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【第16話】薄明の献身、聖域なる己が灯し火


 (とお)くに、いくつかの(とも)()()えた。


 それは周囲(しゅうい)(やみ)(いつく)しむように(あわ)く、(ひろ)輪郭(りんかく)(ひろ)げている。


 しかし、その(ひかり)()()らそうと無理(むり)()()ばされたがゆえに、(いま)にも千切(ちぎ)れそうなほどに(うす)く、(とう)(めい)(ちか)(あや)うい(かがや)きだった。


 呼吸(こきゅう)をするたびに、内側(うちがわ)(けず)()られていくような感覚(かんかく)があった。


 (だれ)かの不平(ふへい)()()み、(だれ)かの身勝手(みがって)願望(がんぼう)微笑(ほほえ)みで(つつ)む。


 周囲(しゅうい)(わたし)()()れていることに()づかない。


 なぜなら、(わたし)が「都合(つごう)のよい(せい)(いき)」であることを、(かれ)らは当然(とうぜん)権利(けんり)のように享受(きょうじゅ)しているからだ。


 自分(じぶん)(まき)として()(つづ)け、(はい)になるまで他者(たしゃ)(あたあ)めようとする渇望(かつぼう)


 その()てに(のこ)ったのは、(だれ)からも(かえり)みられない形骸(けいがい)としての(わたし)だった。


 (のど)(おく)()けるように(かわ)き、(むな)しさが(たましい)(そこ)(しろ)侵食(しんしょく)したその瞬間(しゅんかん)視界(しかい)()けるような白銀(はくぎん)()まった。


 そこに、銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)()っていた。


 角灯(かくとう)揺曳(ようえい)が、(かれ)()(とお)った眼差(まなざ)しに(しず)かな(れん)(びん)宿(やど)している。


 (かれ)(おと)もなく(わたし)(そば)へと()()ち、透明(とうめい)(こえ)(ささや)いた。


()(めつ)(ふち)()つ、(かな)しき(よる)旅人(たびびと)さん」


 その一言(ひとこと)が、(だれ)()れようとしなかった(わたし)欠落(けつらく)(ただ)しく()()く。


貴方(あなた)(あたた)めた人々(ひとびと)(かげ)で、貴方(あなた)自身(じしん)(こご)(ふる)えていることに、(だれ)()づきませんでした。……いいえ、()づかないふりを(えら)んだのでしょう。」


 (かれ)(しず)かな断罪(だんざい)に、(むね)(うち)(はげ)しく()()った。


 ()かれと(ねが)った(おこな)いが、(いと)おしきはずの隣人(りんじん)怪物(かいぶつ)へと()えていた。


 その(きょ)(ぜつ)しがたい(かい)(こん)(のど)までせり()がり、(わたし)絶望(ぜつぼう)(ひざ)()りそうになる。


 それでも。


 ボロボロに()()れた(こころ)(そこ)(よど)むのは、(いか)りではなく「それでも、(つめ)たい世界(せかい)であってはならない」という、(のろ)いにも()(いの)りだった。


 銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)は、(わたし)(うち)渦巻(うずま)(どろ)のような葛藤(かっとう)を、(すべ)てを()()れるような(いつく)しみの眼差(まなざ)しで()つめた。


貴方(あなた)は、もうこれ以上(いじょう)(だれ)かのための()かれる必要(ひつよう)はありません。(いま)はこの(つばさ)が、その(とうと)(とも)()を、(しず)かに(おお)いましょう」


 (かれ)(いつ)(せん)背後(はいご)(たた)えられていた(ひかり)(ほん)(りゅう)(とき)(はな)つと、空間(くうかん)から一切(いっさい)の「他者(たしゃ)(こえ)」が()()った。


 (わたし)(しば)()けていた無数(むすう)要望(ようぼう)や、(こた)えねばならぬ(こえ)が、圧倒的(あっとうてき)静謐(せいひつ)によって跡形(あとかた)もなく(うわ)()きされていく。


 (つばさ)内側(うちがわ)()ちたのは、他者(たしゃ)()らすための(ひかり)ではなく、(わたし)という存在(そんざい)(ふたた)()()(なお)すための、潤沢(じゅんたく)(いつく)しみの(ねつ)だった。


 (つばさ)(つつ)()まれた瞬間(しゅんかん)()(めつ)し、()(とお)りかけていた(わたし)輪郭(りんかく)が、(かれ)胸元(むなもと)から(つた)わる(おだ)やかな鼓動(こどう)(きょう)(めい)するように、(たし)かな密度(みつど)()(もど)していく。


(いま)はこの静寂(せいじゃく)(なか)で、自分(じぶん)という存在(そんざい)のためだけに(いき)をしてください。……貴方(あなた)(すく)われることを、(だれ)(ゆる)してもらう必要(ひつよう)もありません」


 (かれ)指先(ゆびさき)が、(ねつ)()った(わたし)目蓋(まぶた)(しず)かに(しず)める。


 それは()てついた大地(だいち)()かす(はる)()()しのように、(くう)(ばく)として(かわ)ききった(わたし)(ふち)を、(おだ)やかな(いつく)しみの(しずく)()たしていく感触(かんしょく)だった。


貴方(あなた)貴方(あなた)として()る。それだけで、この(とも)()(じゅう)(ぶん)(とうと)いのですから」


 (かれ)(おだ)やかな微笑(ほほえ)みが、(けが)れなき()綿(わた)のようなまどろみへと()けていく。


 (わたし)(はじ)めて、(だれ)のことをも(あん)ずることのない、(ふか)()んだ(ぼう)(きゃく)(ふち)へと(しず)んでいった。



……。



 (とお)くで、(あさ)()げる(とり)(さえず)りが()こえた。


 目蓋(まぶた)()()げた(さき)にある現実(げんじつ)は、昨日(きのう)()わらず、(わたし)(けん)(しん)当然(とうぜん)のように()(かま)えている。


 けれど、ふと(むね)()()てれば、そこにはもう、()(ぼう)()(けず)()られるのを()つだけの空虚(くうきょ)はなかった。


 (てのひら)(つた)わるのは、(だれ)にも(おか)させない、(わたし)自身(じしん)(あたあ)めるために(とも)された、(ちい)さくも峻烈(しゅんれつ)(とも)()拍動(はくどう)だった。


 (わたし)(ふか)く、(おも)く、(ひと)呼吸(こきゅう)()いた。


 (まど)(そと)無慈悲(むじひ)()けていく今日(きょう)


 今度(こんど)(わたし)自身(じしん)(まも)()くという(しず)かな傲慢(ごうまん)()()め、(たし)かな(いっ)()()()した。



(だい) 16()(かん)



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