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【第10話】静止した波紋、白銀の旋風


 (とお)くに、いくつかの(とも)()()えた。


 それは()れることさえ(わす)れたかのように、(つめ)たく()(とお)っていた。


 鏡面(きょうめん)のように(みが)()かれた(ひかり)粒子(りゅうし)が、静止(せいし)した空気(くうき)(なか)(するど)固定(こてい)されている。


 限界(げんかい)まで()()めた(ゆみ)(つる)のような、(あや)うい均衡(きんこう)


 そこには、(だれ)()()むことを(ゆる)さない、(うつく)しい拒絶(きょぜつ)()ちていた。


(つぎ)計画(けいかく)も、問題(もんだい)ありません」


 そう報告(ほうこく)する自分(じぶん)(こえ)が、(とお)くの洞窟(どうくつ)()(ひび)(かね)のように無機質(むきしつ)()こえた。


 失敗(しっぱい)(ゆる)されない。


 弱音(よわね)()場所(ばしょ)もない。


 ()()げた実績(じっせき)という()石塔(せきとう)頂上(ちょうじょう)で、(わたし)自分(じぶん)という存在(そんざい)(みが)(つづ)けた。


 ふと、手元(てもと)万年筆(まんねんひつ)(にぎ)指先(ゆびさき)()る。


 (しろ)(かわ)き、感覚(かんかく)希薄(きはく)だ。


 まるで自分(じぶん)精巧(せいこう)彫像(ちょうぞう)(つく)()えられていくような、(しず)かな恐怖(きょうふ)足元(あしもと)から()()がってくる。


 夜風(よかぜ)が、密閉(みっぺい)された部屋(へや)のはずなのに(ほほ)()でた。


 (よる)密度(みつど)が、唐突(とうとつ)変質(へんしつ)する。


 頭上(ずじょう)から(おと)もなく()(そそ)いだのは、(やみ)根底(こんてい)から()()えてしまうような、底知(そこし)れない白銀(はくぎん)奔流(ほんりゅう)だった。


 それは(まぶ)しさを(とお)()して、皮膚(ひふ)裏側(うらがわ)まで直接(ちょくせつ)()らし()すような、(さか)らいようのない(おも)みを()っている。


 銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)が、(ひかり)(まく)()()いて姿(すがた)(あらわ)す。


 (かれ)存在(そんざい)そのものが、()てついた空気(くうき)一瞬(いっしゅん)(はる)(あらし)のような(ねつ)()え、()場所(ばしょ)をすべて(うば)()っていく。


 呼吸(こきゅう)(わす)れるほどの(かがや)きの(なか)(わたし)はただ、自分(じぶん)という存在(そんざい)巨大(きょだい)太陽(たいよう)(まえ)()一枝(ひとえだ)()()になったかのような、(あらが)いがたい充足(じゅうそく)熱量(ねつりょう)()()まれていた。


 背後(はいご)(ひろ)げられた(つばさ)は、(いち)(まい)(こぼ)れるたびにその()(けず)るような(いた)ましさを(ともな)ってなお、巨大(きょだい)威容(いよう)(ほこ)っている。


 (ひろ)げられたそれは(すく)いという()圧力(あつりょく)()って、()(もの)()(みち)(ふさ)いだ。


(ただ)しさという純白(じゅんぱく)窒息(ちっそく)して、呼吸(こきゅう)(わす)れてしまったのでしょう」


 言葉(ことば)()わすより(はや)く、(かれ)(つばさ)から(あふ)()した(ひかり)が、(わたし)周囲(しゅうい)()(めぐ)らされた透明(とうめい)(かべ)()かし(はじ)める。


 圧倒(あっとう)(てき)(ねつ)が、皮膚(ひふ)(とお)して(ほね)(ずい)まで()()んできた。


 それは(やさ)しいだけの(あたた)かさではない。

 

 冬眠(とうみん)していた意識(いしき)強制(きょうせい)(てき)()(おこ)すような、鮮烈(せんれつ)衝撃(しょうげき)だった。


「うぁっ……」


 指先(ゆびさき)()(かよ)い、同時(どうじ)(むね)(おく)がズキリと(うず)いた。


 完璧(かんぺき)にこなすために()()てた、数々(かずかず)(まよ)いや不器用(ぶきよう)本音(ほんね)


 (いびつ)(ひと)()せられない自分(じぶん)欠片(かけら)が、(ねつ)()びて(うず)()す。


(よど)みのない水面(すいめん)(うつく)しいが、そこには(なに)(そだ)たない」


 銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)(しず)かにそう()げた瞬間(しゅんかん)(かれ)背後(はいご)空間(くうきかん)(はげ)しく(ゆが)んだ。


 (ゆう)()(りん)(かく)()ちながらも、そこから(はな)たれたのは(きょう)(れつ)熱風(ねっぷう)であり、(わたし)(こころ)(うつ)していた(かがみ)のような(すい)(めん)(よう)(しゃ)なく(たた)()けた。


 (くだ)()った(こおり)のような(せい)(じゃく)()(へん)が、(ぎん)(ぱつ)(せい)(ねん)(ねつ)にあてられて、(いっ)(しゅん)(はる)(きり)へと姿(すがた)()えていく。


 (あら)(あら)しく()()けたはずの(あらし)は、(わたし)(はだ)()れた瞬間(しゅんかん)(おどろ)くほど(ひそ)やかな(いつく)しみに(てん)じていた。


 ()()めていた(いと)がふっと(ゆる)み、(わたし)()まれて(はじ)めて(ふか)く、自分(じぶん)(ゆる)すための呼吸(こきゅう)をした。



……。



 (まど)から()()朝陽(あさひ)が、(つくえ)(うえ)万年筆(まんねんひつ)()らしている。


 今日(きょう)もやるべき仕事(しごと)(やま)のようにある。


 期待(きたい)責任(せきにん)も、()わらずそこにある。


 けれど、(かがみ)(うつ)自分(じぶん)()には、昨日(きのう)までにはなかった(かす)かな()らぎと、(たし)かな温度(おんど)宿(やど)っていた。


「……さて、()こう」


 完璧(かんぺき)(こた)えではなく、今日(きょう)自分(じぶん)なりの足跡(あしあと)(きず)むために。


 (むね)宿(やど)った(あたた)かな()が、あの(よる)()れた(つばさ)(やわ)らかな余熱(よねつ)()やさず、(いろ)(うしな)っていた景色(けしき)(やさ)しく()らし(つづ)けている。



(だい) 10(かん)




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