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【第14話】 悠久の轍、終焉なき帰趨


 (とお)くに、ひとつの(とも)()()えた。


 それは(はげ)しく()()ける(かぜ)()(けず)りながらも、(けっ)して()えることのない(かたく)なな(またたき)だった。


 (いく)(せん)もの(よる)()え、摩耗(まもう)()てに(のこ)されたその(とも)()は、(みぎ)(ひだり)へと(あや)うく(ひるがえ)りながらも、(しん)にある黄金色(こがねいろ)だけは(りん)として(やみ)(こば)んでいる。


 (なな)(じゅう)春秋(しゅんじゅう)(きざ)んだ(たましい)(はな)つ、それは執念(しゅうねん)にも()至純(しじゅん)()らぎだった。


 ()としき(もの)()(うしな)い、(まも)()いたはずの城塞(じょうさい)(すな)へと()するを見届(みとど)け、なおも(むね)奥底(おくそこ)残留(ざんりゅう)した、(かた)(たね)()のようなものだ。


 かつての情熱(じょうねつ)はとうに瓦解(がかい)し、(あと)にはただ、自己(じこ)という輪郭(りんかく)維持(いじ)するためだけの、()()しの意志(いし)(よこ)たわっている。


 その(かす)かな(ふる)えが、暗澹(あんたん)たる(よる)深層(しんそう)(ひと)(すじ)亀裂(きれつ)(きざ)んでいた。


 (わたし)(あゆ)みは、(すで)自重(じじゅう)()えかねるほど(おも)く、(つめ)たい。


 舗道(ほどう)()()めるたびに、()(めつ)した(ひざ)悲鳴(ひめい)()(きし)みを()げる。


 かつて「()()」と()んだ場所(ばしょ)(すで)空洞(くうどう)()し、()()らぬ時間(じかん)(しず)かに堆積(たいせき)している。


 (よる)冷気(れいき)容赦(ようしゃ)のない氷片(ひょうへん)となり、()(つか)れた(わたし)輪郭(りんかく)(こく)一刻(いっこく)(しん)(しょく)していく。


「どこへ(かえ)ればよいのでしょうねぇ」


 独白(どくはく)(しろ)(きり)となって(やみ)()えた。


 役割(やくわり)(まっと)うし、(あい)する(もの)たちを()(おく)った(あと)に残されたのは、世界(せかい)に対する(かす)かな違和感(いわかん)と、自己(じこ)消失(しょうしつ)への予感(よかん)だけだ。


 意識(いしき)希薄(きはく)になり、(ひざ)(くっ)しかけたその(とき)白銀(はくぎん)静寂(せいじゃく)(あた)りを支配(しはい)した。


 そこに、(かれ)()っていた。


 (かぜ)(はら)んで(うつく)しく(うごめ)銀髪(ぎんぱつ)は、悠久(ゆうきゅう)(とき)()てつかせた(ほし)破片(はへん)のように(かがや)いている。


 (かれ)(しん)(せつ)()でるような(あわ)()調(ちょう)(あゆ)()ると、(わたし)()(かさ)ねた歳月(さいげつ)(つつ)()むような(いつく)しみを(たた)え、最上(さいじょう)敬意(けいい)()って(しず)かに(こうべ)()れた。


「……(なが)(たび)(まこと)(とうと)(あゆ)みでした。(さき)(みち)(ひら)かれた貴女(あなた)に、不変(ふへん)(しるべ)を」


 その(こえ)水晶(すいしょう)()つように()み、かつ(あたた)かい。


 (かれ)(しず)かに背後(はいご)(つばさ)(ひろ)げると、無重力(むじゅうりょく)光輝(こうき)(わたし)(つつ)()んだ。


 それは言葉(ことば)(ぜっ)した救済(きゅうさい)奔流(ほんりゅう)だった。


 白銀(はくぎん)(つばさ)(えが)巨大(きょだい)抱擁(ほうよう)は、(わたし)()てついた四肢(しし)を、有無(うむ)()わせぬ慈愛(じあい)()って(ほど)いていく。


 身体(しんたい)(しん)まで()(わた)圧倒(あっとう)(てき)熱圧(ねつあつ)が、()もり(かさ)なった孤独(こどく)という()凍土(とうど)を、根底(こんてい)から融解(ゆうかい)させていった。


 (かれ)(つばさ)(ひと)()りすると、(まばゆ)いばかりの(ひかり)粒子(りゅうし)(ゆき)のように()(そそ)ぎ、(わたし)意識(いしき)(やさ)しく(しろ)()かしていった。


 (おく)(へき)という(うつ)ろな(うつわ)(かえ)場所(ばしょ)なのではない。


 (いく)(せい)(そう)(こご)える()の手を(にぎ)()め、()えゆく(いのち)()()り、(つな)()めてきたその(てのひら)(かす)かな(ねつ)(つら)なりこそが、(わたし)(しん)なる居所(きょしょ)であったのだと、()(かさ)ねた歳月(さいげつ)(おも)みが(おし)えてくれた。


 白銀(はくぎん)光輝(こうき)(なか)(かれ)(いつく)しみを(たた)えた(けい)(けい)たる眼差(まなざ)しを(わたし)()け、(たましい)深淵(しんえん)()さぶるような(ひく)(こえ)(ささや)いた。


「……まだ、()わりではありません。貴女(あなた)(ひら)いた(みち)(あお)ぎ、その()()(おさな)(ひな)たちがいます。貴女(あなた)()智慧(ちえ)を、()てつく()()らす言葉(ことば)を、(かれ)らに(のこ)さねばならない。……()きなさい、(ほこ)り高き(せん)(だつ)よ」


 それは(やさ)しくも峻烈(しゅんれつ)叱咤(しった)であり、(わたし)(うち)なる(ほむら)(ふたた)(あお)(いち)(じん)(かぜ)だった。


 (つばさ)(えが)最後(さいご)()が、(わたし)背中(せなか)(せい)領域(りょういき)へと力強(ちからづよ)()(もど)していく。



……。



 (つぎ)(まぶた)()()げたとき、視界(しかい)()たしたのは無機質(むきしつ)黎明(れいめい)(しろ)だった。


 (ほお)()け、指先(ゆびさき)には(なまり)のような倦怠(けんたい)沈着(ちんちゃく)している。


 現実(げんじつ)という()(めつ)(なに)ひとつ容赦(ようしゃ)してはくれない。


 けれど、節々(ふしぶし)(きし)身体(しんたい)()()()こした(わたし)()()てるのは、絶望(ぜつぼう)ではなく、(むね)(なか)宿(やど)った()えぬ余熱(よねつ)だった。


 まだ、(かた)るべき言葉(ことば)がある。


 次代(じだい)()きる()らに、この(つめ)たい世界(せかい)(あゆ)()くための、(いち)(ぺん)(ねつ)(つた)えねばならない。


 (わたし)(かがみ)(うつ)(おの)形骸(けいがい)(にら)()え、(ふか)く、(おも)く、(ひと)呼吸(こきゅう)()いた。


 (まど)(そと)(うす)(やみ)境界(きょうかい)にあの黄金色(こがねいろ)(またたき)幻視(げんし)しながら、(わたし)(ふたた)(ふる)える(あし)今日(きょう)という(じん)(かい)()()した。



(だい) 14()(かん)

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