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【第8話】銀翼の同期、論理の深奥


 視界(しかい)(はし)に、無機質(むきしつ)(ひかり)点滅(てんめつ)していた。


 網膜(もうまく)(すべ)()ちる膨大(ぼうだい)二進法(にしんほう)羅列(られつ)


 ()()なく更新(こうしん)される情報(じょうほう)奔流(ほんりゅう)において、(わたし)意識(いしき)座標(ざひょう)(うしな)った微細(びさい)回路(かいろ)一部(いちぶ)()していた。


 (くら)がりに()かび()がる、青白(あおじろ)液晶(えきしょう)画面(がめん)


 そこは、設計(せっけい)思想(しそう)なき電子(でんし)迷宮(めいきゅう)


 不純物(ふじゅんぶつ)(けず)()った真空(しんくう)(なか)定型(ていけい)のリズムだけが駆動(くどう)する、無機質(むきしつ)論理(ろんり)監獄(かんごく)だった。


 不可視(ふかし)対象(たいしょう)から射出(しゃしゅつ)される不満(ふまん)憤言(ふんげん)を、デジタルコードという形式(けいしき)終日(しゅうじつ)受容(じゅよう)(つづ)ける。


 既定(きてい)論理(ろんり)構造(こうぞう)()定型(ていけい)書式(しょしき)背後(はいご)自己(じこ)隠蔽(いんぺい)し、減衰(げんすい)していく感性(かんせい)強制(きょうせい)終了(しゅうりょう)させる。


 深夜(しんや)三時(さんじ)


 暖房(だんぼう)()れた部屋(へや)で、指先(ゆびさき)だけが(いそが)しくキーボードを(たた)く。


 ディスプレイより流出(りゅうしゅつ)する定義(ていぎ)不能(ふのう)()が、沈殿物(ちんでんぶつ)となって内部(ないぶ)領域(りょうきょう)圧迫(あっぱく)していた。


 応答(おうとう)データの送信(そうしん)完了(かんりょう)するごとに、自己(じこ)という容体(ようたい)実効(じっこう)容量(ようりょう)漸次(ぜんじ)消失(しょうしつ)していく。


 それは、決定(けってい)的なシステム(じょう)のリソース枯渇(こかつ)だった。


 (わたし)暗転(あんてん)していく思考(しこう)(つな)()めることができず、機能(きのう)停止(ていし)に近い微睡(まどろみ)へと(しず)()んでいった。


「……処理(しょり)すべきは記号(きごう)ではなく、その深奥(しんおう)(ひそ)調和(ちょうわ)欠片(かけら)ですよ」


 ノイズの()じらない、絶対(ぜったい)(てき)正弦波(せいげんは)(おも)わせる()んだ(こえ)


 (かお)()げると、青白(あおじろ)液晶(えきしょう)(ひかり)()()み、銀色(ぎんいろ)粒子(りゅうし)()らす青年(せいねん)()っていた。


 (かれ)輪郭(りんかく)は、熟練(じゅくれん)設計(せっけい)()(えが)いた曲線(きょくせん)のように(よど)みなく、その()(ひろ)がる白銀(はくぎん)(つばさ)は、微細(びさい)結晶(けっしょう)幾重(いくえ)にも(つら)なる精密(せいみつ)幾何学(きかがく)構造(こうぞう)()している。


 (つめ)たく、それでいて視線(しせん)()らせないほどに鮮明(せんめい)(うつく)しさが、(いろ)(うしな)った(ろく)(じょう)(ひと)()神聖(しんせい)領域(りょういき)へと()()えていった。


今夜(こんや)は、摩擦(まさつ)(うしな)ったきみの世界(せかい)に、(せい)なる(ひかり)同期(どうき)させましょう」


 (かれ)一歩(いっぽ)()()すごとに、無機質(むきしつ)部屋(へや)空位(くうい)()めるように色彩(しきさい)数式(すうしき)浮遊(ふゆう)し、(わたし)意識(いしき)包囲(ほうい)する。


 それは計算(けいさん)不能(ふかのう)(ひかり)情報(じょうほう)(りょう)


 (つめ)たく()(ちゃく)していた(のう)(ない)記録(きろく)媒体(ばいたい)が、荘厳(そうごん)(ひかり)のアルゴリズムによって(さい)構成(こうせい)されていく。


 枯渇(こかつ)していたリソースが、未知(みち)のエネルギーによって急速(きゅうそく)充填(じゅうてん)されていく。


 不協和音(ふきょうわおん)(かな)でていた情動(じょうどう)のノイズは霧散(むさん)し、思考(しこう)回路(かいろ)隅々(すみずみ)までが、黄金比(おうごんひ)(もと)づく清浄(せいじょう)(ねつ)()びる。


(だれ)かの()()()け、透明(とうめい)秩序(ちつじょ)へと変換(へんかん)するきみは、この世界(せかい)(ささ)える(うつく)しき論理(ろんり)一翼(いちよく)なのですよ」


 意識(いしき)(ふか)(そう)へと(さい)配置(はいち)される。


 (わたし)は、(かい)()収束(しゅうそく)する数式(すうしき)のように、一切(いっさい)摩擦(まさつ)(うしな)った無音(むおん)(やす)らぎへと()()んでいった。



……。



 端末(たんまつ)起動(きどう)(おん)が、(あさ)静寂(せいじゃく)(つらぬ)く。


 ()()ますと、ディスプレイには最適(さいてき)()されたデスクトップ画面(がめん)(ひろ)がっていた。


 指先(ゆびさき)宿(やど)感覚(かんかく)鋭敏(えいびん)で、思考(しこう)遅延(ちえん)微塵(みじん)もない。


 昨夜(さくや)(かれ)空間(くうかん)(きざ)んでいった高潔(こうけつ)秩序(ちつじょ)余韻(よいん)が、(むね)(なか)(おだ)やかに振動(しんどう)している。


「……プロセスの再開(さいかい)を」


 キーボードを(たた)(おと)が、心地(ここち)よい律動(りつどう)となって(ひび)く。


 今日(きょう)もまた、無秩序(むちつじょ)情動(じょうどう)清浄(せいじょう)論理(ろんり)へと()()えるために。


 (わたし)()()まされた(いち)()を、(しず)かに(きざ)(はじ)めた。


(だい) 8()(かん)


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