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【第12話】悔恨の円環、白銀の熱源


 (とお)くに、いくつかの(とも)()()えた。


 それは、()えそうでいて(けっ)して()えることのない、(かたく)ななまでの(またた)きだった。

 

 (かぜ)(ひるがえ)り、(かたち)()えながらも、その(しん)にある(ねつ)だけは手放(てばな)そうとしない。


 (まよ)い、(ふる)(つづ)けることが、()きているための唯一(ゆいいつ)条件(じょうけん)であるかのように。


「もし、あの(とき)――」


 その()いを何度(なんど)暗闇(くらやみ)()げただろう。


 ()(はな)さなかったら。


 言葉(ことば)()()まなかったら。


 あの()自分(じぶん)選択(せんたく)を、過去(かこ)(つめ)たい記憶(きおく)(なか)()きずり()しては、正解(せいかい)のない裁判(さいばん)()(かえ)している。


 出口(でぐち)のない自問(じもん)円環(えんかん)(とら)われ、過去(かこ)(かげ)だけをなぞり(つづ)けるたびに、(わたし)(こころ)現在(いま)という場所(ばしょ)から(ふか)(しず)()み、今日(きょう)()()すための(ねつ)をじわじわと摩耗(まもう)させていた。


 ()わらない追憶(ついおく)は、(あたた)かかったはずの記憶(きおく)さえも灰色(はいいろ)重石(おもし)()え、(わたし)体温(たいおん)(しず)かに(うば)っていく。


 (わたし)(こころ)は、()わらない反省(はんせい)(うず)(なか)()往生(おうじょう)していた。


 そのとき、()ざした部屋(へや)空隙(くうげき)から、()いようのない(ねつ)()()してきた。


 白銀(はくぎん)奔流(ほんりゅう)が、(かげ)()退()けて(あふ)()す。


 (あらわ)れた銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)(かみ)は、意志(いし)()(ほのお)のようにゆらゆらと()れ、空間(くうきかん)微細(びさい)(ひかり)(しずく)(こぼ)していた。


 その()れる銀髪(ぎんぱつ)から放た(はなた)れる(かがや)きは、網膜(もうまく)()()らんばかりの密度(みつど)()ち、(わたし)(かか)(つづ)けた(くら)後悔(こうかい)を、容赦(ようしゃ)なく白日(はくじつ)(もと)へと(さら)していく。


 ()()のない白銀(はくぎん)(ひかり)が、(こころ)奥底(おくそこ)(おり)のように()まっていた「もしも」という()残滓(ざんし)を、(ひと)(つぶ)(のこ)らず鮮明(せんめい)()らし()していく。


 暗闇(くらやみ)(まぎ)れさせていた自分(じぶん)(みにく)さや(もろ)さが、白銀(はくぎん)粒子(りゅうし)(あぶ)()され、(かく)(とお)すことさえ(ゆる)されない。


 そのあまりの(まぶ)しさは、過去(かこ)固執(こしつ)する(わたし)への峻烈(しゅんれつ)断罪(だんざい)のようでもあり、同時(どうじ)に、そのすべてを(ひかり)(なか)(つつ)()んで()()ろうとする、残酷(ざんこく)なまでに純粋(じゅんすい)慈愛(じあい)そのものだった。


 銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)背後(はいご)から、巨大(きょだい)(ひかり)(かたまり)脈動(みゃくどう)(とも)()(はな)たれた。


 その(つばさ)は、どこかに()ながっているのではなく、(かれ)存在(そんざい)から(あふ)()した純粋(じゅんすい)熱量(ねつりょう)(かたち)()したものだった。


 白銀(はくぎん)羽根(はね)(いち)(まい)(ふる)えるたびに、部屋(へや)空気(くうき)()()ち、(こお)()いていた思考(しこう)無理矢理(むりやり)()かし(はじ)める。


「――()やみ(つづ)けるのは、それほどまでに誠実(せいじつ)でありたいと(ねが)っているからでしょう」


 銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)(しず)かにそう()げた瞬間(しゅんかん)顕現(けんげん)した巨大(きょだい)(つばさ)力強(ちからづよ)大気(たいき)()いだ。


 優雅(ゆうが)軌跡(きせき)(えが)きながらも、そこから(ほとばし)()たのは(たましい)()さぶる灼熱(しゃくねつ)波動(はどう)であり、(わたし)(ふか)自責(じせき)(ふち)へと(しず)めていた泥濘(ぬかるみ)のような沈黙(ちんもく)(いっ)(しゅん)攪拌(かくはん)した。


 幾度(いくど)(めぐ)(つづ)けた「もしも」という悔恨(かいこん)残滓(ざんし)が、銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)(はな)圧倒(あっとう)(てき)(ひかり)()かれ、(おも)(なまり)から(かろ)やかな残照(ざんしょう)へと昇華(しょうか)されていく。


 ()()のない糾弾(きゅうだん)のように()()れた烈風(れっぷう)は、過去(かこ)(かげ)(おび)える(わたし)(こころ)()れた瞬間(しゅんかん)、すべてを()かし(つつ)()むような、(あわ)()だまりの温度(おんど)へと()()ちていった。


()えない(とも)()は、(しず)かな(よる)だからこそ()つかるものなのかもしれません。()(つづ)けながら、それでも()えずにあること……その不器用(ぶきよう)(ねつ)を、どうか(いと)わないであげてください」


 ()れる銀髪(ぎんぱつ)から(こぼ)れる火花(ひばな)が、(わたし)内側(うちがわ)でチリチリと(くすぶ)種火(たねび)(かさ)なり、(しずか)肯定(こうてい)(あた)えていく。


 (すく)わない、けれど(とも)にあるという(ねつ)が、(おも)かった後悔(こうかい)(やわ)らかな余熱(よねつ)へと()えていった。


(なが)(よる)でした。暗闇(くらやみ)(とも)(つづ)けたその(ねつ)に、もうすぐ(あたら)しい(あさ)()いつきます」


(かれ)(ひく)()んだ(こえ)()げた瞬間(しゅんかん)(つばさ)から(こぼ)()ちる(まぶ)しい(ひかり)粒子(りゅうし)部屋(へや)()たした。



……。



 (しろ)(けむ)視界(しかい)(さき)で、(よる)はいつの()にか(しら)んでいた。


 窓際(まどぎわ)のテーブルに()かれたマグカップから、(ほそ)湯気(ゆげ)()(うご)いている。


 昨日(きのう)までの(わたし)なら、()()った思考(しこう)(なか)で、その(ぬく)もりが(うしな)われていくのを(おび)えるように()つめていただろう。


 けれど、(なな)めに()()朝日(あさひ)(なか)(きん)(いろ)粒子(りゅうし)となって(おど)(ほこり)(つぶ)(なが)めていると、()えない後悔(こうかい)もまた、(あさ)(ひかり)構成(こうせい)する一部(いちぶ)なのだと(おも)えた。


 「もしあの(とき)」という()わらない()いは、(いま)(わたし)足元(あしもと)(かげ)()としている。


 けれど、その(かげ)はもう、(わたし)()きずり(もど)そうとする(おも)みを()っていなかった。


 (あら)()てのシャツを(とお)()ける(かぜ)のように、ただ(しず)かに(わたし)()でて(なが)れていく。


 あの(よる)銀髪(ぎんぱつ)青年(せいねん)(のこ)していった(つばさ)からの(ひそ)やかな余熱(よねつ)は、(わたし)鼓動(こどう)(かさ)なり()い、(いま)内側(うちがわ)から(あつ)脈打(みゃくう)っている。


色彩(しきさい)()いていた世界(せかい)端々(はしばし)に、その(ぬく)もりが(しず)かな息吹(いぶき)となって()(わた)り、今日(きょう)という(とき)(あざ)やかに(ふち)()(つづ)けている。



(だい) 12(かん)



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