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人間に滅びろと言われた蝉。異世界で鳴いてみました。  作者: 黎明 あかり


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5/7

5日目

危なかった。


昨日のことを思い出すだけで震えて力尽きてしまいそうになる。



北へと向かえば、ようやく木々が見えるようになった。



ようやく、楽園を見つけることができるかもしれない。




心を躍らせて、一番留まりやすい木へと腰を落ち着けた。




まぁ僕に腰なんてないんだけど。




一息つけば、周囲を観察できた。


特に変わった様子はない。




いや、ある。




僕の頭上を大きな鳥が旋回している。


僕を食べるつもりだろう。



そうはさせない。




5日間生きた、この命だ。



僕はまだ子孫を残すという義務を果たせていない。



こんなところで食べられるわけには行かないのだ。





とはいえ、僕は蝉だ。


大きな鳥に対抗できるほどの力を持っているわけではない。


ここは静かに黙ってやり過ごすのがよいとじいちゃんに聞いていた。


鳥は動く虫を食べるそうだ。


僕はじっと幹と同化する。






しばらくすれば、鳥もあきらめてくれたのだろう。


旋回をやめ、僕の頭上から居なくなった。


ようやく樹液にたどり着いた僕は貪るように口を突き立てる。




じんわりと程よい甘みが口いっぱいに広がる。




ふむ、ここの樹液も同じ甘さではないか。


つまり、このあたりの木は全て同じ種類なのか。




残念だ。


蝉の楽園になるほどのものではない。



いや、僕は探し続けるつもりだ。


最高の蝉の楽園をこの目で見るために。



常にハングリーであれ。愚かであれ。


否、愚かではない。



常にハングリーであれ、蝉であれ!




蝉であることの誇りを忘れてはならぬ。






僕は飲んだ。


なぜなら、この樹液が僕にとって最高のものなのだ。


いろいろと考えてはいるが、思考では腹は満たされぬ。





満腹になるまで飲み続ければ、疲れも相成って睡魔が押し寄せてくる。



木にしがみつく力すら惜しい気がして、僕は力を抜き地面へと体を沈めた。




ひっくり返るように眠りにつく。




あぁ、なんて楽な寝方なのだ。


この寝方こそ至極。




この寝方を知っているのは僕ぐらいのものだろう。





そう考え入れば、いつの間にやら深い眠りについてしまう。







どのくらい時間が経っただろうか。


何やら自分の周りが影になっていた。




ゆっくりと視線を上げれば、人間が3人僕を見下ろしていた。


「動かないな」


「そうね…、死んでるのかしら?」


「これは何なのだ?」


囲うように3人の視線が僕を射止めにかかっている。





さて、どうしたものか。


3人とも虫取り網を持っている様子はない。


とはいえ、手で掴まれたら無ずすべがなくなる。


一か八かに賭けるしかない。





僕は腹に力を込め、力いっぱい羽を広げ羽ばたいた。





羽が地を叩き、身体が浮き上がる。


「うぉ!!!」


「きゃっ、動いた!!」


「生きてたのかっ!!」


そのまま羽ばたけばさらに急上昇できた。




ミンッ



と、ひと鳴き残して人間の手が届かない木の上へと逃げる。


僕が簡単に死ぬわけがない。


食物連鎖の最上位にいるにも関わらず、人間というのは僕の知能よりも劣るのだろうか。



なんとも滑稽だ。




空へと羽ばたけば東の方に薄暗い雰囲気を感じとる。



何なのだろうか。



少しだけ行ってみようではないか。






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