4日目
この森の樹液はおいしい。
喉の渇きを潤すためだけでなくともつい口にしてしまう。
そのうえ、疲れを知らない身体にもなったようだ。
それに一回りほど大きくなった気もする。
僕はどこまでも飛んでいける。
メスを探して北へと来たが、森を抜けてしまった。
岩肌が剥き出しの土地へと来てしまった。
流石にここにはメスはいないだろう。
ほかの仲間ですらこのような土地には住み着きたくはないだろう。
引き返そう。
そう思った時、向こうから何か声がした気がする。
……仲間か?
仲間の声にしては少し低すぎる。
ちょっと行ってみよう。
もしこの先に、僕らにとっての楽園があるのなら未開の地を踏む最初の蝉になってやろうではないか。
少年よ、大志を抱け。
否、
蝉よ、大樹を抱け。
美味しい樹液を求めるのだ!
それだけではない!
美味しい樹液にはかわいいメスもいるはずだ!
僕は羽ばたく。
樹液を…否、子孫を残すという義務を果たすのだ!!
羽ばたくときに「ミンッ」と腹に力を入れれば、ひと鳴きし岩肌の土地を飛んでいく。
しかし、飛べども飛べども岩肌だらけ。
この土地はいつまで赤茶色の岩が続くのだろうか。
心なしか熱い気もする。
夏の暑さに比べたらこの程度なんてことないが、
それとはまた違う熱射のような…。
とりあえず、1回どこかで羽を休めよう。
僕は岩肌へと降り立った。
足先が触れたのは、硬くざらついた感触だった。
樹皮とは少し違う。
だが、しっかりと爪が掛かる。
ほんのりと温かく、日差しをよく吸っているらしい。
なんとも居心地のいい場所だ。
少し羽を休ませてもらうとする。
「見つけたぞ、四天王のドラゴンだ」
しばらくすると人間の声がした。
ビューッと風が大きく吹いて岩肌が揺れた。
心なしか視界が高くなった気がする。
……僕が岩肌だと思っていたのは、何かの生き物だったのか。
これは危険だ。
生命の危機だ。
僕はまだ、子孫を残すという義務を果たせていない。
「覚悟しろ、四天王!!」
「支援するわ、勇者!」
「援護射撃は任せろォ」
それに人間たちも何かをし始めるつもりだ。
しかも僕に向かってきているではないか!!
虫取り網ではない、あの白く煌めく細長い棒を持っている男こそ危険だ。
あの棒で獣が突き刺しにされているのを目の当たりにしている僕としては、この状況はかなりまずい!
とりあえず、威嚇をして人間の動きを止めなければ!
ミーンミーンミンミーンミーンミンミンミー
ミーンミーンミンミンミーミーンミーンミンミー
これでもかっと腹を震わせる。
「何だ、これは…!!」
「あ、頭が痛い…!」
「すぐに防音魔法をかけるわ!!!」
「グォォオオオオ!」
僕が止まっていた生物からも唸り声がして、地に伏せるように倒れていく。
「ドラゴンが倒れた!!」
「防音魔法をかけてくれた今なら!!」
「ドラゴンを倒すのよ、勇者!」
視界がグワンと揺れて低い位置に落ちる。
この生物が倒れてしまったのか?!
横へ視線を動かせば、人間は僕に向かって白い煌めく棒を振りかざしてきた。
威嚇が効かないだと?!
これは仕方がない。
僕は蝉だから、三十六計も作戦はない。
だが、この状況だ。
言わせてくれ。
三十六計逃げるに如かず!!
僕が飛び立った瞬間、白い煌めく棒が僕のいたところを真っ二つに切り落としていた。
なんと酷いことをするのだ、人間とは。
僕は逃げるように北へと羽ばたいた。




