第2話『覚悟の不死鳥』
―――――『救助者保護施設』・・・通称「ホビットの家」と呼ばれるその施設には居場所を失くした者たちや普通の生活を送れなくなった者、過酷な環境から逃げてきた者等の「訳アリ」な人々が共同生活を行っている。
「志野田洸・・・ようこそ、ホビットの家へ!改めて自己紹介しよう。俺は『寛田美景』、ここを取り仕切っている者だ!そして、よくぞここへ来る決心をした!君の覚悟を称賛したい!」
「(声でかっ・・・!)あ、あの・・・改めてよろしくお願いします、寛田さん。」
運命の出会いから一週間後・・・施設に足を踏み入れた洸は美景の活気に圧倒されつつ、ペコリとお辞儀した。だが、美景は口角を上げたままこう返す。
「うむ、俺のことは『ミカゲさん』で良いぞ?」
「あ、ハイ」
「職員たちからは『所長』とも呼ばれているが・・・あ、簡単に『カゲ』や『ヒロ』でも」
「『美景さん』にします。」
洸に即答され、美景は口角を上げたまま沈黙し・・・頷いた。
「よろしい!それでは中へ入ろうか!」
玄関に辿り着き、スリッパに履き替える。この建物内は基本的に土足厳禁・・・スリッパや足袋の着用は個人の自由である。(美景「不特定多数の人間が歩くから履いた方が無難だがな☆」)
「所長、お帰りなさい。」
「ああ、ただいま。眞木、お前の新しい生徒だ。」
出迎えに来た男性に声をかける美景・・・ウェーブがかった青いメッシュ入りの前髪を流した黒髪で眼鏡をかけた男性が洸に会釈し、笑顔で挨拶した。
「初めまして、僕は職員の『眞木空也』。本業は教職員。この施設で不登校の学生たちに勉強を教えてるんだ。」
「志野田洸です、よろしくお願いします・・・」
男性こと空也に手を差し出され、握手する。洸はあれから(転校という名目で)学校を中退し、この施設で勉強を教わることに決めたわけだが・・・幸運にも温厚な空也は相性が良さそうである。頷いた美景は眞木に告げた。
「眞木、彼にここを案内してやってくれ。俺は一旦戻る。」
「了解です。それじゃあ志野田君、行こうか。」
空也に連れられ、洸はこの施設内を見て回ることになった。
「ここには休憩用のラウンジや食堂の他に医務室、それにカウンセリングルーム・・・一通り揃ってるよ。テレビルームやパソコンルーム、図書館もあるから情報にも困らない。」
現在「ホビットの家」には職員合わせて総勢50人が暮らしており、共同生活を送っている。部屋は男性と女性で建物が分かれており、風呂やシャワー室、階ごとに配置された台所やトイレは共同・・・まるで寮のようである。
一通りの見学し、次に食堂へ案内された。
「食事はいつもこの食堂で食べるんだ。朝昼晩、日曜と祝日以外は三食全部出るよ。ただし必要ない時は前もって報告しておくこと・・・あ、海姐さん!」
食堂を案内する途中、空也は奥にある厨房で作業する割烹着姿の女性に声をかけた。
「彼、新しく入った志野田洸君です!」
「こ、こんにちは!」
洸に挨拶され、女性が振り向いてマスクを外す・・・背が高く色黒の肌、濃いピンクのメッシュがかったベリーショートの髪型に凛々しい目をしている彼女は口角を上げた。
「うちの所長が言ってた新入りかい?初めまして。私は『愛河海香』、ここで食事作ってる。君、今日はここで食事するね?」
「あ、ハイ!」
「運が良いね、今日はカレーの日なんだ。楽しみにしてな。」
笑いかける海香は仕事に戻る・・・見た所、彼女は中々の女傑な一方で慈愛に溢れた女性と思われる。食堂を後にしつつ、空也が説明した。
「朝食の配膳は午前七時から十時まで、昼食は午後十一時から二時まで、夕食は午後六時から九時まで・・・さっきの海香さんは主に朝食と夕食の担当なんだよ。」
「基本は一人じゃないんですね」
「食事担当は職員と入居者合わせて五人が交代でやってる。彼女たちは片手間に育児や就活をしてる人たちだから、毎食全てを受け持つのは難しいんだよね。」
ちなみに、海香にも子供がいるらしい。続いて、洸が案内された場所は医務室だ。
「初めまして。医療班の『早乙女茲』です。」
藍色のメッシュがかったロングヘアな白衣の女性・・・無表情であり、どこか無機質にも見える。「よろしくお願い致します」と洸が挨拶するも、顔つきは変わらなかった。機嫌を損ねてしまったのではと洸は思わず不安になってしまう。
「大丈夫。ココ先生はいつもこんな感じだから。その分、治療の腕前はピカイチだからね。」
そっと空也に囁かれ、洸は少々気まずそうな顔で頷いた。早乙女が仕事に戻ってしまったため、二人は挨拶して医務室を後にする・・・外へ出た瞬間、一人の女性とすれ違った。
ミディアムボブのブロンドで、洸とさほど年齢が変わらなそうな少女・・・しかし、洸には見向きもせずに医務室へ入室していった。
「あ、陽子さん!あれほど初対面の人にも挨拶するようにって言ったのに・・・仕方ない。それじゃあ、最後に君の部屋に行こうか。」
隣の建物へ向かう二人・・・その途中、歌いながら渡り廊下をモップ掛けする清掃員の青年とすれ違った。
「~~♪~~♪」
「こんにちは、根岸君!」
空也に話しかけられると、やや細目がちの青年は歌と手を止めてお辞儀した。
「こんにちは。」
「今日はご機嫌だね、良いことあった?」
「はい。シン・ヒラサワの新曲を聴きました。業務に戻ります。」
そう返し、彼はまた掃除に戻る・・・作業用BGMのつもりだろうか、しっかり歌も口ずさむ。
「(歌、上手いな。)あの人は・・・すみません、俗に言う『障がい持ち』って感じですか?」
「そうだね。あと歌が好きなんだよ。」
洸が小声で尋ねるも、デリケートな話故か空也はそれ以上何も語らなかった。代わりに青年の方から「シン・ヒラサワ、スゴイです」と青年の声がした。
「先日の戦い、見てたんだけど・・・マジで『やっと!やっとだよ!』って気分よ。思わずテンション上がっちゃったわ。」
モニタールームにて、紫メッシュの髪の男性が先日の戦いの映像を目にしながら問いかける・・・背後に立っている美景は腕を組み、冷静な様子で返す。
「ああ、明石。俺もレッドは彼しかいないと思っている。このまま確定したい所だ。」
「GAPの力を完全に浄化できるのは『覚悟の不死鳥』だけだものね~・・・そういえば、うちの施設に入れるって聞いてたけど実際どんな子なの?」
モニタールームを担当するエンジニアの『明石幸一郎』・・・彼に問いかけられ、美景は真剣な表情で頷いた。
「学校で酷い虐めに遭っていたらしい。両親との関係もあまりよろしくない。仮にロスレッドにならずとも、ここに来させるつもりでいた。彼がロスレッドの資格を持てるほどの覚悟を持てる人間だったのは本当に運が良かったんだ。五年越しの夢だ。」
五年・・・美景がヒーローを探し始め、「レッド」が見つかるまでにかかった時間だ。ここまで来るのに本当に長かった。このご時世、『本物の覚悟』を持ってしてヒーローになれる人間など数が知れているからだ。
「彼の『覚悟』の力は絶大だ。それだけでなく、彼は『痛み』を知っている。彼なら俺が思い描いた最高のヒーローの一人になれると確信しているんだ。だが・・・」
「だが?」
「同時に気がかりなことがある。ヒーローというものは負担がつきものだ。もし、このまま彼がヒーローとして戦っていくうちにPTSDでも発症したら・・・苦しむのは本人だ。後悔するんじゃないかという不安もあってだな。まあ、これはメンバー全員に言えることではあるが・・・」
美景は難しそうな顔をするが、明石はじれったそうに立ち上がった。
「そうよねぇ・・・でも、ようやく五人揃う大チャンスでもある!もうこんな機会永遠に来ないかも・・・難しいわねぇ~」
明石はもどかしそうにため息をつき、だらしなく椅子にもたれかかるのだった。
・・・同じ頃、洸はこれから自身が過ごす自室に案内してもらっていた。彼の部屋は男子寮の二階である。
「ベッドとタンス・・・だけ?」
「ごめんね、予算的な問題で他の家具は自分で揃えることになってるんだ。そうだ、過去に退去した人たちが残した分がある。所長も自由に使えって言ってたし、後で見に行ってみようか。」
そう言って空也は部屋の鍵を渡してきた。部屋は簡素なものであったが、人一人が過ごす分には困らない広さである。だから洸としても文句はなかったが、彼は一つだけ気になることがあった。
「あの・・・一つ、知りたいことがあるんですけど」
「良いよ、何でも聞いてよ。」
職業上か、空也は質問されることに慣れているようだ。なので、洸は思い切って問いかけた。
「『ロストレンジャー』っていうヒーロー、知ってますか?」
「え?」
質問を受けた空也は一瞬黙り込み・・・周りを見渡した上で、小声で話し始める。
「いや、僕も詳しくは知らないなぁ・・・けど、そういうことはあまり公の場で話さない方がいい。なぜなら君が言うヒーローはだね、」
空也は何か言いかける・・・が、急に背後の気配に気づいて振り返る。後ろにいたのは美景であった。
「わっ、所長!」
「部屋の案内は終わったな?洸、荷物を置いたら靴を持って俺と一緒に来てくれないか?眞木、さっきそこで生徒の一人が君を探していたぞ?提出物があるとか」
「ああ、了解です!失礼します・・・!」
美景に言われ、空也は「じゃあ、また」と洸に手を上げて去って行った。
その後、洸は美景に連れられて渡り廊下を抜け、本館の一階へ戻り・・・奥にある「書庫」と記された部屋に入った。更にその奥になぜか存在する「ロッカー室」に入り、壁に備わっている「故障につき開きません」との貼り紙が貼られた非常口の前に立った。
美景はおもむろに一番近くにあるロッカーを開き、中に設置されたコードリーダーにスマホに表示したコードを掲げた。非常口の鍵が開き、洸は彼に連れられて中に入る・・・入ってすぐに螺旋階段があり、一緒に降りて行った。
「凄いですね、まるで秘密基地みたいだ・・・!」
「如何にも、ここはある種の基地だ。」
地下一階へ続く階段を降りて靴を履き、自動扉の前に立つ美景は話し始めた。
「志野田洸・・・君は自らの意志で『ロスレッド』となる決意をした。無論、君が後々悩み苦しむ羽目になるのではという懸念もあるのだが、今は君の覚悟を賞賛し、信じようと思っている・・・というわけだ。ようこそ!ここはヒーローが集いし場所、その名も『ロストルーム』だ!」
扉が開く・・・その部屋の奥にはモニタールームが広がっており、向こう側を見てみれば休憩所と思わしきテーブルと九の字型のソファーと長椅子もある。ここがロストレンジャーの拠点なのだ。
「来たわね、噂のレッド君」
モニタールームにはエンジニアの明石がおり、洸を出迎えてきた。
「明石幸一郎・・・ここでエンジニアやってるの。ちなみに、アンタがこの前使った武器はアタイのお手製。」
「え、そうだったんですか!?あ、志野田洸です。よろしくお願いします。ってことは、このブレスも明石さんが?」
洸は袖を捲って隠していたブレスを見せる・・・だが、明石は苦笑いして首を横に振った。
「いやいや、そのブレスを作ったのはまた別の技術者よ。アタシは武器とコマーンと、それから通信機器。あとは・・・」
他にも何か言いかけたのだが、ここで突然モニターからアラームが鳴った。明石はモニターを操作して位置情報を表示しながら何かを送信する。
「っベリアロイド出現!」
『さあ!みんなでヒロ活だ!』
ヒーローたちのスマホに胡散臭い通知が入る・・・それを見た彼らは颯爽と専用のジャケットを羽織り、ブレスを身に着けて出動した。
「ここでお披露目会をしようと思っていたが予定変更だ、現地でやるぞ!」
美景は赤を基調としたジャケットを渡す・・・これがロストレンジャーの隊服なのだ。それを羽織った洸に美景は呼びかける。
「ついてこい洸!」
「は、はい!」
美景が洸を連れて奥にある扉を開くと、そこは巨大な格納庫のような場所であった。美景は洸にヘルメットを投げ渡して大型二輪の後ろに乗せ、自身もフルフェイスのメットを被って豪快に走らせた。
――――町のフードコートにて・・・爆発が起こり、その中心に全身から刃物が突き出た怪人が突っ立っていた。
到着した洸は怪人・・・ベリアロイドから逃げる一般人の悲鳴を聞き、思わず目を見開いた。少し前まで、彼らは平和な日常を過ごしていたはずだった。それが一人の狂人の手により、一瞬にして壊された。
周りからは炎と煙、粉塵が舞っている・・・人々は逃げ回っており、また傷を負って呻いている者や泣き出す子供もいた。
ベリアロイドを見てみる・・・鋭い目以外は真っ黒なその顔からは全く表情が読み取れないが、洸はその目を見るだけで分かった。あの怪物は人々の悲鳴を聞き、心の底から楽しんでいるのだと。
(どうして?どうしてそんな酷いことができる?やめてくれ、もうやめてくれ・・・!)
大昔、家で遊んでいる際にうっかり指を怪我したことがあった。掠り傷でシクシク泣いている幼い頃の自分を、近くにいた父は助けるどころか心配すらしなかった・・・むしろ目が笑っていた。弱者を小馬鹿にし、見下し、蔑むような目・・・そんな目をこのベリアロイドは他者に向けていた。
(止めなきゃ、あいつを・・・!)
洸は腕についたブレスに触れるも、足がすくんでいるせいで一歩が踏み出せない。ここで、彼は視線の先に腰を抜かしている女性がいることに気づいた。
(あの人、この間の・・・!)
先日、DV男から逃げていた真由という女性であった。あの後、例の男は逮捕されたので刃物のベリアロイドは全くの別個体・・・しかしながら短期間で二度もベリアロイドに遭遇してしまうのは何とも不運である。
「どいつもこいつも、逃げ足早ぇな・・・まずはお前から切り刻んでやるよ」
「嫌、助け、て・・・!!」
迫って来るベリアロイドから逃げようと、真由は必死に後ずさる。洸は思わず手を伸ばした・・・その時だった。
「待て!!」
四人分の足音が聞こえ、ベリアロイドが振り向く・・・それぞれ色の違うハートがついたブレスと洸と色違いのジャケットを見に付けた四人組が現れた。
「これ以上の暴力は許さないぞ!」
「刃物か。なるほど、通り魔ベリアロイドってワケだ・・・!」
「ヒーローのお仕事です、人を助けます。」
「弱い者虐めとかサイテー!ぶっ飛ばす!」
現れたのは空也と海香、廊下にいた清掃員、医務室ですれ違った少女・・・なんと、洸が先ほど施設で出会った四人であった!
「え・・・眞木さんに愛河さん?それに確か、根岸さんと、あの女の子も・・・!」
唖然とする洸・・・すると、根岸の背からにゅっと何かが顔を出した。
『よお、鉄サボテン野郎!人生上手くいかないからって他人に八つ当たりする大マヌケ!そんなんだからモテねーんだぞ~!』
出てきたのは目がモニターのようになった犬であり、流暢に辛辣な言葉を喋り出す。どうやらロボットらしく、犬種はおそらくシェットランド・シープドッグだ。すると、大地が挑発する犬にポンポンと触れる。
「チロプ、口が悪いのはダメです。」
「根岸君の言う通りだよ、挑発すればするほど向こうが怒っちゃうからね。」
空也も便乗して宥めるも、時すでに遅し・・・愕然とするベリアロイドは両腕に生えた刃物を振り回して叫び出す。
「うるせぇ、うるせぇんだよ!!俺は誰かを切りたくてムシャクシャしてんだよぉ!逆らうならテメェらから切り刻んでやる!!」
GAPの副作用か、錯乱し出すベリアロイド・・・しかし、空也は冷静に眼鏡に触れてこう返す。
「どのみち、『逆らう』つもりではあるよ。僕たちは・・・ヒーローだから!」
「みんな、行くよ!」
海香の一声で、四人はブレスを付けた腕を掲げて変身のための掛け声をあげる。
「「「『プリーズ!パワード・オン!!』」」」
ブレスを付けた手を掲げ、両手をクロスさせた後に両肘を引く・・・ブレスについたハートがそれぞれの色に輝き、四人はヒーロースーツを纏う。チロプと呼ばれたロボットは大地に背中合わせになって背負われた。
「あの四人が、ロストレンジャー・・・!?」
そこに立っていたのは、洸が先日に見た四人のヒーローであった。
「ふざけやがって・・・『インプロイド!!』」
ベリアロイドの手首にあるGAPが怪しく光り、そこから四体ほどの黒い人型のモンスターが現れた。これは「インプロイド」といい、ベリアロイドの気力や体力と体内にある物質Xを消費する代わりに使い魔として召喚することができるのだ。しかし、四人は動じることなくベルトのバックルに手をかざした。
「いざ、誠心誠意!『ペガサスマグナム』!」
「勇気全開!『ワイバーンアックス』!」
ロスブルーとロスイエローが武器を手に、同時に駆け出す。ブルーがベリアロイドを銃撃し、イエローがインプロイドたちをアックスで一気に斬りつけた。一方でロスピンクとロスグリーンは真由や逃げ遅れていた人々の救助に向かっていた。
「大丈夫ですか?慌てないで、落ち着いて逃げて下さい。」『ここはオイラたちに任せな!』
「ど、どうも・・・」
ロスグリーンが真由を逃がし、その近くでピンクは向こうで逃げ遅れた女性二人のうち一人が足を怪我していることに気づいた。
「怪我をしているね、アタシに任せな。」
両手に桃色の優しい光を纏うロスピンク・・・美しい旋律を奏でるように、その光を女性へ向けた。
『ウィンディーネ・ララバイ』
一瞬のうちに傷口が止血され、傷が塞がった。呆気に取られている女性たちを逃がし、ロスピンクは戦闘に加勢する。
「『マーメイトライデンド』!」
トライデントを構えたピンクは刺突を繰り出し、入れ替わりにロスイエローが斬撃を放ち、すかさずロスブルーが銃撃する・・・怯んだベリアロイドだったが、体中から刃物型のエネルギーを噴射した。彼らにダメージを与えて距離を取った直後、ベリアロイドは不意に別方向へ視線を向ける。
「ママ、どこ?ママ~!」
幼稚園児くらいの男児が親とはぐれたらしく、彷徨っていた。それを見つけたベリアロイドはほくそ笑み、刃物を向ける。
「まずい!」「やめて!」
ブルーとインプロイド四体を撃退したイエローが駆け出そうとし、見ていた美景も飛び出そうとした・・・が、その前に先陣を切った者がいた。
「よせ!」
咄嗟に走り出し、男児を背にベリアロイドに向き合う洸・・・冷たい目で見つめるベリアロイドは右手の刃を向けた。
「何だ、お前・・・お前から先に死にたいのか?」
「洸君!どうしてここに!?」「危ない!早く逃げな!」
ブルーとピンクに言われるも、洸は引き下がらない。一方、思わず飛び出してしまった洸は僅かに震える足で必死に立ちながらも、深呼吸した。
(両親も誰も助けてくれなかった。いくら待っても、ヒーローなんて現れなかった。そんなものはいなかった。それなら・・・!)
「俺が、なってやる。覚悟を決めたんだ。俺は変わりたい、変えてみせる・・・!」
「何ゴチャゴチャ言ってんだよ、ぶっ殺すぞ!」
ベリアロイドが迫ろうとした瞬間、向こうから美景が声を張り上げた。
「志野田洸!!お前にとって、ヒーローとは何だ!!」
「ヒーローとは・・・!」
左手を握りしめる・・・ブレスから赤い光が輝き、洸は覚悟を決めた。
「ヒーローとは!『最後まで諦めず戦い抜く覚悟を決めた者』のことだ!!」
赤い光を見、ロストレンジャーの四人は唖然とする。先日見た光と同じだったからだ。
「まさか、洸君が・・・!?」
洸はブレスのついた片手を伸ばし、両腕をクロスさせて構えのポーズを取る。それに合わせ、変身コードを口に出す・・・!
「プリーズ!パワード・オン!!」
赤い光に包まれ、不死鳥が舞い降りる・・・!
「『覚悟の不死鳥 ロスレッド』!!」
洸の変身に四人は驚愕し、美景は大きく頷く。一方、舌打ちするベリアロイドは身構えた。
「カッコつけやがって!何が不死鳥だ!!」
腕を大きく振り、衝撃波が飛ばされる・・・が、ロスレッドは素早く男児を抱えて飛び上がった。美景の元へ着地し、男児を託す。
「美景さん、この子をお願いします!」
「応!抗え、己の未来のために!」
激励を飛ばす美景は男児を抱えて踵を返し、安全な場所へと駆け出した。「はい!」と返事を返すロスレッドは振り返る。
「行くぞ!レッツゴー、覚悟!!『フェニックスダガー』!!」
二つの短剣を手にしたロスレッドは駆け出し、ベリアロイドに斬りかかる。ベリアロイドが斬撃を防ぎ、逆に攻撃を仕掛けるもロスレッドは受け流した。
互いに斬撃を繰り出すことで刃がぶつかる音と火花が散る・・・何度目かの斬撃により、ロスレッドはベリアロイドの片手の刃を叩き割った。
「クソ!てめぇ~!」
刃のエネルギーを飛ばそうとするベリアロイド・・・しかし、それをロスブルーの銃撃が阻止した。
「ロスレッド、僕たちが援護するよ!」
「アンタは飛びな!」
ロスピンクが指示をすると同時に、翼を広げるロスレッドは飛び上がってベリアロイドの斬撃をかわした。そこへ駆け付けたイエローがアックスで斬りつけることでもう片方の刃を破壊した。
『グルグル巻き!』
「巻きます。『ケットヨーヨー』!!」
ロスグリーンがヨーヨーを手にし、ベリアロイドへ投げつけて体に巻き付けた。動きを止めたところへロスピンクが思いきり蹴り上げ、トライデントを突きつけて上へ飛ばす。
「喰らええええ!!」
空中を飛び交うロスレッドがベリアロイドを斬りつけ、真上から両脚によるキックをお見舞いした。墜落するベリアロイドに向け、ロスレッドは覚悟の心を籠める・・・!
「『フェニックス・フィスト!!』」
拳から炸裂する不死鳥の形をした赤い光がベリアロイドに突進し、その身を焼き尽くす・・・!
「ぎゃあああああ!!!」
GAPが砕け散り、ベリアロイドは元の男性の姿に戻って意識を失った。変身を解いた洸は思わず駆け寄って顔を覗き込む・・・どこにでもいる一般的な壮年男性であった。
「見てくれは普通の人なのに・・・誰でもGAPを使えばこうなってしまう、ということか。」
「半分正解だよ。」
四人も変身を解き、空也が近寄ってこう言った。
「GAPは主に『悪意』または『負の感情』がなければ機能しないと言われている。そう、その心が大きければ誰でもベリアロイドになれてしまうんだ。」
パトカーの音が聞こえる・・・後は警察が確保してくれるだろう。一方で、男児を保護者の元へ送り返して戻ってきた美景は、様子を伺いに戻ってきたらしい真由を見つけて声をかけた。
「君、さっき危ない目に遭いそうだった人だな。大丈夫か?」
「・・・はい」
「それは良かった。そうだ、君は以前恋人に大変な目に遭わされていたな?大変だったろう。ずっと気になっていたんだ。もし必要とあれば、ここに連絡してくれ。」
そう言って美景は名刺を渡した。彼は被害者のアフターケアも積極的なようだ。洸は感心したように頷く・・・が。
「良いです、別に」
受け取った名刺に書かれた『救助者保護施設』という文字を見た途端、真由はそれをビリビリに破いて捨てた。それを見た洸は愕然とし、思わず詰め寄っていた。
「何するんですか!この人はあなたを助けようとして・・・!」
「は?行くわけないでしょ、あんなとこ!」
「あんなとこって・・・!」
不機嫌そうに言い返す真由は納得がいかない洸に対し、こう告げた。
「え、あんた知らないの?『救助者保護施設』、あそこがネット界隈で何て呼ばれてるか・・・『ルーザーズ・ハウス』よ!」
「ルーザーズ?」
洸が首を傾げて美景を見ると、彼は冷静な様子で言った。
「負け犬、だ。」
「負け、犬・・・!?」
思わずショックを受ける洸・・・それを尻目に、真由はキッパリと吐き捨てる。
「あんな負け組だらけの場所なんかに行ったらアタシ、友達に笑われちゃう。そんなの嫌だから・・・!」
美景の救いの手を払いのけた真由は踵を返して歩き出した。フーっとため息をつく美景は辛そうな顔をする洸に笑顔を向ける。
「そんなに悲しい顔をするな、今のは俺がお節介だった。本当に助けが必要になれば自ずと来るはずだ。それより・・・」
美景は空也たち四人の方を振り返り、彼らにこう告げた。
「お前たち、紹介しよう!彼こそが五人目のロストレンジャー・・・ロスレッドこと志野田洸だ!そして洸、彼らが君と共に戦う仲間!ロスブルー『眞木空也』!ロスピンク『愛河海香』!ロスグリーン『根岸大地』!そして、ロスイエロー『勇見陽子』!」
洸は空也と海香、大地、陽子の四人を紹介され、思わず背筋を伸ばした。
「よ、よろしくお願いします!」
「よろしく。でも驚いたな、こんなことってホントにあるんだね・・・!」
まさか、ついさっき自分が案内していた「転校生」が五人目の仲間だったとは思わなかった空也は苦笑いしながら洸と握手した。先日は戦いに集中していたために洸が変身する場面を見ていなかったのだ。海香も不思議そうな顔をしている。
「アタシもビックリしたよ。しかもまだ子供じゃないか・・・!」
「僕もさっき会いました。新しい仲間、よろしくお願いいたします。」
ペコリと頭を下げて挨拶する大地・・・一方で、眉を顰める陽子に気づいた洸は首を傾げた。
「ん?あ、勇見さん、だっけ?さっき僕とすれ違ったよね。よろしく・・・」
「え・・・誰?」
首を傾げる陽子に真面目な表情で問われ、洸は思わず「えぇ・・・」と唖然とした声を上げてしまうのだった。
〖ベリアロイドfile〗
ベリアロイド№0049『フラストキラー』
変身者:椙山耕太
モチーフ:包丁
罪状:傷害罪、殺人未遂
末路:懲役刑
・ストレスと感じるとすぐに何かに当たり散らす癖がある。後に日頃から小動物を虐待していたことが判明。
・「(数々の暴力行為に関して)ストレスを発散しているだけなので自分は悪くない」とマジで思っている。




