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メンフィス、テネシー…2

 バタンと音を立てて、シェヴレイのトランクが閉まった。GEパターソン・アヴェニュー、かつて三階建ての『アーケイド・ホテル』が建っていた空地の前の路上だった。パウダー・ブルーとホワイトのストライプド・Tシャツを着た少女がシャキンとスーツケースのハンドルを引き上げるのを、花柄のボタンアップシャツの袖をまくった背の高い男が車に手を置いたまま、もじもじと眺めていた。男は頭頂部を掻き、何度か口を開け閉めしてから、少女に声をかけた。


「乗り場まで送ってやろうか? グレイハウンドのよ」

 エルはハンドルの握りを確かめながら、ビリーを見ずに素っ気なく答えた。

「いい。飛行機で帰るし。あと、観光してから帰る。せっかく来たんだし」

 ビリーは唇を尖らせてぼそぼそと言った。

「そうかい」

「そう。じゃあね」

 薄い胸の前にクロスボディバッグを掛け直し、スーツケースを見返りながら、がらがらと音を立てて去っていこうとするエルを、ビリーは宙に手を差し伸べて呼び止めた。

「おい、待てよ」

「なに?」

 振り返ったエルの目は訝しげで、冷ややかだった。ビリーは訊ねた。

「どこに行くんだ?」

 エルは首を振り、再びがらがらと歩き始めながら言った。

「知らない。シヴル・ライツ・ミュージアム」

 進行方向に顔を上げながら、付け加えた。

「かも」

 ビリーは大股でエルを追いかけ、追いつき、歩調を合わせながら訊ねた。

「なんだよ、それ」

「さあ。どうせあなたはミュージアムなんか興味ないでしょ」

 エルの素っ気ない口調は変わらなかった。ビリーの足が止まって少しエルから遅れ、また追いかけて声をかけた。

「そりゃ、お前――どうすんだ。入口ぐらいまでなら送ってやってもいいが」

「いい。すぐ近くだし。たぶん」

 エルは急に立ち止まり、ビリーを冷ややかに見て、ふんと鼻息を吹いて、言った。

「どうせあなたにはなにもわからないと思うし。来てもしょうがないんじゃないの」

 なにもわからない、の引き伸ばした言い方と、顎を上げたエルの表情にかちんときて、ビリーは言い返した。

「おうよ。わかるかクソ。興味なんかあるわけねぇだろそんなもん、くだらねぇ。送ってやるわけねぇだろクソ。誰がおめぇなんか――」

「だから、来ないで」

 エルは鋭く返した。ビリーの口がむずむずと動き、それから怒鳴った。

「ああ、行くわけねぇだろクソ。勝手にしやがれ、クソが」

「勝手にしやがるわ、クソが」

 エルも怒鳴り返し、二人は背中を向け合って東西に別れて歩き去った。太陽が南中を目指して昇っていく午前、GEパターソン・アヴェニューには街のざわめきと、交通標識を蹴りつけるブーツの音と、がらがらとしたスーツケースの音が響いていた。

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