表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/27

【第4話 】強がり仮面の輪郭


 (とお)くに、いくつかの(とも)()()えた。


 それは静止(せいし)し、いっさいの()らぎを()たなかった。


 けれど、その(ひかり)からは、(いのち)(あかし)であるはずの(ねつ)が、微塵(みじん)(つた)わってこない。


 (わたし)は、背筋(せすじ)()ばして()っていた。


 (くず)れてはいけない。


 弱音(よわね)()いてはいけない。


 (だれ)(たす)けてくれないのだから、(わたし)だけは完璧(かんぺき)な「(わたし)」を(えん)(つづ)けなければならない。


 今日(きょう)(わたし)完璧(かんぺき)だった。


 挨拶(あいさつ)明快(めいかい)に、仕事(しごと)迅速(じんそく)に。


 (こころ)(おく)悲鳴(ひめい)()げている「内側(うちがわ)(わたし)」に、(あつ)鉄板(てっぱん)(かぶ)せ、その(うえ)綺麗(きれい)塗装(とそう)(ほどこ)した。


 そうしていれば、大丈夫(だいじょうぶ)


 (だれ)(わたし)(きず)つけられないし、(わたし)(だれ)かを(こま)らせなくて()む。


 けれど、(かがみ)(うつ)自分(じぶん)が、自分(じぶん)ではない(だれ)かに()えたとき、(わたし)はこの(ふち)()っていた。


 そこは、(つめ)たい(かがみ)(なか)のような世界(せかい)


 (かぜ)もなく、(おと)もなく、ただ無機質(むきしつ)群青(ぐんじょう)空間(くうかん)(ひろ)がっていた。


「……(なに)(かん)じない」


 自分(じぶん)指先(ゆびさき)()んでみるが、感覚(かんかく)(とお)い。


 (さむ)さも、(かな)しみも、(よろこ)びさえも、分厚(ぶあつ)防護服(ぼうごふく)()こう(がわ)出来事(できごと)のようだ。


「ずいぶんと立派(りっぱ)外殻(がいかく)()(まと)いましたね」


 (こおり)表面(ひょうめん)(すべ)るような、(しず)かな(こえ)がした。


 銀色(ぎんいろ)(かみ)()つ「(かれ)」が、(わたし)数歩(すうほ)手前(てまえ)()()まっていた。


「きみの『大丈夫(だいじょうぶ)』は、世界(せかい)()けた宣言(せんげん)であって、きみ自身(じしん)姿(すがた)ではありませんね。内側(うちがわ)にある『本当(ほんとう)姿(すがた)』は、その(つめ)たい(ひかり)(かげ)で、(こご)えて(ふる)えていますよ」


 (かれ)(しず)かに(あゆ)みを(すす)め、拒絶(きょぜつ)(いろ)(かく)せない(わたし)正面(しょうめん)()った。


 そして、背中(せなか)(たた)まれていた(しろ)巨大(きょだい)(つばさ)を、(おと)もなく(ほど)いた。


(すこ)しだけ、(かた)(ちから)()いてくださいね」


 (かれ)(つばさ)(おお)きく(ひろ)げると、周囲(しゅうい)停滞(ていたい)していた空気(くうき)一変(いっぺん)した。


 (しろ)(つばさ)一枚(いちまい)一枚(いちまい)から、(あわ)黄金色(こがねいろ)(ひかり)(こな)(ゆき)(わたし)(つつ)()んだ。


 (かれ)(やさ)しく微笑(ほほえ)むと、その(かた)(ほう)(つばさ)(わたし)背中(せなか)(まわ)し、(まゆ)のように(つつ)()む。


「あ……」


 (つばさ)感触(かんしょく)は、想像(そうぞう)(ぜっ)するほど(やわ)らかい。


 赤子(あかご)(ほお)()れるような、あるいは()だまりに()ける(くも)()かれているような。


 (なに)よりも(おどろ)いたのは、その圧倒(あっとう)的な(ねつ)だった。


 ()てついていた(わたし)表面(ひょうめん)は、(かれ)(つばさ)()れた瞬間(しゅんかん)(おと)()てて融解(ゆうかい)していく。


(くる)しかったですね。(だれ)にも(よわ)さを()せず、(ひと)りで(りん)()(つづ)けようとするのは、どれほど過酷(かこく)なことだったでしょうか」


 (かれ)(ささや)きながら、(つばさ)内側(うちがわ)(わたし)()きしめた。


 (しろ)いダウンのように豊潤(ほうじゅん)(つばさ)(たば)が、(わたし)(こわ)ばった筋肉(きんにく)(いっ)(そう)ずつ(ほぐ)していく。


 首筋(くびすじ)()れる羽毛(うもう)一筋(ひとすじ)までもが、意思(いし)()った(ぬく)もりとして浸透(しんとう)し、(こころ)(なか)()まった(つめ)たい(なまり)()かしていった。


「……っ、あぁ……」

 

 (こら)えていたものが、決壊(けっかい)した。


 (かれ)(うで)(なか)で、(わたし)自分(じぶん)(おも)っていたよりもずっと(ちい)さく、(ふる)えている存在(そんざい)であることを()った。


 (よろい)のように(かた)めていた「(つよ)がり」が、(つばさ)(あたた)かさに()てられて、(もろ)くも(くず)()ちていく。


「いいんですよ。この(つばさ)(なか)では、完璧(かんぺき)である必要(ひつよう)はありません。きみの(よわ)さも、(ふる)えも、すべてこの(つばさ)()()ってしまいますから」


 (かれ)(わたし)後頭部(こうとうぶ)(やさ)しく(つつ)み、自分(じぶん)胸元(むねもと)へと()()せた。


 (つばさ)から(あふ)()(ひかり)が、(わたし)視界(しかい)(しろ)()(つぶ)していく。


 それは意識(いしき)(うば)(しろ)ではなく、すべてを許容(きょよう)し、()(なお)してくれる慈悲(じひ)(いろ)だった。


 (わたし)嗚咽(おえつ)()まらなくなる。


 (かれ)清潔(せいけつ)(かお)りと、(つばさ)()()(かす)かな(ささや)き。


 その至福(しふく)のような()やしの時間(じかん)()て、(わたし)(まえ)にあった(あお)(じろ)(つめ)たかった(とも)()が、ようやく人間(にんげん)吐息(といき)()けたかのように、(やわ)らかく、(あたた)かな琥珀(こはく)(いろ)へと変化(へんか)し、(ちい)さく()(はじ)めた。


「……ありがとう」


 (ほお)(あか)らめ、(なみだ)()れながらも、自分(じぶん)体温(たいおん)()(もど)し、(かす)れた(こえ)(つぶや)いた。


 すると(かれ)(ふたた)(つばさ)(おお)きく()ばたかせ(あわ)黄金色(こがねいろ)(ひかり)(つぶ)()りまいた




 ……。




 (あさ)のアラームが()る。



 (わたし)一度(いちど)だけ深呼吸(しんこきゅう)をし、(かがみ)(まえ)()った。


 仕事(しごと)()くための化粧(けしょう)をし、(みだ)れのない(ふく)()る。


 外側(そとがわ)は、昨日(きのう)までと(おな)じ「しっかりした(わたし)」だ。


 けれど、今日(きょう)(わたし)は、自分(じぶん)内側(うちがわ)(ふる)えているのを(かく)さない。


 自分(じぶん)(ひとみ)()つめる。


 そこには、(ひと)りで(たたか)うための(するど)(ひかり)ではなく、自分(じぶん)(いと)おしむような、(おだやか)琥珀(こはく)(いろ)(かがや)きが宿(やど)っていた。


 背中(せなか)(ささ)えてくれた、あの(しろ)(つばさ)(ぬく)もりを、(かす)かに(あか)(かん)じた。


()ってきます」


 自分(じぶん)でも(おどろ)くほど(やわ)らかな(こえ)部屋(へや)()けていった。




(だい) 4()(かん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ