38. シャルロット殺害
「何故!何故ミゲルが死ななければならないの!」
葬儀を終えた皇后の私室では、調度品やティーカップが割れる音が次々と響いていた。
「全てはヴィンセントのせいよ。許さない。あの子も自分の大切な存在がなくなってしまう悲しみを知ればいいんだわ!」
憎悪の焔をその真っ黒な瞳に宿らせ、皇后は身勝手な都合で皇太子とシャルロットを害そうと企んでいた。
「シャルロット様、皇后陛下がお呼びです。気晴らしに仕立て屋を呼ぶから、シャルロット様も新しいドレスを作るようにと仰せです。」
ミゲル皇子の死からひと月が経ち、皇后は自室から出てくることはほとんどなくなったという。
そんな時、皇后のお付きの侍女がシャルロットの部屋を訪れ皇后が呼んでいると伝えた。
「お嬢様、くれぐれもお気をつけください。皇后が何か企んでいるに違いありません。」
「分かっているわ。飲んだり食べたりしないように気をつける。皇太子殿下も一緒に行ってくれるからきっと大丈夫よ。」
もちろんシャルロットだけでは皇后の部屋に行くことはせず、念のため皇太子と一緒に行くこととした。
「あら、よく来てくれたわね。ミゲルが儚くなってから私も気落ちしていたから、新しいドレスでも仕立てて気晴らしをしようと思うの。もうすぐ皇太子妃になる貴女も一緒に仕立てたら良いかと思ってお誘いしたのよ。」
「皇后陛下に拝謁いたします。此度はお誘いいただきありがとう存じます。」
「さあ入って。」
シャルロットと皇太子、イヴァンの通された皇后の私室は煌びやかで派手な装飾であったが、母国のものだろうか、余り帝国で見かけないような調度品も多々あった。
「美味しいお菓子とお茶も準備させたのよ。召し上がって。」
「……はい。」
壁際に控えたイヴァンは注意深く周囲を気にしている。
シャルロットと皇太子はソファーへと腰掛け、目の前のお茶とお菓子を皇后は勧めてくるのであった。
「さあ、美味しいわよ。召し上がれ。」
皇后はお茶と目の前のお菓子に手を伸ばし口に運んだ。
シャルロットと皇太子はお茶を口に含むふりをして、お菓子には手を伸ばさなかった。
そんな二人を見て皇后は落胆の表情を隠さなかった。
「皇后陛下、それでは採寸へいらしてください。」
「分かったわ。シャルロット嬢、私の懇意にしている仕立て屋が貴女のドレスを作ってくれるから。さあ、採寸をしに行きましょう。」
仕立て屋が声を掛け、皇后がシャルロットを大きな衝立で仕切られた空間へと誘った。
「さあ、美しいドレスを作りましょうね。」
皇后がシャルロットの傍を離れ、見えなくなるとシャルロットはホッと息を吐いた。
そして仕立て屋が次々に採寸していき、その都度指示に従って動いた。
全ての採寸が終わった頃、仕立て屋がシャルロットのサイズに近いドレスを持って来て色味を見たいから試着をする様にと促した。
「キャーッ!」
鋭い叫び声が部屋に響き、衝立から離れたソファーで待機していた皇太子とイヴァンは急ぎシャルロットのいる衝立の方へと向かった。
「シャルロット嬢!」
「お嬢様!」
「侍医を呼べ!」
二人が衝立の裏へとまわると、シャルロットのふくらはぎに小さな蛇が噛み付いている。
たちまち皇太子が腰に差した剣で蛇を刺し殺し、シャルロットから離したが、患部はどす黒く色が変わりシャルロットは青白い顔で意識を失っていた。
外の護衛騎士へ侍医を呼ぶように声をかけ、ドタバタと走る音が聞こえたが皇太子は気が気ではなかった。
「あらあら、可哀想に。ミゲルと同じ目に遭うなんてお気の毒。ヴィンセント、貴方がミゲルを殺したのよ。大切な存在を失う辛さを貴方も知ればいいわ。」
現れた皇后は真っ黒なドレスに着替えており、皇太子は臍を噛んだ。
「皇后陛下、貴女が蛇を?」
「お部屋で飼っていたものが逃げ出したのね。ごめんなさい。わざとではなかったのよ。」
「そのような言い訳が通じるとでも?」
「どちらにせよ、もうシャルロット嬢は助からないわ。それならば、貴方にとってこのような言い合いは不毛ね。たとえ私がその子を殺したとしても、ミゲルと同じでもう生き返ることはないのだから。」
そして皇太子は皇后との言い合いよりも、イヴァンの腕の中で青白い顔をしたシャルロットを見つめた。
薔薇色であった唇も紫色に変化しており、明らかに毒がまわったことを示している。
「誰か!皇后を捕らえよ!そして地下牢へ連行せよ!」
皇太子の命令に、皇后は護衛騎士たちに捕らえられ連行されて行った。
「あはははははは!ヴィンセント!いいざまね!ミゲルを失った私の気持ちを知ればいいわ!」
高笑いをしながら連行されて行く皇后を見届けて、皇太子はイヴァンに抱かれたシャルロットを受け取り抱きしめた。
「シャルロット……。すまない。」
シャルロットはもう瞼を持ち上げることはなく、青白い顔のままで浅い呼吸をしているだけであった。




