第32話「そんなことない!超美少女だ!」
「そう、ですか…」
『まあ悲観するな!絶対未来を変えてはいけない訳ではない!』
「…」
『とにかく!振るにしても、誠意を持ってということだ!失恋した、嫌われた、怒らせた。それだけで君が未来に戻れない可能性が生まれるというレベルの話だ!』
「結構難しくないですか…?」
『私はそうは思わないぞマトイー!』
「??」
『未来の君はきっと愛されていたはずだ!事実、未来の乙花さんは君と再会しなくても、君との出来事を大事にして生きていたのだからな!』
確かに、コンビニで乙花を見たときの俺も彼女の行動に胸を打たれたわけだし…
『それは、私たちもそうだ!あの手紙がなければ君なんかに協力しなかったぞ!』
「なんかってなんですか…」
『君が君のまま生きた結果が、未来の「すずまち」なのだろう!だから、君は全力で君でいろ!』
「社長…」
社長の言葉は過去に来ても少し迷っていた俺の道を一気に作ってくれた
「わかりました!とりあえず、どうなろうがそのままの自分で挑みます!」
『はは!その意気だ!』
ガチャ
———
「社長も良いこと言うな~」
あの人は、俺が思っていたよりずっと人の心が分かってる
「とにかく今は、乙花さんと向き合おう!」
それに、まだ向こうが俺のこと好きって決まったわけじゃないしな…
こうやって自意識過剰に決めつけて、失敗した経験はいくつもある
そんな事を考えていると、外は夕日で赤みがかってきた
「そろそろ準備しないとな…」
そうつぶやくと、後ろからまた祖父の声が聞こえた
「甚平の出番かの…?」
「うわあああ!…急に現れるのやめてくれよ…」
「ははは!そんなことよりはよ準備してこい、気合い入れてな!」
俺はため息を付きながら支度を始めた
———
「よし」
財布も持った、スマホも持った、風呂も入った、甚平も…着た
「いってくるよ!」
ガチャ
じいちゃんの家を出て50mほど坂を登った先に鈴木のおばあさんの家だ
『君は全力で君でいろ!』
俺のままでいるって、どうしたらいいんだ…今までの俺ならこういう時何を考えてた…?
いままでの俺なら…
よし!とにかく全力で楽しむしかないな!
俺は一人で決意した、前の俺ならそうしていた!
「あんな絶世の美少女とお祭りデートできる機会なんて二度とない!楽しまないと損だ!」
そうつぶやいた直後に女の子の声が聞こえた
「え…っとぉ…」
目の前に浴衣姿の乙花さんが立っていた
「え…?」
彼女の顔が異常に赤い、俺も乙花さんもかなり動揺していた
「あああ、あの…」
「いいい、今のは!その…決意っていうか!自分の中で今日の誘いのことを整理してただけで…聞こえてた?」
「はい…バッチリ聞こえました…ででで、でも!その言い過ぎっていうか!び、美少女なんて言われたことないですし…!」
「そんなことないよ!超美少女だ!」
「!?」
俺は自分が何を口走ったのか気づいて下を向いた
「……」
「……」
「とりあえず、行こうか…」
———
俺達は見慣れた川沿いを歩いていた
「遠いね…」
「そ、そうですね…」
何を話せば良いんだ…それに祭りの会場までは200m位の距離だ!決して遠くはない
きっとこの気まずい空気が遠く感じさせているのだろう…
そんな事を考えていると乙花さんが口を開いた
「あの…甚平、お似合いですね」
「ああ…ありがとう、じいちゃんが着て行けってうるさくて」
「そう、なんですね…」
会話が続かなすぎる
それにしても乙花さんの浴衣姿もかわいい…少し口紅も塗って髪までしっかり飾っている
俺との祭りのために綺麗にしようという健気な姿勢こそが美しい!決して14歳の少女に惚れているわけではない…!
そう考えながら俺は口を開いた
「お、乙花さんも…似合ってる」
「!?」
「あ…りがとうございます…」
そう言うと、彼女は下を向いて喋らなくなった
そうこうしているうちに、祭りの太鼓の音やガヤガヤとした祭りを楽しむ人達の声が聞こえてきた
「着いたね」
「はい…」
今日は、ただ全力で祭りを楽しむ…だけ…




