第三話 小さな違和感
やり直しの人生で意気込んでいた善希だが、ここで一つの疑問符が浮かぶ。
(あれ?確かこの時は普通に返事くれてた、よな?)
7時過ぎに送ったLINEに雪枝からの返事はない。
過去の記憶を手繰る。もう一度よく思い出してみるも、この時雪枝は朝の8時過ぎ頃には返事を返してくれていたはず。
確か内容は、食事には承諾してくれたものの、至極不機嫌な様子で明日にして欲しいという内容だったと思う。だが、今は そういった内容のLINEは届いていない。
アプリの調子が悪いのか?そう思ってスマホに再起動をかけてみる。やはりLINEはない。
「・・・・・。」
(俺が過去に戻った事によって時間軸に歪みが生じてる、とか?…いや、そんな漫画みたいな事あるか?いやいや待て待て。俺が三年前に戻ってる時点で漫画みたいな事が起こってるわけで…。)
そんな思考の元、善希は慌てて雪枝にもう一通のLINEを送る。雪枝の現状が知りたい。
『なんで返事返さないんだよ?』
言葉を選ばず思ったままの台詞を送信してしまう善希。プチパニック状態である。
暫くデスクに座って作業をしていたが、どうにも落ち着かない。混乱した脳内を整理する為にも、一人でゆっくり考える時間が欲しい。
得意先とのアポイントは11時だが、社内にいても仕事など手につかない。善希は外出準備を整えて早々に会社を出た。
そんな善希の様子を見ていた森は小首を傾げる。そしてソレを見ていた尾形も…。
「あれ~?永居さん、外出の予定って10時半頃じゃなかったでしたっけ~?」
「うん、何か緊急案件でも入ったのかな?」
「永居さん、今日出社遅かったですし、何かあったんですか~?」
「さぁ。特に何も言ってなかったけど…そう言えば、ちょっと様子はおかしかったかなぁ。」
「そうなんですか~、心配ですぅ~。」
尾形は情報収集をするかのように森と話した後は、善希が出て行った扉の方を何か考え込むようにじっと見据えていた。
◇◇◇◇◇
善希は会社を出て、セルフ式のコーヒーショップに入る。そして再びスマホを開いて自分が送ったLINEを見てハッとなった。
(しまった、これじゃ俺めっちゃ怒ってるみたいじゃね!?)
焦った様子の善希を見ていない雪枝からすれば、返事を催促するだけのメッセージ。めちゃくちゃ嫌な感じだ。
(何やってんだ、俺・・・・。)
善希は自らの心を引き締めなおす為にも、自分の頬をパンと叩いてLINEを追送する。
『どうした?体調悪い?』
『俺も言いすぎた、ごめん。』
『会ってちゃんと話がしたい。』
自分の中では先程送ったメッセージに対するフォローのつもりだったのだが、ここでまたもやふと気付く。
返事を返していない相手に対しての複数のLINE送信。めっちゃ気持ち悪い。
(ヤバッ。これじゃストーカーみたいじゃね!?)
尾形のメンヘラ攻撃が自分にも移っていた事に気付く。一時でも尾形と付き合った際、長文や短文連続の追いメッセージには辟易させられていたはずなのに。今 自分がそれを雪枝に対して行なっている。善希は慌てて送信したメッセージの取り消しをしようとするが…。
「!?」
一歩遅かった。
消そうとした瞬間に既読が付いてしまった。
「~~~~~っ。」
一旦落ち着こう。このままでは良くなるものも良くならない。善希は深呼吸する。
その時、雪枝からの返事が届いた。
『朝はLINE返せなくてごめんね。ちょっと体調悪くて。昨日の事は、私もごめん。私も会いたいのは山々だけど、今日はちょっと体調悪いから明日の仕事終わりでも良い?』
(き、きた~~~!!良かった…!!)
この時ほど神に感謝した事はない。思わずすぐに既読をつけてしまう。
LINE連続送信後の返事にすぐ既読、場合によっては気持ち悪がられそうなものだが、今の善希にそこまで考える余裕はない。雪枝からのLINEにいち早く返事を返す。
『大丈夫?無理はすんなよ。しんどかったら早退してゆっくり休んで。明日もしんどかったら明後日でも良いし。何なら、ご飯買って持って行こうか?』
(ホントは俺が作れれば良いんだけど…。)
本格的に料理の練習もしようかな、等と考えながらも、送った後にふと気付いた事があった。
(あれ?雪枝、体調悪いとか言ってたっけ?)
三年前は言ってなかった気がする。
どういう事だ?当時との相違にソワソワしてしまう。
(俺が過去に戻った事で、時間軸に歪みが生じて…ってコレさっきも考えたやつ!)
またもやプチパニック状態に陥る善希だが、そうこうしているうちにも時間は経ち、得意先へ足を向けなければならない時間となった。
考えても仕方がないと気持ちを切り替え、善希は店を出て仕事に戻った。
◇◇◇◇◇
その日の仕事はいつにも増してしんどかった。
一度経験した仕事とはいえ、もう三年前の話。営業職はルーティンではない。当時の得意先とのやり取りを思い出し、会話を合わせる。それだけでも疲労困憊だ。だが利点もある。過去の失敗を思い出せば、その失敗を回避出来るのだ。雪枝とのやり取りを充実させたい気持ちは山々だったが、それを優先して仕事を疎かにしては本末転倒。
やり取りは程々に。善希は帰宅してからも明日に向けての仕事の準備を行なった。
そして翌朝。
アラームが鳴った後、布団の中でうつらうつらとしながら重大な事を思い出して飛び起きた。
そうだ、インスタ!
尾形の匂わせ投稿は何としても阻止しなければならない。
この時の善希は、まだ尾形と相互フォローの関係にはなかった。
◇◇◇◇◇
三年前、雪枝と別れた後、暫くは考える事を放棄していた善希だったが、頭が冷えて冷静になった時、やはり腑に落ちないところがあって念の為に尾形に確認を行なった。
勿論、『匂わせ投稿をしていたのか?』等と訊いても本人は答えないだろう。その事を踏まえて、さり気なくインスタの話題から本人のアカウントを教えてもらった。
善希が尾形のアカウントを検索するとアカウントは鍵アカ。当然、雪枝が見れるはずもない。
善希がフォロー申請を送ると尾形は快く承認、フォローバックがきた。そうして尾形の投稿内容を確認してみたが、普通の投稿ばかり。確かに自分の携帯や手元等が写った写真もあったが、コメントには『会社の飲み会』、『先輩達と』等といった説明がきちんとなされており、勘違いするような投稿は見られなかった。
その事で尚更、雪枝に対する失望感が浮かんだ事を覚えている。
だが、善希も馬鹿ではない。
尾形が超ド級のメンヘラ気質だと知った今では、別の疑惑が浮かんでいた。
尾形が “インスタのコメント内容を書き換えた” という疑いだ。
当時、善希が確認したのは雪枝と別れて暫く経った後。改竄する時間は充分にある。
それを確認する為にも、善希は尾形のアカウントを検索した。
尾形のアカウントを確認すると、全体に公開されている。
やはり…。
この状態なら雪枝も内容を確認する事が可能だ。
善希はゴクリとつばを呑み、自分が関連している投稿内容をタップする。
そこに書かれていたのは・・・・。




