第二話 三年前に戻る
どうやら現在が2019年であるという事は紛れもない事実らしい。善希は空いた口が塞がらないといった様子でテレビを眺めていた。
だが、ここでもう一つの一大事に気付く。
「・・・・え。」
時刻は午前7時50分を回っている。
「!?!?」
善希の朝のルーティンは、最初のアラームが7時。そこから一度十五分のスヌーズを掛けて二度寝。7時15分から準備を始めて、8時には家を出るといったもの。
どうやら三年前に戻って最初に目が覚めたのはスヌーズ後だったらしい。7時15分からスヌーズを掛けて寝てしまい、7時30分に。そうしてグダグダして今に至る、だ。
とまぁ起きたばかりでそこまで思考は回っていないが、現在7時50分という事実を目の前に善希は慌てて支度をし、朝食も食べずに家を出た。
◇◇◇◇◇
「寝坊?珍しいね。」
善希は朝はあまり強くはないが、寝坊をした事はない。いつも遅くても始業開始時刻の十分前には出勤している。そんな彼が始業開始時刻ギリギリに飛び込んできた。それを見た森は目を丸くしたのだった。
森からの声掛けに、善希はげっそりとした顔を向ける。
「おはよう、今日は若いね。」
「・・・・(頭)大丈夫?」
『相当疲れているらしい。』、森の中ではその見解に至った。善希としては、『三年前の森君。』 とまで言いたかったが、流石におかしなヤツと思われそうだと思ってやめた。まぁそれでも今日の善希はいつもと違っておかしいと感じられたようだが。
そんな“疲れでおかしくなった”善希に、森が労いの言葉を掛ける。
「昨日の営業会議、里中部長の攻撃酷かったもんなぁ。」
善希を労わるように掛けられた言葉だったが、善希にはその記憶が無い。いや、あるにはあるのだろうが、いつのどんな話だったか。
部長の里中からは事あるごとに嫌味を言われたり、地味な嫌がらせを受けたり。度々パワハラとも言える行為を受けていた為、“昨日の営業会議”とやらが、どれにあたるのか分からなかった。
善希は今日の日付と周りの状況を見て、頭の中で必死に記憶を手繰る。
そんな善希には構わず、森は笑顔で善希の肩をポンッと叩いた。
「だからって海山さんに甘えて、また八つ当たりしちゃ駄目だからな。この間、海山さんを傷付けたバチが当たったと思っときなよ。」
「!」
その一言で全ての記憶が蘇った。“また”、このワードで今がどんな状況であるのかが。
この言葉が出てきたという事は、直前にも八つ当たりじみた態度を取っていたという事。
三年前の二月は里中からの嫌がらせが日に日に増しており、イライラが募っていた。そしてそんな時に雪枝のツンデレな発言を受けて嫌味のような台詞を返してしまったのを覚えている。
その時の雪枝に悪気がない事は分かっている。嫌味を言われた雪枝も善希の状況に察しがついたのか、その時はそれ以上は何も言わず、善希の愚痴を聞いてくれていた。
だがそれが連日となると雪枝も嫌気が差しただろう。昨夜の電話では雪枝が善希に言い返した。そこからお互い引くに引けない状態となり、大喧嘩となったのだ。
更に思い出した事がある。森にこう言われた際、『もう時既に遅しだ』と話した記憶が…。
善希は慌てて雪枝とのトーク画面を開いた。
『昨日はごめん、言い過ぎた。けどお前も悪いんだからな。売り言葉に買い言葉でカチンときたっていうか。やっぱり電話じゃ顔見えないし、お互いの気持ちが分かりづらいと思う。今日帰りご飯でも行かない?会って仲直りしよ。』
「・・・・・。」
自分の送った文章を見て善希は愕然とし、その場にくずおれた。
(なんで よりによってここから・・・・?)
善希の意識が三年前に戻ったのは目覚ましアラームのスヌーズが鳴った後。メッセージの送信時刻は朝の七時過ぎ。つまりこのメッセージは一度目のアラームが鳴って起きた時に送ったもので、善希が三年前に戻ってくる前のものだ。
「最悪だ・・・・。」
“踏んだり蹴ったり”、その言葉が正しいと思った。
だがここで、ふと先程の森の言葉を思い出す。
『海山さんを傷付けたバチが当たったと思っときなよ。』
そうだ、バチが当たったのだ。
少し前に雪枝に八つ当たりした事もそうであるが、三年前、誤解とはいえ雪枝に嫌な想いをさせて傷付けた。しかもその誤解を解こうともせずに、そのまま別れる事を受け入れた。それなのに都合良くまた会いたいだのと虫の良い願い事をする、その事に対する天罰なのだ。
だがここで善希は思いなおす。思考をプラス思考に変える。
(いや、まだ大丈夫。現時点ではまだ別れていない。仲直りを円滑に進めれば問題ない。)
むしろこれはチャンスだ。本来なら雪枝とは既に絶縁状態。それが別れていない三年前に戻れた。ここからどう巻き返すかは自分次第だ。
神社の前で手を合わせた願い事が叶ったのだ。
(神様がくれたチャンスであり、試練ってわけか。)
『本気でよりを戻したいのなら、この試練を乗り越えてチャンスをものにしてみせよ。』
そう言われている気がした。
(“神は乗り越えられる試練しか与えない”とか何とか。何かのドラマでも言ってたっけな。俺は営業職。こっちを見向きもしていない客を振り向かせた経験だってある。このチャンス、絶対に逃さない、今度こそ雪枝との仲を続けさせてみせる…!!)




