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第7話『キズだらけの少女』

※今回の物語には一部、不快な描写があります。心を病んでいる方、特に性被害関連が苦手又はトラウマをお持ちの方はご注意下さい。


―――――ロストルームにて・・・明石がモニターを操作し、ある人物の画像を映し出した。


「『宍戸智晶(シシド チアキ)』・・・約三年前、当時若干32歳という異例の若さで警視総監に上り詰めた敏腕刑事。ロシア人の祖父を持つクオーターね。どうりでタッパがデカいワケだわ。」


データベースに目を通す明石・・・画像を見、洸たちロストレンジャーは先日のことを思い出す。


『〝今〟は見逃してやる。証拠もないのだからな。だが、時が来たら・・・』


おそらくだが、彼女はいずれ証拠を掴み次第ロストレンジャーを逮捕するつもりでいるのかもしれない。なぜなら自分たちは政府・非公認の戦士・・・ヒーローと名乗ってはいるが、世間一般的に見れば自警団なのだから。


「はぁ・・・真面目そうな警官が増えるのは良いことだろうけど、今更だよね。」


陽子はそう言って休憩スペースの方へ歩いて行った。ここで、咳払いした美景が洸たちにこう告げる。


「助けを求める声があり続ける限り、俺はロストレンジャーを解散しようとは思わない。だが、もしものことがあれば・・・その時は迷わずギブチェンジャーを、ヒーローの権限を捨ててくれ。君たちの身の安全が最優先だ。」

「美景さん・・・」


世界を変えるために戦隊ヒーローを立ち上げたというのに、世間から認められないせいで「犯罪者」のような扱いを受けてしまう。何とも世知辛い現実である。美景もそのことを心苦しく思っているのだろう。


一方、長椅子に座っている陽子は神妙な顔でギブチェンジャーに触れていた・・・。




『君の心の中には、底知れぬ「勇気」が眠っている。それこそヒーローになるに相応しい輝きを放つはずだ。』


『勇見陽子・・・ヒーローにならないか?』



(私は、絶対にヒーローを辞めない。だって私は・・・!)











 ~『失われし救済』への書き込み~



吐き出させてください。二日前、ネットで知り合った男から暴行を受けました。


ドライブと称して訪れた△△地区にある廃病院の中に連れ込まれました。信じてもらえないかもしれませんが、男は化け物の姿に変わりました。手首には奇妙なパッチのようなものが貼ってありました。逃げようとしたら拘束されて、酷い目に遭わされました。

警察に相談したら、「化け物とかふざけてる?」と半笑いで言われ、更に「君が誘ったんじゃないの?」とあらぬ誤解をされました。もう警察なんか信用できません。けど、このまま泣き寝入りするのはもっと嫌です。


どうか力を貸してください。


助けて。







「ねえ、ベリアロイドが出現したら警報が鳴るはずだよね?何で書き込みの件は何もなかったの!?」


ジャケットを羽織って外へ飛び出し、投稿主が暴行を受けたという廃墟がある地域まで走る五人・・・途中、洸は怒りを堪えた様子で疑問をぶつけた。空也は眼鏡を直しながら説明する。


「残念ながら、衛星でキャッチできるGAP反応は屋外限定なんだ!前は町に電波を流して察知する方法も考案されてたんだけど、コマーンの撮影妨害電波に影響が出ちゃうことが分かってね・・・!」


だからこそ、かつての教員ベリアロイドの時も発見が遅れたのだろう。天才エンジニアである明石にも限界があるようだ。


「それはそうと、少々距離があるね!っカゲ、やっぱり徒歩じゃ無理があるよ!」


『そんなこともあろうかと、こんなものを用意した!皆、上を見ろ!』


美景に通信越しに言われ、五人は見上げる・・・上空を何かが飛んでいる。飛行機のようだが、その造形はまるで鳥のようだった。否、フェニックスだ・・・!


「何あれ、巨大メカってこと!?」


『これぞ、「セーバーフェニックス」!ロスレッド専用の移動用メカ・ライドモンスターだ!皆、変身だ!』



「「「「『プリーズ!パワード・オン!!』」」」」



五人はロストレンジャーに変身する。「さあ、乗るがいい!」と美景が呼びかけた瞬間、ロスレッドたちの足元が光る・・・数秒後、彼らはセーバーフェニックスのコックピット内へ転送されていた。


「ここってメカの中?」

「所長、いつの間にこんなものを用意していたんですか?」

「明石が五年の歳月をかけて極秘で制作していたのだ。今回は出番がないが、フェニックス以外の乗り物も用意してあるぞ・・・!」


『転送機能作るの、マジで大変だったんだからね』・・・と、ロストルームにいる明石はそうぼやいた。彼は元々技術者であり、天才発明家として通っていた。とある理由で美景の仲間になってからは、「ホビットの家」のエンジニアとして働く一方でこうしてロストレンジャーのためのアイテムやメカを開発しているのである。


「ではロスレッド、早速運転してみろ!」

「え・・・いや、無理無理無理!俺、飛行機どころか運転免許すら持ってないし!」

「大丈夫だ、運転の仕方は明石がスーツの中にデータを転送してくれているからな!」

「美景さん、流石にテキトーすぎない?」「このままアンタが運転すりゃいいだろ!」「せめてシミュレーションさせてあげましょうよ~!」「無免許運転はいけません。」『運転するなら丁寧にしろよな~酔うから』


「何事も経験!さあ、ここに座ってブレスを掲げろ~!」

「む、無茶苦茶だー!」


ロスレッド以外の面々からの焦りの声をスルーする美景により、半ば強引に運転席に座らされたロスレッドはギブチェンジャーのパワードハートを不死鳥のようなエンブレムに掲げる・・・その瞬間、彼は妙な感覚がした。まるで、この乗り物と意識がシンクロしているかのようだった。


「よぉし・・・みんな、行くぞ!」


データに記された通りに操縦桿のレバーを握り、セーバーフェニックスは目的地へと飛ぶ・・・!






――――廃病院の一室に一人の女性が放り込まれる・・・三十代前半くらいの美女なのだが、両手を結束バンドのようなもので拘束されていた。


「っ私を、どうする気・・・!?」


恨めしそうに睨む女性の前には、体のあちこちにガムテープを巻いたようなベリアロイドが立っていた。彼女の態度が気に入らないらしく、ベリアロイドは舌打ちする。


「どうもしねーよ!俺がヤりたいのは若い処女!三十過ぎのババアには興味ねーんだ!だが俺がここに来るのを見られちまったからな、生かしてはおけねえ!終わるまでそこで怯えながら待ってろ!」


部屋から出ていくベリアロイド・・・数秒後、隣の部屋からくぐもったような若い女性の悲鳴が聞こえ、女性は歯ぎしりした。


(なんてツイてないのかしら。こうなったら、力づくでも・・・!)


女性が身動ぎした時だった。悲鳴を掻き消すように、壁が破壊される音が聞こえたのだ・・・。





「うおお!?何だ!?」


ボロボロの寝台の上で拘束された未成年の女性を組み敷いているベリアロイドは思わずギョッとする。壁が外から破壊されており、そこには五人のヒーローがいたのだ。


「お前、そうやって人の尊厳を踏みにじってきたんだな・・・!」


ロスレッドは怒りのあまり、拳を握りしめる。それはロスブルーたちも同じであった。一方、壁をアックスで破壊したロスイエローはベリアロイドに跨られている女性を見、愕然とした。両手を結束バンドで拘束され、口はガムテープで塞がれている。



『ヨーコちゃん可愛いね』『そんな顔するなよ、俺たちもう〝家族〟だろう?』『大人しくしろ、このメスガキ!!』



「・・・て、やる」


呼吸がまるで過呼吸のように小刻みになり、隣にいたロスレッドは彼女の異変に気付いた。


「陽子、どうかしたのかい・・・?」


同じく彼女の様子に気づいたロスピンクが小声で問いかけた直後、ロスイエローはパッと駆け出し、ベリアロイドの首根っこを掴んで床へ引きずり下ろす。状況が理解できていないベリアロイドが唖然とする中、彼女は言った。


「殺してやる!!ぶっ殺してやる、このレ〇プ魔!汚物野郎!!」


次の瞬間、逆上するロスイエローはベリアロイドを外へと蹴り飛ばした。慌てて横へ避けるロスレッドたち・・・危うく仲間を巻き込みそうになったのだが、ロスイエローは止まらない。


「うわああああ!!」


アックスを両手に持つロスイエローはベリアロイドに向かっていく・・・茫然としかけるロスレッドだったが、すぐに気を持ち直す。


「海姐さん、この人を頼む!大地君、他に誰かいないか確認を!先生、行こう!」


ロスレッドはロスブルーをつれて外へ走る。そこには、問答無用でベリアロイドに斬りかかるロスイエローの姿があった。必死に避けるベリアロイドは手から光のような物を出す・・・それはガムテープのような形になってロスイエローの体に巻き付くが、彼女は力ずくで引きちぎった。


「許さない・・・絶対に許さない!!」


『はぁ、母親の彼氏から暴行ねー・・・でも未遂なんでしょ?じゃあ動けないよ』


「お前なんか、お前なんかああ!!」


『どうせあんたが誘ったんでしょ?この泥棒猫!』



両腕に結束バンドを付けられるも、それすらも強引に破壊するロスイエロー・・・あまりの気迫に後を追っていたロスレッドは困惑してしまう。


「陽子、どうしちゃったんだ?まさかと思うけど、あいつに何らかの恨みがあるのか?」

「いや、多分直接の関係はないはずだ。だけど・・・!」


ロスブルーは何かを察したらしい。一方でロスイエローは逃亡を図るベリアロイドに向け、アックスを投げ飛ばしていた。


「ひぇぇっ!!」


ベリアロイドの目の前に刺さり、行く手を妨害する。そして、ロスイエローはギブチェンジャーに手を掲げる・・・!


「マインドパワー、解放・・・!!」


ロスイエローから黄色い炎のエネルギーが迸り、それは巨大な火竜の形となった。駆け付けた美景はそれを見、唖然としながら声を張り上げる。


「待て、陽子!それはオーバーキルだ!」



『サラマンドラ・ブラスト!!』



巨大な火竜はベリアロイドに襲い掛かった瞬間に大爆発を起こし、辺りを爆風が吹き荒れる・・・。





「はぁ、はぁ・・・所長、怪我はないですか?」

「すまん、眞木・・・!」


爆風が止む頃には、廃病院の周辺は滅茶苦茶になってしまった。咄嗟に飛び出したロブスルーに連れられて廃墟の裏に避難したことで、生身の美景は無傷で済んだのだ。空では、飛翔することで巻き込まれずに済んだロスレッドが下を見て唖然としている。


「何て、威力だ・・・!」


クレーターのように地面が陥没しており、その中心には重傷を負った三十代ほどの男性が白目を剥いて倒れていた。咄嗟に美景が止めようとしたのも理解できる。


よく見れば、建物自体は無事である・・・どうやらロスイエローの膨大なエネルギーを察知したチロルの判断で、ロスグリーンがバリアを展開してくれていたようだ。


「陽子・・・!」


地面に降り立ったロスレッドはその場に突っ立っているロスイエローに声をかけようとし、躊躇う。只ならぬ雰囲気を感じ取ったからだ。極めて静かに、底知れぬ怒りを押し殺しているように見えるのだ。



「何があったんだい?こっちは一般人がいたんだよ!?」


建物から出て来るロスピンク・・・惨劇に愕然としつつも、倒れている男を目にした彼女は迷わず駆け寄り、手を掲げようとした・・・が。


「治さなくて良いよ、そんな奴。そのまま死なせた方が世の為でしょ・・・!!」


ロスイエローが冷淡に吐き捨て、ロスレッドは思わず狼狽える。先ほど被害者の怯える顔を見ていたロスピンクにも迷いが生じる。すると、そこへ・・・


「ロスピンク!・・・治してやれ」


ロスブルーと共に戻ってきた美景に言われ、冷静になるロスピンクは男の怪我を癒す。それを見たロスイエローは美景を睨んだ。


「正気なの?美景さん・・・そいつは散々女を蹂躙してきたクズ野郎でしょ!?生かす価値ないじゃない!!警察だって、法律だって役に立たないのに!そんな奴は捕まってもすぐ出てきてまた被害者を増やすだけよ!」


ロスイエロー!!・・・と、美景は声を荒げる。思わず黙り込むロスイエローに、彼はこう続けた。


「お前にとってのヒーローとは何だ?」

「っ・・・『どんな困難にも立ち向かう勇気を持つ者』、です。」

「そうだろう、だが今のお前はただ怒り狂っているだけの鬼だ。それに、もしここで彼を見殺しにしてしまえば・・・お前はヒーローではなく、ただの人殺しになってしまう。お前たちの使命は『助けを必要とする者を救うこと』・・・『私情で悪を滅すること』ではない。」


美景はロスイエローの元へ歩み寄り、肩にポンと手を置いた。


「分かってくれ、これはお前自身の未来のためでもある。俺だって苦しいんだ・・・こいつは警察に引き渡す。」

「・・・はい」


俯くロスイエローはそう返事をするが、まだどこか不服そうであった。頷く美景はロスレッドに告げる。


「ロスレッド、そいつのGAPを浄化しろ。俺は警察に連絡する。」


美景はその場を離れ、スマホを手に通報する。ロスレッドは頷き、男の元へ歩み寄って「フェニックス・クリーン」を使用する。男の体内にあるXが浄化され、同時にGAPも砕けた。


「終わりました、大丈夫です」『おーい!被害者、一人だけじゃなかったぞ~!』


ここで、ロスグリーンとチロルが被害者ともう一人、女性を連れて来る・・・別室に拉致されていた女性だ。


「大丈夫ですか!?お怪我は・・・!?」


ロスブルーが駆け寄って声をかけると、女性は不安そうな顔をしつつ応える。


「大丈夫です、私は縛られていただけで何もされていません。体目的ではなく、偶然こちらの女性を連れ込む場面を目撃してしまったから攫われたんです。スマホも壊されてしまって・・・」


そう返す女性はふと、向こうで背を向けながら電話している美景に気づき・・・どこか神妙な顔をしていた。






――――加害者は当然ながら逮捕された・・・被害者女性は服を脱がされただけで、未遂に終わっていたのが幸いであった。



「陽子、お前のマインドパワーはあまりにも破壊力があり過ぎる。だからこそ、ここぞという時にしか使わないようにしろと言ったはずだ。今回だって味方や被害者たちを巻き込む所だった・・・!」

「・・・すみませんでした」


ロストルームに戻った後、陽子は美景から厳重注意を受けていた。海香は夕飯の支度、空也は生徒に勉強を教えに、大地は自室に・・・明石も仮眠を取りに行ってしまったため、休憩スペースには洸一人だ。

悪い好奇心からか、長椅子に背を向けて座っている彼はイヤホンを耳につけたまま、音楽を聴いているフリをして聞き耳を立てていた。


「お前がヒーローに選ばれたばかりの頃、俺が言ったことを覚えているか?」

「・・・『勇気と無謀は違う』」

「そうだ。お前の強みは『どんな困難にも立ち向かう勇気』・・・考え無しに行動する無謀さではない。それを忘れるんじゃないぞ?」


はい、と返事を返す陽子・・・それに対し、美景も口角を上げて頷く。


「よろしい!では、俺は一旦外す。」


ロストルームを後にする美景・・・残った陽子はため息をつきつつ、休憩スペースに寄ってジト目で洸を見る。


「あのさぁ・・・ホントは音楽じゃなくて、こっちの会話を聞いてたでしょ?」

「ウッ・・・何で、分かったの?」

「うわ、当てずっぽうで訊いただけなんだけどマジなんだ?盗み聞きとかサイテー」


ゲッと顔をしかめる陽子・・・図られたと気づき、イヤホンを外す洸は気まずそうに視線を逸らした。向かい側の長椅子に座る陽子は再びため息をつき、ポツリと言った。


「私に何か訊きたいことでもあるの?」

「・・・うん。陽子のことをちゃんと知っていれば、僕もいざという時にフォローできると思うから。陽子が話したくないなら、無理に訊かないけど」


なぜ陽子はあの時、突然逆上したのか・・・その原因を知りたかった。思えば陽子は度々、一定の対象を恨んでいるような発言をしてきた。おそらく今回のことと関係があるのだろう。真剣な眼差しを向ける洸に対し、陽子は口角を上げる。


「話しづらくはあるよ。でも・・・ここでダンマリになるのは私もスッキリしないから、やっぱり話す。変に同情したり見る目変わったりしないでね?」

「しない」


洸にハッキリと断言され、どこか腹を括った様子の陽子は話し始めた。




「・・・私が八つの時、両親が離婚したの。裁判所が親権は母親が持つべきだと言ったから、私はママに引き取られた。それからママは心機一転するために私を連れて引っ越した。そのせいでお父さんとは何年も音信不通になったワケだけどね・・・」


ママとの生活は辛かった。ちょっとでも機嫌を損ねると、ママは金切り声で私を怒鳴ってくるの。そのくせ、定期的に男をとっかえひっかえして遊んでた。


『私、出かけて来るから。留守番しといてね、ヨーコ』


ママ・・・私『ヨーコ』じゃないよ、『ヒコ』だよ。


『はぁ?うっさいわね、私がヨーコって言えばヨーコなのよ!言っとくけど私はその名前、大っ嫌いよ!あの愚図が付けた名前だからね!別に良いじゃない、きっと誰も「ヒコ」なんて読まないし呼ばないわよ。』



『ヒコ』って名前はお父さんが付けたんだけど、ママは嫌ってた。少しでもお父さんに関わる話題を出すと凄い怒ってきた。「あいつは養育費も払わないクソ野郎だ、お前は父親に見捨てられたんだ」って、毎回お父さんの悪口言ってた。


おまけにお金もなくて、毎日お腹いっぱい食べることもできなかった。学校の給食をおかわりしてたんだけど、その度にクラスの男子からは「豚並みの食欲だ」ってからかわれて凄く嫌だった。


ただでさえママは性格が悪かったから、そのうちクラスのみんなは「腫れ物」の私を避けるようになった。先生すらも必要最低限しか私と関わりたがらない。中学生になっても同じだったよ。家にも学校にも、私の居場所なんてなかった・・・。




「それから中二の終わり頃、ママは私にこう言ったの。『あんたを高校にやる金なんかない』って・・・中学を卒業したら働いて家に金を入れろってね。」



『今まで育ててやったんだから、それくらい当たり前よね?私とカレのために存分に稼ぎなさいよね!』



「それから一年も経たないうちに、家にママの彼氏が住み着くようになって、ある時・・・ママが留守の時に、その彼氏と二人だけになった時に・・・急にガムテープで両手を縛られて・・・!」



『ヨーコちゃん可愛いね。そんな顔するなよ、俺たちもう〝家族〟だろう?・・・大人しくしろ、このメスガキ!!』



項垂れる陽子は微かに震えながら、自身を抱きすくめる。その真意を察した洸は愕然としながら問う。


「・・・襲われたの?」

「未遂、だったけどね。ママから電話かかって、アイツがスマホを取ろうとした隙を狙って、頭突きして逃げた。死に物狂いでガムテープ引きちぎって、警察署に駆け込んだの。でも・・・まともに対応してくれなかったよ。むしろバカにされた。」



『はぁ、母親の彼氏から暴行ねー・・・でも未遂なんでしょ?じゃあ動けないよ』


『君が無意識に誘うようなことしたんじゃないの?可愛い顔してるし。稀にいるよね、意識してないのに異性を寄せ付けちゃう人間・・・クスクス』



「後でママにも告げ口した。あの男と別れてくれって必死に頼んだの。けど・・・」



『何言ってんの?あの人がそんなことするわけないじゃない。どうせあんたが誘ったんでしょ?この泥棒猫!若いからって調子に乗りやがって!』



警察からは侮辱され、母は娘の言うことに一切聞く耳を持たなかった。以来、「無能な警察」に「性犯罪者」、「毒親」・・・これらは陽子にとっての最大の地雷になってしまったのだ。


「ママは私を許さなかった。散々罵倒して叩いてきて、遂には罰として夜の街で体売ってこいって私を追い出した。最低でも五万は稼いでくるまで帰って来るなって・・・!」

「・・・本当に、援交しちゃったの?」


洸が怖々と問いかけると、陽子は首を横に振って続けた。


「途方に暮れながら街を歩いてたら、だんだん冷静になってね。この機会にママから離れようって思い立ったのよ。」




『そうだ・・・どこかの店に拾ってもらおう。住み込みで働かせてもらって、大学費用も稼ごう。この辺は水商売ばっかりだろうけど、ママに金が渡るよりマシだ。これからは自分の力で生きていくんだ・・・!』


誰に言うでもなく呟く・・・自然と零れる涙を拭うのも忘れ、陽子は母から離れる勇気を胸に抱いた。


『勇気、全開・・・!!』



『君!・・・〝勇気〟の光が反応していると思ったら、子供がこんな所で何をしているんだ?』


孤独に生きる道を歩もうとする少女の前に現れたのは、黄色く光るギブチェンジャーを手にした美景であった・・・。






(あの日、俺は陽子を一時的に保護し、家庭の問題について聞いた。念のために陽子の父親の連絡先と母親の情報を探し出してみれば、出るわ出るわ母親の悪行の数々・・・)


屋上にて、夕暮れの景色を見つめる美景は当時のことを思い出しながらフーっとため息をつく。


陽子の母親は史上稀に見る最低な毒母だった。そもそもの話、夫との離婚理由は「自分の浮気」・・・裁判の際も迫真の演技で改心したよう見せていたらしく、裁判所の温情によって親権を勝ち取った際は陰でほくそ笑んでいたそうだ。


そして、元夫から送られる多額の養育費を自分のために使っていた。更には彼氏による暴行未遂の件や普段から娘に負わせた暴言やネグレクトによる精神的苦痛の数々・・・これらの証拠をどうにか押さえ、ようやく陽子は母親から離れることができたのだ。


その後は父親の元へ行くことも検討したのだが、彼女はそれを拒否して「ホビットの家」に入居することを選んだ。母が父の悪口を日常的に吹き込んでいたらしく、軽い洗脳状態になっていた影響もあったようだ。


「(辛い思いをしてきた陽子を、過去のトラウマを断ち切れないうちにヒーローにしたのは間違いだったのだろうか?)いや、俺が信じなくてどうする。誰が何と言おうと」



あいつはヒーローだ・・・!






「私はね、『ベリアロイドになる素質がある人間』なの。もし美景さんに拾われなかったら、私はGAPを手に入れてベリアロイドになって、ムカつく奴を片っ端から殺して回っていたかもしれない。ううん、今だってそう」


ヒーローになった今でも、クズな人間を見たら逆上しそうになるの。多分こうして何もせずにいられるのは、悪人を憎む気持ちを『ヒーロー』という肩書きで抑えてる状態だから・・・なのかもしれない。


「つまり、私はヒーローになるべくしてなったのよ。そうするしか闇堕ちを回避する方法がないから。だからこれから先、何が起きようとも・・・私はロストレンジャーで居続けなきゃいけない。一人の『人間』で有り続けるためにね・・・!」



陽子の口から語られた、彼女の壮絶な過去と決意・・・洸はどう言葉をかければ良いのか分からなかった。ここまで来るのに彼女がどれだけ悩んだか、どれだけ苦しんだか・・・きっと実際は語られた内容よりもずっと過酷だったに違いない。


「陽子は・・・多分、万が一ベリアロイドになっても結局は『誰かにとってのヒーロー』になってたと思うな。」


洸の発言に、陽子は呆気に取られる。真っ直ぐ見据える洸はこう続けた。


「もし陽子が言った通り、悪人を滅ぼすベリアロイドになったとして・・・世間一般的に見れば陽子は悪になるかもしれないけど、その悪人に危害を加えられた人たちにとっては正義になる。自分に変わって成敗してくれるんだから。美景さんも度々言ってたよ。『俺たちの正義も他の誰かにとっては悪かもしれない』って・・・本当に正しい『正義』なんて無いんだ。」


だけど・・・と、洸は間をおいてこう告げる。


「少なくとも、僕は陽子がベリアロイドにならなくて良かったと思ってる。だって・・・本当にそうなってたら、君と出会えなかったから。」


その純粋な言葉に、目を丸くする陽子は呆気に取られ・・・少々眉をひそめた。


「洸・・・考えすぎかもしれないけど、ひょっとして私のこと口説いてる?」

「は!?いや、そんなんじゃないからっ!僕は単純に陽子と仲間になれて良かったと思ってるだけで・・・陽子は良いヤツだからさ。」


これは本音である。少々毒があって気難しい所がある陽子・・・洸はそんな彼女の本質に気づいていた。毎日の食事の際は美味しそうかつ綺麗に食べたり、人一倍努力したり、時折見せる笑顔が素敵だったり・・・そして何より、虐げられた弱者のために心から怒ることができる。彼女は間違いなく「ヒーロー」の素質を持った人間だ、そんな確信があるのだ。


「ふふ、冗談だよ。洸・・・ありがとね」

「こちらこそ・・・しっかり話してくれて、ありがとう」


陽子に微笑まれ、洸は思わず顔を赤らめた・・・。




「ところで、私のこと話したんだから洸も何か話したら?私、洸が学校で虐められてたってことくらいしか知らないんだけど」

「ん~まあ、『両親と合わなかった』くらいだよ。精神的虐待ってやつ?それくらいだから・・・あ!そろそろ晩ご飯の時間だから、食堂行こう!」

「え、ちょっと!・・・なんか、はぐらかされた気分っ」






――――夕食の時間が終わった頃・・・厨房で皿洗いしている海香の元へ、美景が顔を出しに来た。


「海香、今日のカレーも美味かった。」

「そりゃあどうも。用件は何だい?まさかデートのお誘いじゃないだろうね?お断りだよ、アタシは忙しいんだ。」


カウンター越しに声をかけられ、海香は冗談っぽく返した。口角を上げる美景は肘をつきながら話す。


「是非ともお誘いしてみたいが、生憎俺も忙しいからな。いや、少しばかり話し相手が欲しかっただけさ。」

「やれやれ、いい大人が『構ってちゃん』かい」


呆れたように笑う海香であったが、心なしか満更でもない様子である。ふと、美景はガスコンロの上に置きっぱなしにしてある小鍋に目をやった。


「あれは今日の残りか?」

「ああ。そろそろ来る頃なんだ」


海香がそういった数秒後、食堂の扉が開く・・・陽子だった。


「み、美景さん・・・」


美景の姿に気づいた陽子は気まずそうな顔をする。それで全てを察した美景は両手を上げ、笑いかける。


「おっと、すまんすまん!俺は戻る!じゃ、おやすみ!」



食堂を出て行った美景・・・ホッとする陽子はカウンターに向かい、トレイを差し出す。


「海香さん・・・今日も、残ってる?」

「あるよ」


海香は皿を出し、白米と小鍋に残っているカレーを全て盛って陽子のトレイに載せる。陽子は「ありがとう!」と一言告げてテーブルに着いた。


「いただきまーす!」






・・・陽子が「ホビットの家」に来て一週間ほどたった頃、彼女は少ない小遣いを手に外へ出ようとしていた。


『お腹すいた・・・』


夕飯は食べたのだが、陽子の胃袋には足りていなかった。それもそのはず・・・陽子は見かけによらず大食いの部類なのだ。それなのに食事の際はいつも遠慮していた。


「まだ食べるの?どれだけ食費がかかると思ってるのよ、意地汚い子!」と、子供の頃に母にそう言われて睨まれた日から、いつも小口で少しずつ、満腹感を得られるよう食べていた。母の元を離れてからも、人一倍食べる姿を見せるのが恥ずかしくて我慢していたのだ・・・。



『こんな時間にどこへ行くんだ?』


通りかかった美景に呼び止められ、陽子はギョッとする。


『あ、あの・・・小腹すいたんで、お菓子でも買おうかなって』


すると、それを否定するかのように彼女の腹が盛大に鳴る。顔を真っ赤にする陽子を見、美景はこう言った。


『腹が減ったなら食堂に行ってみたらどうだ?今日の洗い物当番は海香だったはずだ、頼めば何か出してくれるかもな。』


そう告げて彼は立ち去った。もう遅い時間なので、出歩くのは危ないだろう・・・陽子は仕方なく食堂へ出向いた。扉を開けて厨房へ向かうと、美景の言っていた通り大鍋を洗っている海香がいた。


『ん?・・・勇見陽子ちゃんだよね?どうかした?』

『あ、あの・・・』


狼狽える陽子が答える前に、彼女の腹の虫が盛大に返事をする。顔を真っ赤にする陽子を見、少し考えた海香はこう言った。


『・・・ちょっと待ってて。(カゲが言ってた通りだな。)』


背を向けた海香は手際よく小鍋に入ったカレーを温め直し、ライスと一緒に皿へ盛る・・・トレイに大盛りカレーを置き、陽子に差し出した。


『残り物だけど良い?トッピングは?福神漬けいる?』

『い、いいえ・・・あの、すみません。なんか、意地汚いことして』

『何で?お腹すいてんだろ?アンタ、変に痩せてるもんね。おまけに普段の食事でも遠慮してるみたいだってうちの所長が言ってたし・・・良いから食べなよ、こっちも食べてくれる方が助かる。』


食べ終わったら皿置いといて・・・と、それだけ言って海香は再び作業に戻った。


『・・・ありがと』

『良いよ。アタシにとってのヒー・・・じゃない、モットーは「誰だろうと分け隔てなく与える」、だからね。』

『・・・・』



その後、一番端のテーブルに座った陽子は海香に背を向けた状態でカレーを食べていた。無言でひたすら食べ進め、声も出さずに涙を溢しながら、母や周りが今まで与えてくれなかった良心を噛み締めていた・・・。







――――豪邸にリムジンが停まり、運転手が後部座席の扉を開ける・・・降りてきたのはあの女性だった。


「はぁ、散々な目に遭ったわ」


自分は三十過ぎの経産婦・・・例の男の対象外だったことで奇跡的に拘束されるだけで済んだものの、好き放題言われたのは非常に不愉快であった。



「ママ、おかえり!」


玄関を開けると、五歳の息子が駆け寄って来る・・・彼女は膝をついて息子を抱きとめた。


「ただいま兼悟。遅くなってごめんなさいね。パパは?」

「まだ帰ってない。」

「そう・・・まあ、いつものことね。(妻が大変な目に遭っていたというのに、薄情な人・・・)」


ため息をつく彼女は一旦自室に入り、今日のことを思い出す・・・。


(あれが噂のロストレンジャー・・・直接見たのは初めてだけど、危なっかしい自警団だこと。うっかり拉致されたのは不運だったものの、多少の収穫があっただけ良しとしましょうか。)


彼女の脳裏に、銀髪の男性の後ろ姿が浮かぶ・・・窓の外を見ながら呟いた。


「あの銀髪、あの声・・・間違いないわね。うちの人の予想は間違ってなかった。」



寛田美景、〝未来〟から逃げ出した愚かな男・・・。







「海香、俺も小腹がすいてきた!カレーくれ!」


食堂のドアを開ける美景・・・しかし、海香は冷めた目で告げる。


「もう無いよ、陽子が全部食べちゃった。」

「ご馳走様でした~!」


ご機嫌な様子で陽子までもが手を合わせ、美景はずっこけてしまうのだった。











〖ベリアロイドfile〗



ベリアロイド№0054『メイデンハンター』


変身者:??

モチーフ:ガムテープ、結束バンド

罪状:強制わいせつ、監禁、未成年淫行

末路:懲役刑、性器の機能不全(※ロスピンクはここだけ治癒しなかった模様)


・若い女性ばかりを狙う性犯罪者。ネット等で対面した女性を言葉巧みに誘導し、犯行に至っていた。

・「相手が抵抗しなければ同意されたも同然だ」とマジで思っている。


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