第9話『素晴らしきLOVE&PEACE』
―――――「ホビットの家」の医務室・・・荷物が届き、早乙女は経理の女性と中身を確認していた。
「消毒液、ガーゼ、絆創膏、湿布・・・胃薬、頭痛薬、鎮痛薬、整腸剤・・・注文通りです。ありがとうございます。」
ノートに確認の書きこみを入れ、届けられた薬等のストックを全て棚へ片付ける。すると、経理の女性はあることに気づいて首を傾げた。
「そういえば早乙女先生・・・先生っていつも『ジャスティス・コーポレーション』の物だけ絶対に置きませんよね?」
『ジャスティス・コーポレーション』・・・鎮痛薬を中心とした薬品を主に開発する製薬会社であり、国民の約八割がこの会社の薬の世話になっていると言っても過言ではないだろう。その「残り二割」の中に早乙女は入っている。
「ジャスティスの頭痛薬、私は結構効くから愛用してるんですけど・・・何かこだわりとかあるんですか?」
女性が尋ねると、早乙女は無表情ながらもどこか機嫌を損ねたような視線を向けながら一言だけ告げる。
「・・・私が昔勤めていた大学病院、ジャスティス製・最推しだったもので」
「は、はぁ」
ちょっぴり申し訳なさそうに会釈する女性に対し、早乙女はこう続ける。
「無論、薬の効き目には個人差があります。ご自身に合った薬を服用するのが正しいですし、どの薬を愛用しようとその方の勝手です。ですが、しいて言うなら・・・ここにジャスティスコーポの製品を置くつもりはない、ということです。必要ならばご自身で調達を」
憎い人物の家の屋根に止まっているカラスすら憎いということなのだろう、と女性は納得したように頷いた。彼女が出て行った後、早乙女は呟く。
「利益になることはしたくない。ジャスティスは」
私の大好きなロストレンジャーの敵になり得る存在だから。
「そういえば、大企業がGAPを作ったって疑惑があるんでしょ?なのに何で誰も何も言わないの?」
切実な質問をする洸・・・すると、美景は難しい顔をして告げた、
「理由は簡単、言った所で無駄骨だからだ。ジャスティス及び竜ヶ崎社長は明らかにマスコミを買収している。下手したら警察や政府もな。」
大昔、美景は一度だけジャスティスとGAPに関する情報をマスコミにばら撒いたことがあった。しかし、すぐに真実は揉み消されたのだ。金も権力も向こうの方が上・・・ロストレンジャーにできることは限られている。
「ともかく、今の俺たちにできることは『一人でも多くのベリアロイドを倒して人々を救うこと』だ。何が起きようとも、それに変わりはない・・・!」
美景に言われ、五人は頷いた・・・。
~『失われし救済』への書き込み~
××県□□区に住む主婦です。私は日頃から夫のDVに苦しめられています。
夫は少しでも機嫌を損ねると私をサンドバッグにしてきます。家事でミスをすると人格否定されます。私だけならまだ我慢できましたが、ここ数年は子供たちに対しても暴言を吐くようになりました。赤ちゃんが泣くと大声で罵声を浴びせてきて、私と赤ちゃんを外へ追い出します。そのくせ生活費もろくに入れてくれません。
誰かに相談しようにも、夫は外面だけは良いので誰も信じてくれません。最近、夫が浮気していることが分かり遂に離婚を決意しましたが、いざ離婚届を見せると酷い暴力を振るわれました。
信じてもらえないかもしれないけれど・・・この時、夫が化け物に変わりました。ガラスのコップが割れるくらい大きな声で怒鳴り、大きな手で何度も殴ってきた後、「俺から離れたら最後、ガキどもを殺す」と脅してきました。次に逆らったら殺される。
もう私にはどうすることもできません。助けて下さい。
――――「ジャスティス・コーポレーション」営業部の武山・・・彼は営業帰りに路地裏を見つけ、人目を盗んで入り込んだ。
「は~ここ数日、どうも調子が出ない。付け始めは良かったのに・・・!」
袖を僅かに捲ると、そこにはGAPが付けられていた。むしゃくしゃした気分を抑えようとため息をついた・・・その時だった。
「武山様、その後の調子は如何ですか?」
路地の奥から声をかけられ、振り向く・・・そこにはガスマスクを付けた密売人がいた。
「てめぇか。この前、『変身』とやらをしてみた。最高の気分だったよ。数か月前、最初にもらった時は疑心暗鬼だったが今では付けない日の方が少ない。だが最近は効き目が悪いのか、些か本調子じゃないんだ。なあ、もっと強力なヤツはないのか?」
武山に訊ねられ、密売人は少し考えてあるものを差し出した。GAPなのだが、従来の物と少々カラーリングが異なっている。
「こちらは今お使いのGAPよりも更に強力な新型。『GAP・改』と呼んでおきましょうか。しかし、その分副作用が出ることがありまして」
「そいつをくれ!金なら出す・・・!」
武山は手を伸ばそうとするが、密売人はスッと引っ込めてこう告げる。
「代金の請求は致しません。その代わり、ある仕事を引き受けていただきたい。」
何だ!?と武山は前のめりになる。すっかりGAPの虜になってしまったらしい彼に密売人は囁いた。
「とても簡単な仕事です。今後、我々にとって最も脅威になりそうな連中・・・ロストレンジャーを倒してください。」
こちらを使うタイミングは自己判断で・・・と、密売人は「GAP・改」を武山の手に握らせるのだった。
「部長、お疲れ様でした!失礼します!」
「ああ、お疲れさん!」
部下に挨拶され、武山は愛想よく返す。しかし、駐車場に入って愛車に乗り込んだ途端、彼は舌打ちする。
「お疲れ様じゃねーよ、無能の青二才が・・・は~会社の連中ときたら、どいつもこいつも無能ばかりだ。いい加減、完璧な上司を演じるのも疲れてきた。」
不機嫌そうに帰路につく武山・・・会社では有能な部長として熱心に働き、部下たちからも上層部からの信頼も厚かった。だが、それは「表向きの顔」である。
家の玄関を乱暴に開け、靴を脱ぎ捨てる。帰宅の挨拶すらせずにリビングに続く扉を開くと、夫の夕飯をテーブルに並べていた妻が暗い顔でこちらを見た。
「おかえりなさい・・・今日は、早かったね」
「あ?俺の家だぞ?何か問題でもあるのか?え!?」
ズカズカと歩み寄ってテーブルを叩いて威圧したことで、体を震わせる妻は怯えたように俯く。その反応にどこか満足げな目をする武山はソファーへ移動する。
「とっとと用意しろ!本当に役に立たねえな、お前は!」
「ごめんなさい」
暗い顔で食事を並べる妻・・・すると、別室から泣き声が聞こえた。舌打ちする武山は大きな足音を立てながらリビングを後にし、子供部屋を乱暴に開ける。狼狽える娘の横で息子が泣いていた。
「うるせぇぞ!!璃子!お前、小1にもなって弟の面倒も見れねえのか!」
「ご、ごめんなさい。祥太、泣かないで・・・!」
娘の璃子は父親の剣幕に怯えつつ、一歳の弟を必死に宥めようとする。それでも泣き止まない息子に武山は腹を立てた。
「ギャーギャー泣くんじゃねえ、このクソガキ!ぶっ飛ばされてぇのか!!」
「やめて!子供たちにだけは手を出さないで!」
駆け込んできた妻が止めに入り、武山は苛立ったようにそれを殴り飛ばした。倒れ込む妻や怯える娘に向けて彼は怒鳴りつける。
「てめぇら誰のおかげで飯が食えてると思ってんだ!?てめぇらみたいな人間のクズは一生俺にこき使われてればいいんだよ!!」
ピンポーン
インターホンが鳴った。我に返る武山は妻に向かわせようと考えるが、彼女の頬が腫れていることに気づいてやめた。自分が暴力を振るっていることがバレてしまうからだ。舌打ちし、リビングに戻ってドアホンのボタンを押す・・・。
「はい、どちら様でしょうか?」
先ほどと打って変わって穏やかな様子で応答する。ドアホンの画面には海香が映っていた。
『夜分に失礼します。奥様と娘さんはいらっしゃいますか?学校の者なのですが』
「すみません、妻と娘は外出中でして」
そこまで言いかけた時、玄関が開く音がした。武山がギョッとしながらリビングを飛び出すと、そこには海香に縋りつく妻の姿があった。
「助けて下さい!夫に殴られました!警察を呼んでください、お願いします!」
必死の形相で懇願する妻を見、冷や汗をかく武山は妻の腕を乱暴に掴んだ。
「おい、何を言ってるんだ!大袈裟だろう!すみません、ただの夫婦喧嘩なんです。うちの妻、被害妄想が酷くて・・・!」
そう言い訳する武山だったが、海香は冷静な様子で彼と妻の間に割って入って告げる。
「旦那さん、嘘つかなくていいから。もう証拠は抑えたんだよ。」
数分前、コマーンによって武山全ての言動が記録された。おまけに、前もって行った近隣住民への聞き込みで「度々夫の怒鳴り声と子供の泣き声が聞こえる」という情報も入手してあった。
「何だと・・・プライバシーの侵害だ!これ以上首を突っ込むなら訴えますよ!?」
「訴えられるのはアンタの傷害罪と恐喝罪でしょう。こちらとしても今すぐ警察に通報したい所ですが、その前に・・・もう一つ隠してますよね?」
「何のこと、ですか?」
海香の追及にしらばっくれる武山であったが、横から「こんばんは」と大地が顔を出した。
『さっき、この付近を寝床にしてるコウモリが言ってたぞ。「ここの大人のオス、大声を出す怪物になる」ってな!』
肩からひょっこりと除くチロルがそう告げた。突入前にロスグリーンの「シー・ザ・パレード」によって小動物からベリアロイドの情報も確認したのである。海香は断言する。
「もう言い逃れなんてできないよ。どのみち、アンタはDVの件で逮捕される。妻子をサンドバッグ代わりにした罪は重い・・・!」
自身が元夫に酷い目に遭わされた身であるからこそ、海香はこの男の所業が許せなかった。伴侶に虐げられる人間は自分だけで充分・・・何が何でも救わなければならない。しかし、そうは問屋が卸さなかった。
「クソが、こっちが下手に出たら調子に乗りやがって・・・!」
憤慨しながら袖を捲る武山・・・手首にはGAPが貼ってあった。
「『ヒア!トゥルーセルフ!!』」
変身コードを口に出し、ベリアロイドに変身する・・・無機質な肌をした上裸の王のような姿である。それを見た妻は悲鳴を上げ、子供たちがいる子供部屋へと逃げて行った。
『まるで裸の王様じゃんか!偉そうで生意気で恥知らず、ピッタリだな☆』
「言ってる場合かーっ!」
チロルにツッコミを入れる海香は襲い掛かるベリアロイドの攻撃を避け、大地を連れて外へ飛び出した。そこには洸たちも待機していた。
「海姐さん!」
「中にあいつの家族がいる、すぐに保護するんだ!」
海香の指示に、洸は頷きかけ・・・代わりに拳を胸元に当てる。
「ロッシャ!」
「その謎返事、マジで使うんだ?」
陽子が思わずツッコみつつも、ベリアロイドを前にした五人は横並びになって手を掲げた。
「「「「『プリーズ!パワード・オン!!』」」」」
「それじゃあ、久々にアレやるぞ!」
ロストレンジャーに変身して早々に、ロスレッドを筆頭に名乗り出る・・・!
「『覚悟の不死鳥 ロスレッド』!!」
「『誠意の天馬 ロスブルー』!!」
「『勇気の火竜 ロスイエロー』!!」
「『慈愛の人魚 ロスピンク』・・・!!」
「『根性の妖猫 ロスグリーン』~!」
「俺たち、救済戦隊!」
「「「「「ロストレンジャー!!」」」」」
唖然とするベリアロイドは大きな腕を振るい、苛立ったように指をさす。
「ロストレンジャーだぁ!?(あのマスク野郎が言ってた連中か。めんどくせえ・・・!)底辺の人間が、俺の前に立つんじゃねえ!!」
「アンタの『底辺』の基準なんか知るか!っ大地!」
『嫁と子供を救出だー!』「保護します」
ロスピンクに言われ、ロスグリーンは家の中へ駆け込んだ。それをベリアロイドが追おうとするのだが、それをロスレッドたちが阻止する。
「えぇい、邪魔すんな!っインプロイド!!」
五体のインプロイドが召喚され、ロスレッドたちを妨害する。トライデントを手にしたロスピンクは皆に言った。
「こいつらはアタシが!三人はそいつを!」
「ロッシャ!」
ロスレッドとロスブルー、ロスイエローの三人でベリアロイドの相手をする。ブレスに手を掲げるロスピンクは「慈愛」の力を籠める・・・!
「マインドパワー、解放!」
『マーレクイーン!!』
悍ましい怪魚の姿となるロスピンク・・・襲い来るインプロイドを蹴散らしながら、彼女はここに来る直前のことを思い出した。
『それじゃあ早乙女サン、うちの子を頼むよ。』
成海を寝かしつけた直後に出撃命令が出てしまい、海香は大急ぎで早乙女に娘を任せることとなった。
『悪いね、ベビーシッターは専門外なのに』
『ヒーローは替えが効きません。かといって、幼い娘さんを一人で残すわけにもいかないでしょう。もし目が覚めたら、絵本でも読み聞かせておきますのでご安心を』
早乙女に言われ、頷く海香はジャケットを羽織った・・・直後。
『ママ?』
成海が起きてしまった。狼狽える海香だったが、成海は横になったままこう言った。
『またバイト?・・・頑張ってね』
文句一つ言わず、快く送り出してくれる娘に胸を痛める海香は娘の傍に屈んで頭を撫でた。
『うん、ママ頑張ってくる。留守の間は早乙女サンがいてくれるから、良い子で待っててね。おやすみ。』
『うん。おやすみなさい』
額にキスを落とし、海香は手を振りながら部屋を後にする。早乙女に目配せした彼女は僅かに罪悪感を抱きつつ戦いへと赴いた・・・。
(多分、あの子は薄々気づいてる。本当は「バイト」なんかじゃないってことを・・・次にまたバレそうになったら、アタシはまた嘘を重ねなきゃいけないのか。)
もし自分がロスピンクであることがバレてしまったら・・・悍ましい化け物が自分の母親だと知ったら、娘はどんな顔をするのだろうか?きっとショックを受けるに違いない。だからこそ隠し続けなければならないのだ。
「くっ・・・!」
インプロイドの一体が手から黒い電撃を放ってくる。ロスピンクはそれを両腕で防御し、一斉に繰り出される電撃を前にトライデントを地面に突き立てて避雷針代わりにした。
「どんな強大な力であろうとも、愛には決して敵わない・・・!!」
咆哮を上げ、ロスピンクはインプロイドたちに殴りかかる・・・その頃、ロスグリーンはセーバーケットシーを呼んで母子三人を乗せていた。
「あの、どちらへ?」
息子を抱いている母親に問われ、「ホビットの家です」とだけ答えるロスグリーンに代わってチロルが告げる。
『こちらのライドモンスターは~「救助者保護施設」直行便となりま~す』
「犬が喋った・・・!」
『ただの犬じゃなくて、超・有能の最先端AIなんだな~!』
唖然とする璃子に対し、チロルはドヤ顔でそう返した。セーバーケットシーを運転するロスグリーン・・・ボソボソと好きな歌を口ずさんでいる。どこか落ち着きのない彼にチロルは小声で問いかけた。
『大地、この親子を送り届けたらそのまま部屋に帰って寝ても良いんだぞ?もう十一時だもんな』
大地にとって、夜の十一時は就寝時間である。そのルーティーンが崩れることは何よりも苦痛であった。しかし、彼は首を横に振った。
「今日はヒーローの日だから特別です。あのベリアロイドは危ないです、僕もいなきゃいけないと思います。それより今はこの人たちを助けます。」
『大地・・・流石!お前はヒーローの鑑!根性、根性~!』
「ねこんじょー!」
首を傾げる親子をよそに、張り切るロスグリーンは施設へ向かう・・・一方、ロスレッドたち三人はベリアロイドをおびき寄せて住宅地から遠ざけていた。
「ぐぬぬ、どこまでもしつけぇ連中だな!」
「当たり前よ!どうせ戻ったら奥さんと子供に暴力振るう気でいるんでしょ!?止めるに決まってるじゃない!」
ロスイエローが吐き捨てると、逆上するベリアロイドは喚き散らす。
「うるせぇぇ!!俺の嫁と子供だ、どうしようと俺の勝手だろ!!俺はなぁ!この歳で営業部長まで上り詰めたエリートなんだよ!エリートが格下の主婦やガキを好きなようにして何が悪い!!」
凄まじい声量により、近辺にある建物のガラスがビリビリと反響する・・・耳を塞ぎつつも、その典型的なDV夫の発言によってロスイエローは思わず呆れかえっていた。ロスブルーも胸糞悪いのか盛大にため息をつき、ダガーの柄を握りしめるロスレッドは両腕の翼を展開させた。
「もう何を言っても無駄だろうけれど・・・あんたの奥さんと子供たちは、あんたの道具じゃない!『人間』だ!!」
翼から眩い光が溢れ出し、それに包まれたロスレッドは地面を蹴り上げる・・・刹那、ベリアロイドは斬撃を喰らっていた。流星の如く飛行するロスレッドが光の速度で急接近していたのだ。そのまま着地して踵を返したロスレッドは後ろからベリアロイドを蹴り飛ばした。
「うぎゃああ!」
前方へ吹っ飛ばされるベリアロイド・・・そこへ、ロスイエローとロスブルーが追撃する。
『サラマンダー・ファング!!』
『ペガッサス・シューティング!!』
同時攻撃を受け、ベリアロイドが吹き飛ばされる。二人はロスレッドに向けて言った。
「洸!・・・今のは凄かった。」
「ロスレッドの属性は『光』だ。音よりも速い特性を生かすなんて、やるじゃないか!」
二人に褒められ、ロスレッドはマスクの中ではにかんだ。
「普段の特訓と自分の属性を研究した成果、かな?それより、あいつを追わないと!」
「お待たせ!洸の言うとおりだ、カタを付けに行こう!」
インプロイドを片づけてきたロスピンクも合流し、四人はベリアロイドを追う・・・!
「ボス、野良のベリアロイドだ。」
「一般のベリアロイドなど、そこら中にいるだろう。それとも何か収穫でもあったのか?」
「どうやら使用者はジャスティスの社員のようだ。俺の見立てだと、多分アレは失敗に終わる。データだけ取ったらもう用済み。後はどうする?」
「公にしては信頼に関わる。念入りに掃除しなくては。丁度いい、皆を集めろ。愚か者の粛清ついでだ、例の〝偽善者たち〟に挨拶するとしよう。」
「ヒヒヒ・・・グローリアス・LOVE&PEACE!」
――――街外れまでやってきたロストレンジャー・・・すると、茂みから元の姿に戻った武山が現れた。
「もう終わりだ!GAPを浄化する、こっちに来い!」
「浄化が終わったら警察へ出頭してもらいますよ・・・!」
「ついでに奥さんに離婚されて接近禁止にされろっ!」
「間違いなく親権は持っていかれるだろうね。潔く渡しなよ?アンタじゃ育てられないんだから」
四人に口々に言われてしまい、武山は悔しそうに歯ぎしりした。
「クソが、底辺共のくせに言いたい放題言いやがって・・・!」
その時、彼は懐に手を差し込む・・・取り出したのは外回り中にもらった「GAP・改」だった。それを普通のGAPを貼った腕とは反対の手首に貼り、不敵な笑みを浮かべる。
「まだ終わりじゃねえ。指示通り、この切り札でお前らをぶっ潰してやる!」
『ヒア・トゥルーセルフ!!』
武山の体から赤黒い瘴気が噴き出す・・・呻き声を上げながら悶え苦しみ、Xによって体を乗っ取られた彼は頭を抱えながら絶叫した。
『オアアアアア!!!』
咆哮を上げる武山はベリアロイドへ変貌し、体が巨大化した。唖然とするロスレッドたちはロスターフォンを手にした。
「明石さん!ライドモンスターを!」
「りょーかい!ライドモンスター、発進!」
明石の手によってライドモンスターが出撃する。そこへ、戻ってきた美景が彼らに告げた。
「被害者親子はこちらで保護した!大地もそっちへ戻る!皆、頼んだぞ!」
「ロッシャ!」
ロスレッドが返事をし、それを見た三人も顔を見合わせ・・・同じように胸元にサムズアップした拳を当てる。
「「「ロッシャ!」」」
五体のライドモンスターが到着し、四人はそれぞれ乗り込んだ。エンブレムにブレスをかざし、ロスターフォンをセットする・・・!
「みなさん只今戻りました。」『とっとと終わらせて、帰って寝るぜ!』
ロスグリーンもセーバーケットシーに乗って戻ってきた。頷いたロスレッドはボタンをタップして号令をかける。
「行くぞ、みんな!レッツゴー、覚悟!」
「「「「「ドッキング・フォーメーション!!」」」」」
五体のメカが合体し、救いの巨人・「セイバーオー」が完成した。現れた巨大ロボを前に、巨大ベリアロイドは大声で喚き散らす。
『グゥ~~!ドコマデモ邪魔シヤガッテ!タダデ済マサネェカラナ!!』
「そっちこそ、今まで散々家族を殴ってきたんだ。今度は自分が殴られる覚悟を決めろ!」
立ち向かうセイバーオー・・・それに対し、ベリアロイドは大きな拳を振るって殴りかかる。
『ソノフザケタ顔、ブッ潰シテヤル!!』
「お断りします!いざ、誠心誠意!」
しかしロスブルーがレバーを動かし、打撃をペガサスの両腕で防ぐ。大きく腕を振って弾いた直後に両足で交互にキックを喰らわせた。後ずさるベリアロイドは地団駄を踏む。
『チクショウ!格下ノクセニ!格下ノクセニィィ!!ギエエエエエエ!!!』
喚き散らすベリアロイド・・・超音波のような凄まじい声量によって地割れが起き、風圧でセイバーオーは後退してしまう。
「あ~もう、五月蠅い!!公共の場で大声出して怒鳴る奴はアタオカって相場が決まってんのよ!」
耳を塞ぐロスイエローはレバーを押す。セイバーオーの胸元から黄色い炎が噴き出すも、風圧によって掻き消されてしまう。ご立腹なロスイエローはベリアロイドに文句を言う。
「アッタマきちゃう!あんたみたいな奴が家族を持てるなんてマジ意味不明!人を幸せにできないくせに、いっちょ前に結婚して子供作んなー!」
『ウルセェェ!!俺ミタイナ有能ナ人材ニハ、家デ家事スル人間ガ必要ナンダヨオオ!世間体ノタメニハ、ガキガ必要ナンダヨオオ!何モ知ラネェ底辺共ガ口出シスルンジャネエエエ!!』
身勝手すぎる発言に怒りを覚えるロストレンジャー・・・そんな中、(唯一防音機能で怒鳴り声を聞いていない)ロスグリーンはあっけらかんと告げる。
「お知らせします、あのお母さん『離婚します』と言っていました。」
『・・・ハ?』
唐突な報告に、ベリアロイドは思わず固まる。ロスグリーンは容赦なくこう続けた。
「『慰謝料と養育費も請求して、二度と近づけないように接近禁止命令も出してもらいます』だそうです。女の子も『パパ大っ嫌い、ママと一緒がいい』って言っていました。」
『そうそう、弁護士はうちの施設で用意することになったからな。あと明日までに家から出ていくし、どこへ行くかも絶対言わないってよ~ご愁傷様♪』
チロルも追撃する・・・数秒ほど硬直したベリアロイドはワナワナと震え、頭を掻きむしり始める。
『フッザケンナアアア!!アイツラ、俺ガイナキャ生活デキネェクセニィィ!!~っ嫌ダ!離婚ハ絶対ニ嫌ダ!一人ニシナイデクレェェ!!』
怒り狂ったと思いきや、突然嘆き始めるベリアロイド・・・あまりの情緒不安定さに、ロストレンジャーの面々も呆れ顔である。
「うっわ、めんどくせー男っ・・・!」
「きっと物質Xの影響で感情の起伏が激しくなってるんだ。まあ、同情はできませんけどね。」
引き気味なロスピンクは顔をしかめ、ロスブルーが冷静に分析する。兎にも角にも、ベリアロイドの猛攻が止まっている今がチャンスだ。
「今度こそくらえ!『ドラゴン・フレイム!!』」
もう一度、ロスイエローは火炎放射をお見舞いする。次こそは直撃し、炎に焼かれるベリアロイドは転げまわった。パワードハートを掲げ、セイバーオーは翼が変形したハルバートを両手に身構える・・・!
「止めだ!」
「「「「「セイバーオー!フェニックス・スラッシュ!!」」」」」
赤い光の斬撃がベリアロイドを切り裂く・・・!
「グアアアアア!!セメテ息子ノ親権ダケデモオオオ~~~!!」
見苦しく要求するベリアロイドは倒れ、爆散する。それを背にロスレッドは一言。
「いや、フツーに考えて無理だろ。」
――――セイバーオーから地上に降りた五人・・・不意に、ロスブルーが異変に気付いた。
「ちょっと変じゃないかい?この間みたく巨大化して戦ったのに、何で警察どころか野次馬すらも来てないんだろう?」
言われてみればおかしい。確かに街外れではあるが、なぜか人一人いないのだ。首を傾げていると、突如空が歪んだ。異変を感じて意識を失っている武山の元へ向かった五人は驚愕する。
「!?だ、誰だ・・・?」
暗闇の奥から現れたのは、七人のベリアロイド・・・彼らは全員「無機物」ではない姿だ。暗くて分かりづらいのだが、その中の一人は以前遭遇したケルベロスだった。
「君はこの前の・・・!(暗くて顔がよく見えない。おかしいな、このマスクは暗闇でも見える仕様になってるはずなのに・・・!)」
「よく見えないか?ヒヒヒ、無駄だよ無駄。今いる場所は俺が作り出した空間なんだからな。」
奥にいるメンバーがそう告げた。ここで、中心にいたベリアロイドが口を開いた。
「ロストレンジャー、お前たちのことは以前から知っていた。ロスレッド、ロスブルー、ロスイエロー、ロスピンク、ロスグリーンとAI。」
「なっ・・・誰だ、あんた達は!まさかGAPを裏で回している連中か・・・!?」
ロスレッドが問いかけると、そのリーダー格のベリアロイドは話し始める。
「我らの存在を知っていたか・・・では、まずは自己紹介させてもらおう。」
我らは『LOVE&PEACE』、通称『LP』。この腐敗した世界を変える者たちだ・・・!
「世界を変える者?(こいつらが『LP』。美景さんの恩人から研究を奪って、GAPを作り出した連中・・・!)」
「ここにいるのは、素晴らしき我が組織のメンバーだ。ケルビー、ソロネ、キュリオ、デュミナス、ポテスター、アルケイ・・・そして私がミハイル、LOVE&PEACEがリーダーだ。」
異国の軍人のような恰好をしたライオンの頭部の獣人『ケルビー』・・・
露出の多い和装に狐面を付け、狐の耳と尾を生やした女怪人『ソロネ』・・・
タキシードとシルクハットを身に着けた一本角の兎怪人『キュリオ』・・・
黒いジャケットを羽織った蛇のような怪人『デュミナス』・・・
牛を模した装飾の鎧を着た怪人『ポテスター』・・・
甲冑のついた長ランを羽織ったケルベロス、『アルケイ』・・・
そして、黒いドラゴンのような怪人のリーダー『ミハイル』。
目を凝らしてようやく大まかな姿形が確認できた。突然現れた謎の組織にロストレンジャーたちも、ロストルームにいる美景たちすらも愕然とする。
「あんたたちが・・・あんたたちが、裏でGAPを作ったのか?」
恐る恐る問いかけるロスレッドに対し、ミハイルはフッと不敵な笑みを浮かべて答える。
「ああ、そうだ。うちの有能な研究員がほんの数年で大量生産してくれた。」
それを聞いた五人は拳を握りしめる・・・今目の前にいるこの組織こそが、GAPを作ってベリアロイドをこの世に生み出した元凶なのだ。
「あんたたちのせいで、GAPなんてものが世間に出回ったんだな。どうしてだ!どうしてそんな危険な物を作った!?」
怒りに震えるロスレッドがそう投げかけると、全く悪びれた様子もないミハイルは静かに返した。
「GAPはこの国の未来だ。全ての人間に平等に力を与え、世の中を平和へと導き『新世界』を作り出す・・・そのためには、もっと改良せねばならない。だからこそ一般人を実験台にする必要があったのだ。」
「そうそう。そもそも実験対象は皆、『いなくなっても支障がない悪人』ばかり。世直しの一環だと思えば何も問題ないだろぉ?チュ~ィヒヒヒヒヒヒ」
ポテスターが非情な一言を告げ、奇妙な笑い声を上げる。冷たい目でこちらを見ているだけのケルビー以外の面々もフンとほくそ笑んでいる。しかし、ロスレッドはミハイルたちに言い返す。
「だが、そのせいで大勢の悪人がベリアロイドになって罪なき人々に危害を加えた!何とも思わないのか!」
「それは、仕方のないことだ。世界を救うのに多少の犠牲は付きものだろう?」
開き直ったように言われ、ロスレッドたちは思わずショックを受ける。すると、ケルビーが倒れている武山の首根っこを掴んで持ち上げた。
「待ちな!どこへ連れて行くんだい?そいつは警察に突き出すんだよ!」
ロスピンクが問いかけると、ケルビーは凍てつくような視線を向けて静かに告げた。
「我々で始末する方が手っ取り早い、それだけだ。」
ここで、ポテスターが鏡のついた錫杖で地面を突いた。空間が歪んで元に戻る・・・そう、先ほどまでロストレンジャーが戦っていた場所は彼が作り出した異空間の中だったのだ。だからこそ人目に付かなかったのである。
そして、武山を拉致したLPは踵を返して退却する。背を向けるミハイルは最後に言い残した。
「ロストレンジャー、せいぜい今後もヒーローとして励むがいい。役に立たない実験台を始末してくれれば、こちらも手間が省ける。」
「なっ・・・違う!俺たちはお前たちの理想のために戦うんじゃない!人々を守るために戦ってるんだー!!」
ロスレッドが断言するも、既にミハイルの姿はその場から消え去っていた・・・。
――――あれから数日後・・・一時的に「ホビットの家」に保護されていた武山の妻子は遠く離れた実家に帰ることになった。
ちなみに、LPに連れ去られた武山は未だに行方不明である。ただ、妻の元へ記入済みの離婚届が慰謝料と養育費分の金額が入った通帳と共に届いただけだ。
「薄情かもしれませんが・・・捜索願を出す気はありません。このまま疎遠になりたいのが本音です。これからは子供たちと一緒に、暴力に怯えることなく暮らします。」
・・・そう言って彼女は子供たちを連れて旅立った。子供たちも突然消えた父親を心配する様子もなく、むしろ清々した顔をしていた。
「・・・・」
屋上に立って街の景色を見つめる洸・・・先日、LP幹部とのやり取りを思い出す彼は複雑な心境で佇んでいた。
『そうそう。そもそも実験対象は皆、『いなくなっても支障がない悪人』ばかり。世直しの一環だと思えば何も問題ないだろぉ?』
『ロストレンジャー、せいぜい今後もヒーローとして励むがいい。役に立たない実験台を始末してくれれば、こちらも手間が省ける。』
(僕たちがベリアロイドを倒せば倒すほど、あいつらに貢献していることにも繋がる。それでいいのか・・・?)
「奴らに言われたことを気にしているのか?」
後ろから声をかけられ、洸は振り返る・・・美景であった。
「美景さん・・・確かに僕たちがやってることは、本当に正しいかどうかは分からない。でも『間違い』ではないだろ?たとえそれが、LPの手のひらの上だったとしても・・・!」
洸の問いに対し、美景は静かにこう告げた。
「ヒーローが人を救い、救われた者が他の誰かの救世主になる。そしてその他の誰かがまた別の人間の助けになる・・・その連鎖が続けば、世界は今よりもっと平和になる。いつの日か『ホープも物質Xも必要ない世界』は訪れる。俺はそう信じている。」
美景は洸の肩に手を置き、力強く言い聞かせた。
「洸・・・人を救え。たとえそれを利用されようとも、仇で返されようとも・・・ヒーローである限り、救い続けろ。大丈夫だ、いつか『人を救って良かった』と心から思える日は必ずやってくる。俺が保証する・・・!」
「美景さん・・・はい!」
美景の言葉に励まされ、洸はヒーローとしての決意を新たにするのだった・・・。
「届も記入した、全財産も手放した。もう良いだろ?勘弁してくれ・・・!」
ここは取調室を思わせる空間・・・そこに傷だらけの武山が座っており、目の前にはケルビーが立っていた。奥には空間を作ったポテスターもいる。
武山の四肢には鎖が繋がれており、その先には鉄球が付けられている。絶望して項垂れている彼を見下ろし、ケルビーは淡々と告げる。
「何を言っている?まだ残っているだろう・・・お前自身の命が」
「っふざけんじゃねえぞ!こんなことしてタダで済むと思うなよ!?今頃警察が動いているはずだ!会社だって俺がいないことを不審に思うはず」
「それはあり得ない。」
何者かが部屋に入って来る・・・ミハイルだった。ギョッとする武山の前で彼はおもむろに変身を解く。その姿を見た武山は愕然とした。刹那、足元が開いて奈落の底へ落下していった。
「武山・・・貴様は家族を甚振る形で人道を外れ、我が社に泥を塗る所だった。よってクビだ。」
グローリアス・LOVE&PEACE・・・!
空間が歪み、場所が社長室に移動する。ミハイル・・・否、『竜ヶ崎努』。彼こそが『ジャスティス・コーポレーション』の社長その人なのである。
「社長直々にクビ宣告、滅多に見れない光景だったよ。チュ~イヒヒッ」
ポテスターはGAPを外す・・・その正体はLPの科学者『丑山勉』であった。そこへ、ソロネが歩み寄ってきた。
「あなた、このまま泳がせて良かったの?彼らのバックには〝あの男〟だっているわ。」
そう言ってソロネは変身を解く・・・『竜ヶ崎慈乃』。彼女は以前、未成年を監禁し暴行していた犯人に拉致されていた。呆れたように尋ねる妻に対し、竜ヶ崎はキッパリと告げる。
「我々の背後には警視庁、それに一部のマスコミもついている。誰にも我々を止めることはできない・・・。」
その頃、ケルビーは武山の断末魔を聞きながら変身を解く。その正体はあの警視総監・『宍戸智晶』であった。無表情の彼女は呟く。
「私こそが、正義だ。」
「連中にできるのは、これまで通りベリアロイドを始末すること・・・それ以外は何もできんさ。」
自分専用の椅子に腰かける竜ヶ崎は誰に言うでもなく、宙を見つめながら呟いた。
「寛田美景・・・この世に必要なのはヒーローではない」
(竜ヶ崎・・・GAPなど、この世に必要ない。)
「GAPこそが国の未来だ・・・!」
(最後に世界を救うのは、俺たち自身なんだ・・・!)
〖ベリアロイドfile〗
ベリアロイド№0056『ロアーマン』
変身者:武山
モチーフ:「裸の王様」
罪状:家庭内暴力、児童虐待
末路:(詳細不明)
・「ジャスティス」の営業部門に勤める。表向きは生真面目なエリート気質だが、本性は格下を見下すDV親父。
・「妻子は夫の所有物である」とマジで思っている。




