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異 突撃!隣のアスティン先生! ※挿絵

ちゃんと本編です。

人物大百科にて、七つの大罪四人のビジュアルを公開しております!ぜひご覧ください!


9/6挿絵を追加しております!

「ねえ、ねえねえ、ねえ鏡子ちゃん……え?ちょっと普通に無視とか心折れるんだけど……お、おーい」


「……」


「……嘘でしょ?まじ?まじで私にガン無視されてるの……!?」


「……うむむ」


「――……。アスティン先生―――ッ!!おはようございまーす‼」


「!?おはようございますアスティン先生っ!―――って、上山さん!?居ないではありませんか!あれは数学の森谷先生ですっ!」


「あはは、あはははは!ごめんごめん、だって鏡子ちゃん全然話聞いてくれないんだもん……」


 朝のHRが始まる40分前。私達が早めに登校すると、いつもこの女の子は机に向かっている。三年生の春に転向してきた異様な雰囲気を纏ったこの美少女は、始めこそとっつきにくかったものの今ではすっかりと私達の仲に溶け込んでいた。


 今は夏。受験における天王山を間近に控えた我ら三年生は各々勉強に励んでいる。部活動もほとんどが引退を迎え、ただシャーペンを走らすのみとなったこの教室で転校生の――安倍鏡子が同じように眉を顰める事にも時間はかからなかった。


「やっとラブアタック成功だな、泉」


「ふうー、あたしも応援してた甲斐があったよーう!泉、ふぁいと!鏡子ちゃんも、何に悩んでいるかわかんないけど、ふぁいと!」


 涼しい場所に二人座って私達を茶化すのは、毎度お馴染みの佐倉湊と安藤実花だ。私の登校に合わせていつも一緒に来てくれる彼らもまた、朝の時間を削って勉強している。机に広げてあるのは……一限目の単語テストに備えた英単語帳だろう。


「おはようございます。お三方」


「おはよう鏡子ちゃん。ねえねえ、さっきから何に悩んでいるの?」


「……ああ。ええと……進路について、ですわ」


「進路?――――げ」


 私が徐に覗き込んで怪訝な顔を浮かべても、これを書いた本人は……本気で悩んでいる、という顔をしている。ええと、これは、ええと希望の進路先を調査するものであるはずだ。ええと、ええと、……――嫁ぎ先を書いてあるのは、なんでだ?


「アスティン先生と結婚したいのですけれど……鏡子には婚約者が……嗚呼、一体どうしたら……」


「婚約者……って許嫁か!?このご時世に許嫁か!?ちょちょちょいちょい安倍さんこの湊、詳しくお話をお聞かせ頂きたく存じます」


「許嫁!?すっごーい!いいなあ、すごいなあ、憧れちゃうなぁ……。ねえねえどんな人なの?ご実家の人だよね?この実花も、すごくすっごく気になるであります!」


 阿呆な二人は、まるでジュリエットに愛を誓うロミオの様に膝をついて鏡子ちゃんに話を乞うていた。……ううん、鏡子ちゃんがアスティン先生を好きっぽいのは薄々……というか一般常識並に気付いてはいたんだけど、こ、この進路調査の紙に書くまで心酔してたとは……恋の病は恐ろしいな。


「そんな浪漫のあるお話ではありませんよ。どちらかというと鏡子にとっては、アスティン先生との出会いの方が――――」


「許嫁!許嫁のお話の方が100倍聞きたいよ!」


「俺も!俺も!実花と泉という俺の様なイケメンを足蹴にする奴らにしか恵まれなかったこの憐れな湊に胸キュン物語をお聞かせください!」


「なんだってこの馬鹿湊っ!」


 少しかちんっと来たので湊を足蹴にすると、「いやんっ」と言って湊は鏡子ちゃんの反対方向に向かう。鏡子ちゃんは二人の懇願に参った、と手を上げると一度時計を見てから渋々口を開き始めた。


「……鏡子の家は少し古いので、古い旧い風習が少しどころか愚の骨頂と言わざるを得ない程残っているのです。その許嫁……とは、幼い頃より喧嘩ばかりしていました。鏡子は愚かの一言で片づけていたのですが、お家柄でしょうね。その子は些細な下らない事に関しても鏡子につっかかってきて―――」


「――それで、いつのまにかお互いを意識して許嫁っていうこともさらにそこに拍車をかけて二人は結ばれるんだよね!?」


「いいえ。鏡子は、アスティン先生と結ばれますわ」


「ええー‼なんでぇ、なんでぇよう!!そんなのセオリーじゃないよう泉からも何か言ってよう~‼」


 いつのまにか実花に泣きつかれた私は、HRのチャイムがなるまで鏡子ちゃんと実花の攻防に挟まれるのでした。おい、湊。なに笑ってんだ。


 そしてこの攻防戦は何と授業間の休憩時間にも繰り広げられ、ついに昼休みになった。実花は独自のロマンチックを追い、湊は安倍家の女子の話を手に入れようとし、鏡子ちゃんは進路先についにボールペンを入れようとしたのでそこは三人で必死に食い止めた。


 はあ、やっと落ち着いてご飯を食べれる……と鏡子ちゃんの机に一斉にお弁当を置くと、鏡子ちゃんは立ちあがって―――、


「何をしているのです?アスティン先生の所に行きますよ」


 と平然と言ったのだ。


「ちょいちょいちょい!?鏡子さん、あのー安倍さん?先生とお昼ご飯食べるとか前代未聞ですって!」


 追いかける湊がつい敬語になるのも頷けるくらい、鏡子ちゃんは猪突猛進にアスティン先生の個室に足を進めている。外国人ということもあり、また特別講師ということもあり個室を与えられているとはいえ――これは前代未聞だ!本当に!


「大丈夫です。先生の存在や待遇が前代未聞なのですから、鏡子のこの行動すら霞んで消えているのです」


「い、泉ぃ~待ってよ~……」


「どうして現役剣道娘はこの程度の早歩きでへばっているのですかね!?」


「えへへ~可愛いでしょお?」


「もう!早く来る!鏡子ちゃんを止めるよ!」


 通り過ぎる他の先生達に微妙な笑顔で会釈をし鏡子ちゃんを追いかけ―――湊が悲鳴をあげた。

 勢いよく開かれた扉と、自信になぜか溢れている鏡子ちゃんの顔を見て……私は頭を抱えた。


「――アスティン先生!お昼、ご一緒させて頂きますわ!」


「ふえ!?……い、いいけど……――よ、ようこそ?」


 既にパスタを咥えたアスティン先生は、突然の生徒の来訪に目を丸めていた。当たり前だ当たり前だろう――私と湊は、勢いよく頭を下げ謝罪をする羽目になるのである。


 結局先生の好意に甘え、長机を囲むソファに座らせていただけることになった。なんという馬鹿な私達。そう、全員がお茶を忘れているのである。買ってきます!と言った湊を含む全員が財布をバックの中に忘れているという危機管理能力の欠如も相まって、先生のお茶を分けてもらった。


「ほんっとうにすいません……」


「良いんだよ泉さん。折角皆揃っているのだから、楽しもうよ」


 先生のお茶を拝借しながら「はぁい……」と言うしかなかった。


「アスティン先生。鏡子の進路先にアスティン先生の名前を書かせて頂きました」


「ごふっ―――!?」


 誰が噴出した!?鏡子ちゃん以外の全員に決まってるじゃない!


「はわわわわわ……」


――鏡子ちゃんの口が動く。そして獲物を狩る様な猛禽類の如き目で、先生を見据えた。


 私は咄嗟に湊を見た。ごくり、とご飯か唾かを呑み込んだ湊も冷や汗を浮かべた深刻な表情で私の瞳に頷きを返す。頼りにならない実花は放置が最善だと判断して、私達は視線だけで語り合う。


 ――鏡子ちゃんは本気だ。マジ、マジのマジ。ここで話を広げたらやばいよ。


 ――わかる。ここで承諾してくれないと授業に戻らない!とか言いそうだ。


 ――アスティン先生も律儀だから、鏡子ちゃんが納得するまで話し込みそうだよね。


 ――そして俺達が担任に怒られるのか……。


 ――絶対に嫌だ!あいつ話長いんだもん!


 不滅の魂を燃やして私達は目的を共有する。お箸を握る手の力がその証明だ。


「なんでわたしの名前……?あっ、もしかして」


 先生の表情が想像とは裏腹に輝いた。鏡子ちゃんはそれを見て、嬉しそうに輝いた。

 先生が紡いだ言葉は―――、


「進学先、わたしの大学にしたのかい!?嬉しいよ安倍さん!」


 幾輪の花が咲乱れた笑顔と共に吹きあがり、鏡子ちゃんの手を握る。


「はっわわわわ!」


 実花が思わず頬に両手を添えて照れてしまう程の、熱烈な歓迎に見えた。鏡子ちゃんは握られた手に視線を移して頬を染め上げているけれど、返された言葉の意味を「大学……?」かみ砕く中で、どんどん表情が青くなっていく。


挿絵(By みてみん)


「いえ、あの、鏡子……大学は……」


「それなら是非是非第一志望の欄にマンチェスターと書いてほしいんだけど……」


 そして、またアスティン先生の表情もみるみるうちに悲し気に変わっていった。


「――日本からイギリスへ進学って結構煩雑なんだよね。スコアも取らなきゃいけないし、入学時期の関係で対策する時間も無いし……確かに安倍さん、君は前の学校でもかなり優秀だったようだね。だけど、資格とか興味がわかなかったのかな?いや、英検を取っていた所でっていうのはあるんだけれど……」


「お話は有難いのですが、鏡子は進学するつもりは毛頭御座いません」


「ごっっっっふ!」


 切 り 捨 て た ー ! 潔く、すぱっと、切り口鮮やかに切り捨てた!

 吹き出したのは湊だけど、アスティン先生も相当なダメージを負った顔をして鏡子ちゃんを見ているではないか!


「えっ、え!?だけど、だけどね!?進学しない……あっ、国内で進学するってことかな?」


「いいえ。鏡子は進学自体をするつもりはございません」


 アスティン先生は笑顔で冷や汗を流している様に見える。滝?滝かな?


「えっえっえっー!?ど、どうして?親御さんに反対されている、とか?で、でも安倍さんの成績なら難関国公立だって狙える……」


「先生!」


 有無を言わせない声量が響き渡る。

 私と湊が顔を上げた時には、鏡子ちゃんの次なる言葉が――――!


「鏡子と共に、家を継いでくださいませ!きっとアスティン先生となら、どんな脅威も―――」


「っあ――――――‼鏡子ちゃん制服にオコメがついているよ――――!?」


「っアー―――――!?先生、俺、イギリスの美味しい紅茶飲まないと死にそう――!?」


「ひっ、う、嘘!どこですか!」


「えっ、死ぬの!?駄目駄目駄目佐倉くんどうして!?」


 私は勢いで鏡子ちゃんの腕を掴み部屋から力任せに脱出させた。そのままくるりと体の軸を回して、鏡子ちゃんを壁際に追いやる。肩がばきって変な方向に行きそうなくらい痛いけど!鏡子ちゃんも壁に叩きつけてごめんね!でも、でも!人にはやらなくちゃいけない時があるのです!


「きょ、鏡子ちゃん……今のは、はあ……駄目じゃん?」


「……」


「アスティン先生を……困らせちゃ駄目だし。何より……クビだよ?」


 鏡子ちゃんが反応する。


「女子高生とアレな関係とか……噂になっただけで、やばいから」


「……やばい、とは?」


「変態のレッテルを付けられて人間社会から追放されるの!アスティン先生は本国に戻っても変態の汚名を着たまま墓に入るの!きっと紅茶の味の違いさえわからなくなってそのまま頭からテムズ川に入って死んじゃうよ!あの先生ならやりかねん!」


 勢いで言うと流石に息が切れる。肩で息をして、口を開こうとする鏡子ちゃんの顔を挟むような形で腕を立てた。――今日だけでも、丸め込む!


「―――アスティン先生と、お昼ごはん食べたいよね?まだ、まだまだ……一緒に食べたいよね?ならさ……そのことは、隠し通さなきゃ、駄目だから」


「……そうしないと、クビになる、と?」


「日本の壁はね……思ったより、薄いんだよ」


「……わかり、ました。鏡子の我儘で先生の日常を脅かすつもりはありませんから」


 よ、よかったー!クビになれば鏡子に泣きつくほかに術はありませんわ!オホホッホ!って高笑いされたら羽交い絞めにするしか方法は無いって腹をくくってたから、よかったー!鏡子ちゃんが常識のあるお嬢様でよかったー!


「上山さん!……忘れないでくださいませ」


 ぎくっ、と喉が詰まる。な、何を言うつもりだ。


「……お米、どこについていますの?教えてください。付けたままじゃ、戻れませんわ……」


 不意に見せられた年相応の困り顔に、私上山泉はデスカウンターをくらったのだった。まる。 


「えっと……大丈夫。さっきのぶん回しで取れたみたい。ごめんね、戻ろう」


 ほ、と息を吐く鏡子ちゃんを見て私は再び扉を開いた。


「―――って、湊。なに優雅に紅茶飲んでんの」


「ふっ……。食後のティーだよ、カッケェだろ?」


「あたしもいただいてまーす!泉たちの分もあるよ」


 奥でお茶が注がれている音がする。あの時湊が口走った言葉を先生は真摯に叶えてくれたんだろう。うっ、申し訳ない。


「先生……すみません」


 奥から二つ新たに紅茶を持ってきてくださった先生は、嫌な顔一つせずに寧ろ嬉しそうに机に置いてくれた。先程の話を気にしているだろうに、先生は触れずに同じように紅茶を手にして席に着く。


「気にしないで。むしろ嬉しいなあ。君達とこうやって紅茶を飲めるなんて……夢のようだね」


「大げさだなぁー、先生。これから鏡子次第では毎日淹れさせられるハメになりますよ」


「ふふふ、茶葉は沢山あるから。楽しみだなぁ」


「呑気だぜ……」


 湊の含みある会話に、にこやかさを崩さない先生。流石です!

 そしてそのまま私達は、昼休みが終わるチャイムを聞くまで先生の部屋で喋っていた。先生の大学の話、先生の学生時代の話……静かに鳴きだした蝉の声に目を向けると誰かが、


「暑いね、もう夏なんだ」


 と雑談の中で小さく呟いた。


 掃除も終わった5限が始まる前。三人でトイレに行くと鏡子ちゃんがふと私に問いかける。


「上山さんは、誰かを好きになったことはありますか?」


 不意を突かれた様にも、虚勢を突かれた様にも、真実を突かれた様にも感じる胸の違和感を手で押さえながら私は水に濡れた手を拭く。


「……どうだろ。わかんないなあ……」


「安藤さんは?」


「もっちろん!泉と湊くん!そして……」


 実花がハンカチをスカートのポケットにしまって、鏡子ちゃんへ歩み寄る。まだ手が濡れている鏡子ちゃんの手を徐に掴むと裏の無い笑顔のまま実花は言った。


「鏡子ちゃんも、大好き!」


 じわじわと言葉の意味がわかったのか――鏡子ちゃんは、口元を緩やかに上げて微笑んだ。

 その笑みが本当に嬉しそうだったので、私は実花をチョップしながらも誇らしげに胸を張ったのだ。


 出会えてよかったと。

 この退屈な日々が――幸せだと、思ったのだ。


これが所謂学園モノだーーーー!!


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