ミルキーウェイ
人物大百科にて、シリウスくんの挿絵を更新しています。オウッ!!イケメンッ!!!!
まるで天の川みたいだと思った。
軽い足取りで淵を超えると、その二人が振り返る。同じ恐怖を、脅威を、……――浮かべてその瞳に私を映した。
「こんにちは、それともこんばんは?こんな所で何してるの?何してるか、わかってんの?」
巫くんが巫女さんを背に庇う様に前に出る。緊張が滲む顔に疲労を隠せない。
「……泉、様。いいえ、……っ―――陛下!」
「姉さん!?何して……っ」
「陛下、陛下!お許しを、どうか、ご容赦下さいませ……!焼いてはなりませぬ、あの都を炎より遠ざけて下さいませ!陛下、――嗚呼、大神様‼」
「大神……様?」
知っている。
何故この女が、弟を退けてまで私にすがりつくのか。
何故この女が、息を切らしながら汗に身を濡らしながらも、私に懇願するのか。
不思議だ。腹底に溜まる穢れを纏う今の方が、世界がとてもよく見えるよ。
「私が焼くと言ったら焼く。――卑弥呼、貴女は忘れたんだね」
「……‼姉さん!」
強引に錯乱に入りかけた巫女さんを巫くんは引き剥した。身動きしない私を警戒した巫くんは、鋭い目つきと威嚇の様に扇を広げて私から距離を取る。
「駄目だ、いけません。その目は、駄目です。泉様、泉様!やめてください!」
「やめて、やめてと祈って、貴方の国の内乱は収まった?――私が伊予を玉座に連れて行って、初めて国は平定されたでしょ」
上がる。上がる。私の唇の端、上がってしまう。
「……やっぱり。記憶が――いいえ、ご自分が何であるかを自覚なされたんですね」
髪を振って、私は巫女を指差す。
苦し気に汗を伝わせて、狂気に耐える女を。
「卑弥呼か、それとも難升米か。どっちでもいいけど、私の邪魔をしないで。――嫉妬」
「はぁい。……うーん……わたくしがえいえいって、やっちゃってもいいんですけどぉ……陛下が少し瘴気をめらめら~ってするだけで、案外簡単に死にそうですね!」
その言葉を聞いて、私はにっこりと笑った。
「そうなの。――そうする?」
「大神様!お聞きください!私は―――この、卑弥呼は死んでも構いません!大神様に召し上げられたこの命、何が惜しいと言いましょうや……!されど、この都は大神様が慈しんだ命そのもの!大神様が愛した、生んだ、結晶でございます!其れを壊してはなりませぬ!」
「僕も……僕も、姉さんと同じ気持ちです。あの国の内乱は、僕が犯した罪の顕れでした。大神様の所為だなんて……まして、この天へ引き上げてくださった貴女様を恨むことなんてありませんでした。――大神様、意識を取り戻されているのなら討つ者を間違えてはいけない!その背後の妖こそ、大神様が火にくべるべき者です!」
嫉妬を見ると、嫉妬は照れた様に指を組んだ。
「だから何度も言わせないで。――――神は人の言葉を聞かないんだってば!」
「あ、あ、うううううっ!熱い、熱い、……っ!」
「姉さん、姉さん!!……っ―――あの時、お前を見た時から腹の底から嫌だった!大神様のお傍に何故お前がいる!?穢れそのものが、神は、穢れから最も遠ざけなければならないのに!!裏切り者に下げたくも無い頭を下げて、……挙句の果てに、これかよ……!」
卑弥呼を抱いた難升米は、よく知っている苦しみを口から吐き出して私に牙を見せた。そう、そうなの。貴方も、苦しんだね。私も――苦しいよ。大神様と、あなた達が呼ぶから。その度に私は身に刃を受ける。
「違うよ、全然違う。私が望んだの。大罪の力を私が望んだ。そして――都に火を放つことも私が決めた!全部私が決めたんだ!……これが最後の忠告です。――私の邪魔をしないで!それでも邪魔をするなら、貴方達をここで、殺す」
難升米くんが、静かに卑弥呼を木の根に横たえた。そして扇を刀の様に持ち替えて私へと向き直る。
「大神様が僕を難升米と呼ぶのなら、この刀を抜くことを咎められません。……―――良いだろう。心の底から虫唾が走るが、懸けてやる!!僕の命を、――懸けてやるッ!!」
扇が刀へと変形した。腰に刀を据えて柄を握るその瞳に、闘志を燃やした難升米に、私の身体が反応して咄嗟に嫉妬の手を取った。すると嫉妬は笑みを引き際に残し、姿を溶かしていく。溶かして、溶かして……――長身の持ち手がある、槍の様でいて、鎌の様な刀身を持つ武器へと変わる。
嗚呼、嗚呼、わかる、わかるよ――この昂揚感。
息を吸って、吐いて、吸って―――――止めた。
ぶつかれ!!捻じ伏せろッ!‼!私をその名で見るのなら、膝を折り許しを乞えッ!!!!
砂塵の様な黒煙の様な穢れを蒔く嫉妬を振い、右足を思い切り地に減り込ませ難升米の額を両断せんと奥歯を噛み締めた。陶器の腕は悲鳴を上げない。陶器の足はバランスを崩さない。私はダンスをリードされるか如く、嫉妬を振り回す!
「――――っ、」
難升米の姿勢は低く刃を私に見せない。迫り来る嫉妬を命を狩りに涎を垂らす嫉妬を目前にしても、まだ、まだと私を引き付ける。なんで!?刀を抜けよ!――死を拒む強い色を私に向けながら、どうして!?
「嫉妬!!駄目!引いて!!」
一瞬の呼吸の音。据えた目つきと鯉口の静かな音―――――これは、居合切り!?
私の大きく開いた胴に深く切り込まれる寸前の未来が見える。歪む私の双眸を、難升米は顔色も変えずに射抜いていた。振り下ろす腕が止められない。このままでは、身体が裂けてしまう!苦肉の策、されど嫉妬の本質そのものを生かすならばこの方法以外にない。秒に満たない心理戦の中で私は、咄嗟に嫉妬をこの手から手放した。
嫉妬は意志を持つ――だから、私が彼女を離したら彼女は任意で動いていける。そこはアンスとは違う。違うから、嫉妬を離してしまったら私は――自分でこの死地を動かなければならない!その危険を冒しても、私は嫉妬を手放すことこそ自らを助ける行為になると感じたのだ。
アンスは私を護るための武器。しかし、嫉妬は武器ではない。
それが、私の勝敗を分けている。
「――――な、」
「終わりだ!」
刀が私の胴を切り裂くよりも早く私は地面に突っ伏した。幸いにも私の身体の流れは下へ向いていたから。両手を地面に抑えつけて、重力を流す。右手で滑り込む嫉妬を一瞥もしないで掴み取って、難升米の足を切断しようと虎の様に腕を振った。
しかし。
難升米は後方へ身体の軸を傾けて飛び上った。宙を切る嫉妬の舌打ちと、森のざわめきが耳に残る。難升米を追うよりも前に、私に伸びた影に上空を見た。
巨大樹が、嘲笑うかのように私を覗き込んでいる。顔の無い樹が、その唇を嘲笑に歪めながら私を覗き込んで――――雪崩込んで来た。
地を揺らすに値する巨大樹の倒木に紛れて、私は難升米を追う。現代技術でも伐ることを想像出来ない程の樹を、たった一太刀で輪切りにした目の前の男があの巫であると俄には信じ難かった。
「逃げるな!私と戦え!――ずるい、ずるいずるい!」
私は、逃げることも許されなかったのに!
黒い雨に濡れた身体を冷やした私を抱きしめるのは、大罪達だけ。私の心を慰めるは、大罪達だけ。
だから、この子達は私に力を貸してくれるの。だから、この子達は私の願いを叶えられる!
――嫉妬は、私を上空に飛び上らせた。奥で暴食が喰い散らかしているのが見える。開けた視界で、蠅を打ち落とす様に狙いを付けて―――、一気に下降した。
「ちょこまかと……うざったいんだよッ!!」
抜刀の構えと、首狩りの速度がお互いの視線を固く混じらせながら惹かれあう。お互いに次はないことを空気の触れ合いでわかっている。私を止めるか、止められるか、お前たちに、神に属するお前に!この怒り――止められるものか!!
真横に引いて一気に首に狙いをつけ、空を駆け下りながら嫉妬を振った。勝機を感じた。感触を予感した。真っ赤な血が雨のように降って、私の金色の髪を美しく染め上げる景色を脳裏に描いた。
「……シリウス」
白いキャンパスに描かれた絵画の様に、終盤で止められた映画の様に、緊迫した場面で間が訪れた舞台の様に――――その男は、私の目の前に居た。
震える手と、ぶつかり合う金属の音だけが木霊している。
……人として、超えてはいけない一線を越えた私にもはや理性は無く。ただ目の前に顕れた憎悪そのものに対して、感情が暴発した。
「シリウスっ……余計なことを!鎮魂の邪魔だよっ!」
「――分を弁えろ、巫。絶好の機会を逃すな」
「嫉妬、嫉妬、嫉妬―――――――ッ!‼!」
狩人はどちらだ。獲物はどちらだ。
この高ぶり、抑えられない!
獣の様に飛び上って、幹に足をつけて、その場の構造なんて頭の外に飛んで行ってしまって、迸る感情のままに的に飛び入る弓矢の様に、飛び込んだ。
「嫉妬、嫉妬、殺せ!殺せ!絶好の機会だ、嫉妬!!」
シリウスの大きな紅い目に私の赤い瞳が映る。私の顔じゃない顔が、とても醜くて笑いが込み上げてきた。ぐちゃぐちゃに踏み荒らされた私の心の園に、この男は未だ居座っている。
「返せ、返せ――実花を返してっ!!」
私を愚者と蔑みながら、この男が笑うのだ!
近づきたい。近づきたい。触れたい。一度でいいから、一瞬で良いから。そしたら私、きっと――――。
お前を、殺してみせる。
嗚呼、エリス、エリス!皮肉だ!これは何という皮肉なんだ!貴女の憎しみが、今は自分のことのように瞳に描かれていく!打ち込む力が、跳ね返された力を引き戻す軋みが、増して、増して!
「ここは僕に任せておまえは引き返せよ!大神様はこの僕が鎮める!」
「お前が?どのように?この醜態を晒しておいて……何を言うか」
「大神様を鎮めるのは元々僕らの役目だろう!おまえなんかに……おまえなんかに……!」
「……――鎮めるのではない、殺せ」
「……は?」
「出来ぬと言うのなら――お前が、死ぬか?」
シリウスの蹴りは難升米の腹部に躊躇無く抉り込んだ。受け身の耐性も取れずに、難升米は私の視界から消えてしまう。
難升米の肉体を避ける為に一旦飛び退いてしまった私は、一度乱れた髪を撫でつけた。その時に、気づいてしまったのだ。
自分の髪が、肩口からばっさりと切れていることに。
さらりと撫でて、視界の端に映る短い髪房を手の甲に持ち上げた。黄金に輝く短髪が、風に混ざっている。
上山泉の髪の長さも、こんな感じだったっけ?
「あは、ははは……」
本当の自分の髪の長さも、感覚でしかわからなくなってしまったの?あは、随分と、ふふふ、長い髪に慣れてしまった。
湊と実花が、私にせがんだその一つが……。
今はとても、脆い。
気を抜けばカタカナ題名二連続。
よっしゃ~~~7月中にもう一つ更新成し遂げました!!!!出来れば今年中に完結で、必ず大学卒業までには完結させる……的な目標の為ッ!!更新スピードをッ!!!あげるッ!!!
にしても暑いですね。溶けますね。無理ですね。アイス食べ過ぎて太りますね。嫌ですね!




