16. 久々の抱擁
「イヴァン、皇后の言う通りだわ。私はやはり皇太子妃にはなれない。」
「お嬢様、あの楽士の死んだ原因はお嬢様の毒ではありません。」
自室へとさがったシャルロットは沈痛な面持ちでイヴァンへ語った。
「分かってるわ。解毒薬が効かなかったもの。あれは別の毒がお茶に混入されていたのよね。」
イヴァンは解毒薬を常備している。
今までシャルロットの毒に侵された者は幸いにしていなかったが、何があるか分からないからとシャルロットから常に持たされていた。
これを予防的に日常飲むことは毒にもなり得るが、緊急時には飲ませるしか助かる方法はない。
あの時も楽士の口に解毒薬を入れ、確かに飲み込ませたにも関わらず効かなかった。
即ちそれは別の毒による毒殺だということだ。
この解毒薬はシャルロットとイヴァンの毒に対しては効果を発揮するが、他の毒に対しては効かないからである。
「でも、どちらにせよ私のせいで罪もない人が一人亡くなったわ。」
極度に落ち込むシャルロットを見て、イヴァンは密かに舌打ちをした。
せっかく最近では前向きに皇太子妃となる気持ちが芽生えてきていたにも関わらず、このような些末なことでシャルロットが苦渋を味わうことはイヴァンにとっては許し難いことであった。
「好色家なだけではなく、残忍なお方なのですね。あのような一見可憐な外見に皇帝陛下も騙されているのでしょうか。そうだとしたら、陛下も賢帝と呼ばれるほどの存在でもないということですね。」
「イヴァン、ここは皇帝陛下の城なのだから誰が聞いているか分からないでしょう。口を慎みなさい。」
シャルロットは自分が一番辛そうな表情をしている癖に、従者が不敬罪に問われてはいけないと諭した。
「お嬢様が辛い思いをされたことが私には許せないのです。」
「貴方の気持ちはよく分かっているわ。だって貴方と私は同じですもの。」
イヴァンは悲しむシャルロットをそっと抱きしめた。
シャルロットが成長してからはあまり直接的に触れることは少なくなっていたから、久々の抱擁だった。
猛毒を身体に宿す令嬢と従者は、暫くの時間部屋で静かに過ごした。




