表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

【第9話】未発信の熱量、言の葉の種火


 (とお)くに、いくつかの(とも)()()えた。


 それはリズムを(うしな)い、(よる)冷気(れいき)直接(ちょくせつ)()れる神経(しんけい)そのもののように(ちい)さく(ふる)えていた。


 (あか)りの(すく)ない(よる)は、とどめていた感情(かんじょう)暗闇(くらやみ)()()すように(あふ)れてくる。


 昼間(ひるま)(にぎ)やかさや、()(まえ)(いそが)しさで誤魔化(ごまか)していた(よわ)さ。


 ()ないふりをして(ふた)をした、(こわ)(もの)のような(もろ)本音(ほんね)


 そんな不器用(ぶきよう)(いの)りを(かか)えたまま、()()(うしな)って()()くしていた。


 軒先(のきさき)(かね)が、(ふる)えるように()った。


 その(かね)()が、波紋(はもん)のように(よる)(そこ)(ひろ)がっていく。


 すると、街灯(がいとう)さえ(とど)かない(やみ)(なか)から、(あわ)琥珀色(こはくいろ)(ひかり)(にじ)()した銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)姿(すがた)(あらわ)した。


 (かれ)背中(せなか)巨大(きょだい)(つばさ)(しず)かに(ひろ)げると、(つめ)たかった夜風(よかぜ)が、()だまりのような(ねつ)()(はじ)めた。


「……(のど)()さった言葉(ことば)を、無理(むり)()()もうとしなくていいんですよ」


 (じゅく)(かえ)り、(いえ)門扉(もんぴ)(まえ)()往生(おうじょう)していた。  


 玄関(げんかん)()ければ、きっと(ちち)(はは)が「お(かえ)り」と()うだろう。


 本当(ほんとう)は「ただいま」を、「ありがとう」や「ごめんなさい」が()いたいのに、(くち)をついて()るのはいつも、(こころ)にもない苛立(いらだ)ちばかり。


 自分(じぶん)(いや)になる。


「……最悪(さいあく)なんです。自分(じぶん)でもイタいって()かってるのに。(おや)感謝(かんしゃ)するなんて、(はず)かしくて、余計(よけい)なことばっかり()っちゃって。本当(ほんどう)気持(きも)ちが、(くち)から()てこないんです」


 (わたし)(うつむ)くと、銀色(ぎんいろ)(かみ)夜風(よかぜ)()らした青年(せいねん)(おだ)やかに微笑(ほほえ)んだ。


 一定(いってい)距離(きょり)(たも)ったまま、その羽毛(うもう)一筋(ひとすじ)一筋(ひとすじ)(ひかり)(まと)った(つばさ)を、そっと(あお)ぐように()らした。


 ()れられたわけではない。


 けれど、(つばさ)(うご)くたびに、真冬(まふゆ)深夜(しんや)とは(おも)えない圧倒(あっとう)(てき)(あたた)かな(かぜ)が、(わたし)(かた)を、指先(ゆびさき)を、そして強張(こわば)った(こころ)を、(はる)陽光(ようこう)のように(つつ)()んでいった。



「あ……っ……」



 (つばさ)から(つた)わる(ぬく)もりは、お(かあ)さんの背中(せなか)におぶわれていた(ころ)記憶(きおく)()()こすようだった。


 あんなにイライラしていたのが(うそ)みたいに、トゲトゲした気持(きも)ちが(しず)かに()けていくのが()かった。


「きみの苛立(いらだ)ちは、(あい)(かたち)にできないもどかしさの(あらわ)れです。その(ふる)える種火(たねび)を、(わたし)がしばらく(あず)かりましょう。言葉(ことば)にならない(いの)りほど、(とうと)(かがや)くものなのですよ」


 (よる)冷気(れいき)直接(ちょくせつ)()(こま)やかに(ふる)えていた銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)(つばさ)(ひかり)()し、(わたし)内側(うちがわ)のトゲトゲした感情(かんじょう)丁寧(ていねい)()かしていく。


 無理(むり)(かざ)らなくていい。


 無理(むり)大人(おとな)ぶらなくていい。


 ただ、ごめんねと()いたいだけ。


 そんな自分(じぶん)本音(ほんね)が、キラキラした(ひかり)(つぶ)になって、夜空(よぞら)へと()えていった。


「……すこし、(らく)になりました」


「きみの(なか)()は、もう(あば)れてはいませんよ。()てごらんなさい」


銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)(ゆび)()した足元(あしもと)()る。


 ()()しの神経(しんけい)のように痛々(いたいた)しく()れていた(とも)()が、(いま)暖炉(だんろ)()のように(やさ)しく、(たし)かな(ねつ)宿(やど)していた。


 すると(かれ)(しろ)(つばさ)をひと()すると世界(せかい)(まぶし)白光(はっこう)(つつ)まれ(まばた)きする(あいだ)に、全部(ぜんぶ)(しろ)()()まれ、()えていった。



……。



 さっきまでの(ひかり)(うそ)みたいに、いつもの(しず)かすぎる(かえ)(みち)(もど)っていた。


 (あわ)琥珀色(こはくいろ)(ひかり)(にじ)()した銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)姿(すがた)はもうない。


 背中(せなか)(のこ)圧倒(あっとう)的な(つばさ)(ぬく)もりが、(わたし)勇気(ゆうき)(あた)えてくれた。


 (わたし)自分(じぶん)()一度(いちど)()つめ、それから(しず)かに(いえ)のドアを()けた。



「ただいま」



 自分(じぶん)でも(おど)くほど(やわ)らかな(こえ)が、家族(かぞく)()部屋(へや)へと()けていった


「……今日(きょう)のご(はん)(なに)?」


 感謝(かんしゃ)言葉(ことば)をすべて()えたわけじゃない。


 けれど、(とげ)のないその一言(ひとこと)に、(わたし)精一杯(せいいっぱい)の「ありがとう」を()めた。


(あい)(かたち)にできないもどかしさ」、なんだか()(くさ)い。


 でも(こころ)(とも)った()えない種火(たねび)が、あの(よる)()れた(つばさ)(やわ)らかな余熱(よねつ)(はこ)び、明日(あした)魔法(まほう)のように、()てついた(むね)(おく)をじんわりと(あたた)(つづ)けてくれる。


(だい) 9()(かん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ