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悪党アルフの片想い~誠実医師の底辺転生~  作者: みそぽんわさび
幼少期編

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第9話 悪党誕生と前進

衛兵達の気が変わらないうちにと、俺は振り返らずに歩き出した。1拍遅れてロイも着いてくる。

無論向かう先はギルド。たまたまその建物の角を曲がったところが中心街への近道だったせいで、地面に残る苦々しい炭の跡を辿るように歩を進める。


通りすがりに、横目でばあさんだったものを捕捉する。胸がざわめく。これはなんという感情なんだろう。悲しい、悔しい、やるせない? 前世からずっと慣れられない感覚。


救いたかったけど、及ばなかった。憎いほどこの手は無力だった。俺達になど関わらなければ、今頃まだ笑顔で玉ねぎを売っていたかもしれない。


混ぜこぜのこれは、罪悪感なのか、後悔なのか、謝罪なのか。


けれど、謝るのはたぶん違う。彼女の人生の終わりの責任が俺にあるかのように振舞うのは傲慢というものだ。

縋って泣くのはもっと違う。俺は彼女の身内でもなんでもない。そんな権利はない。


善良な医師だった時、お看取りの時だったら、万感の意を「お疲れ様でした」のたった9文字に乗せて、真っ直ぐに渡せただろう。


でも、もう駄目だ。もう言えない。


だって俺はついさっき、人を殺したんだぞ。

悪党ディックを殺したんだ。

周囲の大人の表情を見ろ。昨日までは蔑み侮っていたくせに、今は俺の一挙手一投足に怯えてやがる。今この瞬間から、俺は、俺こそが悪党だ。


魔術師になると決めた段階で、こういう未来がほぼ確定していた。遅かれ早かれ、忌み嫌われて恐れられて。


だから、ここからだ。俺は今、真の意味で生まれ変わったんだ。誠実な医者も、哀れな孤児も、もう死んだ。

悪党アルフ様の誕生だ。


——もう、後戻りはできねえんだから。


***


街の中心街、教会や衛兵の詰め所など、大きめの建物が立ち並ぶ一角に、ギルドも佇んでいた。荒くれどもの巣窟にしては小綺麗だ。まあ、稼ぎはあるんだろうからな。


ロイに促されて受付へ進む。


「あー、登録してえんだけど」

「はい、新規のご登録ですね。こちらにお名前と武器をご記入……いえ、仰ってください」


二十代前半と思しきボブヘアーに眼鏡の受付嬢が、淡々と手続きを進めてくれる。さすがロクデナシの巣窟、スラムのガキが登録したいと言っても不審な顔を表出せず、それでいてこちらが文字など書けないこともお見通しの至れり尽くせりの対応だ。


「アルフ。……姓はねえな。武器は、あー、えーと、拳? 魔術を使う」


魔術と言った瞬間、受付嬢の眉がぴくりと動いた。


「魔術師、ですか? 失礼ですが、どのような魔術が使えるのか、見せて頂けますか」

「ここで? 俺は別にいいけど、たぶん目立つし、物を壊すかもしれねえぞ? 系統としては、身体強化か、炎の魔術も少し使える」

「その歳で2種も……わかりました、こちらへ」


案内されるままに受付嬢の後ろをついていくと、ギルドの裏庭に出た。庭というか、だだっ広いスペースて、地面は無愛想な砂地に、塀沿いに人型の板や巻藁が並んでいる。


「冒険者同士の手合わせや、連携技の練習に使う修練場です。ここなら多少暴れても安全かと」

「わかった。あそこの的や巻藁は壊しても構わねえやつか?」

「もちろんです」


許可を得ると同時に、身体強化を発動する。

ディックとの戦いで多少消耗しているから、手早く魔術が使えること、ギルドによる「保護」が要らない程度には強いことを証明しなくては。


やる気とともに溢れ出る腕力で、人型の板の頭部を砕く。まず一発。

振り返りざまに隣の的に回し蹴り。順調に粉砕。

走り抜けながらもう3つの的をへし折って、向かった先に巻藁。

握って、今度は熱産生。勢いよく炎が上がり、巻藁はあっという間に火柱になる。よく乾燥している藁でよかった。


実戦向きじゃないが今回ばかりは派手に演出しようとなんとなく使った火炎魔術だったが、思いの外切り替えが上手くいった。練習すれば実戦でも炎を補助的に使うことはできるかもしれない。


確か手応えを感じたのは俺だけではないようで、興奮した顔で両拳を握るロイの横で、受付嬢も似たようなポーズを取っていた。

目が合うと、はっとして姿勢を正し、気まずそうに咳払いをした。


「確かに確認しました。今までどこに隠れていたんですか。これならすぐにでも冒険者として活躍できたでしょうに」

「そうしたかったけどね、魔術を使えることに気づいたのが昨日なんだわ」

「はあ? とんでもない才能ですね……。まあいいや、とにかく手続きですね。3級からのご登録でよろしいですか? 規則上、初登録としては最高ランクです」


級なんて何でもいい。というかそんなもんがあるのか。上が何ランクで下が何ランクなのかすら知らないんだが。


「わかった。その言い方ってことは、上がったり下がったりするもんなんだな? 下がると何かペナルティはあるのか」

「高ランクになるほど受けられる依頼の種類が増えます。自分のランクより一つ上の難易度の依頼まで挑戦できるんです。依頼に失敗するとランクが下がります。難易度の高い依頼をいくつかこなされて、相応の実力があると判断されたら、こちらから昇格を打診します」


高ランクでのデビューでも簡単な依頼を受けられるのはありがたい。実戦慣れのためにこつこつ下積みさせてもらおう。ついでにロイのランクも上げさせよう。聞いてないけど、あいつは多分最低ランクだろうから。


ギルドの建物内に戻り、壁にランク別に貼られた依頼メモを一つずつ確認する。

と言っても俺もロイもろくに内容を読めやしないので、受付嬢にざっくりと内容を教えてもらった。

一番低いのは7級、一番上は1級らしい。どこの世界でも人類が考えることは似ているんだなぁ、と妙に感心しつつ、7級と6級用の掲示板から2枚の依頼書をべりりとちぎり取る。


「ロイ、まずは薬草採取に行くぞ」

「おう」

「そんで、この角兎10匹の駆除ってのもついでにやろうぜ。薬草の生育場所と近そうだ」

「えっ! も、もう魔物を狩るのか? それ6級だろ? アルフだけじゃなくて、俺も?」

「そりゃそうだろうが! とりあえず早く3級になってくれ。ついてこれなきゃパーティの話はなしだぞ」

「わ、わかったよ! 待てって!」


心の準備が整っていなそうなロイを尻目に、2枚目のメモを引っ剥がして、受注登録のため受付まで持っていく。


こんな紙切れはさっさと消化しよう。

生き抜いてやる。駆け抜けてやる。


飢えないうちに、目をつけられないうちに、

気が変わらないうちに、

重ねた罪にこの足が止まらないうちに。


俺は名実ともに悪党アルフになるしかないのだ。

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