貴族の嗜みはもやい結び?
アイスクリーム作りの合間にも授業は毎日続いていく。その中でも特徴的だなと思うのが、結構実務的な学科が多いというところ。
今日は実習で買ったパンとハムでサンドイッチを作って野外で食べることになっている。
早速、リュックをおろしたジョージアナがベンチに座り込む。
「はぁ~! リュックにハムを入れるのって結構重いのね」
「塊だからな!おかげで分厚いハムサンドが食べれるよ。ありがとうギグルス」
「えへへ。いいのよ! バゲットの方がかさばるし持ちにくかったでしょ」
「はい。ギグルス、飲み物だよ」
「えへへ、グレありがとう。お茶とカップも運んでくれて助かる」
「どういたしまして! 」
「ハムも何とか切れたわ。さぁ、挟んで食べましょう! 」
「ピッピありがとう。パンも切れたよ」
贅沢な暮らしに慣れてしまったアナスタシアはバターが欲しいなと思いながらサンドイッチを齧る。
そんな中、隣でチャールズがまだ刺繍章が取れてなくて愚痴っている。
「刺繍が終わったと思ったらボタン付けだよ。僕は刺繍で終わりかと思ってた。洗濯も水が冷たいから、ちょっと温める魔法を使うのに苦労したし」
「チャビー、わかるよー。私は救急章が大変だったけど、怪我した時にどうするか習えてよかったよ! 」
「俺も治癒してもらうか、ポーション飲んだら終わりじゃんって思ってた」
ランスロットがバゲットサンドを頬張りながら答えると、医師の息子でもあるチャールズが真面目な顔で嗜めた。
「もし、ポーションを切らしていたり、僕みたいな治癒を担う人が居なくても助かる為だよ」
「確かに。何があっても困らないようにってことかぁ、でも大人がいたら魔法でちょちょいのちょいだろ?」
チャールズ、ランスロットとジョージアナの会話にピピロッテが加わる。
「そうですわね、でも、最近大陸でグランドツアーが流行っているんですって」
「グランドツアー? 何それ」
「他国の貴族などが大陸を横断して色んな国に行くんですって」
「そんなのが流行ってるんだ」
「えぇ、そして最後にアベギウェイトのダンジョンに行くルートがトレンドなんですって」
「アベギウェイトのダンジョンって最終学年で行く実習先? 」
「そうですって」
「それと関係があるの? 」
「うん。他国の人は魔力が平民並みの場合もあるから、魔法を使うと絡まれるらしいぞ」
「え! そ、そうなんですか? 知らなかったです」
ピピロッテの説明にグレチェンが驚く。
「子供が魔道具を使っていると狙われる事もあるらしいわ」
「どんなサバイバル! 」
皆の会話を聞いていたアナスタシアは驚きの声をあげる。
前世で思ってた貴族の生活のなんか違うけど、これが現実というものか。と思いながらも今をそれなりに楽しく授業を受け、終了認定として裁縫章などのワッペンを先生から貰っては綺麗に技能帯へと縫い付けていく。このワッペン集めがスタンプラリーのように感じてちょっと面白くていいな。なんて吞気に考えながら皆の会話を聞いていてちょっとびっくりしてしまった。
「サバイバル? 」
なんですかそれはという顔でこちらを見つめてくるグレチェンにアナスタシアは焦って誤魔化す。
「グレ、今の言葉は気にしないで。それよりこのパン固すぎない?美味しいけどお茶がないと飲み込むのに時間がかかるわ」
「そうですか、これが普通だと思いますけど……。ここの食堂のパンはどれもとても柔らかいです」
「あ、あら。そうなのね。私の顎がちょっと弱かったみたい。気にしないで」
え? 顎弱いの? って顔で皆が心配そうに見つめてくるのを笑顔で黙らせる。
ただ、アナスタシアが贅沢にいいパンを今まで食べてきただけだった。
セレブ生活怖い。
最終学年の3年生でのダンジョン実習大丈夫だろうか。とりあえず、ロープの実習とか今後の使う機会があるのか不明と思って適当にこなしていたけど、どれも本当に必要になるから学んでいる可能性が高い。
私も刺繍を面倒がるチャビーと同じ事をロープの結び方を習っていて思っていたけれど気を引き締めて今後は寝る前に練習をしておこうと心に誓うアナスタシアだった。
その夜、自室の机で春の花を連想させるランプの元でアナスタシアはインク結びともやい結びの練習をしながらふと思う。
ダンジョンってこのロープ使って崖登ったり降りたりするとかあるのかな?
ちょっと無理なんだけど。
テ……テント設営くらいがいいな。
来年の野営実習でこのロープを実践するってことだよね……。不安しかないんだけど。
とりあえず、不安な時はアイスクリームの事を考えよう。
素敵なメニューを考えてちょっとだけ現実逃避をしながら手は何も考えずとも結べるように手を動かす。
反復練習あるのみ。全然セレブっぽくも貴族っぽくもないこの現実にちょっと笑えてくる。
魔力がたくさんある人、ない人さまざまな人達が暮らすこの世界。寿命や種族も様々だ。
過去、多くのトラブルを経験してきたオルサポルタの人達は、将来外国へ行った時の為にも色々な経験が身を助けると信じている。
その為の授業だ。大人達が子供達の為に考えた教育に無駄なものはない。そう信じる。




