第4話『誠実な眞木先生』
―――――洸が施設に来て、早くも二週間・・・大分ここでの生活に慣れてきた。
「ふぁ~・・・おはよう」
「おはよう、洸君。なんか眠そうだけど夜更かしでもした?」
食堂にて、眠たそうに挨拶する洸に空也が問いかける。配膳の列に並んでトレイを手にする洸はちょっぴり不機嫌そうに返す。
「数学の課題、全然分からなくて・・・」
「ああ、そういうこと。だったら今日の授業で教えるよ。あと分からなければ飛ばして良いし、間違ってても良いからね?宿題は何より『やった』という事実が大切なんだから。間違えた分は復習すれば良いだけのことさ。仮にやってなくても、その時は後でやればいいよ。」
そう優しく返す空也・・・過去に洸が出会ってきた、難しい計算ができないことを頭ごなしに怒ってくる教員たちとは違って良心的であった。
「みっくん、くうちゃん、おはよー!」
後ろから声がかかる・・・可愛らしい少女がトレイを手に、こちらを見上げていた。
「ああ、ナミちゃんおはよう」
彼女は愛河成海・・・海香の一人娘であり、年齢は五歳だ。凛々しい母親とは逆に愛らしい顔つきで色白なのだが、海香曰く「肌の色以外はアタシ似」だという。ちなみに、彼女は母がヒーローであることを知らないらしい。
「二人とも、いっしょに朝ごはんたべよ!」
「うん、良いよ!」
「ナミちゃん、今日はサンドイッチとスープの日だからご機嫌だね~」
「うん!ご飯もいいけど、トクベツ感があるから毎週たのしみなの!」
成海はご機嫌な様子で返した。すると・・・
「どちらも好きな人には嬉しいけど、どちらか片方に偏っている人間にとっては有難迷惑だよな。何より小麦アレルギーの人は週に二回のパンの日は食堂で食べることすら不可能だし、そもそもパンは腹持ちも悪い。」
後ろからボソボソと呟く声・・・ここの職員の一人である壽賀だった。嫌味っぽいこの男性は普段は事務の仕事をしているのだ。他者と共同生活をしている以上、このような人間とも関わらなければならないのである。
「おはようございます、壽賀さん。君の言い分も理解はできますが、朝から暗い話をするのはやめましょう。とにかく今朝はサンドイッチとスープ!腹持ちを気にせず美味しく食べる日です!」
「いぇーい!」
空也に言われ、壽賀の空気の読めない発言にシュンとしていた成海も元気を取り戻す。本業が教員なだけあって、空也は相手を諭すのが上手い。何より上から目線でないため見ていて不快感がない。
「ママ、くださーい!」「「くださーい!」」
「はい、どーぞ!」
海香たち調理士たちの手によってハムとレタスとチーズ、卵、マッシュポテトの三種類のサンドイッチとコーンスープ、小皿に盛られたカットフルーツのセットがトレイに置かれ、サービスで設置してある乳製品の中から洸はヨーグルトを取った。
「「「いただきまーす」」」
三人揃って朝食を食べる・・・海香含む、この施設の調理士たちの食事は美味しいのだ。たとえそれがシンプルなサンドイッチであっても、である。
「あ、ヒコちゃん!おはよう!」
「おはよう」
遅れてやってきた陽子は口角を上げて成海に挨拶を返し、向かい側の席に座る。彼女のトレイにはサンドイッチのセットのほかに乳製品のチーズやヨーグルトが二つずつ置いてある。
「・・・何?」
「いや・・・前から思ってたけど、陽子って朝はがっつり食べたい派なんだなーって。ご飯の日も大盛りだし」
洸の一言に、陽子はムッとする。どうやら触れてほしくなかったようだ。
「あ、そうそう!陽子さんに洸君、今日の授業は理数系が中心だからね。図形もやるから定規を持参するように・・・」
空也に話題を変えられ、陽子は「了解でーす」と軽く返して食事の挨拶をしつつ食べ始めた。せっかく認めてもらえたのに危うく気まずい空気になりそうだったため、洸は密かに空也に感謝するのだった。
「『いいですか~皆さ~ん、村田が来ても挨拶なんて返してやらなくて良いですからね。そうそう、今日は雑務も全部あいつに押し付けて、みんなで飲みにでも行きましょうよ~あ、今の僕の姿は忘れてよね。』」
とある学校の職員室にて・・・頭がスピーカーになったスーツ姿のベリアロイドが周りの教員たちに指示を出していた。目の前の怪人がいるにも関わらず、彼らは全く動じていない。それどころか、全員目が死んでいる。
「・・・おはようございます」
一人の気弱そうな男性教員が入室した瞬間、ベリアロイドは小太り気味の男性の姿に戻る。挨拶されたにも関わらず、全員無視していた。そして、教員こと村田が気まずそうに席に着いた瞬間にベリアロイドだった教員は書類の束を村田の目の前に置いた。
「村田先生、これやっといてよ。どうせ暇でしょ?」
「え・・・」
「私のも、やっといてください」「どうせ暇でしょ?」「お願いしまーす」
直後、他の教員たちも同じように村田に仕事を押し付ける。困惑しつつ何も言えないでいる村田の暗い表情を見、彼はニヤニヤと楽しそうに笑っていた。
「いや~村田先生は人が良いからホント助かるわ~!あははは!」
――――「ホビットの家」に備わっている教室・・・そこでは月曜から金曜の午前中、空也による授業が行われている。
「そうそう、そういうことなんだよ。ここが理解できれば後は簡単なんだ。」
ここで空也から教わっているのは、洸のような不登校或いは中退や退学済みの少年少女が中高合わせて五人・・・そして、大学に行くために勉強する陽子も含めた六人である。
空也の教え方は分かりやすいし、生徒一人一人に向き合えるタイプの教員に違いない・・・なのにどうして一般的な学校に勤めていないのだろう?と洸は不意に疑問に思った。
(まあ、眞木先生って良い人だし・・・逆に普通の学校に勤めるより、こういう場で教える方が向いてるのかも?)
「洸君、何か分からないとことかある?」
空也に呼びかけられ、ハッと我に返った洸は「もう少し考える・・・」と返して誤魔化す。その時、空也のスマホ改め「ロスターフォン」に通知が入った。
「ああ、ゴメン」
マナーモードにし忘れていたらしく、申し訳なさそうな顔をする空也は確認のために教室を出た。
「もしもし、所長?」
外から空也の声が聞こえる・・・どうやら電話の相手は美景のようだ。一分にも満たない通話を終え、空也は教室に戻って来た。
「みんな申し訳ない。急用ができたんで、今日は自習だ。ああ、それと・・・洸君に陽子さん、進学の件に関して所長から話があるそうだ。」
空也に言われ、陽子は迷わず立ち上がる。一方で洸は全く覚えのない案件に首を傾げながら彼女と空也に続いて教室を出て廊下を歩く。
「僕、進学の話なんてしたことないんだけどな」
「何言ってんの、隠語に決まってんでしょ」
陽子に呆れたように言われ、洸は呆気に取られる。すると、空也は苦笑いでこう言った。
「まさか、皆前で『ロストレンジャー出動!』なんて言えないからね。覚えのない案件で所長からの呼び出しがかかった場合、全部『集合の合図』だと思った方が良いよ。」
御尤もである。五人がヒーローであることは極秘中の極秘なのだから・・・おそらく、これからも「唐突に呼び出しがかかり、出撃命令を下される」という流れが当たり前になるのだろう。それがヒーローというものなのである・・・。
―― ――
~『失われし救済』への書き込み~
教師志望の二十代女性です。先週まで※※中学校に教育実習生として勤務していたのですが、気になることがあります。
忘れ物を取りに廊下を歩いていた際、授業中のクラスから「絶対に言う通りにしろよ、いいな?」という妙な声が聞こえました。こっそり中を覗くと教卓には怪物がおり、生徒たちは催眠術にかかっているかのように虚ろな目をしていました。
これはかの都市伝説に出てくる怪物なのでしょうか?既にあの学校を後にしているため、自分では調べようがありません。無責任かもしれないですが、あの怪物が何かを企んでいるなら代わりに止めてほしいです。お願いします。
―― ――
「所長、お待たせしました!」
ロストルームにやってきた三人・・・彼らを待っていた美景と大地、海香がおり、明石がモニターを操作していた。
「うむ、それではチロルから報告してくれ。」
美景に言われ、チロルは「よし来た」と大地の肩から降りて説明する。
『とある書き込みから、都市部の端にある中学校に怪物が出没するという情報があった!オイラと大地で調査したところ、ベリアロイドで確定だ!どうやら学校内の人間を仲間にして、ターゲットの教員を寄ってたかって虐めてるらしいぞ!』
今度のベリアロイドも「虐め加害者」らしい。洸は思わず拳を握りしめ・・・ふと、空也の顔色が悪いことに気づいた。何か思うことがあるのか、彼は小さく深呼吸していた。ここで、腕組して聞いていた海香がチロルに訊ねる。
「他に、ベリアロイドに何か特徴は?」
『分かってるのは~「男の教員」ってこと、それと出現は一日に一、二回!朝の職員室で一回、二回目は被害者が担任を受け持つクラスでの授業中みたいだ。』
「じゃあ、私たちはそいつがベリアロイドに変身した所を狙えばいいってワケね。どこのクラスかは分かってないの?教科は?あとクラスの時間割」
そこまで細かくは分かんねーよ~と、チロルは陽子の質問にぼやいた。すると・・・
「数学だよ」
空也の一言に皆が注目する・・・顔を上げる空也は深刻な表情で告げた。
「都市部付近にある中学校、だよね?憶えがあるんだ。僕の記憶が正しければ、彼は一年前そこに転勤になっていたはず。」
「空也、知り合いかい?」
海香に問いかけられ、視線を逸らす空也はポツリとこう答えた。
「同僚だよ。まだ、学校に勤めていた頃の・・・」
――――その日の午後・・・ロスレッドはロスグリーンを抱え、ベリアロイドが出没するという学校の屋上に降り立った。
「不法侵入になっちゃうな。」
『オイラたちより、ベリアロイドがいるにも関わらず黙認してる連中の方が重罪だろ~?』
「報告は大事です。ダンマリはいけません。」
ロスレッドの不安をよそに、チロルとロスグリーンは澄ました顔だ。そこへ、「ペガサス・ダッシング」で校舎の壁を駆け上がってきたロスブルーも合流した。
「それじゃあ大地君、頼むよ!」
ロスブルーに言われ、ロスグリーンは「はい~」と返事をしてヨーヨーを掲げた。
「マインドパワー、解放!」
『シー・ザ・パレード!!』
実はこの二人の『調査』というのは、ネズミ等の小動物たちを使ったものである。ロスグリーンが校内のどこかに潜んでいるネズミたちと心を一つにして監視し、ベリアロイドの出現と同時に三人が突入、学校の外に待機している海香と陽子も加勢する・・・というのが今回の作戦である。
「・・・できることなら、人違いであってほしいんだけど」
そう小声で呟くロスブルー・・・先ほどから彼はどこか浮かない様子であった。それが気になったロスレッドは思わず訊ねる。
「先生、今回のベリアロイドは先生の同僚かもしれないんだよね?仲、悪かったの?」
ロスレッドの問いかけに、一瞬黙り込むロスブルーであったが・・・フーっとため息をついた彼は話し始めた。
「そうだね。僕が学校を辞める羽目になった、主な原因の一つだよ。」
――――眞木空也・・・短大を卒業した彼が中学校に新卒としてやってきたのは、21歳の時だった。
国語教師だった彼は日頃から生徒に真摯に向き合い、徐々に信頼を会得していった。ところが二年目に突入した頃、彼は一人の教員から無視されるようになった。主張した際には白い目で見られ、一日に一回は不快になるような嫌味を言われる。
気に留めないよう振る舞っていた空也であったが、ある日の放課後・・・廊下に女子生徒が倒れているのを見つけた。彼女は元々喘息持ちであり、その日はたまたま吸引器を鞄の中に入れっぱなしにしていたため、手元になかったのだ。
『大丈夫!?薬は持ってないのかい!?仕方ないな、ちょっと首元緩めるよ?良い?』
駆け寄って呼びかける空也は呼吸を楽にさせるため、女子生徒の首元のボタンを一つ外した・・・当時は焦りが勝っていた。
今思い返せば、その場は女性教員や女子生徒に任せて自分は薬を取りに行くか保健室に運んでやるのが正解だったのかもしれない。服を緩めている場面をよりによって例の教員に目撃され、大声で言われたのだ。
『眞木先生!何やってるんですか!教員のくせに生徒に手を出す気ですかー!!』
廊下のど真ん中でそう叫ばれ、近くの教室から生徒たちが顔を出した。空也は何度も訂正しようとしたが、例の教員はわざとらしく叫び続ける。
『性犯罪者はみんなそう言うんですよ!あなたは真面目で紳士的だと思ってましたが、そんなことなかったんですね!知らなかった、眞木先生は最低最悪の変態教員だー!!』
冷静になって思い出すと、その教員の目は笑っていた。空也の失態をここぞとばかりに責め立て、折角空也が築き上げてきた生徒からの信頼を一瞬にして消し去ったのである。
それから女子生徒の弁解で誤解は解けたものの・・・空也は他の教員たちから好奇の目を向けられ、生徒たちも彼の授業をマトモに受けようとしなくなった。
更に一か月後、空也に助けられたはずだった女子生徒は罪悪感や周りからの視線に耐えきれず、不登校になった。彼女の両親は誤解を招いた教員ではなく空也を責め立て、結果的に肩身が狭くなった空也は精神を病み、自主退職するに至ってしまった・・・。
「・・・それから次の仕事先を探して、『ホビットの家』が先生を募集しているのを見つけた僕は職員として勤務することになった。その後ほぼ成り行きでロスブルーになって、今に至るってわけさ。」
ロスブルーこと空也の悲しい過去に、ロスレッドは思わず絶句していた。どうしてこんな良い人が居場所を失くし、精神的に追い込まれなければいけなかったのだろうか。
「引きずってるわけじゃないよ。けど、ろくな思い出のない人間との再会は気持ちの良いものじゃないから・・・いや、申し訳ない。文句言ってる場合じゃないよね。僕より今回の被害者の方がよっぽど酷い目に遭ってるかもしれないのに」
「眞木先生は・・・悪くない、行動を間違えただけだ。少なくとも俺はそう思ってる。」
「虐めはいけません。虐めは虐める方が悪いのです。」
『大地の言う通り!むしろ、その教員こそ女子生徒のこと狙ってたんじゃねーの?』
それは分からないけど・・・と、ロスブルーはチロルの発言に苦笑いする。マスクの中で安堵したような笑みを浮かべつつ、彼は言った。
「でも、ありがとう。必ず解決しないとね。これ以上、僕みたいな教員を増やさないために・・・!」
ロスブルーに言われ、二人は頷いた。その時・・・チロルが叫ぶ。
『ベリアロイド出現!場所は南校舎二階の2-A!』
「南校舎!?しまった、隣だ・・・!」
ニアミスに焦るロスレッドだったが、ギブチェンジャーに手をかざすロスブルーは冷静だった。
「僕が行く!上手く校舎裏へ追い出すよ・・・! マインドパワー・解放!!」
ロスブルーはクラウチングスタートの姿勢を取る・・・刹那、青い風が吹いた。
『ペガサス・ダッシング!!』
風の如く走り去り、見送るロスレッドは思わず呆気に取られた。チロプとロスグリーンは呑気に告げる。
『あいつ中学時代、陸上部で短距離やってたんだってよ~ま、高校一年で挫折したらしんだけど』
「足速いです、スゴイです。」
「意外な一面だな・・・それより、俺たちも行こう!」
ロスレッドはグリーンの手を取り、校舎裏へと飛ぶ・・・。
「終わりの号令の前に、一つだけ皆さんに大事な話がありま~す!」
『ヒア・トゥルーセルフ!』
チャイムが鳴り、授業が終わった瞬間・・・その教員はベリアロイドに変身した。生徒たちが驚く直前に、ベリアロイドは話し始める。
「『いいか~?村田が教室に入ってきたら、一斉に物投げてやれよ~?あいつには何しても良いんだからな~!』」
生徒たちは逃げようともせずに命令を聞いている。洗脳状態になっているらしく、彼らは全員無表情だった。
「そうそう、今俺が変身したことは忘」
「ちょっと待ったー!!」
教室のドアが開かれ、ロスブルーがペガサスマグナムを構えた。ギョッとするベリアロイドは思わず後ずさりした。
「な、何だお前はー!不法侵入かー!」
「なるほど、そうやって生徒を洗脳して思うがままに操っていたんだな・・・GAPの使用は薬物所持と同罪だ!おまけに、仮にも生徒を導く立場の人間が虐めだなんて情けない!恥を知れ!」
ロスブルーに責め立てられ、ベリアロイドは憤慨する。
「お前、俺のことをバカにしたな!!不法侵入と脅迫と銃刀法違反で訴えてやるー!!」
指をさしながら怒鳴りつけるベリアロイド・・・すると、ロスブルーの背後から村田が現れた。隣の教室で授業していたのだ。
「な、何の騒ぎですか?あなたはどちら様ですか?」
「どうも、ロスブルーです!」
「ロス?・・・っうわ!ば、化け物!」
村田は律儀に挨拶するロスブルーに困惑しつつ、奥にいるベリアロイドに気づいて狼狽える。その時、同時にこちらを向いた生徒たちが一斉に立ち上がった。
「村田だ」「何してもいいんだ」「やっちまえ」
「え・・・」
愕然とする村田目がけ、生徒たちは無機質に喋りながらノートや筆箱、ペン等々の物を投げつけた。絶望しながら顔を伏せる村田・・・その前にロスブルーが立ち塞がり、生徒たちからの攻撃から庇う。
「おい!何邪魔してんだよ、この不審者!そいつの情けない顔が見えないだろう!」
ベリアロイドに言われるが、聞く耳を持たないロスブルーは後ろでオドオドしている村田に語り掛ける。
「辛い、ですよね・・・憶えの無いことで同僚から嫌われて、一方的に嫌がらせされて、周りの誰も味方になってくれない。そして生徒たちまで・・・!」
ハッとする村田は俯き、目に涙を浮かべた。拳を握りしめるロスブルーは真っ直ぐとベリアロイドを見据える。
「情報からして、もしやと思いましたが・・・その声と口調、やはりあなただったんですね。嵩尾先生!」
刹那、ロスブルーはマグナムを構えて発砲する。銃弾はベリアロイドのスピーカーの口に命中し、破壊された。
「ぎゃああ!しまったああ!!」
「え?」「な、何・・・?」「キャアアア!!」「ば、化け物だ!!」「殺されるぅぅ!」
ベリアロイドが悶える一方で、正気に戻った生徒たちは教卓の前にいる怪人の姿に気づき、驚愕の悲鳴を上げながら後ろへ後ずさった。洗脳が解けてしまったことに気づいたベリアロイドは舌打ちし、三角定規のようなナイフを手にして彼らに向けた。
「おぉい!何だその顔はーっ!お前らだって簡単に俺の言いなりになって虐めに加担してたくせに!今更被害者ヅラするなよおお!!」
「やめてください!!」
突如、村田が生徒たちの前に躍り出た。怯えた表情ながらも彼らを庇うように立ち、ベリアロイドに告げた。
「あなたの狙いは僕なんですよね!?僕一人だけを狙えば良いじゃないですか!無関係の生徒たちを巻き込むというのなら、僕はあなたを許さない!絶対に!」
「くぅぅ~~!!俺はお前のそういうとこが気に入らないんだよおお!!」
逆上するベリアロイドはナイフを村田へ振りかざす・・・後ろの生徒たちが悲鳴を上げ、村田は目を固く閉じた。しかし、斬撃は割って入ったロスブルーの拳銃で受け止められる。おそるおそる目を開ける村田に、ロスブルーは言った。
「ここからは僕が引継ぎます。約束します、あなたの大事な生徒たちは僕たちが守ります・・・!」
「・・・はい、お願いします!」
村田が安堵の涙を浮かべつつ頷いた直後、ロスブルーはベリアロイドを教室の外へ追い出した。
「ハア!!」
そのまま蹴飛ばし、素早く回り込んで窓を全開にする・・・ベリアロイドは窓から飛び出して行き、校舎裏へと落ちて行った。自分も後から飛び出す直前、ロスブルーは通信を繋げて何かを告げた・・・。
「いてえええ!!よ、よくもやったな!」
墜落したベリアロイドは顔を上げる・・・その視線の先には、待機していたロスレッドたち四人がいた。
「お待たせ!」
「遅かったじゃないか。騒ぎになる前に、とっとと終わらせるよ!」
ロスブルーが揃った所で、五人は武器を手にベリアロイドにかかっていく。すると、ベリアロイドは口元のスピーカーを自己再生させてしまった。
「ナメやがって!『止まれ!』」
暗示がかかり、五人はその場で立ち止まってしまう。その隙にベリアロイドは命令する。
「『お前らなんか、同士討ちで共倒れしろ!!』」
直後、先陣を切っていたロスイエローが踵を返し、アックスをロスレッド目がけて振り下ろした。咄嗟にかわすロスレッドはダガーをロスイエローに振るう・・・一方で、ロスピンクもロスブルーにトライデントを突きつける。
「ハハハハ!ざまぁ見ろ!死ね!お互いにボコし合って、殺し合え!」
洗脳され、同士討ちするロストレンジャーを見てベリアロイドは楽しそうに笑い出す・・・その時だった。
「えいっ」
不意に飛ばされたヨーヨー・・・スピーカーに直撃し、再び破壊されたことでベリアロイドはふらついた。
「いでええ!!なぜだあああ!なぜお前だけ暗示が効いていないぃ!?」
「?チロプ、何言ってるか聞こえません」
『汚ぇ言葉だから聞かなくていいんだよ』
なんと、ロスグリーンには暗示が通じていなかったのだ。洗脳が溶けたロスブルーは笑みを浮かべてこう言った。
「あなたがそのスピーカーで相手を洗脳すると分かって、思いついたんです。『言葉を聞かなければいい』ってね。」
実は先ほど集合した際、ロスブルーはチロプの傍に高速で回り込んで囁いた。
『大地君に防音機能を・・・!』
ロスグリーンのスーツはチロルと連動しており、彼のメット越しの視覚や聴覚はほぼチロルが管理しているも同然なのだ。空也に言われたチロルはロスグリーンのメット内を防音にし、暗示が聞こえないように細工したのである。
「そ、そのために自ら暗示に!?ちょっと待て、作戦のために仲間を巻き込んだのか!?」
「逆だよ、俺たちは『巻き込まれに行った』んだ・・・!」
ロスレッドがそう返す。最初に教室へ入った際、ロスブルーは通信機能を仲間たちと繋げ、こちらの会話が丸聞こえになるようにした。
『あんた、そうやって生徒を洗脳して思うがままに操っていたんだな・・・』この一言で、仲間たちはベリアロイドが洗脳攻撃を得意としていることを理解できた。そして、ベリアロイドを追い出した際にロスブルーは彼らに連絡した。
『みんな、頼みがある・・・僕が勝手にした約束のために、体を張ってほしい。』
空也は必ず約束を守る男である。それを知っているからこそ、仲間たちは迷わず彼の意思を尊重したのだ・・・二階の窓から村田がこっそり様子を確認しに覗き込んでいる中、空也は拳銃を構えながら言った。
「多少の無茶をする気になれたのは、仲間を信じているから。そして仲間から信じられていると確信しているからだ。嵩尾先生、人との繋がりで大切なのは・・・信頼なんだよ。」
「なっ・・・!」
『眞木先生、なんだか生徒にナメられてません?分かりますよ~子供って見た目で相手を判断しがちですもんね~』
『そうですね。けど・・・僕はきちんと向き合っていれば、そのうち彼らにとって「信用するに値する大人」になれるって信じてますから。』
『先生は謙虚すぎますよ~普通、もっと「子供に尊敬されたい」って思うでしょ?というか、生徒なら教師を敬うべきだ。そう思いません?』
『良いんですよ、僕は尊敬なんかされなくても。本当に必要なのは一定の信頼関係です。教員が生徒に「あいつは信用できない、だから相談するなんて以ての外だ」~なんて思われたら終わりですから。あ、これは僕の恩師の言葉なんですけど・・・』
結局の所、人との繋がりで大切なのは『信頼』なんですよ・・・。
「ぎぃぃ~~~!!昔から大っ嫌いなんだよ!お前みたいな綺麗ごとばっかり言うヤツはよぉ!!」
ベリアロイドはロスブルーの銃撃をナイフで弾き、刃状の衝撃波を放った。ロストレンジャーたちの足元で爆発が起き、五人は一歩退く・・・ここで、美景から通信が入る。
『ロスブルー!お前にとって、ヒーローとは何だ!?』
「僕にとってのヒーローとは・・・『約束を必ず守り抜く者』のこと!僕は村田先生と約束したんだ、生徒は僕たちが守るって!」」
それを聞き、村田は口角を上げて頷いた。次の衝撃波が来る直前、ロスブルーは拳銃にエネルギーを籠める・・・!
「いざ、誠心誠意!『ペガッサス・シューティング!!』」
青い銃弾が放たれ、ペガサスを模した風のエネルギーがベリアロイドを撃ち抜いた。
「今だ、ロスレッド!」
ロスブルーに言われ、前に出たロスレッドは拳をかざす・・・!
『フェニックス・フィスト!!』
赤い光の不死鳥が突撃し、ベリアロイドの体と体内の物質Xを焼き尽くした。
「ぎゃああああ!!警察と教育委員会に訴えるからなああああ!!」
恨み事を口にしつつ爆散する・・・GAPは砕け、煙の中から倒れている嵩尾が現れた。
「何も、変わってなかったんですね。それどころか悪化していた。虚しいです。」
意識のない嵩尾を見据え、ロスブルーはそう悲しそうに呟いた。その直後・・・どこからか拍手の音が聞こえた。
「すげー!なんかよく分かんないけど、すげー!」「めっちゃカッコよかった!」「ありがとう、ヒーロー!」
二階の窓から、村田が受け持つクラスの生徒たちや騒ぎを聞きつけた他の生徒たちが先ほどの戦いを見ていたらしい。急な称賛の声にロストレンジャーたちが呆気に取られていると、村田が駆け寄ってきた。
「あ、あの!嵩尾先生は・・・!?」
「大丈夫です、命に別状はありません。一応、念のために病院へ運んだ方が良い。警察と救急へ連絡お願いできますか?」
ロスブルーに言われた村田は安堵したように顔を緩めて頷き、スマホを操作する。あれだけの目に遭わされたにも関わらず、彼は加害者である同僚のことを心配しているようだ。
「おい、何の騒ぎだ!」
そこへ、この学校の校長らしき男性が教頭や他の教員たちと共に駆け付けてきた。ロスレッドが思わず狼狽えると、ロスブルーが素早く彼らに説明しだす。
「お騒がせしてすみません、ロストレンジャーです!お宅の教員がGAPを違法所持していました。それを利用して怪物に変身し、周りを洗脳して日頃から同職員への虐めを行っていたようです。適切な処罰が必要だと思われ」
「ふざけるな!!」
突如、校長がロスブルーを怒鳴りつける。そして、連絡を終えた村田や生徒たちが見ている前でこう発言したのだ。
「GAP所持だと?そんなものがあると世間に知れたら、我が校の評判は地の底まで落ちるじゃないか!虐めだと?馬鹿馬鹿しい!我が校に限ってそんなものは無い!部外者が余計な口出しをするな!」
「校長の言う通りだ!君たちさえこなければ、こんなことにはならなかった!・・・村田先生、まさか警察に通報したんじゃないでしょうねぇ!?」
教頭までもがロスブルーの言葉に反論し、更に村田へ問い詰めた。そして、彼の様子から既に連絡した直後だと気づき、「終わった」と言いたげにため息をついた。仮にも上の立場の人間のまさかのやり取りに、ロスレッドは愕然としながら二人に問いかける。
「ちょっと待ってよ・・・あなた達、さっきから勝手なことばっかりだ。GAPは薬物や兵器と同じなんだぞ!?そんな危険物を利用して一人の人間を傷つけた、それを見て見ぬふりするのか!?虐め被害者の気持ちはどうなるんだよ!」
「五月蠅い!被害者と言っても、たかが教員一人だろう!そいつが我慢すれば済むだけの話じゃないか!」
教頭の最低な発言に絶句するロスレッド・・・そして、村田もショックを受けた様子で茫然と立ち尽くしていた。周りの教員たちは何も言えないようであり、目を逸らしたまま黙秘を貫いている。大人たちの身勝手な言動に(防音機能が作動したままのロスグリーン以外の)ロストレンジャーは怒りを覚える・・・その時だった。
「村田先生!」「「先生!!」」
村田が受け持つ生徒たちが校舎裏へ駆け付ける・・・呆気に取られる村田に向け、生徒たちは口々に告げた。
「先生、ごめんなさい!」「僕たちずっと先生に酷いことしてた・・・!」「嵩尾先生に会う度に記憶が消えるのに、おかしいって気づけなかった」「命令されてたとはいえ、先生が傷ついたことに変わりないよね」「もう二度とあんなことしねぇから!」「ごめんなさい、先生!」「ごめん!」「すみませんでした!」「ごめんなさい・・・!」
生徒からの謝罪を受け、村田は泣きながら何度も頷いた。そんな光景を目の当たりにし、校長や教頭、教員たちは気まずそうな顔をしている・・・生徒たちよりも自分たちの方がずっと子供であったことにようやく気付いたようだ。
「行こう、みんな・・・!」
パトカーと救急車のサイレンが聞こえ、ロストレンジャーは人知れずその場から立ち去った。彼らが去って行ったことに気づいた村田は涙を拭い、空を見上げて呟いた。
「ありがとう、ロスブルー・・・!」
――――後日・・・朝食を取りに来た洸と空也に、美景は小声で例の学校に関する報告した。
「あのベリアロイド化した教員だが、相応の処罰が下ったようだ。あと、虐めとGAP所持を黙認しようとした校長と教頭の発言もコマーンが録音していたんだ。教育委員会に提出してやった。彼らもただでは済まないだろうな。」
「そうですか・・・村田先生は?」
「しばらくはカウンセリングに通うそうだ。まあ、周りの教員の何名かからは謝罪を受けたそうだし、何より今回のことで生徒たちからの信頼が高まったそうだからな・・・きっと大丈夫さ。」
美景の言葉に、空也はホッと胸をなでおろした。嵩尾による虐めが始まる前から、村田の真面目で誠実な一面は周りの誰もが知っていたのだ。これからも生徒たちに慕われる教員としてやっていけるだろう。
「カゲおいたーん、おはよ~!みっくんとくぅちゃんも、おはよ~!」
「おお、成海!おはよう!」「「おはよう!」」
駆け寄ってきた成海に挨拶を返し、四人揃って朝食をもらうために列に並ぶ。
「今日は金曜日か・・・朝ごはん、どっちだっけ?」
「金曜日はおこめの日!でね、豚汁か中華スープがついて、今日は豚汁の日!豚汁、ごはんいっぱいほしくなるからだーいすき♪」
洸の質問に得意そうに答える成海・・・すると。
「愛河さ~ん、もう少しご飯減らしてくんない?朝からこんなに食べたら太っちゃうんだけど~」
入居者の女学生が配膳をする海香に我が儘を言っており、その空気を読んでいない一言を聞いた成海はチラリと空也を見た。
「・・・朝から食べ過ぎたら、太っちゃう?」
どこか神妙そうな成海に、トレイを渡す空也はキッパリとこう告げた。
「満腹になる直前までなら全然セーフだよ。むしろ、三食ちゃんと食べた方が脳に良いからね。もし食べ過ぎたと思ったら、後で運動すればOK!」
空也の上手いフォローに成海はニッコリ笑い、洸も笑みを浮かべる。その後ろで美景も凛々しい笑顔で頷く。
「空也の言う通り!ちなみに、俺はたくさん食べたい派だ!海香が作る飯だから尚更な♪」
「カゲ、余計な事言ってないで取りに来な!後ろがつっかえてんだよ!」
海香に叱られ、自分たちの後ろの列が込んできていることに気づいた四人はトレイを手に前へ出た。
「ママ、朝ごはんくださーい!」「「「くださーい!」」」
〖ベリアロイドfile〗
ベリアロイド№0051『プロフェッサー・モラルブレイク』
変身者:嵩尾史朗
モチーフ:スピーカー、三角定規、教科書
罪状:職場内虐め
末路:解雇、教員免許・剥奪
・元は生徒にナメられがちな教員。自分より立場の弱い教員を虐めたり蹴落としたりすることで日々のストレスを発散していた。
・「生徒たちを従わせることができるのが理想的な教員だ」とマジで思っている。




