15. 好色家皇后のお気に入り
「シャルロット様、皇后陛下が今から薔薇園でお茶会でもどうかとのことです。」
その日の妃教育が終わり、自室でイヴァンとゆっくりお茶でもしようと考えていたシャルロットは思わず顔を歪めた。
「お嬢様、お顔が大変なことになっておいでですよ。せめてあの侍女が去るまでは我慢できないのですか?」
「煩いわね。分かっていても勝手に顔が動くのよ。」
コソコソと小声でやり取りをする二人を怪訝な顔で見つめる侍女に、シャルロットは急いで是と答えた。
「婚約から今までずっといじけてお会いすることもなかった皇后陛下が、何故急にお茶会など開こうと思ったのかしら?」
「さあ?この際にお嬢様をいびって鬱憤を発散させようとお考えなのでは?」
「そんなの性格が悪い貴方じゃないんだから。どちらにしても支度しないと。」
早々と支度を済ませたシャルロットとイヴァンは皇后陛下が待っているという城の薔薇園のガゼボへと向かった。
「あら、いらっしゃったようね。」
「皇后陛下に拝謁いたします。シャルロット・ド・デュバル参りました。」
シャルロットは皇后に優雅なカーテシーを披露した。
皇后は美しく見事な薔薇園の一角にあるガゼボで、数名の楽士を招いてお茶会をしていたようだ。
「シャルロット嬢、暫く体調が優れなくてお会いすることもできずにごめんなさいね。今日はお気に入りの楽士たちを招いて気分転換をしていたのよ。貴女も厳しい皇太子妃教育でお疲れでしょうから、どうか楽しんでいってね。」
「ありがとう存じます。」
お茶会をと言われてシャルロットが席についたテーブルはガゼボでお茶をするには不似合いなほどに大きな長テーブルで、その端と端に皇后とシャルロットが座った格好だ。
イヴァンは腰掛けたシャルロットの後ろに控えていた。
「そちらから私の声が聞こえるかしら?少し大きめのテーブルを準備させたのよ。だって貴女は猛毒令嬢と呼ばれていて、その体液で人が殺せると言うじゃない。あまり近くに寄られて毒されたら敵わないものね。」
フフッと可憐に笑う皇后の言葉は、見た目と裏腹に険のあるものであった。
「申し訳ございません。」
シャルロットは詫びの言葉を述べた。
確かに皇后の言うことは尤もで、間違ったことは何一つ言ってなかったのだから。
「さあ、遠慮なく召し上がれ。今日のお茶は私の好きな銘柄なのよ。お菓子も評判のものを貴女の為に取り寄せたのだから。」
「ありがとう存じます。いただきます。」
シャルロットが皇后のお気に入りというお茶とお菓子を『確かに美味しい』と堪能した頃、皇后は演奏していた楽士たちを近くに呼び寄せた。
楽士たちは皆見目麗しく、それらを周りに侍らせた皇后はその全員に艶やかな流し目を送っていた。
皇后の手や足、身体の何処かに触れて何かを乞うような視線の楽士たちにシャルロットは好色家と呼ばれる皇后の悪い癖を見た気がした。
「あら、貴女だけ独りぼっちなんてお可哀想ね。これお前、あちらの令嬢のところへ行ってお茶をいただきなさい。」
皇后は一人の楽士に声をかけてシャルロットの方へと向かわせた。
そしてシャルロットの傍に席が設けられ、そこで侍女に準備された新しいお茶を楽士が飲んだ。
「うっ……!グアっ!」
その刹那、お茶を飲んだ楽士はもんどり打ってその場で喉を掻きむしって苦し気にしている。
「イヴァン!」
すぐにシャルロットがイヴァンへと声を掛けてイヴァンは苦しむ楽士の口に薬を含ませた。
「ウグッ……ああ……。」
しかし、楽士は暫くしてその場で泡を吹き事切れたのだ。
「まあ、大変!誰か、侍医を呼びなさい!」
事が終わってから皇后は急に大きな声をあげて侍女に侍医を呼びに走らせたのだ。
「シャルロット嬢、貴女の毒は恐ろしいわね。私のお気に入りの楽士を殺してしまうなんて。」
皇后の傍で侍っていた楽士たちは恐怖の面持ちでシャルロットの方を見ていた。
しかし皇后はその後取り乱すことはなくその場で淡々とお茶を啜っているのだ。
暫くして侍医が到着したころには楽士の遺体は唇の周りが変色していた。
目を見開き、喉を押さえたままの格好で泡を吹いて死んだ楽士の遺体を見た侍医は何もすることはなく、数名の騎士たちがどこかへ遺体を運んで行った。
「やはり猛毒令嬢の貴女には皇太子妃になる資格などないのではなくて?その毒で、私の可愛い息子を殺されたら堪らないわ。もう一度よくお考えになられた方がよくってよ。」
そう言って扇を口元に当てた皇后は笑っていたように見えた。




