39. シャルロットの毒殺の結末
シャルロットは自室に運ばれたが、顔色は悪く呼吸も浅かった。
「皇太子殿下。残念ながらあの蛇はミゲル皇子を襲ったものと同じ蛇です。比べて小さな蛇でしたから即死には至りませんでしたが、もうシャルロット嬢は長くはないでしょう。」
侍医が部屋を退室したあと、皇太子は寝台の上のシャルロットの手を握り声をかけた。
「シャルロット。すまない。まさか皇后があのように分かりやすいことをするとは思わず、口にするものだけを気にしていたから。」
シャルロットは浅い呼吸を繰り返すのみで、返事はなかった。
「皇太子殿下、皇后はどうなりますか?」
「あのように私たちの目の前で、しかも私とシャルロットの護衛騎士たちもいる前で自分の仕業だと暴露したようなものだからな。皇太子の婚約者を害した罪で罰せられることは免れないだろう。」
「成る程。皇帝はそれを許すでしょうか?」
「さあな。しかし私は絶対に許さない。最悪、皇帝陛下には隠居していただくしかないだろう。」
皇太子はこれまで皇后を放置した皇帝の罪さえも問い、自分が皇帝と成り代わる覚悟もあると言う。
「皇太子殿下はそのようなお覚悟がおありだと?」
「当然。シャルロットは私の最愛の存在だ。それを害した責任は必ずとっていただく。」
シャルロットはその晩皇太子とイヴァンに付き添われて過ごした。
「……寝てしまったのか。」
まだ薄暗い中を微睡から目を覚ました皇太子は、すぐにシャルロットの顔色を窺った。
すると、シャルロットの顔は昨晩よりも色味が差して改善しているように見える。
「シャルロット。」
皇太子が思わず名を呼ぶと、シャルロットのまつ毛が震えて瞼が開いた。
そして美しい色彩の瞳は目の前の皇太子を写すのであった。
「殿下……?」
「ああ、シャルロット!大丈夫か?辛いのか?」
完全に瞳を開けたシャルロットの顔色は頬に赤みが差して、青かった唇も薔薇色に戻っている。
「お嬢様、喉が渇きませんか?」
「イヴァン……。そうね、ひどく喉が渇いたわ。」
「こちらを。」
ゆっくりと皇太子に抱き起こされ、寝台に座ったシャルロットはイヴァンの差し出した果実水を飲んだ。
「私、どうなったの?」
現状がよく分かっていないシャルロットに、皇太子は昨日の出来事を説明をした。
「でも今は体は何ともないわ。何故かしら?」
「僭越ながら、私が蛇毒の血清を打ちました。」
「「え?」」
シャルロットだけでなく皇太子も口を揃えて疑問の声をあげた。
「血清だと?」
「はい。狩猟大会の時に私が噛まれた蛇の毒、今後何かに使えるかも知れないとあの後血清を作りました。そして、昨日皇太子殿下が皇后と話している隙にお嬢様に注射いたしました。」
皇太子はホウッと息を吐き、そしてイヴァンに礼を述べた。
「イヴァン、礼を言おう。本当に助かった。」
「お嬢様のためにやったことです。それに、皇太子殿下が以前準備していただいた設備と人員を勝手に使わせていただきましたので悪しからず。」
「そんなことは不問に決まっている。ありがとう。」
イヴァンは表情を変えぬまま、礼を取った。
「イヴァン、ありがとう。」
「お嬢様、当然のことです。ほら、しばらくはお休みなさいませ。」
そうしてシャルロットは死の淵からイヴァンの血清によって蘇り、数日後には普段通りの生活に戻れるようになった。




