37. 返り討ちとなったミゲル皇子
「おーい!重いから誰か手伝ってくれ!」
森の方から大きな声がして天幕から出た三人が見たのは、ゆうに三百キロはあろうかという熊を数人の従者と共に持ち帰ったヒュンケル皇子であった。
「ヒュンケル、凄い大物を狩ったな。」
「ヴィンセント兄上、今年は私の優勝でしょう?」
「そうだな、そろそろ時間切れだしお前の獲物が一番だろう。」
結局優勝者はヒュンケル皇子となり、大会は終わったのだった。
「ミゲル!ミゲル!誰か、ミゲルを見ていないの?」
閉会の場に皇后は居なかったが、皆が解散しようとした時に叫ぶような皇后の声が響いた。
「皇后、どこに行ったのかと思えば。どうしたのだ?」
「陛下!ミゲルが帰って来ないのです!皆の者、ミゲルを探しなさい!」
「何?一体どこまで行ったんだ。まさか森で迷ったのではあるまいな。」
暗くなってきた森の中で発見されたミゲル皇子は既に事切れていた。
はじめに発見された時は疲れて眠ってしまったかのように穏やかな顔色だったという。
「ミゲル皇子殿下は毒蛇が皇太子殿下を襲った場所辺りで見つかりました。もしかしたら同じ毒蛇に噛まれたのかも知れません。」
ミゲル皇子を見つけたのは皇后の従者で、青白い顔をしてそのように述べた。
「ミゲル!ミゲル!どうしてお前が!」
「皇后……。」
皇后はミゲル皇子に駆け寄ろうとしたが、皇帝が皇后を引き止めた。
噛み跡が見える部分には見つからず、毒が身体の何処かに付着しているかもしれないと侍医に言われたからである。
こうして、ミゲル皇子は儚くなった。
皇后は憔悴しきっており、皇帝に支えられながらミゲル皇子の遺体と共に城へと戻って行った。
「イヴァン殿、あの毒蛇はミゲルが放ったものだったのだな。」
「はい。そのようですね。あの時私は咄嗟に自分の血飛沫を毒蛇を放った刺客の方へと飛ばしましたから。ミゲル皇子がその刺客だったのでしょう。」
皇太子とイヴァンは森の天幕の中で静かに語った。
「では、ミゲル皇子はイヴァンの毒で亡くなったの?」
「はい、あの安らかなお顔はまさに私に宿る毒による死に顔です。」
「そうなの……。」
シャルロットは幸いなことに一度も自分に宿った毒で誰かを傷つけることはなかった。
しかしイヴァンはシーハンとして生きている時に、何度も暗殺者として毒を使ってきたのだ。
イヴァンははっきりと口にはしなかったが、幼い頃の僅かに残った記憶からシャルロットはそれを思うと胸がグッと苦しくなった。
「ミゲルが謀ったというよりはきっと皇后が毒蛇を準備したのだろう。バーテルス国で毒蛇は多く見られ、色々なことによく使われるものだからな。」
「色々なこと?あの晩餐会の時のお酒のような?」
「そうだ。あれも一種の毒蛇だと以前皇后が話していた。薬草に浸け毒を抜いてから酒へ浸すとな。」
やがて城へと帰った三人は明日迎えることとなるミゲル皇子の葬儀に向けて早めに休むこととなった。
翌日、ミゲル皇子の葬儀は皇族の礼拝堂で行われ、遺体は皇族が代々安置されている教会の地下へと運ばれた。
葬儀の際、皇后は憔悴しておりミゲル皇子をどれだけ可愛がっていたか分かるほどに悲しみに包まれていた。
そして葬儀が終わる頃には皇太子とシャルロットへ、焼き殺すような憎悪に満ちた視線を送るのであった。




