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異 夕暮れと転校生と私

別に題名ふざけてないもん!

異 突撃!隣のアスティン先生! にて、挿絵を追加しております!是非ご覧ください!


「だいじょ、ちょ、ねえ、大丈夫だって!ちょちょまっ、みか!みぃぃかぁあ‼大丈夫だって!!」


「家まで送るぅぅぅぅうう」


「私は小学生か!!も、もう……本当に離れてください」


「み"な"と"く"ん"」


「え?俺?……泉ちゃぁん」


「いや何の流れだよ全くわからないよ」


 夕暮れの帰り道。四人の中で実花が先に道を別れる。

 それなのに、実花は鼻血を出した私を心配してか……腰に抱き着いたまま、中々帰ろうとしないのだ。散々の抵抗の果て、助けを求めたはずの湊のよくわからないきゅるるんとした瞳の返しに実花も私も、白い目を向けた。湊は泣いていた。


「よし、帰ろうかな。変な湊くんも見れたことだし」


「酷くない?」


 湊の涙の訴えを、笑顔で頷きながら受け流した実花は改めて私を仰ぎ見た。心配そうに見やる目に、私は「大丈夫だから!ほら、もう止まってるんだよ」と胸を張る。こくりと小さく頷くと、小山になる唇に笑みをこぼしながら実花は名残惜しそうに道を別れた。


「鏡子ちゃんも!また明日―!!」


「はい。さようなら、安藤さん!」


 長く伸びた影だけが、ずっと名残惜しそうにこちら側へ残る。それでも帰路へつかなければならないのは、影も同じだ。実際の実花とは随分と遅いスピードだけれど、確実にその影も私達と距離を離していった。


 小さくなった形を見送って、湊と鏡子ちゃん、そして私は帰り道を再び進みだす。


「鏡子が引っ越してきて、もうすぐ四ヵ月……?夏も終われば半年、か?はえーよなぁ……」


「ほんとだよね。まだ半年も一緒に過ごしてないのに、鏡子ちゃんとはずっと一緒にいる気がする」


「まじそれな!」


 同じ笑みを浮かべる私は、そのまま鏡子ちゃんを見た。私を見て鏡子ちゃんも、笑みを浮かべた。


「これからも……鏡子は、一緒に居たいと思っております」


「え?」


 思わず聞き返した私に、鏡子ちゃんは赤い太陽の光を受けた頬を、穏やかに上げるだけ。


「なーに言ってんだよ!!当たり前だ!これからも俺達は、ずっと一緒にいようぜ。学生生活なんて瞬く間に過ぎるのよーなんて言葉、気にしてんの?ないないない、そんなわけあるか。俺と、実花と、鏡子と、泉。四人で楽しく、ここで暮らして行こう――!!」


 湊が急に、鏡子ちゃんと私の首をその両腕に巻き込んで太陽に叫んだ。うるさ!と顔を顰める私に、同じように眉を寄せた鏡子ちゃんだったけれど、どこか嬉しそうなのは私の気のせいなんかじゃ決して無い。まだ、どこか疎外感を私達が感じさせていたのだろうか。そうだったら、とても申し訳ない。この四ヵ月、たった四ヶ月の短い期間しか経ってないけれど……。


「私も、鏡子ちゃんを加えた四人で――……ずっとこんな日々が続けばいいと思ってるよ。少なくとも、大学生までは大丈夫だよ」


 私の中に、鏡子ちゃんはかけがいの無い存在として生きているんだから。


「あ、俺こっち……って知ってるか。じゃあな」


 ぶわりと首元の熱気が抜ける。涼しい夕暮れの風が首元を冷やしていく。湊ってばこんなに体温あんのか……と首をさすりながら、私は手を挙げた。


「――――俺も抱き着いた方が、いいのかな?」


「いらない。さようなら」


「ふふふ、また明日。佐倉さん」


 実花とは違った意味で唇を小山にしながら、背を向けた湊を見送る。お互いに同じタイミングであげた手を下げた時、一緒に笑った。


「帰ろっ、鏡子ちゃん!」


「はい―――って、上山さんに先導されるのは少々癪ですね」


「え、ええ……急にツン?」


 目の前に見える桜並木――――は、もう無いけどその並木を抜けて上へ上へ進めば家に帰れる。……帰ったら、何をしようかな。


 家で何をしてたんだっけ。家で何をしなくちゃいけないんだっけ。


 風が吹き抜ける小道の中、少し静かに成った間にそんなことを考えていた。次第に落ちていく視線。首筋に差す光の弱さ。涼しい気温に空を見上げると、鏡子ちゃんが隣に居ない。


「鏡子ちゃん?」


「こちらです」


 少し後ろに鏡子ちゃんは立っていた。鏡子ちゃんの目は、私を見ていない。

 分かれた道の片方を見つめて、立ち止まっている。


「あちらには何があるのですか?」


「そっち?……うーんと、公園があるんじゃなかったっけ」


「……そのようですわね。上山さん、―――まだ帰らなくてもいいでしょう?」


 え、まさか。と目を丸くすると鏡子ちゃんが私の手を掴む。そのまま駆け出す鏡子ちゃんに、「わかった、わかったよ!」と私も引きずられる形で走り出した。





「鏡子ちゃん、あのね。あの、楽しむとはいいと思うんだけど……そんなにびゅんびゅん漕いでたら、手、錆びだらけになるよ」


「関係ありませんわ!!鏡子は空高く、飛び上るのです――――っ‼」


「は!?ばか、危ないって――――――ッ!‼!」


 公園に着くと、鏡子ちゃんは目を輝かせて荷物を私に放り投げて駆け出した。辛うじてキャッチした私を置いて、鏡子ちゃんは珍しく声をあげて喜んだのだ。

 それが、その、―――ブランコである。


 ブランコを目の前にして「久しぶりですわ!!ブランコ!!ブランコですよね!?!?」と星が煌めく瞳が向くので「そ、そうですよ……」と歩いて近づくも早速鏡子ちゃんはブランコに乗っていた。


 ……訂正しよう。

 乗って、立っていた。


 ででん!!と昔見た効果音を醸し出す表情で、鏡子ちゃんは立っていたのだ。案の定、そのまま勢いを付けて漕ぎだした。

 私は荷物を木陰に置いて、隣のブランコに腰を降ろす。―――そして、今に至る。


 鏡子ちゃんはブランコが一番高い位置で、その手を離した。小さい子も大きい子も真似するな―――!!と私は心の声を大にして叫ぶ!たとえ幼い頃に、この飛翔が大の得意でも身体のサイズが変われば勝手が変わるのだ!!つまり!、危ない!!


「……上山さん」


「……きょ、鏡子ちゃん……」


「案ずるより産むが易し、ですわ」


「……いやいやいやいやいやいやいや!!結果論だよね!?なに澄ました顔で言ってんの!?!?」


 砂埃が舞いながら、鏡子ちゃんは歴戦の覇者の如き背中で私に語る。肩から顔だけ覗いた状態でそう語る顔つきはどうしてか決まっているのだが、うん?何を言ってるんだこの人は?


「はあ。ことわざも知りませんのね上山さんは。飛べるか飛べないか悩むくらいなら、実際に飛んでみればいいのですわ。まあ、鏡子はそこな凡人共とは違うので元から出来ると思っていましたけれど」


「急に飛んだのは鏡子ちゃんでは……」


「上山さんも、出来ます」


 声のトーンが変わる。私は口を閉じて、鏡子ちゃんを見た。鏡子ちゃんは私と一度目を合わせると、赤く沈む夕日に顔を向けた。


「飛べるか?と問われれば、鏡子は飛んで見せます。その高さが変わろうとも、鏡子はどこまでも飛んでいきましょう。……それが鏡子に期待されることならば、鏡子はそれに全身全霊をもって応えるだけ」


 鏡子ちゃんが振り返る。


「上山さんも飛べます」


「急に、どうしたの。そんな話、しなかったじゃん……」


 鏡子ちゃんが一歩進み出た。その一歩を踏み出した時に、少し驚いた顔して、でもすぐに微笑んで風に靡く髪を抑えている。


「……上山さん。少し鏡子と未来の話をしましょう。其方へ行っても構いませんね」


「えっ?うん、いいよ」


 どうしたんだろう。鏡子ちゃんの真意が読めない。横に並ばれると、胸がドキドキする。

 二人、ブランコの囲いに座って静かな間を生み出した。


「上山さんは高校を卒業したら、どうなされるのです?」


「えー……っと、普通に大学に行こうと思ってるよ。鏡子ちゃんは……実家に戻るんだっけ?」


「……ええ、そのとおりですわ。よくご存じで」


「あは、何言ってんの?鏡子ちゃんが教えてくれたんだよ。少しびっくりしたなあ、鏡子ちゃんのことだから『鏡子の道は鏡子が決めますわ!』っていうものかと。……お家、厳しいんだね」


 横顔を見ると、鏡子ちゃんは寂しそうに微笑んだ。


「鏡子は、……普通から外れていると自覚しています。普通の高校生が進路を選択出来ても、鏡子は出来ない。――それが理不尽だと、憎むべきことだと鏡子はもう思いません。鏡子には、鏡子にしか出来ないことがあるのです。どうしても、鏡子にしか出来なくてやらなくてはいけないことがある。だから、鏡子は……戻ります。鏡子を待つ京都へ、……どんなに此処が離れ難くても」


 私の奥の奥の部分、そこを指摘されているような気がした。無意識に胸を掴んで、私は言う。


「鏡子ちゃんは……強いね」


「ええ、そうですわ。それでも……鏡子が安倍鏡子になるために、6年かかりました。6年……、上山さんは……一年も……!!」


 感情が溢れ出す。その様子が、瞳を見ていればわかった。私は途端に笑えなくなって、鏡子ちゃんの手を握った。


「鏡子ちゃん?……どうしたの?」


 鏡子ちゃんの目は、不思議な色をしていた。私が手を握ると、溢れ出す感情の渦が静まっていく。でもその代わりに……道端で死に行く子猫を見るような、そんな哀れみを悲しみに近づけて揺れる色が満たされていく。


「……大丈夫だよ。私ね、京都の大学も視野にいれてるの。もしかしたら、そこになるかも。京都にいたら鏡子ちゃんといつでも会えるよ。もし京都じゃなくても、旅行とかさ、一緒に行こうよ!流石に湊は男一人だから、なんかあれだけどさ、ね、大丈夫。大人になっても私は、ずっと一緒にいるよ」


 次第に鏡子ちゃんは笑んでいく。瞳に薄い青を湛えて、鏡子ちゃんは美しく笑う。


「……上山さん」


 鏡子ちゃんは目を閉じた。そして、私の手を強く握る。


「……うん。何?」


「――鏡子も、上山さんの傍にずっといます。ねえ、上山さん。……あなたの中の鏡子を、普通の高校生の様な、女の子にしてくれて……ありがとう」


 紅い夕陽を頬に受けた少し様変わりの転校生は、頬に雫を一筋流して笑っている。


 突然引っ越して来た女の子は、ずっと普通の女の子だったよ。少し様変わりな、ちょっとお嬢様気質の普通の女の子だった。

 目の前に顕れた男性に恋をして、仲の良い友人に意地悪をして、そして、笑う。


「鏡子は誓います。鏡子だけは、何があってもこの先の未来あなたの、……――上山泉の傍にいると。だから、上山さんは思い切り泣くといいですわ。泣いて泣いて、この世全てに罵詈雑言を投げつけて、疲れて、眠って……。その最後に、上山泉が立ち上がる為にこの鏡子が……傘になってさしあげる」


 手を優しく解いて、鏡子ちゃんは私の頬に手を添えて顔を近づけた。

 触れる額、優しい声が降り注ぐ。


「どうせ鏡子も上山さんも……諦めることが出来ない馬鹿者ですから。大丈夫、一人じゃありません。……忘れないで」


 異変に気付く。鏡子ちゃんは私を越した向こうを睨みつけている。

 振り返る。夕暮れを呑む黒い空を背に従えて、笑う人がいる。緩やかな髪は風に揺れて、大きな瞳は私を映して離さない。


「―――泉、鏡子ちゃん」


 鈴の様な声は、蝉の時雨を一瞬で掻き消した。


「何のお話をしてるの?ねえ、――あたしも混ぜて欲しいなぁ」


ようやく異が本編らしくなってきました。そして(?)、フルーツバスケットの「だってうれしかったのよ」をこの話を執筆中に見ていたのですが、もう感動して泣きました。普通の女子高生だったら出会わなかった安倍鏡子と上山泉達ですけど、そこは私が因果をねじ曲げてやりますよ!曲がれ!

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