↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/175

異 神々の秘匿 Ⅰ

騎士と魔導士にて挿絵を追加しております!ぜひご覧ください~!

「か……上山さ……」


 白の結界は急速に収束し、消えた。

 鏡子の腕は何も抱えられずに床に崩れ落ちた。触れられずも感じられた体温の喪失に、心の奥から叫びたくなる衝動が身を這い、鏡子はその目に雫を湛え、落とさない様に歯を噛み締めながら手を付き身体を起こした。

 忽然と消えた友人の姿を諦められずに。


「……――今のは」


「――エリーシア様。少し、いや……かなり危険な事態に陥ったと言わざるを得ないようです」


 エリーシアは、軋む頭を抑えながら立ち上がり、鏡子を含む全員を見渡した。消えたのは泉と実花と確認し、そして窓の外を見、見上げた後未だ悠然と空に浮かぶ魔術陣を見上げる。

 アスティンはエリーシアを支えながら共に立ち上がるが、彼女の問いに答えた声色は緊張を滲ませていた。


「書庫は開けるの?」


「開くまでもありません。知っています」


 皆、静かに続きの言葉を待っていた。

 痛覚をも伴うかの様な沈黙に、エリーシアは目を伏せ――開けた。


「あれは何をもたらす魔術なの。教えて、アスティン」


「あれは……あれは、空間魔術です。あの空間の中に術者が望む世界を作り上げ、やがて陣の中で現像を持って構築し、領域内の全てを作り替えます。……グリームニルの研究が、完成したのです。あれは、グリームニルの悲願……IFを作り上げる――ええ、確かあれは……幻想王国と名付けられたもの、です」


「お待ちください、アスティン様」


 歯を噛み締めながら言うアスティンへ手をあげ、縋り付くように鏡子は声を荒げた。


「世界を作る、と?……それは、神をも手を出せない禁域のはずです!世界なんて……一体どうやって……!?それに、その幻想世界に何故上山さんが連れて行かれなければならないのです!?」


「口を挟んで悪ィが――、城の中の精気が外で感じられねェぜ」


「――エリーシア様!!」


 アルピリの声にエリーシアは駆け出した。そして、部屋にいた全員が彼女の背を追った。

 エリーシアが開け放ったは、傷付いた兵士や民が寝かされている大広間。駆け入ったその後、エリーシアは床に吸い付くように膝を付き、手を付いて、


「ああっ……なんてこと、なんてこと……――――」


 眠りについた儘目覚めることを忘れた者達へ、

 唐突に訪れた永遠の誘いに崩れ落ちた者達へ、


 許しを乞う様に項垂れた。


「……あの少女騎士が居ませんわ……」


「ルイーズのこと?」


「いえ、名前は……」


 アスティンへ首を振り俯いた鏡子と眉を顰めたアスティン。

 エリーシアへ寄り添うリアラは、弱弱しく震える彼女の身体を抱いていた。


「幻想王国……と言ったわね」


「……はい」


「王国……?スワードは、彼らの永遠を奪って……自分が作り上げた世界で王にでもなるつもりなの……?」


「いいえ――玉座に座するのは、エリーシア様です」


 エリーシアは顔を擡げた。アスティンは一度は開いた口を閉じたが、首を二度振って固く閉ざしたい感情を握り潰し開く。


「スワードが作り上げたエリーシア陛下で王国を成す為の魔法なのです!そのために、陛下を作り上げる為に過去の王国を再現しなければなりません。魔術によって、過去を再現するには記憶」


「――――あははははははははははは!」


 アスティンは痛みに堪えるかのように歯を噛み締め、目を閉じた。力の限り握られた拳を鏡子は呆然と見つめている――ぼやけた視界に壊れた様に笑うエリーシアを滲ませて。


 エリーシアは、アスティンの言葉を被せ覆う様に肩を震わせて笑った。大広間にけたけたと笑い声が転がる。――その発生源である彼女も笑い転げそうな程に声を上げた。


「あははははははははッ!!シリウスでは飽き足らず、スワードまでも、王位が、そう、欲しかったのね‼ふふふふっ、スワードに至っては、え?わたしを――はははははははッ!!あはは……」


 泣いてる様だった。

 悲しさだけが膨れ上がって、破裂したようだった。


「スワードは、わたしに失望していたのね」


「エリーシア様、それは違います!」


「――弱い王など要らないと!心も、身体も、不完全な王などエリーシアには相応しくないと思ったから!王都の民を使ってその魔術を発動させたんでしょ!?ねえ、リアラ!?」


「……――申し上げます……王都ラティアの民は……」


「全滅だァ、間違いなく」


 鏡子は生唾を呑んだ。――瞬く間に失われた命の規模に恐れ戦いた。


「エリーシア様!お聞きください、決(け)して、決(けっ)してスワードは貴女を――……!?」


 エリーシアが立ち上がりアスティンの方へ向いたその時、紅を僅かに滲ませた光が一斉に宙に浮いた。その光は、死した者達から浮かび上がっている。城の外にも光の塊となって浮かび上がり、光を仄かに発していた。


「魂……?」


「……嗚呼、これは――……全て、わたしが与えた……」


 全ての光は一つの輪になって、エリーシアの目の前に浮上する。数多の命を集めた力強い円環をエリーシアは愛おしそうに両の手に包み、暖かさに頬を綻ばせる様に涙を一筋流した。

 円環は涙に触れると大きく鼓動し綿の様な光に戻る。それらは飛散することなく、エリーシアの元に留まり続け――彼女が抱きしめた時、彼女の身体と溶け合う様に消えた。


「ありがとう、ありがとう……少し、落ち着けた……」


 エリーシアは伸ばした背筋で再び大広間へと向き直る。一人一人見落とさぬよう心に焼き付けるためだ。風の民、王都の民――騎士達全て、その死と向き合う力を与えてくれたのだから。


「スワードの思惑は、スワード本人を問いただして聞くことにするわ」


 背に居るアスティンへと言葉を向けた。


「きっと、スワードの居る先にシリウスも居る事でしょう。そして、泉と実花もそこにいるはず。……目指す場所は一つ、迷うことは無いわね」


 紅の守護石が光を反射して切な気に光る。

 その様を見つめることしか出来ない。


「場所を移すわ。リアラ、使える部屋へ案内を」


「かしこまりました」


「……エリーシア様」


 アスティンの目前を横切ろうとした時、彼はエリーシアを引き留めようと無意識に名前を呼んだ。エリーシアは足を止め、身体だけで振り返り静かに微笑んで言った。


「ついてきなさい。おまえは――王(わたし)の書庫でしょう?」


「――勿論です……!」


 リアラの案内の元、それでも彼らは口を閉じない。

 移動すらも大事な話合いの場だ。惜しいのだ、時間が。


「幻想世界が王都を飲み込むまでの猶予はあるの?」


「あります。……最低でも、一週間は絶対にかかるでしょう」


「……なるほど。ではその前に切り込まなくちゃ。……アルピリ、シリウスは何処に?」


 アルピリは言い淀む。エリーシアは眉を密かに顰めながら彼の返答を諦めた。


「円卓の亡骸は見当たらなかった……ということは……シリウスは彼らを連れて何処かにいるはず……」


 シリウスの居場所を確実に特定出来るのは、完全な彼の竜であるアルピリだけだ。しかし、竜は主の危機を招く要因を避けたがる。仕方がないのだ。竜はそういう生き物だから。


「ここは……執務室」


「ええ、様変わりはしておりますが……ここは唯一崩れていません」


 確かに、自分がいた頃とは隅々の調度品や、色合いが変わっている。しかし……執務机や、椅子……額縁や棚……大きな備品は変わっていない。自らが座っていた椅子に触れると、一度息がつけるような感覚がした。


「わたし達は、幻想世界の定着を必ず避けなければならない。この世界全てを根本から覆すのではなく、まるで特異点のように一部だけを改竄すれば、必ず世の破滅を招くことになるからよ。わたしはそれを看過できない」


「スワードは、王都に幻想世界を降ろした後に発生する負荷を全てシリウスに流し込み、シリウスを殺す心算ではありませんか?」


「いやァリアラそれは――近いかもしれないけどサ、違うピースを無理やりはめ込んじゃうと、全てのピースが崩れるってもんだ」

 

「そう。もし仮にこの世界が崩れれば――人間世界に生きる全てが死に絶える結末を迎えるでしょう」


「鏡子達の世界とこの世界が繋がっている以上、その結末は容易に想像出来ますわ。……その結末だけは、この安倍鏡子が絶対に認める訳にはいかないというものです」


「わたし達も最悪の結末は絶対に避けなくちゃいけないよ。……エリーシア様。あの結界は、愚直に魔術には魔術を、とぶつけるだけでは破ることは出来ません」


「……聞きたくないけれど聞くわ。あの魔術を破る方法はそもそもあるの?」


 エリーシアの言葉にぞっとした鏡子が身を乗り出してその言葉を非難する。


「――上山さん!なんてことを聞くのですか!?」


「泉ではないわ。……大事なことよ。グリームニルの魔術ですもの……」


「ご安心を、破れます。ただし、条件があります」


 リアラがいち早く切り込む。


「条件とは?」


「……此方と彼方を繋ぐ者、あるいは何かが内側から魔術を壊すことです。あの空間魔術は外からの攻撃には一定の耐性がありますが、内側からは耐性が無く破ることが可能です」


「外側からは絶対に破れないの?」


「出来るには出来ますが、かなりの力が必要です。此方と彼方を繋ぐ力ですから……此方のエリーシア様と、彼方の泉さん。……泉さんが打ち破れるならば容易、エリーシア様のみの力で打ち破るには……」


「……そう」


「ええと、エリーシア……様。神々の王である貴女が、どうして不可能ということがあるのです?君臨する者とは力ある者のはずですわ。――この勝負、勝ったも同然ではありませんか!」


「――黙りなさい人間!」


 リアラが緑眼を光らせて威嚇した。それを手で制する。


「鏡子、教えてあげてもいいけれど……ただの陰陽師の娘には戻れなくなるわよ?」


 鏡子が肩眉を上げ、口角を歪めた。


「――ただの、と申しましたわね。この、安倍鏡子に向かって……!」


「ええ。おまえが尋ねたのは神々の王であるわたしの秘密。この世界の者達でさえ、数人しか知り得ない――それこそ、禁じられた領域。陰陽師(おまえたち)が超えてはならないと目を光らせる境界線そのものよ」


「……へえ、おもしろい」


 全ての目が、一斉に鏡子に向いた。


 あら、瞬く隙さえも与えられず分け隔てられてしまったわ。

 鏡子は笑う。己が、本来ならば背を向けて、心ある方で人々を急き止めなければならぬ境界線の向こう側に立っているのだと実感が急に冷や汗と共に流れ込んで来たとしても、安倍鏡子は笑った。

 上手とは言えない笑い方。しかしその奥に、決意と怯えが交じり合う。


 玄武に……そういえば、言われたことがあったと鏡子は思い出す。足を踏み入れた世界を知ろうとはしないのか?と問われたことだ。――嗚呼、あの時はただ待つと答えた。それが美しいと感じたから。アスティン様の背中を大人しく見つめて、お供して……いればその力にいづれ触れられると思ったから。


 でも、鏡子触れてしまった。

 あの子の、熱さに触れてしまった。

 弱いくせに一丁前(いっちょまえ)に鏡子を守ろうとする。弱いくせに、戦うことを諦めない。弱いからと、全て諦めた風に笑う癖に――何一つ諦められちゃいない。自分が一番穢れているくせに、鏡子に、土地の責任者である鏡子に全てを押し付けてもいいのに一つでも鏡子に押し付けてくれない!


 そして、いつのまにかあの子は、身体を置いて何処かに行ってしまった。


 見つけたと思ったら、また鏡子は弱いあの子を一人怖い世界へ放ってしまった。


「鏡子は、安倍晴明の直系の子孫であり、その先祖返りとされる将来有望の大陰陽師。……従えるは十二神将、古き中国においては貴女――神と呼ばれた式神達です。それを従える鏡子に神々の秘匿を隠すことの方がおこがましいと言うものでは?」


 リアラが一歩前へ出るが、腕を掴み制したのはアルピリだ。


「神を従える鏡子は日本一――いいえ、西洋に居るという祓魔師(エクソシスト)に負けると考えられませんわ!故に、鏡子は最強を誇ります。……ええ、だから鏡子には責任があるのです。ならば、詳しくはわかりませんが、神々の王であると自称する――エリーシアさん。貴女が、あれを、破れないということ自体が変だと思うのです!」


「言わせておけば小娘―――っ‼」


 穏やかな風が逆風となって襲い掛かろうとした。瞬時にアスティンが鏡子の前に立ちはだかりアルピリがリアラを抑え込む。

 エリーシアはリアラの肩に手を置いて、首を横に振った。いいのよ、……それと安心したわ。と囁いた。


 エリーシアがリアラの前に出ると、アスティンは僅かな躊躇いを残して鏡子の前から退く。風景としては、上山泉と安倍鏡子の対峙であるのに二人が醸し出す空気の色が僅かにあの二人の間に流れたものとは違う。


「……鏡子」


「……はい」


「おまえが従えるそれは、わたしが見捨てた神だったモノよ?たった十二柱……元、十二柱に支えられているだけでそんなに吠えるとは、可愛いのね」


 エリーシアは人差し指を鏡子の胸に当て、耳元で囁き微笑んだ。

 鏡子の身を、悪寒が走り抜ける。鏡子の中に潜んだ十二柱が一斉に毛を逆立てた――ような。


「良いでしょう!――面白い。教えてあげる、わたしの秘密を!」


「エリーシア様!なりません!秘匿が破られれば、エリーシア様の永遠が崩れてしまう!」


 リアラは呆然とした鏡子から笑みを浮かべて離れるエリーシアの腕を取り、切に訴えた。しかし、それを見上げるエリーシアの瞳のなんと無機質なことか。無と取れる表情でリアラの懇願を聞いた後、それがまるで嘘のように慈愛の笑みを浮かべリアラの頬に手を添えた。


「……リアラ。わたしの永遠は、既に崩れているの。もう……ぜーんぶ、今更……」


「陛下……」


「ごめんね。竜は、王を庇護する生き物だから。……ふふ、生憎と世界を造るには七日かかるものよ。――さあ鏡子。触れるならば、もう離せないわ」

なんと変化球で異を打ち込みました。幻想世界側が先に行きすぎる前に王都サイドも駒を動かしておくことにしたという言い訳でどうにかなりますか……。

Ⅱは既に書き上げているので、来週にでも更新します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。