↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/9

第8話『物質Xのヒミツ』


―――――廃屋にて・・・小学校低学年ほどの少女が男に連れ込まれ、床に投げ出された。


「大人しくしろ、さもないと命はねえからな・・・!」


泣き出す少女に手を伸ばす男・・・直後、その手が掴まれた。


「大人しくするのはお前の方だ!」


男は手を振り払おうとするが、その人物・・・ロスレッドは簡単に腕を捻り上げる。それから数分後、通報を受けた警察によって男は逮捕された。




(帰り道に偶然、車に連れ込まれる場面を目撃したから良かったものの・・・あの子は本当に運が良かった。)


建物の屋上から見下ろすロスレッド・・・警察に保護される少女の姿を見、安堵した様子で飛翔する。そして、それを見つめる人影があった。


「・・・あいつがロスレッドか」







「お手柄だったな、洸!それでこそヒーローだ!」


ロストルームに帰還した洸は美景にそう言われ、思わず照れ笑いする。しかし、同時に彼にはある疑問も生じていた。


「美景さん。僕、常々思ってるんだけど・・・ベリアロイドじゃない『一般的な悪人』も特定できるようにならないの?ヒーローなのに怪人だけ相手にして、それ以外の案件で困ってる人は放置ってどうかと思うんだけど」


洸・・・と、美景は彼の肩にポンと手を置いて返す。


「特定できたら、とっくにそうしてる。けどな・・・本当にお前が思う技術が完成したとしても、全ての人間を救うことはできないだろう。俺たちは神ではなく人間だ、必ず限界が来るのだから。」


正論を言われてしまい、洸はシュンと俯いてしまう。すると、美景は彼の背を叩いてこう続けた。


「第一、『一般的な悪人』は警察でも対応できるが、ベリアロイドに太刀打ちできるのはロストレンジャーしかいない!とにかく、救える者から救う!それが俺たちにできる精一杯のことだ!洸・・・『全ての人間を救いたい』という気持ち、決して忘れるなよ?」

「美景さん・・・はい!」


ヒリヒリする背中を擦りつつ、洸は笑顔で頷いた。


「さて・・・これからラーメン食べに行くんだが、お前も一緒に来るか?奢るぞ?」

「え、良いの?じゃあご馳走になっちゃおっかな~」


本日は日曜日・・・食堂は休みなのだ。海香は娘を連れて出かけており、空也は映画を見に行くと言っていた。陽子も外出しているし、大地は「日曜日の昼はカップ麺」という独自のルーティーンに従っているはずだ。さしずめ、明石は昨日からずっと格納庫に籠っているので不在である。


「今のお前ともじっくり会話がしたいところだったし、丁度いい!さて、行こう!」

「レッツゴ~♪」






――――中華料理屋のテーブル席に着き、注文する二人・・・オーダーを終えた美景は言った。


「お前がヒーローになってそろそろ二か月は経つわけだが・・・何か、意見や気になることはあるか?」

「あ、山ほど」


そう洸は即答する。ロストレンジャーになったものの、未だに分かっていないことが沢山ある。この機会に洸は色々と質問してみることにした。


「じゃあ、一つ目・・・何で『ロストレンジャー』なのか。『Lost』って『失った』とか『負け』って意味だよね?どうしてそんな不吉なワードを使ってるのかちょっと分かんない。」

「む・・・敗北や喪失から這い上がる意味だと思えば、カッコいいだろ?」


やはり美景のネーミングセンスは独特すぎる。洸は少々呆れつつ、次の質問に移ることにした。


「二つ目の疑問・・・僕たち、何で未だに正体バレしないんだろうって。頻繁に名前も呼び合ってるし、そもそも声でバレちゃう気が・・・」

「メタっぽい質問だな。スーツには特殊なボイスチェンジャーのような装置が備わっている。つまり無関係の人間にはお前たちの声が通常よりワントーンくらい高く聞こえる上に、名前等の一定の言葉もぼやけて聞こえるのだ。よく『戦う魔法少女もの』のアニメで『顔出ししてるのに正体バレしない謎』があるが、多分あれも魔法による顔認識・妨害機能が働いているんだろうな。」


微妙に変な方向に話を持っていかれ、洸は苦笑いする・・・数秒ほど黙った美景は咳払いした。


「失敬。他に何かあるか?」

「うん、ある。前に、眞木先生から『X』に関する話を聞いたことがあるんだけど・・・」



『物質Xは人の感情を増幅させる効果がある。GAPに含まれるXには、主に人のドーパミンと呼ばれる物質を活性化させる効果がある・・・だが、それは主に『負の感情』によって作用する。つまり『怒り』や『悲しみ』、あるいは『悪意』があるほど強力なものとなるんだ。』



「僕たちが使ってるギブチェンジャーにもXが使用されてる。少量とは言ってたけど、法律的に問題はないのかなって。そもそも、Xが何のために作られたのかも気になるというか・・・」


洸の質問を受け、美景はスッと真剣な表情に変わる・・・そして、一呼吸おいて話し始めた。


「モルヒネが量を守れば麻酔になるのと同じ、Xも少量ならただの精神安定剤だ。パワードハートもその範囲内、そして処方箋が必要なら医師である早乙女が出してくれる。だから法的にはモーマンタイだ。」


「お待たせいたしました。醤油ラーメンと炒飯セット、豚骨ラーメンと餃子セットです。」


店員が頼んだ料理を持ってきた。礼を言う二人は箸を取り、同時に手を合わせる。


「「いただきます。」」


一旦会話を中断し、ラーメンを食べ始める。シンプルな中華料理ではあるが、美景の行きつけの店だけあって中々美味い。


「うま!細麺最高!やっぱ豚骨だよね・・・美景さん、こういう美味しい店とかよく行くの?」

「まぁな。俺が保護する人間は大抵、空腹になってるか寒さに震えている。そういう奴らに美味いものを食わせるために飲食店のリサーチは必須だ。負の感情が溜まった時は美味い飯を食べるのが一番いいからな。」


炒飯をおかずにラーメンをすすり、美景は満足そうに笑う。


「うむ・・・美味い!」






「ふふふふふふ」


ロストルームの奥にある格納庫・・・巨大なアーム等の機材を操作する明石は手を止め、愉快そうに笑い出す。


「完成したわ。遂に!天才発明家・明石幸一郎の最高傑作が!上出来上出来!おーっほほほほほほ!」


上機嫌に高笑いする明石の視線の先には、ガラス越しに巨大メカが佇んでいた・・・。






「「ご馳走様でしたー!」」


店を後にする二人・・・その途中、公園に辿り着いた美景はベンチに座った。


「Xが何のために作られたか、だったな・・・話せば長くなるが、Xは元々意図的に作られた薬品ではなかった。最初はただの精神安定剤が作られる予定だったんだ。」

「『ただ』の?」

「いや・・・一般的なもの、ではないか。正式には『世界一優しい精神安定剤』だった。」


洸が隣に座って聞き耳を立て、美景は静かに話し始めた。


「もう随分昔の話だ。発端となったのは、一人の科学者だった・・・」





天才科学者・・・以下、水田教授は新種の精神安定剤を製作していた。

その薬品は人体のセロトニンと呼ばれる物質を発生させ、心を落ち着かせる効果を持つ『ホープ(希望)』という名前の精神安定剤になる予定だった。


ところが、いざ出来上がったのはセロトニンではなくドーパミンを発生させる全く別の薬品だった。それが「物質X」の原型であった。これを一匹のマウスに投与したところ常に興奮状態となり、非常に攻撃的になって別の個体を傷つけるようになった。また、そのマウスは相手を傷つけることで快感を得ていることが分かった。


危険と見なした教授は例の薬品をすぐにでも廃棄しようと考えたのだが・・・一人の助手が彼を裏切った。助手は例の物を他者に売り、教授から研究を奪ったのだ。そうして完成したのが完全な「物質X」・・・それを利用し、GAPが作られたのである。


助手に裏切られ、研究を奪われたことに教授は絶望した。その一方で、いずれ迫りくるであろうGAPの脅威に対抗すべく、僅かに手元に保管してあった残りの薬品を改めて「ホープ」に極めて近いものへと改良して十個のパワードハートを、その中の五つを使って「ギブチェンジャー」なるものを作ったのだ。

いずれその力を正しいことに使い、この世界を変えてくれる「ヒーロー」たちが現れることを信じながら、教授は病と心労で息を引き取った・・・。





「・・・結果的に教授は全ての元凶のようになってしまった。だが、俺は責める気にはなれない。教授はただ、己の研究で人を救いたかったのだ。優しい人だったからな。」


美景はそう言い切る。Xに関わる秘密を知った洸は唖然とすると共に、もう一つ気になったことを尋ねる。


「何で、美景さんがその教授のことを知ってるの?」


最悪の事実が明かされるのではと危惧しかけるが、美景はこう告げた。


「教授は過去に俺を救ってくれた恩人なんだ・・・言っとくが、裏切った助手は俺じゃないぞ?丑山(ウシヤマ)という男で、もう連絡先も分からん。」

「良かったぁ~~!」

「おい洸、お前さては本気で疑ってたな・・・!?」


洸の反応にやや腹を立て、ムスッとする美景は彼のこめかみをグリグリと小突く。「ごめーん」と軽く謝罪する洸は苦笑いし・・・もう一つ浮かんだ疑問に首を傾げる。


「でもさ、美景さん・・・どうして丑山って人とグルになった組織はGAPなんて物を作ったんだろう?危険だって分かってたのに。まさか闇市場とかで売り払って、ハイになったGAP漬け集団を使って暴動を・・・?」

「あり得そうだが、真の目的は不明だ。所持することで力を示したいのか、海外へ薬物兵器として売り飛ばして儲けたいのか・・・それとも、意図的に世の中に混乱を招きたいのか。誰にも分からん。ただ、一つだけ分かっていることがある。」


丑山がXを売った人間の名は『竜ヶ崎努(リュウガサキ ツトム)』・・・大企業『ジャスティス・コーポレーション』の敏腕社長だ。






「はぁ~~~誰でもいい。誰でもいいから、ぶっ殺してぇよぉ・・・!」


町を放浪する男・・・この男はつい数時間前、刑務所から出所したばかりである。通り魔事件を起こして四人に危害を加えて逮捕されたものの、被害者たちはいずれも重軽症で死人が出なかったためにたった数年の刑期となったのだ。


普段から小動物を殺して遊ぶ異常者が十年足らずで更生するはずもなく、彼は何かに危害を加えたい衝動で苛々していた。


「クソが、この辺には猫一匹もいねぇのか!何でもいいから鬱憤晴らしさせろぉ!!」


路地裏に入った男は壁を蹴る・・・そこへ、何者かがふらりと現れた。顔をガスマスクで隠しており、グレーのフードを身に着けている。


「随分荒れてますね。」


呆れたように言われ、ジロリと睨む男はガスマスクの人物を怒鳴りつけた。


「あぁ!?誰だ!お前から殺してやろうか!おぉん!?」


そう脅しをかけられるも、ガスマスクの人物は極めて冷静な様子で挨拶する。


「初めまして。私は通りすがりのセールスマンです。よろしければ、こちらを使ってみませんか?今なら無料で差し上げます。」


その手のひらの上には、これまでとは少し異なるGAPが包装されていた・・・。






「水田教授は、優しい人だったんだね。」

「ああ。例えるなら、お茶の水博士みたいな人だった。親に見捨てられた俺を拾ってくれて、保護者代わりとなってくれて・・・正義とは、ヒーローとは何たるかと教えて下さった。恩人であり最高の師匠だ・・・!」


そう語る美景はとても誇らしげであった。彼にとって、水田教授はまさに「ヒーロー」のような存在なのだ。きっと洸たちのような人間に分け隔てなく手を差し伸べるのも、自らが教授に救われたからこそだろう。


「それで美景さんは、教授の影響で救助者保護施設の人に・・・」

「ああ、そういうことだ。今は亡き教授の妻が発端となって施設を設立し、流れで俺がそこの代表に」


不意に通知が鳴り、洸はスマホを確認する・・・「ヒロ活」だ!



「キャー!!」


悲鳴が聞こえる・・・市民が逃げ惑っており、十数体ほどのインプロイドが彼らに襲い掛かろうとしていた。



「カゲ!」


偶然近くに来ていたのだろう、向こうから海香が娘を抱えて走ってきた。察した美景は頷き、成海を受け取った。


「ママ?」

「カゲおじさんの方が足速いからね。成海は先に逃げて。大丈夫、ママもそのうち追いつくから・・・!」


ママ!と成海が呼びかける前に、美景は彼女を抱きかかえたまま駆け出した。それを見送ると同時に、空也たちロストレンジャーの面々が駆け付ける。


「お待たせ!」「もう、あいつらのせいで三十分待ちがパーだよっ」『休日潰した罪はデケェぞ~!』「戦いの時間です」


口々に言い合う中、インプロイドたちがこちらに気づいた。洸は仲間たちに呼びかける。


「みんな、行くぞ!!」


五人はギブチェンジャーに手をかざす・・・!



「「「「『プリーズ!パワード・オン!!』」」」」



ロストレンジャーのスーツを纏ったと同時に、インプロイドが攻撃を仕掛けてきた。それに立ち向かいながら、五人は士気上げの名乗りを上げる・・・!



「『覚悟の不死鳥 ロスレッド』!!」


「『誠意の天馬 ロスブルー』!!」


「『勇気の火竜 ロスイエロー』!!」


「『慈愛の人魚 ロスピンク』・・・!!」


「『根性の妖猫 ロスグリーン』~!」


「俺たち、救済戦隊!」



「「「「「ロストレンジャー!!」」」」」



武器を手にインプロイドを蹴散らし、バッチリとポーズを決める五人・・・通行人の何人かがスマホでそれを撮影しようとするが、当然コマーンの電波によって阻止されている。


「ハァッ!・・・変だな、どうしてベリアロイドの姿がないんだろう?」


周りのインプロイドにヘッドショットを喰らわせるロスブルーは違和感が生じ、辺りを見渡す。アックスを振るうロスイエローは首を傾げる。


「さあ?案外、どっかに隠れてるんじゃないの?自分の手を汚したくないから、とか!」


後ろへ大きく振り、背後を狙ってきたインプロイドを撃退する。トライデントを棍のように振り回して蹴散らすロスピンクも、ヨーヨーをぶん回してぶつけるロスグリーンの背にいるチロルも何やら嫌な予感がした。


「不意打ちでもする気か?」

「卑怯者はスゴくないです。」『それかもっとヤベェこと企んでる、かもな~』


そして、ダガーを両手に降下するロスレッドがインプロイド数体を斬りつけ、四人も他のインプロイドの撃破に成功した・・・その時だった。




『グアアアアアア!!!』



「何だ・・・!?」


凄まじい叫び声が町を轟いた直後、五人は一点を見つめて驚愕する・・・建物よりも巨大なベリアロイドが現れたのだ!


『オオオオオ!!!』


ボロボロの黒いレインコートを羽織っており、両手が鋼鉄のハンマーになっている巨大ベリアロイドは周りの建物を叩き始めた。付近にいた人々は悲鳴を上げながらその場から逃走する・・・。



「は、はぁー!?ベリアロイドが巨大化するなんて聞いたことないんですけど!?」

「まるで怪獣だ!まさか、GAPがあれほどまで進化してるなんて・・・!」


ロスイエローは驚愕し、ロスブルーたちも狼狽えてしまう。しかし、こうしている間にもベリアロイドは周りに被害を加えようとしている。


「とにかく止めるんだ!」


ロスレッドは飛び上がり、ベリアロイドの周りを旋回する・・・下ではロスブルーが銃撃しており、ロスイエローは炎を放つ。ロスピンクも「マーレクイーン」の姿になって攻撃を仕掛け、ロスグリーンは瓦礫を括りつけたヨーヨーを振るってベリアロイドを打撃する。


『フェニックス・フィスト!!』


仲間たちが引き付けてくれる隙に、ロスレッドはGAPを浄化しようと試みる・・・が、ベリアロイドは元に戻らなかった。


「マズい、浄化の力が足りない!」


巨体である分、体内のGAPの力も強大なものになっているようだ。ベリアロイドは腕を振り回し、ロスレッドとロスピンクを弾き飛ばした。


「「うわあああ!!」」


ロスブルーとロスイエローの二人が彼らを受け止め、振り下ろされたハンマーをロスグリーンがバリアを張ることで防ぐ。


「無理です大きすぎます防ぎきれません・・・!」

『流石に限界だ~~~!!』


バリアが破壊され、爆発が起きる・・・煙が晴れ、そこには瓦礫の中に倒れるロストレンジャーの五人がいた。ロスピンクの姿は通常に戻っており、全員がかなりのダメージを負っている。しかし・・・!



「こんな、ところで・・・諦めてたまるか・・・!」


拳を握りしめ、ロスレッドがゆっくりと起き上がる。止めを刺そうと身構えるベリアロイドを前に、彼は自分に言い聞かせるように口を開いた。


「如何にも、俺たちはただの人間だ。必ず限界が来る・・・だけど!」



『一般的な悪人は警察でも対応できるが、ベリアロイドに太刀打ちできるのはロストレンジャーしかいない!とにかく、救える者から救う!それが俺たちにできる精一杯のことだ!』



「俺は最後まで諦めない。お前を倒せるのは、俺たちしか・・・ロストレンジャーしかいないんだ!必ずお前から人々を救ってみせる!それが、俺たちのやるべきことだ!」


人々の悲鳴を思い出しつつ立ち上がるロスレッド・・・それに続き、四人も起き上がった。


「フフ、頼もしいこと言うようになったじゃないか。洸。」

「君の言う通りだ。僕たちが諦めてはいけない!」

「洸君スゴイです、ヒーローやってます」『かぁっくい~♪』

「私も、私たちも便乗するよ。私たちはヒーローなんだから・・・!」


彼らは皆、意志を持ってここに立っている。人々を守るヒーローとして、それぞれ誠意を、勇気を、慈愛を、根性を、覚悟持って・・・!



『もしもーし、カッコよくキメてるとこ悪いけど、今からアタイの発明品試してくんなーい?』


明石から連絡が入り、五人はロスターフォンに表示されたボタンをタップする。



『RIDE MONSTERS  DEPARTURE』




格納庫から飛び出していく五体の巨大メカ・・・ブースターによって飛行してきたライドモンスターに五人は乗り込み、エンブレムにブレスを掲げた。


ロスレッドは以前移動の際に使用したセーバーフェニックスに、ロスブルーは青いペガサスを模したセーバーペガサスに、ロスイエローは黄色いドラゴンを模したセーバーサラマンダーに、ロスピンクは桃色の人魚を模したセーバーマーメイドに、ロスグリーンはエアスクーターに乗った二足歩行の猫を模したセーバーケットシーだ。


「明石さん!これ、ただの移動用のマシンじゃなかったの!?」


ワクワクした様子で尋ねるロスレッド・・・一方、ロストルームにいる明石はご機嫌な様子で彼らに告げた。


「ああ、その状態だとただの乗り物。良いこと?巨大メカといったらやることは一つ・・・合体よ!!」


通信機越しの明石の圧に押され、五人は言われるがままロスターフォンをコックピットにセットして「DOCKING」の表示をタップした。



「「「「「ドッキング・フォーメーション!!」」」」」



五体のメカがそれぞれの部位に変形し、空中で組み合わさる・・・サラマンダーが胴となり、ペガサスが分離し両腕に、マーメイドが右足、ケット・シーが左足となる。最後にフェニックスが頭部に、分離した翼は背中に装着された。巨大ロボットの完成だ!


「ロボットアニメみたいだ!これ、何て名前!?」


『そうねぇ、ここはシンプルに行きましょうか。救いの巨人!その名も、』



『セイバーオー』!!



巨大ロボ『セイバーオー』に歓喜するロスレッドたち男性陣・・・それとは裏腹に、ロスイエローとロスピンクは「そのまんま・・・」とこっそり呟いていたのは内緒である。



『オオオオ!!コロス!ブッコロシテヤル!!』


一方のベリアロイドはハンマーを振り回しながら、突如として現れた巨大ロボに威嚇する。巨大ベリアロイドの口から出るのは咆哮と片言の暴言ばかり・・・理性をほとんど失っているのだろう。


「ちょっと分かった気がする。ヒーローの役目は、人々を守る以外にももう一つある。」


ロスレッドはレバーを握りしめ、ベリアロイドに向けて断言した。


「俺たちのもう一つの役目は・・・お前みたいな悪人に、これ以上の罪を重ねさせないことだ!レッツゴー、覚悟!!」


悪事を食い止め、罪を償わせる・・・きっとそれもヒーローである自分たちにできる最善の行動だろう。五人はセイバーオーを操縦し、振り下ろされたハンマーを弾き返す。


「いざ、誠心誠意!ペガサスパンチ!!」


ペガサスの腕が突き出され、ベリアロイドの顔面に命中した。繰り出されるパンチによって後退するベリアロイドだったが、急に癇癪を起こして殴りかかってきた。


「勇気、全開!」


ロスイエローがレバーを動かし、セイバーオーの胸元から炎が放たれた。怯んだ所へロスピンクが操縦するマーメイドの右足がキックを喰らわせる。


『海香!ちょっと軸になってくれよ~!』

「行きます」


右足を軸にし、ロスグリーンが左足を上げて機体を回転させた。


『根性、根性~』「ねこんじょー!!」


セイバーオーの渾身の回転蹴りにより、こめかみを蹴飛ばされたベリアロイドは転倒した。


『アアア!!クソ!コレデ最強ニナレルッテノハ嘘ダッタノカ!!チクショオオオ!!』


どこか引っかかる一言を喚き散らすベリアロイド・・・この隙を五人は見逃さない。


「さあ、覚悟を決めろ!」


五人同時にパワードハートを掲げ、セイバーオーの翼が分離する・・・変形したそれは両刃のハルバートとなる。セイバーオーが両手でそれを手にし、必殺技のコードを叫んだ。



「「「「『セイバーオー!フェニックス・スラッシュ!!』」」」」



真っ直ぐ飛ぶセイバーオーは赤い光を纏った刃を振り、ベリアロイドに必殺の斬撃を喰らわせる・・・!


『ギャアアア!!フザケンジャネェェ!!』


断末魔を上げ、ベリアロイドは爆散する。セイバーオーの初陣にして初勝利である・・・!





セイバーオーが分離し、空へ飛び立つ・・・地上に降りたロストレンジャーの五人はベリアロイドの様子を確認しに向かった。


「良かった、人間に戻ってる・・・!」


物陰から覗いてみると、先ほど巨大ベリアロイドがいた区域は立ち入り禁止になっており、周りに人が集まってきていた。救急車のストレッチャーには意識のない男が載せられている・・・彼があのベリアロイドだろう。どうやらセイバーオーの一撃で無事に浄化できたようだ。


「何だったんだろう?さっきの怪獣」「ロボットもいたよね?本物なのかな?」「あれで作り物とか言われても説得力なくない?」「てか、さっき撮った映像真っ黒なんだけど!」


戦いを見ていた野次馬たちは口々に言い合う。まるでアニメや映画で見るような、巨大生物とロボットの戦い・・・人目を避けるなんて不可能だったろう。


「ベリアロイドの存在が世間に広まったら、GAPに手を出す人も減ってくれるかな?」

「是非とも、そうなってもらいたいところだけどね。」


ロスレッドの一言にブルーはそう返す。イエローたちもそう願わずにはいられなかった。



「・・・?」


ふと、ロスレッドは何かの視線に気づいた。ロスブルーたちが呼び止めるよりも前に、翼を広げて飛び上がった彼は少し離れた場所にある建物の屋上に降り立ちった。


「誰だ?」


ロスレッドの視線の先にいたのは、屋上から下を見下ろす一体の怪人だった。その怪人の後ろ姿を見た洸は唖然とした。明らかにベリアロイドなのだが、いつものベリアロイドとは何かが違う。


『ベリアロイドの見た目や能力は変身者を特徴づける物、馴染みのある物がベースになることが多い』と言われていた。即ち、ベリアロイドの体は「無機物」をモチーフとするはずなのだ。

だが、この怪人は黒い犬のような見た目をしていたのだ。両肩にはリアルな犬の頭のような甲冑が付いている・・・ケルベロスのつもりなのだろうか?


「君は、何者なんだ・・・!?」


ケルベロスが振り向く・・・すると、ロスレッドを一瞥した彼はフンと鼻で笑って一言。


「偽善者共が」



次の瞬間、ケルベロスはその場から姿を消していた。思わず駆け寄ろうとしたロスレッドだったが、影も形も無い・・・。


「今のベリアロイド・・・まさか、例の丑山って人なのか?」






――――ロストルームに戻った洸・・・彼は謎のベリアロイドについて空也と陽子、美景と明石に話した。


「無機物じゃないベリアロイドか。僕はヒーローになって二年経つけど、見たことも聞いたことも無いよ。」

「でも巨大ベリアロイドが出たんだから、そんなのがいても不思議じゃないよね。」


空也と陽子が口々に言うと、明石は眉をひそめながらこんなことを言った。


「何にせよ、ね。どっかの誰かがGAPを強化させてるとしか思えないわ。まあ、大体の見当はついてるけど」

「やっぱり、『ジャスティス』が関係してるのかな・・・!?」


洸の意見に、真剣な表情を浮かべる美景は両腕を組んで静かに言った。


「おそらくは・・・本格的に動き出した、ということだろう。丑山は『暗黒の時代』の間に強力なスポンサーを得て暗躍し、ここ数年の通常ベリアロイド騒ぎの裏で今日の巨大ベリアロイドを生み出せる、及び洸が見たケルベロスのような『平常心を保てる』新型のGAPを完成させたんだ。」


竜ヶ崎や丑山が何を企んでいるのかは分からない。しかし、これからロストレンジャーの戦いに波乱を巻き起こす存在となるのは確かだろう。



「美景さん、僕が見たケルベロスの正体は・・・丑山だと思う?」

「いや、あり得ないな。なぜなら・・・あいつは犬が大嫌いだったから!」


洸の質問に、美景はバッサリと断言した。こういう時も美景という男は普段通りらしい。


「ともかく今回のことは非常事態に変わりない。気を引き締めていこう・・・ああ、そうそう。話は変わるが、あれからずっと考えていたんだ。ロストレンジャー・共通の『承諾の合図』!以前、統一させようって言ってただろう?」


マジで考えてたんだ?と三人と明石は心の中でツッコミを入れる。一見、心底どうでもいい話題だが、大地に「考えておく」と約束してしまった以上は投げ出すわけにもいかないのだ。


「こんなのはどうだ?・・・『ロッシャ!』」


親指を立てて胸元へ持っていく動作をする美景・・・「ロスト」と「よっしゃ」を足して「イエッサー」で割ったような、シンプルな言葉のようだ。


「美景さん、他に無かったの?」


陽子がジト目でツッコミを入れると、愕然とした美景は必死の眼差しでメモ帳を開いて見せる。


「見てみろ!マジで悩みまくった!半月くらい、ず~っと!有りがちな言葉だと特別感がないし、かといってあまり複雑な言葉だと詰まりそうだろう!?」


メモ帳には彼が考え付く限りの「承諾の合図」の数々がびっしりと記載されている・・・「マジ」で悩んでいたのは本当らしい。


「はぁ・・・じゃあ、良いんじゃないですか?」


面倒になったのか興味ないのか、陽子はそう適当に返した。彼女の反応が微妙だからか、美景はややショックを受けつつ洸たちにも聞いて回る。


「洸、『ロッシャ!』って返事どうだ!?少なくとも他と被らないよな!?空也、これくらいシンプルな方が言いやすいと思うだろう!?」

「普通に『イェッサー』とかで良かった気もするけど、良いんじゃないかな?」

「えーっと、ポーズは好き・・・ですかね。」


洸も空也も、苦笑いでそう答える他なかった。彼らを見つめる明石はヤレヤレと肩をすくめるのだった・・・。







「・・・俺だ」


真夜中の路地裏にて、例のケルベロスがどこかへ連絡していた。


「あんたの言った通りだった。途中で膨大な量のXに脳が耐えきれなくなったらしい。しかも巨大化したら完全に理性を失う。やはり俺たちみたいな一部の限られた人間にしか使えないんだな。それより・・・」


ほくそ笑むケルベロスはあることを報告する。


「例の戦隊の一人に会ったんだ・・・いいや?戦ってはいない。今のところ、正体も分からないままだからな。それじゃあ、この辺で」


グローリアス・LOVE&PEACE・・・!!



通話を終え、改造が施されたスマホを懐に仕舞う。月を見上げる彼はフンと鼻で笑った。


「せいぜい『ヒーローごっこ』を楽しんでろよ。世の中からハブられた、負け犬共が・・・。」











〖ベリアロイドfile〗



ベリアロイド№0055『サイコハンマー』


変身者:秋場

モチーフ:金槌、レインコート

罪状:暴行罪、器物損壊罪

末路:再逮捕、懲役刑は確実


・通り魔として市民に危害を加え、たった数年の刑期を終えて出所した凶悪犯。

・「ストレス発散の為の暴力であれば無罪になるという法律を作るべきだ」とマジで思っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。