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第1話『負け犬、だがヒーロー』


―――――少年は雨の中をゆっくり歩き続ける・・・体は傷だらけ、その目は虚ろだ。



彼の名は『志野田洸(シノダ ミツル)』。年齢は16歳。高校二年生であり、本来なら学校で部活動に専念したり進学について考え始める歳のはずだった。否・・・彼はもう受験どころではなくなっていた。


『お前みたいな負け犬を大学へやる金なんてない、むしろ今すぐ中退して働いて金を入れてもらいたいくらいだ』・・・先月、父親に吐き捨てられた言葉だ。母親も同意見だった。

彼が子供の頃から両親の口癖は「お前には無理」であった。勉強も運動も、何一つ期待されたことはない。高校に入って成績が落ち始めた辺りから、更に冷遇っぷりは悪化していた。 


学校へ行けば、カースト上位の不良たちからの虐めに遭う。最初はほんの些細な事だった気がする・・・課題提出の関係で声をかけた女子生徒がクラスの不良の彼女だった、それだけ。たったそれだけの偶然で不良グループの面々から暴言を吐かれるようになり、廊下で足を引っかけられ、財布の中身を奪われ、物を隠される毎日・・・不良たちを恐れる教員は皆、知らん顔だ。


この日、とうとう不良のリーダーによって階段から突き落とされた。痛みに悶えている所を不良たちやクラスメイトに嘲笑われた瞬間、我慢の限界に達してその場から逃げ去った。


ほくそ笑む取り巻きによる『お前なんかに価値ないから』『二度と学校来んな、負け犬』といった暴言を背に受けながら、彼は荷物も持たずに学校を飛び出した・・・。



『負け犬』・・・不良からも、両親からも貼られてしまったレッテルである。



(僕は・・・負け犬なのか。)



道行く人に肩がぶつかり、転んで倒れ込んでしまう。手を差し伸べてくれる者など誰もいない。幼少の頃に信じて憧れていた「弱者に手を伸ばす救いのヒーロー」など現れない。そんなもの本当は存在しない・・・みんな自分のことで精一杯、この世に情けなど無いのだから。


負け犬である自分に存在する価値は無い。自分はこのまま消えてしまっても誰も困らないような人間なのかもしれない・・・。




(・・・本当に?)


洸は不意に思いとどまる。倒れ込んだまま拳を握りしめ、彼は自分に言い聞かせる。



(生きる権利は誰にだってあるはずだ。負け犬にだって、もう一度立ち上がれる資格はあるはずだ・・・。)


でも、どうやって?


(分からない。だけど・・・このままは嫌だ。このまま何もせず、後悔する人生なんて御免だ・・・!)

何でも良い、何か大きなチャンスが来るなら・・・僕は立ち上がりたい。


強い〝覚悟〟を持って挑んで、戦い抜きたい。この暗闇の世界で・・・!



だけど、今だけは・・・。




「・・・助けて」





「何度でも立ち上がろうとする、不死鳥の如し精神・・・やっと見つけた。」



声が聞こえ、洸は顔を上げた。一人の男性が傘を差し出して笑っている。中心についたハートが赤く光るブレスを手にしている彼は、凛々しい笑顔でこう告げた。


「お前・・・俺のところで、ヒーローやらないか?」

「・・・は?」





  ――― ―――




―――――今から約十五年前・・・総理大臣が変わったのを機に、突如として日本の法律に「死刑」を禁止とする制度が設けられた。


その代わり犯罪者には国から更生と社会復帰のための支援がなされ、刑も軽いものとなる。逆に被害者たちは放置され、泣き寝入りする羽目になるのが日常茶飯事となった。


結果は文字通りの大失敗。再犯率が一気に上がったことで刑務所は常にパンク状態・・・どの町も治安が悪く、都内に至っては一分に一回犯罪が起きる無法地帯と化した。

あちこちにあるスラム街のような区域には不良やホームレス、違法薬物の売人、不法滞在する外国人が蔓延っている、まさにディストピアであった。


死刑廃止から十年後、ようやく事態を重く見た政府はこの制度を撤回するも・・・その頃には既に日本は死にかけていた。


暗黒の時代が終わり、今年で五年・・・未だ以前のような「平和な国」に戻る見通しはない。犯罪率も多少減りはしたが、治安の悪さは相変わらず・・・守られるべき立場の人間が守られない非情な国である。




「だがしかし!誰も何もしなかったわけではない。例の『暗黒の十年』の始まりから六年目、今から九年前に設立された居場所がある。それが、『救助者保護施設』・・・通称・『ホビットの家』だ!」

「ああ・・・聞いたことなら、あります」


あの後、洸は男性に連れられて喫茶店を訪れていた。男性は顔見知りらしい女性店長にタオルを持ってくるよう頼み、「またですか」と言われつつも受け取って洸に手渡した。この時間は客が滅多に来ないらしく、席はスカスカであった。


こうして、男性から例の「ホビットの家」についての説明を受けることになった洸・・・施設に関する資料を渡し、一緒に自分の名刺も差し出した。


「ちなみに、俺は『寛田美景(ヒロダ ミカゲ)』!このホビットの家の代表だ・・・!」


男性こと美景から諸々を受け取る洸・・・何やら一方的に思えるが、洸が自分から話そうとしないので無理もない。温かいミルクティーを飲みながら、洸は改めて美景に目を向けた。


先ほどは雨で暗くてよく見えなかったが、彼はキリッとした目の凛々しい顔つきで、銀髪であった。そして何より、ハスキーボイスじみた声は独特で活気がありつつも、どこか心地いい。



「・・・ところで、君の名前は?」

「え、今!?」

「すまんな、訊くタイミングを失っていた!」


うっかり屋なのかテキトーなのか、この男はまだまだ分からないことが多そうだ。少々呆れながらも洸は自己紹介することにした。


「えー・・・『志野田洸』です。今、高2です。」

「ミツル・・・うむ、良い名前だ。話を戻そう・・・単刀直入に言うと、俺は君をこの施設に入居させるべきではないかと考えている。俺も色んな人間を見てきたからな、君が『自分には居場所なんてない』と思い込んでいる人間だとすぐに分かった。」


美景に指摘され、洸はギクリとする。如何にも、自分には居場所などない。家にも、学校にも・・・彼の心の闇を美景は簡単に見抜いていたようだ。


「『ホビットの家』に入居すれば、まず衣食住には困らない。入居して今後どう生きるかを模索するといい。そこから学校に通うもよし、行けない理由でもあるなら施設内で一般の学校と同じ勉学を受けることも可能だし、仕事を探すことだってできる。自由な場所だ。だが無理に入居しろとは言わない、君が行きたくないならこの話はなかったことにする。」


「僕は・・・」



『何でうちの子は出来が悪いのかしら?』『あんたはね、何やっても駄目なのよ。』『どうしてあんたはこんな情けない人間なの!?』


『お前みたいな出来損ない、俺の子じゃない!』『必要ないだろう?お前みたいな人間は何の役にも立たないんだから。』



居場所なんてない・・・そう指摘された瞬間、洸は両親からの日頃の言葉を思い出す。ずっとこのまま家にいて肩身の狭い思いをするくらいなら、いっそのこと離れた方がいいのだろうか?


しかし、同時に学校での虐めも思い出してしまう。もし施設でクラスメイトから受けた虐めをまた受けることになったら・・・そんな不安が付きまとった。



「まあ、じっくり考えると良い。何か聞きたいことがあれば何でも質問しなさい。それと、できれば君の話も詳しく聞きたいんだが・・・」

「あ・・・っそういえば、最初に言ってた『ヒーロー』って何のことですか?」


『俺のところで、ヒーローやらないか?』・・・雨の中で美景に言われた言葉だ。出会い頭にあんな奇妙な勧誘をされたため、最初は怪しい所からのスカウトかと疑った。施設の話を聞いて誤解は解けたものの、「ヒーロー」云々の部分は分からないままだ。


すると、洸の質問を受けた美景は口角を上げたまま一瞬固まり・・・そっと目を逸らして呟いた。


「しまった、テンション上がって思わず・・・いや、でも」

「何て?」


洸が怪訝そうに首を傾げた、その時だった。




「ヒィっ!」


突如、店に傷だらけの女性が悲鳴を上げながら転がり込んできた。驚いた店長が声をかけようとすると、女性は縋りつくように訴えかける。


「お願い匿って!あいつが来る!あいつがっ・・・!!」



扉が開く・・・女性の夫か彼氏らしき男性が入ってきたのだが、どこか異様であった。どす黒い笑みを浮かべながらも目は全く笑っておらず、まるで爬虫類のようである。しかも、手には割れた酒瓶を持っていた。明らかに常人ではない。


「真由・・・何で俺から逃げんだよ。ダメだろぉ?お前は俺がいなきゃ何もできないんだからさぁ・・・お仕置きだな」


スッと真顔になり、手首を晒す・・・天使にも見える模様が描かれた厚さ二ミリ程度のパッチが付いていた。それを目視した瞬間、美景は飛び出した。


「でぇい!!」


男を蹴飛ばし、店の外へ追い出す・・・美景も店を飛び出し、洸も思わず彼の後に続いていた。未だ雨が降る中、転倒した男は憎悪の目を向けてゆらりと立ち上がる。


「てめぇ、何すんだよぉ・・・許さねえ、許さねえぞ!!」


パッチが付いた手で握りこぶしを作り、妙な気配を発する男はその拳を振り上げる・・・!



『ヒア・トゥルーセルフ!』



呪文のように合言葉を唱えた直後、男性を瘴気のような赤黒い煙が包み込んだ。洸は愕然とする・・・男性は酒瓶のような両手を持った怪人へと変貌したのである。左手は普通の酒瓶であり、右手は半分割れたような形になっていて凶器のようだ。



「え、え?何がどうなって・・・!」

「あのパッチ、『GAP』を使用したものは心の闇や悪意が増幅され、時にその体すらも変異させてしまう。そうして誕生するのが彼のような怪人、通称・『ベリアロイド』!」

「ベリアロイド・・・!?」


至って冷静な美景の言葉で、狼狽える洸はあることを思い出した。以前、興味本位で覗いたネット掲示板に書かれていた妙な記事があった。


『都内に怪物が出没』『どう見ても着ぐるみではない』『変なシールをつけた人間が怪物になる瞬間を見た』・・・謎の怪物についての情報であったが、証拠となる画像も無いために多くの人々はそれらをただの都市伝説として結論付けていた。



『真由ぅ!!お前はなぁ!永久に俺のATMなんだよおおお!!』

「ひぃぃ!!」


発狂したように叫ぶベリアロイド・・・真由、と呼ばれた女性は腰を抜かしてしまう。美景が逃げるよう促し、青ざめている店長は女性を連れて裏口へ向かった。先ほどの気さくな雰囲気とは打って変わり、警戒の表情を向ける美景は冷静に訊ねた。


「お前、俺がいなかったら店の中で〝変身〟するつもりだったろう?自分のパートナーを傷つける上に、人様にも迷惑をかけようというのか・・・!?」

「・・・てめぇ、俺に指図するのか。」

「指図じゃない、軽蔑してるだけだ。」


キッパリと言い放つ美景・・・その態度が気に入らなかったのか、ベリアロイドは怒りの絶叫を上げた。


「ア゛アアアア!!!他人の分際で!雑魚の分際で!てめぇみたいな生身の人間が!俺様に敵うワケねえだろうがあああ!!」


「・・・どうだかな。しかし、戦うのは俺じゃない。」


俺が作った最強の〝ヒーロー集団〟だ・・・!!




その時・・・雨が上がり、ベリアロイドの後方に何者かが降り立った。ベリアロイドが振り返り、こっそり見ていた洸も唖然とする。そこにいたのは別々の色のラバースーツ型のヒーロー衣装を纏い、それぞれ形の違うマスクで頭部を覆った四人の「ヒーロー」であった。



「誰だ、てめぇら!邪魔するならお前らもぶっ殺 ぎゃっ!!」


衝撃を受け、ベリアロイドが怯む・・・後ろから椅子を投げつけた美景は声を張り上げた。


「たわけっ!悪役ならまずは、ヒーローの名乗りを聞くのがお約束だろう!!」

「えぇ・・・」


こんな時に何を言ってるんだ、と洸は呆れた表情を向ける。そう感じたのはヒーローたちも同じだったらしく、唖然とする。されど気を取り直す四人は言われた通り名乗りを上げる・・・!




「『誠意の天馬 ロスブルー』!!」


「『勇気の火竜 ロスイエロー』!!」


「『慈愛の人魚 ロスピンク』・・・!!」


「『根性の妖猫 ロスグリーン』~!」



 ・・・・



「と、こんな感じで大丈夫かな?」

「ハッキリ言って、幼稚だからやめたいんだけど・・・」

「それはアタシも同感だ。」

「いいえ名乗りはスゴイです、カッコいいものです。」


それぞれ青、黄色、ピンク、緑のヒーロースーツを纏った四人は口々に言い合う。美景はウンウンと満足そうに頷くが、それを良しとしないのがベリアロイドだった。


「てめぇら、ふざけてんのかああ!!コスプレショーならよそでやりやがれ!!」


酒瓶のような手を振り回すベリアロイド・・・その瞬間、ヒーローたちは素早く切り替えた。


「いいや、僕らは至って真面目さ・・・!」

「みんな、行くよ!」

「「応!!」」「行きます、行きま~す」


ピンクの呼びかけに応え、真っ先に駆け出したブルーがベリアロイドの背後に回り込み、後ろ蹴りを繰り出す。ブルーのマスクは馬のような耳と鬣が付いており、脚には白い羽のような装飾がある。どうやらペガサスを意識しているようだ。


「いざ、誠心誠意・・・!」


ベルト部分から小さい翼のついた青い拳銃が召喚され、銃撃するブルーは距離を取る。


「こいつ、かなり頑丈みたいだ・・・!」

「平気!カンケーない!」


イエローが飛び出し、ベリアロイドが鈍器のように振り回す左手を受け止めた。体型は小柄な女性のようだが、見かけによらずパワーがあるらしい。彼女のマスクには角と鰭がある・・・おそらくドラゴンだろう。


「勇気、全開!!」


腕を思いきり振り払い、ロスイエローは自分の背丈ほどの黄色い両刃のアックスでベリアロイドを斬りつけた。


「うぎゃ!やりやがったな・・・!!」


ベリアロイドが反撃しようとした時、背後からピンクが飛び出して桃色のトライデントを突き出した。もう一人の女性戦士であり、マスクの両耳に鰭、後頭部にモヒカンのような背鰭が付いている・・・こちらはマーメイドだ。


刺突されたベリアロイドはふらつき・・・不意に、向こうで閉じた傘を片手にスマホを向けている通行人たちを発見した。


「こうなったら・・・!!」


良からぬことを考えたベリアロイドは彼らへ腕を突き出し、ガラス片のような弾丸を飛ばす・・・!



『シールド!』

「シールド張ります。『ケット・プロテクト!!』」


猫耳のついたグリーンがヨーヨーを片手に、悲鳴を上げる通行人たちの前へ躍り出る・・・ヨーヨーを上へ掲げると、緑色のバリアが展開された。弾丸を全て防ぎ、通行人に声をかける。


「危ないです、走って逃げてください。」

『無断撮影してんじゃねーよ、プライバシーの侵害だぞ~!』

「怒るのはダメです。」


通行人を逃がすグリーン・・・彼の背には緑のマスクを身に付けた犬のようなロボットがリュックサックのように背負われており、そちらは口が悪いようだ。



「一気に行くよ!」


ピンクの号令で一斉に動く・・・先にピンクとグリーンがトライデントによる刺突と投げつけられたヨーヨーによる打撃で動きを止め、ブルーが銃撃で怯ませた。




「凄い・・・!」


四人の戦いぶりに、洸は感動していた。人々を守るために身を挺して戦う彼らはまさに「ヒーロー」である。こんな不条理で醜い世の中にも、希望の光が存在していたのだ。


(寛田さんが言ってた『ヒーロー』というのは、あの四人ことなんだ!つまり、僕もそれに相応しいってこと?)


『ヒーロー』、それは彼が心底憧れていた存在でもある。ヒーローものの作品は一通り見てきたし、自分もテレビの中のヒーローになりたいと何度も夢見てきた。そして今、子供の頃の夢を叶える一世一代のチャンスが訪れようとしているのだ。


(なりたい。僕もあの人たちのように、誰かの希望に・・・!)



『お前なんかに価値ねーから!』『二度と学校来んなー!負け犬!!』




・・・僕は、〝負け犬〟なのに?


虐め加害者たちから言われた暴言が脳裏をよぎり、彼は不意に我に返ってしまう。一方、ベリアロイドを追い詰める四人はというと、イエローが両手にエネルギーを集中させていた。



『サラマンダー・ファング!!』



双方の拳を縦に広げながら突き出し、炎を纏った火竜を模したエネルギーを叩きつける・・・鋭い牙に噛みつかれるような形でベリアロイドに止めを刺した。


「うぎゃああああ!!!」


叫び声を上げ、ベリアロイドは爆発する・・・!



「や、やった・・・!」


それを見て思わずガッツポーズする洸・・・だが、煙の中には未だに立ち続けているベリアロイドの姿があった。



「ウソでしょ?直撃したはずよ・・・!」

「片腕がない・・・あいつ、腕を犠牲にして防御したんだ!」


ロスブルーが想定外の事態に気づいた直後、左腕が砕けたベリアロイドは右手からガラス片のような弾丸を飛ばした。


「「「うわああああ!!」」」


攻撃を受けて倒れ込む四人・・・変身はまだ解除されないが、かなりのダメージのようだ。


「何なのこいつ、今まで戦った奴より強い!」

「きっと、それだけ負の感情が増幅してるんだ・・・!」


ヒーローたちが再び立ち上がろうと必死になっている間にも、ベリアロイドはほくそ笑みながら歩み寄っている。その様子を見守ることしかできない洸は拳を握りしめた。


(このままじゃあ、あの人たちが殺される。何とかしなきゃ・・・通報する?いや、警察なんて役に立たない!)


これは半ば事実である。「暗黒の時代」の名残なのか警察は皆、無気力だった。ここ一か月だけでも、警察が早急に動いてくれなかったせいで殺人騒動に至った乱闘騒ぎやストーカー事件、虐待事件に関するニュースを何件も見た。仮に出動してくれたとしても、この怪物に太刀打ちできるとは思えない・・・。



(僕は何もできないのか?所詮ただ見ているだけ、逃げ回るだけの一般人にしかなれないのか・・・!?)




「諦めるな!!」



ここで、美景がヒーローたちを一喝した。


「俺が思うヒーローとは!何度転んでも立ち上がる者!最後まで諦めることなく、希望を抱き続ける者のことだ!お前たちにとってのヒーローとは何だ、思い出せ!戦え、『ロストレンジャー』!!」



「っ・・・!!」


美景の言葉により、洸は頬を打たれたような衝撃を感じた。思えば、自分はいつも転んでばかりの人生だった・・・何度も転んでは、どうせ無駄だからと諦めてきた。だが、それでは何も変わらない。


何度転んだって良い。その度に立ち上がれば、前へ進むことができるのだから・・・。



「・・・僕も、立ち上がりたい。変わりたい。そのために・・・覚悟を決める!」



その時、美景の懐が赤く輝いた。中から光を放つブレスを取り出した美景はハッと洸の方を振り向き・・・何かを決意し、それを彼に差し出した。


「抗え、洸!己の未来のために!」

「寛田さん・・・はい!」


ブレスを受け取り、左手首に装着しながら前へ出る。背後から美景が声を張った。


「良いか?変身コードは・・・『プリーズ!パワード・オン!!』」



「スゥ・・・『プリーズ!パワード・オン!!』」



大きく息を吸い、変身コードを口に出す洸・・・彼の「覚悟」の心が赤い光となって不死鳥となる。舞い上がるそれは洸の体に憑依してヒーロースーツを形作り、頭部が鳥を思わせるマスクによって覆われた。

突如現れた新たな戦士の参戦に四人は唖然とし、ベリアロイドも苛立ったように片手を向けた。


「増えろなんて言ってねーぞ!テメェは誰だ!!」

「僕、いいや・・・俺の名は・・・!」


ヒーロースーツに内蔵されたデータから、彼は自身の名乗りを上げる・・・!



「『覚悟の不死鳥 ロスレッド!!』」



「ロスレッド?もしかして、所長が前々から言ってた最後の一人か・・・!?」


ブルーが呆気に取られたように呟いた直後、「ふっざけんな!」とベリアロイドが逆ギレしてロスレッドに襲い掛かった。すると、ロスレッドは両手を広げ・・・そこから赤い翼を生やして飛翔した。弾丸を放たれるも、空を舞うロスレッドは軽く避ける。


「ハァッ!」


急降下してベリアロイドに体当たりを喰らわせ、怯ませた。素早くベルトのバックル部分に触れ、武器を召喚する・・・翼を模したような二つの短剣だ。

戦い方は全てヒーロースーツに内蔵されたデータから取得している。それに加え、かつてテレビで見ていた数々のヒーローたちの戦い方をイメージしているのだ。短剣を両方の手に持ち、ロスレッドは宙を舞いながら相手を斬りつける。


「うぎゃっ!くっそぉ!鬱陶しいんだよ!!」


ベリアロイドがロスレッドを殴りつけようとした、その時・・・!



「アタシらのこと忘れてんじゃないよ・・・!」


背後からロスピンクの刺突をくらい、更に横からロスイエローの斬撃とロスブルーの銃撃を浴びせられた。そして、足元にロスグリーンのヨーヨーが巻き付く。


『引っ張れ!!』「はーい」


ヨーヨーを引っ張られたことで、ベリアロイドは転倒してしまう。その隙に、上空にいたロスレッドがブレスに触れた。拳から赤い光が迸り、それは不死鳥の形を作った。



『フェニックス・フィスト!!』



四人が距離を取ったと同時に赤い光の不死鳥が飛来し、ベリアロイドを包み込む・・・!



「ぎゃあああ!!やめろぉ!力がああああ!!!」



爆発が起こり、それを背後にロスレッドが降り立つ。煙が晴れた時、そこには元の姿に戻った酒瓶男が倒れていた。砕けていた片腕は傷だらけになっているだけであり、手首についていたパッチは粉々に砕けている。それを確認したロスイエローは唖然とした。


「え、マジ?GAPが砕けてる・・・!」


『おお、例の物質の反応もねぇぞ!』「もうベリアロイドにはなれません。」

「アタシたちが今までどれだけ頑張っても成分は消せないどころか、本体の破壊すらできなかったのに。これが『ロストレンジャー』のレッドの力なのか・・・!」


スキャニングで確認した犬ロボットの言葉に、ロスピンクは呆気に取られる・・・ベリアロイドの体内にあるGAPに含まれた成分を浄化する、それこそがロスレッドの能力らしい。



「うむ。勇敢なる戦士が脅威に抗い、戦うその姿・・・実に美しい!」


ようやく揃った「五人のヒーロー」の戦いを見届けた美景は満足そうに、凛々しい笑顔を浮かべた。



「やった!・・・あの、」


初勝利にガッツポーズする洸は四人に声をかけようとした。しかし、どこからかパトカーのサイレンが聞こえた途端に四人は踵を返し、辛うじてブルーが彼に早口でこう言い残した。


「すみません、警察は僕らをよく思ってないものでしてね。面倒事になる前に行きます。君もすぐ変身を解除した方が良い。また機会があればお会いしましょう。では・・・!」


彼は会釈し、そのまま他の三人と共に退散していった。言われた通り変身解除しながら、洸は彼らを見送るしかないのだった・・・。






その後・・・パトカーが到着し、男は連行されることになった。真由もまた、事情聴取のために別のパトカーに乗っていった。


「洸、思わぬハプニングが起きてしまったが・・・大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。あ、そうだ、スマホで撮影してた人がいましたよね?そっちは気にしなくていいんですか?」

「ああ、案ずるな。あそこを見てみろ。」


指さした方向を見てみる・・・店の屋根の上なのだが、そこにキジトラ猫がいた。だが、目がおかしい。機械でできていたのだ。


「あいつは『コマーン』。一種のロボットでな、辺りに特殊な電波を発生させるんだ。所謂、撮影妨害機能と言った所かな。だから今頃、彼らは真っ暗な映像を確認していることだろう。」


美景が説明している間に、コマーンは颯爽と走り去ってしまった。それからパトカーが去って行くのを見送りながら、美景は言った。


「さて、洸よ。君は先ほど、成り行きでロスレッドになったわけだが・・・どうする?このままヒーローを続けるか、それとも辞退するか。君の意志を聞いておきたい。」



美景に確認され、洸はブレスに触れる・・・先ほどの戦いを思い出しながら、彼は決意した。


(やっぱり・・・変わりたい。きっとこれはチャンスなんだ。僕が欲しかった、人生を変えるチャンスなんだ・・・!!)



「もし辞退したいというなら、その時はベリアロイドが出てきた辺りからの記憶を消させてもらうことになるが」

「僕、やります!ロストレンジャーになります!」


遮るように返され、美景は思わず呆気に取られる。真っ直ぐ目を向ける洸はこう続けた。


「僕は・・・現状を変えたい。ほんの少しでも、一歩踏み出したいから。それと、『ホビットの家』にも入らせてください!お願いします!」


「おお・・・うむ、よろしい!俺は君の覚悟を尊重しよう!まずは連絡先を交換してくれるかな?」

「はい!」



ブレスが赤く光る。まるで、洸の『覚悟』に反応しているかのようだった・・・。











〖ベリアロイドfile〗



ベリアロイド№0048『DVマン』


変身者:新山敦史

モチーフ:酒瓶

罪状:恋人へのDV行為の数々、傷害罪、GAP所持

末路:逮捕、懲役刑


・情緒が不安定な男。三年に渡り、恋人の真由に対して経済的及び身体的なDVを行っていた。逃げられたらその都度追いかけて痛めつけ、優しい言葉で呼び戻していた模様。

・「女は男がいないと生きていけない生き物」だとマジで思っている。


※尚、今後は「GAP所持」と「逮捕又は書類送検」等の記述は省略するものとする。


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