いz……」
等々力がシャツの胸元を軽く摘まんでパタパタとさせつつ呟いてる途中、肩に重みを感じてその方に声を掛けつつ振り向くと、言葉が途切れた。
「っ…………すみません……ちょっと…………このままで居させて下さい……」
先程の会見での緊張の糸がプツンと切れたのか、和泉は等々力の腕を両手で軽く掴み頭を肩にもたれかけさせて肩を震わせていた。そしてその声は先程の会見でのシッカリとした口調とは違い涙声になっていた。
「…………別にえぇで。しっかり泣きぃや……今この場所には儂と和泉しか居らんしな」
「っ…………う、うぅっ……」
等々力がスッと和泉を抱き抱えると和泉は声を押し殺して静かに等々力の胸の中で泣いた。その光景は初めてみる人なら、父が子を抱き締めている光景に見えただろう……
「(和泉、一成が死んでから全く泣かんくなったんよな。少し大人びた感じに振る舞っとったけど……やっぱりまだまだ子どもやな…………)…………一成の分まで……ちゃんと、儂がお前の事を守ったるからな?」
等々力は和泉を抱き締めたまま心の中で思い返すと、誰にも聴こえない様な小さな声で呟いた。




