そして巡る満月の夜
こちらの世界では、年に一度、満月の夜がおとずれる。
その日は月の光が地上に多く降り注ぎ、魔力が最も増すと言われる。
そんな満月の夜に、裏切り者の宰相に追われたエレーナ姫とルーファス王子は、辺境の呪われた地に住む妖精森の大魔女に助けを求めた。
始祖の大魔女は姫と王子に力を貸し、地獄の魔犬ケルベロスがクーデター軍を追い払い、裏切り者の宰相は魔人ミノタウロスに地獄に連れて行かれた。
それから一年後、再び巡る満月の夜。
蒼臣国の辺境の呪われた妖精森へと続く一本道を、月明かりに照らされながらひとりの子供が駆けている。
白銀色に光り輝く美しい髪をした子供は、侵入者を拒むはずの妖精森の分厚い結界へ飛び込むと、軽々と中を進んでゆく。
深い緑の妖精森は、巨大な二枚の岩壁と緑のトンネルを通り抜けて中に入る。
その妖精森の入口を目指し、息を切らしながら駆けてきたルーファス王子の足が突然止まった。
王子の目の前には、妖精森の入口を塞ぐ巨大な黒い鉄の扉がそびえ立っていたのだ。
それは体の大きな豪腕族が腕を伸ばしても届かないほどの高さで、鏡のように傷ひとつ無い一枚の分厚い鉄の扉が、二枚の岩壁にしっかりと取り付けられている。
突然現れた扉に行く手を阻まれたルーファス王子は、拳で扉を叩きながら必死に叫んだ。
「どうして扉があるんだ、これじゃあ中に入れない。
僕は、オヤカタに会いに来たんだ!!」
その日から白銀に輝く月の化身のような美しい王子に、不気味な噂がまとわりつく。
聡明なルーファス王子は、家臣たちを救うため妖精森に住む大魔女の後継者【茶色い髪の魔女】と奴隷契約した。
魔女に魂の捕らわれた王子は、満月の夜になると呪われた妖精森をさまよい歩く。
王子にその行為をやめさせようとしても、魔女の奴隷となった呪いを解くことはできない。
次の満月の夜も、
その次の満月の夜も、
王子は妖精森の結界の外をさまよい歩いた。
噂はこちらの世界を統べる覇王にも知れ渡り、王都の最高位神官が不気味な予言をする。
妖精族の祖先返りの魔力を持つ麗しい白銀の王子は、【茶色い髪の悪い魔女】に魂まで奪われ、いつかこちらの世界から連れ去られるだろう。
その災いを逃れるには「十二歳になった王子を、魔女の呪いの届かない王都の大聖堂に預ける」という話が持ち上がる。
黒い噂が立ちこめる中、今年も満月の夜が訪れた。
-to be Next-
「白銀の王子(中)と冬薔薇塔のDIY乙女」
夏休みのお話はこれで完結です。
ありがとうございます。文章ストーリー評価は次作への励みになります。




