肘が下がると故障の原因になります。ご注意ください。
「うーん……」
「うーん……っす」
「どうでありましょうか!」
兵隊さんのことを簡単に二人に伝えると二人とも腕を組み首を傾げる。
「アネキはこんな感じの霊を知ってるっすか?」
「ここまではっきりと会話ができる霊も珍しいだろうな。俺が父ちゃんに聞いたのは未練を残してぼんやりと目的のために動く霊の話だけだ」
「私もっす。どうするっすか?」
「どうしような……」
二人とも再度首を傾げ額にシワをよせる。
「なぁ?彼女には会うことができて最初の未練は解決したんだよな?街が気になるってなんだ?」
「大雑把にしかわかりませんが……多分この街といいますか…この商店街の人々が気になってるのです……」
「人?また会いたい人がいるとかか?」
「私は未練を残してここの商店街に縛られていました。初めは意識もそこまでなかったと思います。ただ長いこと待っていると段々暇になってきて、いつからか歩く人々を観察するようになりました」
長いこと縛られてたから街の霊力を溜め込んで少しずつ意識が目覚めたのか?
「例えばあの時計の側にある金物屋があります。今では2代目に継ぎましたが継ぐまでには一悶着がありまして、今の旦那は最初金物屋なんて継いでられないとまだ学生の頃?でしたか荒んでいた時期がありましたが紆余曲折ありまして最終的には店の前で親子が殴りあいの喧嘩を始めて二人の意見を言い合いお互いの気持ちを理解して今の旦那が店を継ぐ意思を固めたのですよ」
「へー山さんは昔は荒れてたって母ちゃんに聞いたことがあったけど本当だったんだな」
「今あちらから歩いて来た親子連れの母親は愛ちゃんと言いまして昔からこの商店街を使っている女性です。今は少しふくよかにはなりましたが昔は女優のようにスラッとしていて複数の男性に口説かれていました。それでも昔からお付き合いしていた男性一途でその男性と結婚したのです。ちなみに愛ちゃんの娘の名前は真愛ちゃんです」
「詳しいんだな」
「まだ時計に縛られていた時に私のいる時計の前でプロポーズをされましたから」
「ちなみに俺のことは知ってるか?」
「名前は知りませんでしたが何年か前は野球のユニフォームを着て友人と買い食いをしていたのを見たことがあります」
おおぅ……確かに昔は智之と部活の帰りによく買い食いしてたな……
「あーーなるほどな」
「華凛、何がなるほどなんだよ?」
「あんたはあれだろ?人を見すぎてその人の今後がどうなるか気になっちまってるんだな」
「それが未練か?」
「多分……昔から気になるとずっと考え込む性格でしたから」
「人の成長を見守り過ぎてそれが未練になるなんて終わりがねえじゃねーか」
「えぇ……だから困っていて……どうにかできませんかね?」
「あんたはそれで成仏して満足なのかよ?」
「満足とまではいきませんが私もこのままずるずると現世に残っているのも良くないと思っていて……このままではおっしゃる通り終わりが無さそうで……」
「俺も何度か霊を成仏させたことはあるけどさ。全部悪霊だったし物理で殴ってだからなぁ……殴るのも可哀想だし……」
「アニキ?銀狐さんに教えてもらった霊力の循環を使ったらどうっすか?」
「循環を?」
「それなら良いんじゃないか?康成がそいつの霊力を吸収したら物理じゃなくて成仏させることができるんじゃないか?」
「確かにそれなら一時的に俺が取り込んでから放出すれば成仏になる……のか?」
「なるっすね。アニキが取り込めばそれはアニキの霊力になるっすから」
「……だそうだけどどうする?本当に良いのか?」
「はい、お願いします。確かに未練は全て果たすことはできないかもしれませんが……そもそも全てを叶えようとするほうが無理だと思うのです」
「まぁな、全てを叶えることができるなんてそんなに人生甘くないからな」
「この何十年、商店街の中だけでしたがいくつもの出会いや別れを見てきました。ナニかを得るためにはナニかを諦めなければいけない。諦めなくても良いにしろ妥協する必要がある。私は諦めたり妥協はしたが後悔はしていない」
「やっぱり人生の先輩の言葉には重みがあるな……それじゃあやるか……手を借りても良いか?」
俺が手を出すと兵隊さんは躊躇なく俺の手を両手で握る。
「あぁ……これで私も彼女の側へと行ける……お願いします……」
「あぁ……」
銀狐に教わった循環を利用して俺は兵隊さんの霊力を少しづつ吸収すると兵隊さんの体が薄くなっていく。
「彼女を長いこと待たせました……先に待っていたのは私でしたがいつの間にか追い越され、私が願っても追い付けなかった……でもこれでようやく貴女の隣に並ぶ事ができます。今日という日の巡り合わせに感謝します……」
俺の中に兵隊さんの霊力と共に今までの思い出が巡る。
幸せ、後悔、理解、悩み、考え、思い出、葛藤、一人の男が生きてきた日々、死んでからも思い続けた日々。
人が死んでも思いは死なない。
人生が本当に終わる時は未練が無くなった時ではない、後悔が無い時だ。
未練があってもそれを含めてこそその人の人生、未練も含めて少しでも笑う事ができれば……辛いけど楽しかったと思い返す事が1つでもあれば……
それは後悔のない人生だったのではないだろうか?
「私はずっと待っていましたが決して後悔はしていない。むしろ貴重な体験でした。長くこの街……この商店街を見守る事ができたのだから……君達に感謝します……ありがとう……」
最期の言葉を言い終えると同時に全ての霊力が俺の中へと吸収され、一人の男の人生が終わりを迎えることができた。
………………………
「本当に康成と一緒だと飽きる暇がねぇ……ぜっ!」
カキーーン!!
「良い土産話になるっす……ねっ!」
コンッ!
俺達は少し落ちた雰囲気から脱却するため商店街にある小さなバッティングセンターへと足を運んだ。
「仕方がねえだろ。俺が巻き込まれたくなくても巻き込まれちまうんだから……っよ!!」
カキーーーン!!!
おっ良い当たり。
「それも才能っす……っね!」
カン!
「なかなか上手く当たらないっすね……」
「羽歌、バットのベッドが下がってるぞ。もう少し平行にしてみろ」
「こうっす……か!」
カキン!
羽歌は飲み込みが早くゴロの当たりがライナーへと変わる。
「なかなか的に当たらねー……っな!」
カキーーン!!
華凛は普段から棒状の鈍器を扱っているためかすぐに要領を掴み、今はホームランの的を狙っている。
ここのバッティングセンターは小さいが設備は充実しており、勢い良くホームランの的に当たると派手なファンファーレと商品が貰える。
毎週商品が変わり、今週の商品はブランド物のカーボン製のバットだ。
しかし商品はホームランチャレンジコースを選択した場合のみで20球1000円もする。
しかも130キロの球がランダムな場所に投げられるから打ちにくい。
それでも己の実力と運を確かめるため毎日挑戦者があとをたたない。
「的を殴るのや撃つのは得意なんだけどな。それに今日の服装だと動きにくいぜ」
まぁスカートでバッティングセンターはなかなかキツイものがあるからな。
俺は大歓迎だけど。
濃い水色がチラチラ見えとる。
「だぁ!くそー!!駄目だったぜ!」
「そんなに上手くはいかないっすね」
「まぁ当てることはできなくはないけど難しいんだよなぁ」
「おっ?康成じゃねーか!」
俺が後ろを振り向くと店のカウンターに見覚えのある顔が座っていた。
高校の部活で一緒だった山本だ。
そういえばここのバッティングセンターは山本の実家だったな。
毎日タダで練習できて良いなって同級生に羨ましがられてたっけ。
「久しぶりだな」
「本当にな。今日は若い娘を2人も連れてどうしたんだよ。デートか?」
「羨ましいだろ?山本は?」
「少しは否定しろよな。おちょくりがいがねーやつだな。俺はさっき練習が終わって今帰って来たんだよ」
「そういえば社会人野球とかやってたな。もうすぐ大会だっけ?」
「そうだよ。普段はここで仕事だから練習の時だけ親父に店番してもらってるんだ。それより連れの娘すげーな。的には当たらねーけど普通の女の子は130キロのボールをあんなにポンポン打てねーぞ?」
普段の華凛に馴れてたからな。そういえば普通の女の子は130キロ打てねーか。
「最近の女の子はあんなもんだよ。それよりエグい商売しやがって、ホームランコースだけでどれだけ儲けてるんだよ」
「笑いが止まらないくらいだな。それでも達成者は出てるし商品も良い物を使ってるんだぜ?」
「確かにな。○○社製の最新モデルじゃねーか」
「お前も挑戦してみるか?今なら先週の余りのグローブも付けてやるよ。まぁ当てられたらだけどな」
「おっ!康成もやるのか!」
「アニキやるっす!」
「ったく!仕方がねーな……」
俺は山本へ1000円を払う。
「まいどありー、康成のあだ名を思い出すな」
おい、止めろ。
「アニキのあだ名っすか?」
「あぁ、あいつは高校の時レギュラーじゃなかったけどな。打撃は中々上手かったから代打要因でうちの野球部の秘密兵器って言われてたんだよ。まぁ最後の大会は出番が無くて秘密のまま終わった秘密兵器って言われてるんだよ」
まぁ……要はあれだ……当たればデカイだ……当たればな……
俺はゲージに入りコインを入れる。
すると画面に投手が映り投手が振りかぶると勢い良くボールが発射される。
コースがランダムに投げられるボールは打ちにくく、俺は当てることはできたがタイミングが合わず右へと逸れる。
やっぱり130キロは速いな……強化を使ってたとしても良く華凛はあんなにポンポン打てたな……
………ん?
あぁ……俺も強化使えば良いじゃねーか。
2球目3球目と何とか当てながら俺は集中する。
霊力を体に纏い球に集中するとボールが遅く感じるようになる。
(うおっ!遅っ!)
速いボールが遅くなりすぎて逆にタイミングが狂う。
ボールも前には飛ばずチップして後ろのゲージに当たる。
「おいおい!どうした康成?この娘より飛んでねーぞ!」
(うるせ!でも……タイミングはだんだん掴めてきたもう少し近くに来たら発動して……)
俺はボールが発射されると同時にではなく今までの経験から半分位の距離に来て球筋を見極めた状態でスローを発動する。
先程とは違い一度球筋を見極めてからのスローは少しのタイミングの微調整とバットが当たる角度の調整のみで段違いに打ちやすい。
バットの真芯を捕らえボールはホームランの的の少し下を通りすぎる。
「康成!今のは惜しかったぞ!」
「あぶねー」
ランダムに発射される球を同じ位置に飛ばすことは難しく何球か惜しいのはあったがなかなかホームランへは当たらない。
(残り3球か……さっきみたいに真ん中高めの球がくれば………来た!)
残りの球数的に多分ラストチャンスだろう。俺は先程よりも少し、本当に数ミリの違いだがボールの下を叩く。
カキーーン!!と勢い良く打たれた打球はホームランの的へと吸い込まれるように直撃しガコッ!!と鈍い音が聞こえホームランの文字が光る。
それと同時に競馬のスタートのファンファーレに近い音がバッティングセンター内に響く。
「嘘だろ……」
「おぉぉーー!!やったな康成!!」
「やったっす!!優勝っす!!」
いや、優勝ではないけどな。
「まぁ約束だから仕方ねーな。ほらよ」
山本は俺へバットとグローブを寄越す。
まぁ少し……いや……かなりチートを使ったけど……山本は結構稼いでるみたいだし大丈夫だろ。
「なぁ康成、今度試合の助っ人に来てくれよ。今のお前なら秘密じゃ終わらせないからよ」
「代打かDH限定ならな」
「大丈夫だ。お前の守備力はずっと秘密にしておくから。守備にはつかせない……いや、つかせられないからな」
自分で言うのもあれだけど俺の守備はポロポロでボロボロだからな。
「なぁついでだからボールも少しくれよ」
「何がついでだ。すでにうちはバットとグローブを出して赤字だ。ボールくらいはうちにも売ってるから買え馬鹿康成」
ケチ
こうして俺はかなり……いや……やっぱりこれくらいなら少しだろ?チートを使ったがバットとグローブを手に入れた。
ちなみに後日、俺のグローブも貸してやって華凛と羽歌はうちの庭でピッチング練習を始めた。
「いくっすよ!岩瀬のスライダーっす!」
なかなか羽歌は良い趣味をしていた。




