夏の混浴物語
「金貨500枚になります。本当は497枚でしたが質も良く是非またお願いしたいので少しですが勉強させていただきました」
ドン!と机に袋が5つ置かれる。
「ほぉ……想像よりもいきましたね。これは嬉しい誤算ですね」
「でも甚平さん、本当にあの量を村からどうやって持ってきたのですか?見たところ大型の冷凍用の霊具も無いですし」
「もしも昼前にこの四人で肉を担いで出発して一時間程で着いたと言ったら信じますか?」
店員は甚平の後ろにいる康成や羽歌を見て笑いながら手を横に振る。
「はっはっは!甚平さん、もしもそこの嬢ちゃんや人族のあんちゃんがこの肉を担いで持って来たのだとしたら、俺は甚平さんに金貨を1000枚やっても良いぜ?まったく面白い冗談だぜ!」
「ご馳走さまです」
「は?」
「いえいえ、何でもありませんよ。皆さんで金貨を数えてしまいましょうか?」
「早く数えて温泉に行くっす!」
「一応金貨の振り分けも説明するかい?」
「そうですね。是非お願いします」
「まずは一番デカイ肉の塊だ。これは300枚の値をつけさせてもらったよ。脂と赤身のバランスも良い、何より皮を剥いで内臓の処理をした以外はそのままだ。大きな肉屋や飯屋だとこのままケースに入れて見せ物にするだけで客が集まるぜ」
俺の肉は300万位か?全然実感が湧かないな……
もしかして俺、こっちで猪を狩って肉を売ってるほうがいい生活できるんじゃねーか?
「次にデカイ肉は120枚、その次が50枚、後は残りが30枚って所だな。細かい計算は省かせて貰ったぜ。どれもこれも質が良くてな。店としてもありがたいぜ」
「それは良かったです。肉覆っていたシートだけ回収したいのですがまだ肉についてますか?」
「あぁ、そのまま冷蔵室に入れたからな。取りにいくかい?」
「お願いします」と甚平が言うと「こっちだよ」と冷蔵室に案内された。
大量の肉が保存されている倉庫に案内されると康成は無性にサンドバッグを殴りたくなった。
ネタが古すぎて職場の後輩に言っても全然わかってくれないんだよなぁ……
「あっ!あれっすね!私が上に飛んでロープをほどくっす!」
羽歌は肉の上に飛びロープの結び目をほどき下まで持ってくる。
「あっ」
その時固定の甘かった他の肉の塊にロープが引っ掛かり肉の塊が康成達の元へと落下する。
「よっ!っと」
ヒョイッ
それを康成は片手で楽々と掴み、近くのシートへと下ろす。
「こら!羽歌!あぶねーだろ!」
「アニキごめんっす!でもこれでシートも一緒に降ろせたっすよ!」
「あっ……」
康成は後ろを見ると商店の店員が目を丸くし康成を見ていた。
「すみません店員さん。何か見ましたか?」
「あの、今、あれ?肉が落ちてきて……」
「金貨1000枚……」
店員の耳元で甚平が囁くと店員は首を横に振り「いやー!今日は寒いですねー!あっ!ここは冷蔵室でしたね!」と笑いながら倉庫を出ていった。
「ふぅ……もう、気をつけてくださいよ?」
「いやーすまんすまん」
「ごめんっす。アニキじゃなくてアネキに落とせば良かったっすね……」
「おい!」
シートをたたみ荷物に入れ倉庫を出ると店員は甚平と目を合わせると「またお願いします……」苦笑いと小さな声で頭を下げた。
「えぇ、お互いに秘密を守れば得るものは利益だけです。是非ともまたお願いしますね」
「よしっ!それじゃあ次は温泉だな!」
「その後は買い物っす!」
…………………
温泉街だけあり温泉施設の規模は大きく様々な種族の人が店員をしている。
本当に名前盗るババァがいそうだな……
康成なんて生意気な名前はお前にはもったいない、ヤスで充分だよ!とか言われそうだ……
「どうかヤスとお呼びください」
「アニキ?急にどうしたっすか?」
「現世に来たら理由を話してやるよ」
「????」
「入浴料を払ってきますね」
「ここの風呂はどんな感じなんだ?」
「風呂っすか?良くある温泉っすよ。効能が……」
羽歌は入り口の掲示板を見ると「これっす!」と指を指す。
「えーと、なになに……打ち身、擦り傷、打撲、火傷、凍傷、美肌効果、保湿、肩こり、腰痛、頭痛、生理痛、角痛、羽痛、耳痛、尾痛………最後の4つは何だ?」
「角痛は俺達鬼人族みたいに角がある種族にある種族痛だぜ。成長と一緒に伸びて来るんだけどな。角の成長が早いと皮膚が追い付かなくて痛むんだよ」
「羽痛は天狗族みたいに羽がある種族によくある痛みっすね。成長で大きくなるときや羽を使いすぎると痛くなるっすよ」
耳痛や尾痛も似たような物らしい。
種族毎、成長と共に痛む場合もあれば、酷使しすぎると痛む種族痛らしい。
角や羽はわかったけどさ……尾と耳ってどうやって痛めるんだ?
それに耳は温泉に浸けられないだろ……
「皆さん、買って来ましたよ」
甚平さんが札を購入してくると俺達四人に配る。
「手拭いは貸し出しの物を借りてきました」
「男湯と女湯って何か違いはあるんですか?」
「特にそのような話は無かったと思いますが……まぁ入ったことないのでわかりませんね」
「男湯より女湯のほうが少し浅いんだぜ。後は女湯のほうが石鹸が良い匂いがするんだ」
「私もお父さんと一緒に男湯に入ったことあるっす。確かに石鹸は女湯のほうが良い匂いっすね」
「へー、そうなんだな。何でだろ?」
「まぁ男性で匂いを気にする方はそこまで多くありませんからね。匂いが気になる方は自分用の石鹸を購入してから入浴に来ますね。温泉街ですので石鹸は色々な店で種類多く売ってますし」
確かに智之と現世の健康ランドに行った時も智之だけ自分用のシャンプーとかボディソープ持ってきてたな……
見た目の割に「こういうとこの石鹸は業務用だろ?何か肌に合わない気がするんだよなぁ」とか抜かしてたな……
温泉施設の中を進むと入り口が3つに別れている。
「真ん中の入り口は何なんだ?」
「真ん中は混浴っすよ。水着必須っすけど」
「そうか混浴か」
「入りませんし入らせませんよ」
「まだ混浴か、しかいってないですよ」
「アニキは混浴に入りたいっすか?」
「混浴かぁ……入りたいけど入りたくない……」
「混浴で何かあったのかよ?」
「まぁ過去に色々な、若気の至り……未知への好奇心……男は常に冒険が好きなんだよ……」
あの夏に起きた冒険と友情の物語……
康成は入り口側にあるベンチに座り語りだした。
…………………
学生の頃、智之と混浴がある温泉地が電車で二時間の所にあるとわかり、どうしても混浴に入りたい俺達は夏休みに朝から電車に乗り温泉へ向かった。
行きの電車では思春期の馬鹿な男子学生らしく、「もしも綺麗な女の人がいたらどうする?」「二人で声掛けよーぜ!」等の馬鹿なことを話し片道二時間夢と希望に胸を膨らませた。
最初に言っておこう。人生はそこまで上手く行くものではない。
温泉に着くと、混浴は他の温泉と同じ場所にあり、周りには温泉目当ての沢山の観光客がいる。
その中で男二人が混浴の入浴券を買う。
なんとも哀れで惨めな光景だろうか、しかし恥ずかしさはあったが二人は貴重な夏休みを削り朝から二時間かけてここに来たのだ。
今さら入らないと言う選択肢は存在しない。
康成が周りを見ながら観光客が少ないタイミング、女性店員が他の客の受付をしている時を見計らい男性店員の手が空いた瞬間を智之に教える。
智之はあらかじめ料金表を確認し二人分の金を握りしめ康成の合図で男性店員から入浴券を購入した。
そこからは早かった。同じように温泉の入り口付近に人がいないタイミングで混浴に滑り込むように入った二人は静かにハイタッチを交わす。
温泉は硫黄ではなかったが温泉特有の香り、普段ではあり得ない男女共同の脱衣室が二人の胸を踊らせる。
二人は打ち合わせ通りに普段と変わらぬように会話をしながら服を脱ぎ、「やっぱりここの温泉は良いよな」と初めてなのに常連客のように玄人ぶり温泉に向かう。
若い男子学生は知らなかった。
混浴に入る年齢層を……
浴場に入った二人を待ち構えていたのは若くみても50過ぎの夫婦が一組。
友人と来ている様子の60~70程のお婆さん達。
さらにお婆さん達は康成達を見て「ほら!言ったでしょ?この時期は若い子が結構来るのよ!」とはしゃいでいた。
そこからは地獄だった。
康成達は身体を洗い温泉に浸かる。身体は綺麗になるが心のモヤモヤがとれない。
そこで智之が提案をした。「まぁ待てよ。確かに今の時間は若い人がいない。でも、きっとどこかで若い女の人が入って来るはずだ。まだあせる時間じゃない。気長に行こうぜ」
康成も頷き確かにまだ昼前だ。若い女の人はランチやカフェでゆっくりする時間だ。これから来るに違いないと自分に言い聞かせ、一度温泉から出て再度身体を洗うフリをする。
二人は浴場の戸がガラガラと開く度に洗い場の鏡で確認する。
同じ場所で洗っていると怪しまれるため、洗い終わると温泉に浸かり時間を見て再度洗い場へ戻る。
何度この行為を繰り返しただろう?
康成と智之の身体は時間と共に綺麗になり、そしてふやける。
諦めてあがれば良いだろうだって?
確かに気づいていたさ……
二人は浴場に入ってからいったい何人の老人の裸を見ただろうか……
本当に若い女性は入って来るのだろうか?
もしかしたら次がそうかもしれない……
二人が出た瞬間に来るかも知れない……
未来は誰にもわからない……
ただ二人は希望を捨てたくはなかったのだ……
未来に希望があることを信じて……
昼前に入った康成達は結局、終電に間に合うギリギリまで粘ったが若い女性は一人も入っては来なかった。
帰りの電車で二人は無言のまま座る。
少し窓を開けると智之の方から今日1日で嗅ぎ慣れた石鹸の香りが漂ってきた。
お互いに思うことはあったが決してお互いを責めようとはしなかった。
二人は同じ傷をおった仲間なのだから………
これが二人の長く短い夏の思い出。
……………………
混浴の思い出を簡単に説明すると甚平はため息と呆れ顔、華凛と羽歌は大爆笑だった。
ちなみに混浴でずっと粘っている男はワニと呼ばれるらしい。
多分ワニのように風呂に入りながら待ち伏せするから。
単純に薄着の女の子を見たいなら海に行くか、プールに行ったほうが早い。
混浴は可能性はゼロではないがメンタルリスクが高すぎる。




