第6話『桃色の化け物』
―――――「ホビットの家」には一通りの設備が揃っている・・・スポーツジムもその一つであり、そこはヒーローたちのトレーニングの場でもあった。
「ハァッハァッ・・・も、もう無理~!」
ジャージ姿の洸は今ランニングマシンに乗っているのだが、既にばてていた。その傍で空也が五キロのダンベルで筋トレしつつ、付き添っていた。
「洸君、もっとリズムよく!呼吸を整える!ヒーローは体力勝負だ、長距離にも耐えられるようスタミナ付けないと!(そういう僕も、短距離走向きの体力だけども・・・)」
『ファイトー!ファイトー!こんじょーこんじょー!』
向こうでは大地が懸命にバイクのペダルをこいでおり、背中にいるチロルが応援していた。陽子もベンチで必死に上体起こしをしている・・・ヒーローたるもの、如何なる敵にも対処できる体力をつけるため、日々鍛える必要があるのだ。
「は~~しんど・・・」
マシンが停止し、洸はへたり込む。最近ヒーローになったばかりの洸は当然この五人の中では最弱であり、圧倒的経験不足・・・空也には陸上で鍛えた脚力が、大地には瞬間記憶能力と努力して身に着けたスタミナがある。更に、陽子は変身しなくても素で力が強い。洸が仲間たちに追い付くにはもっと鍛錬が必要なのだ。
ふと、彼は視線を向ける・・・ベンチプレスでバーベルを持ち上げている海香だ。ヒーローとしてのトレーニングを始めた頃に知ったことであるが、海香の体は意外と筋肉質であった。かなり鍛え上げているようだ。
「海姐さん、相変わらずスゲェな。ぶっちゃけ、腕っぷしだけなら一番強いんじゃない?」
「それは言えてるね。海姐さんは最初に選ばれたロストレンジャーでもあるし・・・第一、ヒーラーが真っ先に倒されたら全滅は避けられない。だから一番強く頑丈でなければいけないんだ。」
空也に言われ、洸は大いに納得した。すると、バーベルを下ろす海香が起き上がってこちらへ振り向いた。
「そこ、お喋りしてないでトレーニングに集中しな!」
海香に注意され、二人は「はーい」と返事をする。水分補給した海香は深く息をつき、タオルで汗を拭く・・・その時だった。
「ママ、ただいま!」
友人宅へ行っていた成海が帰ってきた。先ほどまでの真剣な様子とは打って変わり、海香の表情がほぐれる。
「成海、おかえり!」
娘を抱き上げる海香・・・こうしてみると、どこにでもいる普通の母子である。
(そういえばナミちゃん、お母さんがヒーローやってること知らないんだよな。)
「あのね、今日はみうちゃんと一緒にアカネちゃんちに行ったの!それで、アカネちゃんのお兄ちゃんからおもしろい話きいたんだよ!これ、みて!」
そう言って成海は自身が描いた絵を見せる・・・それを見、思わず海香もこっそり覗き込む洸たちもギョッとした。赤、青、黄色、ピンク、緑の五人のヒーローらしき人物が描かれてあったのだ。
「『ロストレンジャー』っていうんだって!怪人が現れたらどこからともなく現れて、やっつけてくれるんだよ!カッコいいよね!」
「そ・・・そうだね。平和のために戦ってるなら応援してやらないとね。絵、とっても上手。」
海香は否定することなく、そう言って笑いかけた。絵を褒められたことで成海は満足そうに笑った。
「さて、そろそろ晩ご飯の支度の時間だ。アタシは先に行くよ。」
「「「お疲れ様でーす」」」
洸たちに見送られ、海香は娘と共にトレーニングルームを後にした。
「海姐さん・・・育児に仕事に、色々と大変なのにちゃんとこなしてるんだから凄いや。」
「それなー、私も同じ女性として尊敬するわ。」
感心した様子の洸に陽子も共感していた。空也も頷いており、大地も「海香さんスゴイです」と零した。すると・・・
「でも君たち、知ってるかい?愛河さん、整形疑惑があるってこと」
海香たちと入れ違いにやってきた壽賀が一言そう尋ねてきた。どういうことかと洸が首を傾げると、彼はブツブツと話し始めた。
「だってそうだろ?娘の成海ちゃんは母親と違って『可愛い』寄りの顔、なのに愛河さん本人は『自分に似てる』って断言してる。きっとアレは『整形前の自分に似てる』って意味に違いないよ。いくら良い人でも、整形を隠すような人はちょっとね~」
嫌味っぽい言葉に、不快感が生じた洸は思わずムッとする。それは空也たちも同じだったらしく、壽賀にこう反論した。
「壽賀さん、確証の無い話を広めるのは感心しませんよ?」
「眞木さんの言う通り。つーか本当に整形だったとして、今時珍しくもなくない?個人の自由じゃん。」
『そーだそーだ!そういうお前は海香より偉いのかよ~?あ、「偉そう」ではあるか♪』「壽賀さん、スゴくないです」
容赦なく言い返され、壽賀は気まずそうにして奥へ引っ込んでいった。一人だけ反論できなかった洸は申し訳なく思いつつも、ポツリと零した。
「整形でもそうじゃなくても、海姐さんは海姐さんだよ。」
「え、ストーカーされてる?またまた~今時そんな分かりやすいストーカーがいるわけないでしょ?」
交番に駆け込んできた若い女性に対し、警官は怠そうにそう返した。尚も女性は食い下がるが、ウンザリしたようにこう告げる。
「お姉さん、被害妄想が過ぎるよ。あのね、事件性が無いと警察は動けないの!分かる?分かったらとっとと帰ってくれよ!」
冷たくあしらわれ、女性は半泣きになりながら交番を飛び出した。それを舌打ちしながら見送り、ため息をつく。
「どいつもこいつも、ちょっとしたことですぐ警察頼るなっつーの。第一あんなピンクの、如何にも『襲ってください』みたいな可愛い服着てるから狙われるんだろ。」
警察官として最低な発言をする・・・が、その数秒後に強面の中年男性が交番に入ってきた。
「おい、お兄ちゃん」
「は・・・はい、何かお困りですか?」
さっきの女性への対応とは打って変わり、警官は真面目な表情で接する。
「財布落としたんで、届を出したいんだ。」
「承知しました。では、こちらの書類を」
どうやらこの警官は人によって態度を変える性分らしい・・・男性が帰った後、警官は書類を一旦片付ける。ここで、交番の前を誰かが通りかかった。マスクを付けて俯いているその青年を見た警官はニタリと笑い、こっそり後を付ける。
「ゲホッゲホッ・・・!」
その青年は路地裏に入り、誰もいないことを確認しながら鞄の中を探る。
「ンンッ・・・限界だ、もう、飲んどこ」
鞄の中から引っ張り出したのは、水筒と粉薬であった。開封しようとしたその時・・・。
「おい、君!怪しい奴だな!それは何だ?まさか薬物か!覚せい剤だな!?そうだろ!?」
突然、後を付けていた警官が怒鳴り込んだ。青年は驚きつつ、首を横に振った。
「ち、ちがい、ます。風邪薬、です。喉が、痛くて」
「嘘をつくな!!それを密売するつもりだろう!?こっちへ来い!」
聞く耳を持たない青年は後ずさる。すると、警官は舌打ちして袖を捲る・・・手首にはGAPが貼られていた。
「だったら力づくで連れてくからな!」
『ヒア・トゥルーセルフ!!』
警官は頭部が警察手帳のようになった、警官服を着たベリアロイドに変身した。引きつったような悲鳴を上げる青年は鞄を落としてしまう。そこから病院から処方された風邪薬が飛び出すのだが、気づかないベリアロイドは笑いながら警棒を突きつける・・・!
「待て!」
背後を振り返る・・・現れたのはピンク以外のロストレンジャーであった。姿形からして警察官であると分かり、陽子は顔をしかめる。
「こいつ、警察のくせにGAPに手ぇ出したの!?腐ってるにも程があるんだけど!」
「あぁ!?お前、女のくせに俺を侮辱しやがったな!ふざけた格好しやがって、お前ら全員まとめてムショ送りにしてやる!」
警棒を振りかざすベリアロイド・・・ロストレンジャーの四人も武器を手にし、攻撃を仕掛ける。一方、ロスグリーンは尚も咳き込んでいる青年の元へ向かい、薬と鞄を拾った。
「大丈夫ですか?落ちてます。お薬飲みますか?」『ただの風邪薬だな、とっとと飲んじゃえよ』
チロルはスキャナー機能で青年が持つ薬をスキャンし、それがただの風邪薬だと確認する。青年は頷き、薬を飲む・・・すると、それを見たベリアロイドは憤慨した。
「証拠隠滅する気か!もう許さねえからな!」
そう言うとロスレッドとロスイエローの斬撃を受け止め、大きく振り払う。かなりのパワーであり、二人は簡単に弾き飛ばされてしまった。ロスブルーの銃弾もどこからか取り出した防弾用の盾で防いでしまい、ベリアロイドは鼻で笑う。
「ハッ!赤い方は全く戦い慣れてないらしいな!青いのは腕っぷしに自信がないんだろ?だから近づかないんだ!」
警官をやっていただけあって、それなりの戦闘能力と洞察力は持っているようだ。彼らを振り切り、ベリアロイドはロスグリーンに迫った。
『やべっ!シールドだ!』
「『ケット・プロテクト!!』」
チロルに指示され、ロスグリーンはバリアを展開する・・・間一髪、ベリアロイドの打撃を防いだ。
「犬のロボットぉ?さては、ロボットに指示されなきゃ何もできないヒーローってことか!何の努力も苦労もしないでヒーローになった偽善者共がよぉ!真面目に学んできた俺を見習えや!!」
ベリアロイドは暴言を吐く。すると、それを聞いたロスイエローは拳を握りしめた。
「あんたなんかに、私の気持ちが・・・私らの気持ちが分かるかあああ!!」
「陽子・・・!?」
逆上してアックスを手に攻撃をしかけるロスイエローの気迫に、ロスレッドは思わず唖然とする。振り下ろされたアックスにより、一歩退いたベリアロイドの足元が破壊される。
「てめぇ、公共物破壊だぞ!今すぐ逮捕してやるからな!」
「五月蠅い!!この汚職警官!とっととクビになればいいのよ!」
再びアックスを振り上げる・・・が、斬撃の前にベリアロイドが警棒で突きを喰らわせる。右肩に命中し、ロスイエローは倒れ込む。
「これで止めだぁ!」
「させるかっ!」
打撃を繰り出そうとするベリアロイドだったが、ロスブルーがヘッドショットを決める。どうやら警察手帳のような頭部は弱点らしく、ベリアロイドは苦痛で仰け反った。
「うぅ・・・クソ!お前ら、次会ったらタダじゃおかねえからな!」
口から催涙ガスを吐き出し、ベリアロイドは姿をくらませる・・・幸いメットのおかげでガスは無効化された。青年もロスグリーンのバリアによって守られたようだ。
「逃げたか。陽子、大丈夫?・・・大地君、その人は!?」
「無事です、怪我もありません」『オイラたちのおかげ~♪』
青年は無事らしい、だが、陽子は一度帰って手当てしてもらう必要があるだろう・・・すると、そこへ息を切らした海香が駆け込んできた。
「っ遅かったか!ごめん、みんな!」
どうやら、夕飯の支度を他の調理士に任せて駆け付けたらしい。娘を留守番させる必要もあるので、あまり責められないだろう。
「陽子さんが怪我を。それと、少々面倒なことが」
ロスイエローに肩を貸すロスブルーは少し苦い顔をする。「本来なら違法所持者を取り締まる立場である警察がGAPを所持していた」という事実・・・どう考えても異常である。頭を下げながら帰っていく青年を見送り、四人は変身を解いた。
「とにかく、美景さんに報告して警察署へ連絡してもらおう。陽子もココ先生の所へ・・・!」
洸がそう判断し、空也は頷いた。こっそり視線を逸らす海香は密かに拳を握りしめる。
(やっぱり何も変わってない。むしろ悪化してる。日本の警察はどこまで腐り果ててるんだ・・・!)
――――すぐにでもベリアロイドを捜索する必要がある・・・しかしながら、正体が分からない以上は明石やコマーンたちに頼るしかない。
「今のところ、何の音沙汰も無いわね。電波で察知できるのはあくまでもベリアロイド・・・つまり本人が変身しなきゃ反応できないの。」
衛星によって映し出された地図をモニターで確認し、明石は肩をすくめる。夕飯の支度に戻った海香以外のメンバーもため息をついた。
「警察官だけでも大勢いるし、虱潰しに捜しても時間がかかるだけか・・・所長、どうでした?」
空也が尋ねるも、美景は首を横に振ってこう言った。
「こちらで調査するので余計な詮索はしないように、とだけ言われた。警察側としても大事にしたくないんだろうな。」
警察なんていっつもそう・・・と、陽子は早乙女に手当てしてもらいつつ諦めの表情でぼやいた。警察側はイマイチあてにならないようだ。分かってはいたが。
「お前たちは一旦戻れ。次にベリアロイドが出現するまでに、少しでも休んで体力を戻した方が良い。そろそろ晩飯の時間だからな。」
「そうよ、食える時に食っときなさい。戦いが始まったら一口も食べれないんだから。」
ここは明石たちに任せた方がよさそうである・・・洸たちは彼らの言葉に甘え、ロストルームを後にした。
「ねえ、みっくんたち・・・さっき、ママとどこ行ってたの?」
夕飯の唐揚げ定食を食べている際、成海にそう訊ねられた。食事を続行している大地以外は思わずギョッとしてしまい、洸は目を泳がせてしまう。
「えー、何で僕たちに訊くの?」
「事務の田中さんにきいたら、ママがみっくんたちと一緒に帰ってきてたのを見たって・・・ママね、時々出かけるの。行き先きいても『ただの買い物だよ』って。でもね、いつも『品切れだった』ってなにも買わずに帰ってくるんだ。」
どうやら成海は子供ながら、母親が何か隠し事をしていると感づいたのだろう。すると、空也が狼狽える洸に代わってこう言った。
「あーひょっとして、バイトでも探してるんじゃないかな?ここの調理士以外のお仕事も経験したくなったとか・・・きっと、成海ちゃんには余計な心配かけたくないからって話せないのかも。あ、僕らと一緒に帰ってきたのは偶然だよ?」
「そっか、そうなのかなぁ・・・」
空也が上手いこと口実を作ることでどうにか納得させるも、成海はどこか複雑そうな表情であった。
『ごめん・・・ごめんね、ナミ・・・ママ、考え無しだから、弱虫だから・・・もっと早く出ていくべきだった。アタシはもう、どうなったって良い。ナミだけでも、幸せになってくれたら、何もいらないから・・・!』
(あれからもう、ざっと四年は経つのか・・・早いものだな。)
その日の晩・・・ロストルームを訪れた美景は電気ケトルで紅茶を煮出し、蜂蜜と牛乳を入れる。ミルクティーを作った彼はそれを飲みながら思い出していた。
今から四年前の冬・・・北部にある「救助者保護施設」を訪れた際、真夜中の寂れた無人駅を偶然通りかかった瞬間、所持していたパワードハートが桃色に光った。尋常でない光に驚きつつも駅を覗いてみると、ベンチに海香が座っていたのだ。
肌も長い髪も、着ているものも全てボロボロだった彼女は厚手のジャンバーを抱えており、その中に二歳だった成海が包まれていた。自販機で買った温かいミルクティーを差し出して話を聞いてみれば、夫とその両親に長らく酷い目に遭わされていたという・・・。
(あの後は大変だったな。海香の元夫は「嫁は夫の所有物」だの「女が一人で生活できるはずがない」だの戯言を言い、離婚を全く承諾しようとしなくて・・・の割にはDVの証拠と裁判を持ちかけたらアッサリ判を押したわけだが。)
それから紆余曲折あり、断髪して一皮剥けた海香は記念すべき「一人目のロストレンジャー」となったわけだが・・・彼女は自分がヒーローであることを娘に打ち明けようとしなかった。
『言えるワケないだろ。もしヒーローに子供がいるなんてバレたら、後々面倒なことになる。アタシはあの子を巻き込みたくないんだ。それに・・・』
「うむ・・・あいつらしいっちゃあ、らしいな。」
「何ブツブツ言ってんのよ。そろそろ下がって良いかしら?お風呂入りたいのよね。」
夕方からずっとモニターの前で待機していた明石は体を伸ばし、欠伸をする・・・お疲れの様子である彼を見、美景は頷いた。
「ああ、ご苦労だった。お前はもう休むと良い。」
美景に言われ、「お疲れ~」と返す明石は退室した。そもそも彼の仕事はオペレーターではない、エンジニアである。そっちの仕事だってこなしているのだから、これ以上労働時間を増やすのは酷だろう。
ここで、スマホに通知が入る・・・海香からだ。『明日、もし帰りの幼稚園バスが来るまでに終われなかったら成海を預かってほしい』といった内容であった。幼稚園から帰ってきた成海に「ママはボランティア活動中だ」と嘘を伝えるのも、そろそろ十回は超えるだろうか。
「成海も今年で六歳。いつ母親の動向に違和感を持ってもおかしくない。海香は海香で、他人ならともかく家族にまで正体を隠し続けるのは辛いだろうな。」
美景はため息をつき、生温くなった紅茶を一口飲んだ・・・。
――――翌日・・・ようやく「ヒロ活」の通知が入ったのは、昼過ぎのことであった。
ジャケットを羽織った五人は現場へ直行する・・・が、目的地に近づくにつれて海香の顔が青ざめていた。
「海姐さん、どうしたの?顔色悪いよ・・・!?」
移動中に洸が問いかけると、海香は不安そうにこう呟いた。
「ここ・・・この近くに、成海が通ってる幼稚園がある。もうすぐ帰りのバスが通る時間なんだ・・・!」
それを聞いて唖然とする洸たち・・・その時、すぐ近くで悲鳴が聞こえた。五人は急いでその場へ向かう。
「助けてくれ!俺は頼まれただけなんだよ!」
「言い訳するな、お前を殺人未遂で逮捕してやる!」
昨日の警官ベリアロイドがナイフを持った黒ずくめの男性を追い詰めており、その近くには若い女性が恐怖と怒りが混じったような顔で告げる。
「あんた、昨日は私が『ストーカーされてる』って相談した時は被害妄想だって突っぱねてきたくせに!死人が出そうになった途端動いてんじゃないわよ、この無能警官!」
この女性・・・前日にストーカー被害を訴えた際にこっぴどく追い返された女性であった。憤慨する女性に対し、ベリアロイドは舌打ちして言い返す。
「うるせぇ!たかがストーカーだろ!そもそもお前が自衛しねえのが悪いんだ!そんな恰好、襲ってくれって言ってるようなもんだろ!」
まさかの責任転嫁に女性は涙目になる・・・そこへ、ロストレンジャーの五人が駆け付けた。
「そこまでだ!行くぞ、みんな!」
「「「「『プリーズ!パワード・オン!!』」」」」
五人はロストレンジャーに変身し、ロスレッドがピンクとグリーンに指示を出す。
「海姐さん、この人を安全な所へ!大地君、こっちの黒い人は確保だ!」
「ああ!」「はーい」『確保だ確保~!』
ロスピンクは女性を連れて行く。グリーンは男を端の方へ引っ張っていき、ヨーヨーを突き出す・・・バリアが男を囲うように展開され、閉じ込めた。
『マトモな警察が来るまでジッとしてろ!この殺人未遂犯!』「ジッとしてろー!」
「だ、出してくれよぉ~!俺は知り合いに命令されただけなんだって~!」
言い訳をする男を無視し、ロスグリーンも戦闘を行う三人に加勢する。だが、やはりこのベリアロイドはかなりの戦闘力である。ロスブルーが弱点である頭部に弾丸を命中させるのだが、今度は全く効かない。
「ハッ!同じ手が通用するわけねえだろ!」
よく見れば、頭部にはアクリル板のような薄い盾が張り付けてあった。実は、熟練のベリアロイドは自身を強化することができる・・・彼はこの仕組みを知っていたらしい。
「だったら壊す! 『サラマンダー・ファング!!』」
ロスイエローが火竜を模した黄色い炎のエネルギーをぶつける・・・が、ベリアロイドは咄嗟に防弾ガラスの盾を構えたことで防御した。後ろへ吹っ飛ばされて転倒するも、盾がバラバラに砕けただけでほぼ無傷だった。
「いてて・・・お前ら、マジで許さねえからな!・・・ん?」
ふと、後ろを振り返るベリアロイド・・・なんと、こちらへ幼稚園バスが向かってきていたのだ。バスの運転手は驚いて手元が狂う。咄嗟にブレーキを踏んだものの、間に合わず近くの電柱にぶつけて停車した。
バスの非常ドアが開かれ、運転手と保育士が慌てて子供たちを外へ逃がす・・・それを見たベリアロイドはニヤリと笑う。
「おいおい、警察の目の間で事故起こしやがって!過失運転だ!『インプロイド!!』」
なんと、ベリアロイドは十体のインプロイドを召喚してロストレンジャーを妨害し、バスの方へ向かった。ロスレッドたちはインプロイドを振り切ろうと応戦する。
「待て!あそこには子供たちが乗ってるんだぞ!?」
ロスレッドを無視し、歩み寄ってくるベリアロイドに運転手や引率の保育士、園児たちは怯える・・・その時。
「待てぇぇ!!!」
戻ってきたロスピンクがベリアロイドにタックルを喰らわせて転倒させた。
「アンタ、最も守るべきである子供を危険に晒す気かい!?それでも警察か!」
怒りを露わにするロスピンクに言われるも、妨害されたことに腹を立てるベリアロイドは警棒を振り回して突き飛ばす。
「うるせぇな!怪我人が出てないんだから良いだろ!」
再びベリアロイドが動き出し、ロスピンクは飛び掛かるが振り払われた。それでも行く手を塞ごうとする彼女をベリアロイドは警棒で叩きのめす。
「ハッ!女のくせに邪魔すんじゃねえよ!さも『女の子』な、か弱そうなピンク色着ちゃってよぉ!」
小馬鹿にするベリアロイド・・・すると、ゆっくりと立ち上がり行く手を塞ぐロスピンクはロスレッドたちに言った。
「こいつはアタシが・・・子供たちを守っとくれ!」
「ああ!」
インプロイドに止めを刺すロスレッドたち・・・静かな怒りを向けるロスピンクはベリアロイドに言った。
「教えてやる。どうしてアタシは『可愛い代表のピンク色』を纏っているのか。」
アタシが一番、凶悪だからだよ・・・!
「マインドパワー、解放!!」
『マーレクイーン!!』
ロスピンクは「慈愛」の力を解放し、凶悪な怪魚の姿となる・・・ベリアロイドは思わず後ずさる。ロスピンクは威嚇の咆哮を上げた。
「あ・・・」
背後から微かに声が聞こえ、ロスピンクは思わずハッと振り返る。そこには成海がいたのだ。どうやら子供心故に、憧れのロストレンジャーをよく見ようと集団から抜け出したらしい。凶悪な姿となったロスピンクを前にした成海は愕然とし・・・数秒後、足元に染みができた。
「う・・・うわああああん!!」
失禁して泣き出す成海に、ロスピンクは狼狽える。更に、悲鳴を漏らしつつ駆け寄ってきた保育士が成海を抱きかかえ、叫んだ。
「ひぃ!来ないで、この化け物!!」
距離を取る保育士・・・それを目にしたロスレッドたちはマスクの中で悲しい顔をしつつ、彼らを誘導する。ショックを受けて放心状態になるロスピンクをベリアロイドが嘲笑う。
「ははは!人を怖がらせといて何がヒーローだよ!お前はただの化け物だ!!」
そう吐き捨てたベリアロイドだったが、我に返るロスピンクはキッパリと言い放つ。
「そうさ、だからピンクなんだ。それしか可愛げがないからね。それより・・・っアンタいっぺん鏡見な!!」
刹那、地中へ潜り込んだロスピンクはベリアロイドの足元から飛び出し、トライデントを突き出した。刺突によって仰け反るベリアロイドに向け、ロスピンクは鋭い爪による引っかき攻撃を喰らわせる。完全に動きを止めた所で、下半身の尾鰭を振るって叩きつけた。
「ひぃぃ!!」
ベリアロイドが叩きつけられたのはストーカーの手下を閉じ込めたバリアの壁であった。バリアのおかげで被害はないので無視して良い。
「うぐぐ・・・お、お前ら偽善者共は、逮捕一択だ。銃刀法違反、暴行罪、公務執行妨害・・・いやもう何でもいい!この俺の邪魔をしたんだ、二度と普通の生活に戻れると思うな!」
「アタシはそのことを承知でヒーローになったんだ。ほんの少しでも愛する我が子が、アタシが愛する人間たちみんなが安心して暮らせる世界に近づけるために・・・!」
愚民如きがぁぁ~~!!・・・と、ベリアロイドは警棒を握りしめて振りかぶろうとするも、その前にロスピンクが頭部を掴んで持ち上げた。
「アンタこそ、GAPに関わって二度と普通に戻れると思うなよ?・・・~っ洸!!」
直後、ロスピンクが掴んでいるベリアロイドを思いきり上へ投げ飛ばす・・・そこへ、飛翔したロスレッドが待ち構えていた。
「市民を公平に愛して守る覚悟のない奴が、警察を名乗るな!!」
『フェニックス・フィスト!!』
不死鳥の光がベリアロイドを焼き尽くす・・・断末魔を上げながら墜落すると同時に、爆発が起きた。
「・・・・」
ロスピンクは元の形態に戻る・・・しかし、娘に泣かれたことへのショックは大きいようだ。その時パトカーの音が聞こえ、数台のパトカーから警官たちが飛び出した。
「何だこれは、乱闘騒ぎか!?」「動くな!手を上げろ!」
警察たちが二人とバスの向こうから駆け付けた三人に向け、声を張り上げる。すると、先ほどロスピンクに連れ出された女性が戻ってきた。
「待って!その前にこいつ捕まえて!こいつ、私のこと刺そうとしたの!私のことストーカーしてた男に命令されたって!」
「もう出してくれ~全部話すからぁ~」
目の前で行われた戦闘が余程トラウマになったのか、男は泣き言を言う。ロスグリーンがバリアを解除し、彼は警察に確保される。しかし、警察は尚もロストレンジャーに疑いの目を向けていた。そこへ、先ほど避難させたバスの運転手が戻ってきた。
「待ってください!このバスの運転手です!ここで怪物が暴れていて、それに驚いてぶつけてしまいました!申し訳ございません!こちらのヒーローたちは関係ないんです!」
「マジなんです!そこで倒れてる警官、いきなり化け物になったの!しかも私のこと侮辱までしてきたんだから!」
女性も便乗するが、駆け寄った同僚たちに起こされる警官は意識が戻った途端に告げた。
「お前ら何してんだ!とっととその五人を逮捕しろ!」
「いいや、逮捕されるのはお前だ。」
声が聞こえ、全員が振り返る・・・後から来たパトカーから、一人の大柄な婦警が現れたのだ。
「総監!」「お疲れ様です!」
周りの警察たちが敬礼する・・・この短く切られた金髪でハーフ顔の女性こそが、数年前に新たに就任した警視総監・『宍戸』である。
一際圧のあるその姿を目にし、ロストレンジャーはなぜか背筋が凍るのを感じた。
(何だ、この人・・・?)(圧が強すぎないか・・・!?)(勝てる気がしない・・・!)(噂で聞いた東京警察庁のトップか・・・!)(身長、推定195センチメートルです。)
宍戸の威圧感に、お喋りなチロルすらも黙り込んでしまっている。しかし、彼女は五人には目もくれず警官の元へ歩み寄った。
「・・・それはGAPだったものだな?」
「あ・・・いや、これは・・・違うんです!これは没収したもので・・・!」
「その没収したGAPをお前は使用した、そうだろう?」
全く表情の変わらない宍戸に図星を突かれ、警官はぐうの音も出なくなる。冷たい視線で見下ろす宍戸は淡々と告げた。
「お前は警察の身でありながら違法物を所持し、乱用した。更に日常的な職務怠慢、人によって態度を変えるという警察としてあり得ない言動の数々・・・影山仁志、お前は本日をもって懲戒免職、及び解雇とする。二度と警察を名乗るな。」
同僚たちや自身が見下す市民の前で、長官直々にクビ宣告を受けた警官は絶望しながら項垂れた。宍戸は周りの警察たちに「こいつを確保しろ」とだけ告げて踵を返す・・・そして、去り際にロスレッドに向けて告げた。
「〝今〟は見逃してやる。証拠もないのだからな。だが、時が来たら・・・」
ひゅっとロスレッドの喉が鳴る。檻もガラスも無しに怒ったライオンを前にしたら、こんな感じなんだろうか・・・恐怖心のあまり、そう現実逃避してしまう。宍戸が通り過ぎた直後、ロストレンジャーは颯爽と退散するのだった・・・。
――――あれから数日経ったが、成海はロストレンジャーの話題を出さなくなった・・・あの時のことがトラウマになったのだろうか。
不幸中の幸いか、あの一件が園児たちにとっての心の傷になることはなかった。運転手がしばらく謹慎処分となったのは不憫であるが・・・ちなみに、ストーカーの件は刑務所行きになったナイフ男が全てを証言したおかげで首謀者が逮捕されたようだ。
「ん?海香の整形疑惑?あいつは素の顔だが、どうしてだ?」
あれから、海香以外のメンバーにこっそり尋ねられた美景は不思議そうにそう返した。洸が先日壽賀に言われたことを話すと、彼はこう言った。
「元々は成海みたいな顔だったそうだ。ただ、元夫からの仕打ちによるストレスで今の顔になったと聞いたが・・・」
しれっと海香の辛い境遇を聞かされてしまい、空也は思わず咳払いする。
「い、良いんですか?人の事情をそんな軽率に」
「本人からも別に隠す必要はないって言われてるからな。というか、直接本人に訊かないお前たちもお前たちだぞ?」
それはそうである。洸たちは少々反省する・・・直後、美景は言った。
「ちなみに、本当に整形顔なのは俺だ。」
「え?」「ん?」「は・・・」『ぽかーん』「?」
「「「はぁ―――――――っ!!?」」」
とんでもない爆弾発言をし、驚愕する大地以外の面々に美景は「じゃ♪」と仕事へ戻ってしまう・・・本当に謎が多いのはこの男のようである。
「あのね、ママ」
深刻な顔をした成海・・・少々嫌な予感がしたような顔をする母に、彼女は言った。
「ママがバイトしたいなら、ナミ応援するから!全然さびしくないよ!?カゲおいたんも、くうちゃんたちもいるから!だからもう、ウソついてお出かけするのやめてね!」
娘の本音を聞いた海香・・・どこか安堵と申し訳なさが混ざったような笑みを浮かべた。
「分かったよ。不安にさせちゃってごめんね・・・ホントにごめん」
そう、本当はバイトなどではない。海香は嘘を更に嘘で塗り重ねてしまったことに罪悪感を抱きつつ、娘を強く抱きしめるのだった・・・。
〖ベリアロイドfile〗
ベリアロイド№0053『ガベージポリス』
変身者:影山仁志
モチーフ:警察手帳、警官服
罪状:職権乱用、職務怠慢
末路:懲戒免職、解雇
・汚職警官。人によって態度を変え、弱い相手にのみ強気に出る。時に思い込みで相手に冤罪を着せることがある。楽に出世したいという願望がある。
・「犯罪は全て被害者側が自衛しないのが悪い」とマジで思っている。




