土産は自分用が一番無頓着
男湯がなのか、女湯もなのかは康成にはわからないが入り口から中に入ると脱衣場は広く、旅館の大浴場みたいに設備も整っていた。
「さすがに現世には劣ると思いますがなかなか立派な物でしょう?」
「いやいや、あっちにも劣らず充分立派ですよ。ドライヤーはないけど代わりに髪を乾かす温風の出る設備もあるみたいだしな」
「なるほど、現世にも劣らずですか……それは嬉しいですね」
脱いだ衣類を籠に入れ、浴場に入ると大小別れてはいるが合わせると学校の体育館並みの広さはあるであろう温泉が広がっていた。
「何か温泉に入る時のマナーみたいなものはあるんですか?」
「マナーですか?そうですね、一応身体を一度流して汚れを落としてから入るくらいですかね?」
そこは現世とも同じかな?
甚平に言われたように二人は一度洗い場へ向かい備え付けの石鹸で身体を洗う。
「確かにあまり匂いはしないな……甚平さん、髪を洗う時も石鹸か?」
「えぇ、石鹸ですね。私はあまり気になりませんが、女性は髪が軋むと言って風呂あがりは髪に香油をつけたりしますね」
なるほどなぁ、確かに石鹸で洗ったら脂や汚れは落とせるけど、髪は軋むな。
話を聞く限りこっちにはシャンプーやトリートメントは無いのかな?
「髪を洗うための専用の石鹸とかは無いんですか?」
「髪専用ですか?無いこともないですが良い匂いがするとかその程度ですよ?現世にはあるのですか?」
「髪を洗うためのシャンプーに髪をケアするトリートメント、後はヘアオイルとかかな?現世でも男は髪には無頓着ですけどシャンプーは毎日しますね」
「康成君、シャンプーとやらが高価ではなければ今度うちにも分けてくれませんか?」
「全然いいっすよ?毎日使う物だからそこまで高くは無いですし。まぁ高いのは高いからピンキリですけどね。俺が持って来ても良いですけど今度現世に来たら色々試してみますか?母ちゃんが貰った色々な種類の試供品があったはずだし」
「本当ですか!?それは良かった。最近華夜さんが髪が纏まらなくて困っていたようで、華凛は髪には無頓着のようですが……是非お願いします」
「どこの世界も女の人は髪にうるさいですからね。うちの母ちゃんもシャンプーにはこだわるみたいですから……」
「えぇ……いつもと変わらない気がすると言ってもなかなか信じてもらえないですし……最近は無くなりましたが華凛は寝癖も直さずに遊びによく行きましたけどね、あの娘はもう少し女の子らしくなって欲しいのですが……おっと、話しすぎましたね。そろそろ入りますか」
甚平に促され康成は温泉へ向かう。
手で温度を確認すると40度よりも少し高い位だった。
少し深い温泉の段差を下り、康成は肩にお湯が被るくらいの位置に座る。
甚平はもう少し深い所に座ると目を閉じる。
「何度も来ていますが、やはり温泉は良いものです……」
「そいつは同感ですね……このお湯は……何て言えば良いのか、気持ちが楽になるお湯だ……」
「「ふぅ………」」
現世の温泉は肉体疲労に効くイメージだけど……霊界は霊体がメインだし、こっちの温泉は精神疲労に効くのか?
無茶苦茶気持ちいいな……
……………………
少し時間が遡り。
女湯
「やっぱりアネキの胸は反則だと思うっすよ……あと尻も……」
「なんだよ?あまりじろじろ見るなよな」
華凛と羽歌も脱衣場で服を脱ぐと羽歌は自分の身体と華凛を比べて交互に見ている。
「どうしたらそんなにバインバインになれるっすか?体型だけでいったら母親に似ている感じでもなさそうですし」
「特に何もしてねーよ。しっかり飯を食べて、毎日狩りをしたり外で遊んだりしたらここまで成長したぞ?」
「アネキの年まで同じことをしたら少しは近づけるっすかねぇ?何か無理そうっす……」
「でもよ……大きくてもあまり良いことねーぞ?狩りの時はサラシを巻いて行かねーと痛いし、結構肩が凝るんだぞ?それにな……街に来ると結構見られるんだぜ……男共に……」
「私もそんなこと言ってみたいっす……」
「馬鹿なこと言ってねーでさっさと風呂に入るぞ」
「うぃーす」
華凛と羽歌も軽く身体を洗うと温泉に浸かる。
「ふぃー、やっぱり温泉は良いっすねぇ」
「羽歌、だらしない顔になってるぜ?まぁ、確かに気持ちが良いのは同感だ……」
羽歌と同じく華凛も手足を伸ばし温泉の縁に肩を乗せる。
「ねぇアネキ?」
「ん?なんだよ?」
「胸って本当にお湯に浮くんすね……」
ゴン!
「殴るぞ?」
「おぉぉぉぉ……殴ってから言っても遅いっすよ!」
羽歌は頭を抑え低い声を出しうずくまる。
目の前にある二つの山脈を涙目で見ながら「神様は残酷っす……差別っす……」と呟いた。
………………
現世 天童家
「へっくち!なんじゃ?誰か我の噂でもしとるのかの?」
お前じゃない。
…………………
約束の時間が近づき康成達は待ち合わせ場所の施設のロビーで女子達があがるのを待っていた。
「アニキー!お待たせっす!何飲んでるっすか?」
「キンキンに冷えた牛乳だよ。こっちにも風呂上がりに牛乳の文化ってあるんだな……羽歌も飲むか?」
「牛乳はあまり好きじゃないっす……」
「牛乳はカルシウム豊富で成長に必須だぞ?成長期の羽歌が飲んだらもっと大きくなれるぞ?」
「飲むっす!飲んでバインバインになるっす!」
「そういえば俺も父ちゃんに言われて牛乳を毎日飲んでたな」
「それっす!?アネキのバインバインの秘密見つけたっす!」
羽歌は康成から牛乳代を貰うと売店へ買いに走る。
「私も牛乳は毎日欠かさずに飲んでましたね。おかげでここまで大きくなりましたよ」
甚平さんや華凛のは牛乳のおかげって言うか、種族補正だと思うけどな……
その後、風呂あがり少しの休憩を挟み康成達はお土産の売店通りへ向かった。
再度待ち合わせ時間を決め各々が売店を見てまわる。
俺はさっき買っちゃったからなぁ……
「あっ!アニキ!もう買ったっすか?」
小物を扱う店の前で羽歌は頭を悩ませていた。
「俺はさっき買ったからな。羽歌は決まったのか?」
「まだっす。族長としてみんなにお揃いのものが欲しいっすけど良さそうな物は人数分買うとお金が足りないっす……」
そういえば羽歌は一応族長だったな。
もともとほぼ一文無しで村に来た羽歌は当然お金を持っているはずもなく買い物前に甚平からお土産用にとお小遣いを貰っていた。
お土産用と言っても天狗族全員分ってなると安い物でも合わせると良い額になるからな。
「いっそそこら辺から出てるお湯を詰めて皆に有難いお湯って渡したらお金はかからないっすけど……」
「そんなどこにでもある詐欺商法みたいなことは止めなさい。で、いくら足りないんだ?」
羽歌は再度店の商品を確認する。
羽歌が選んでいたのは一番安い木製のキーホルダーだった。
一つ250円程の商品だが人数分買うとなると確かに予算を超えてしまう。
「なんだよ、それくらいなら俺に任せろ。今日のアニキは金持ちなんだぜ?」
康成は店員に声をかけ木製のキーホルダーではなく、ワンランク上の金属製キーホルダーを人数分購入する。
「アニキ、助かったっす!ありがとうっす!」
そういうと羽歌は康成に感謝し貰ったお小遣いを渡す。
「馬鹿、その金を俺が貰っちまったらかっこよさ半減だろうが」
「でも……」
「良いんだよ。アニキをかっこよく終わらせろよな。その小遣いは羽歌が自分用に土産を買えよ」
「やっぱりアニキはかっこいいっすね。ありがたく使わせて貰うっす」
羽歌は皆に渡すお土産を抱えると自分用のお土産を探し始める。
「随分とかっこいいことをしてるじゃねーかよ」
「だろ?羽歌は普段お調子者だけどな。こういう事に関しては少し遠慮してるみたいだからな」
「俺もそう思って父ちゃんから多めに小遣い貰ってきたのにな。っつうか父ちゃんが最初から気をきかせて多めに羽歌に渡せば良かった話だけどよ」
「アネキのかっこいいところ獲っちまったな」
「気にしてねーよ。家用は買ったから俺も自分用の土産でも探すかな。」
華凛は上機嫌に笑いながら土産屋台を見渡す。
「俺も自分用は買ってなかったし何か買うか。人に買うのは好きなんだけどな……自分用ってなかなか難しいな……」




