第14話「『エナギンギンX』だ!」
何だ何だこいつはなんで指なめたの?なんで?
女子に触れたこともない俺はとても興奮・・・動揺した
とにかく、このままだと色々ヤバい・・・起こしきらないと
俺の手に顔を近づけていた茉莉花を振りほどき言った
「茉莉花!朝だぞ!アジ食ったなら起きろ!」
このときは驚きすぎて敬語を忘れていた
茉莉花は少しずついつも通りの無表情に戻り目を開いた
「・・・ん、おはよう」
「お、おう・・・あ、じゃなくておはようございます」
寝ぼけてたにしても、色々やばいだろこいつ・・・
「着替えるから、出て」
「はい・・・」
部屋を出ようとした俺を茉莉花が呼び止めた
「ありがとう、それと・・・タメ口、気にしない」
「お、おう・・・」
なにか少し認められたような気がした
ガチャ
それにしてもなんだったんだ・・・なんで指を・・・ほんとに猫なのか?
そう思い右手を眺めていたら気がついた
「そういえば、この指でアジ触ったんだった・・・」
そう、茉莉花はアジの匂いに引き寄せられ俺の指を舐めていただけだったのだ・・・
ーーー
休憩室を出て事務所に向かっていた
コツコツコツ
「あら、枕井くんおはよう。今日は早いわね」
奏花さんだった
「おはようございます、そうなんです。チームリーダーの仕事で・・・」
「あぁ・・・あれね・・・」
奏花さんは全部知っているようだった
「それにしても、大変ね。入社早々チームリーダーなんて」
そうだよね、その感覚がある人がいてくれてよかった
「はい、まさかここまでとは思ってなかったです・・・」
「ふふっ、午前中でバテないようにね!何かあったら私に言ってね」
奏花さん・・・いい人だ・・・好きになりそうだ!
ーーー
そこから徐々にみんなが出社し始めていた時だった
「おはようございます!枕井さん!」
「おはよう、纏」
巴ちゃんと浩貴だった
「おう、おはよう二人とも・・・」
俺の顔を見て浩貴が笑いながら言った
「だいぶこたえてるなぁ・・・」
「当たり前だ・・・これを毎日ってもう拷問だろ」
「そうだな・・・社長に俺から言っておこうか?」
「いや、巴ちゃんもやってたわけだし、まだ大丈夫だよ」
それに、ブラック時代を経験している俺からしたらなんてことなかった
ただし、女性適性がない俺にはかなりこたえていたのも事実だ・・・
「あれ?そういえばもう、始業時間だけど社長は?」
そういえば社長の姿を見なかった、俺は二人に聞いた
「ああ、あの人ならもう出勤してラボにこもってるはずだよ」
「ですね!社長はいつも開発熱心なので昨日は帰らずにずっと作業してたんだと思います!」
だから事務所の鍵が開いていたのか・・・
適当な人だと思っていたけど、そういうところだよな。やっぱりそんなあの人に本気で期待してしまう。
そう思っていたときだった
「やあ諸君・・・おはよう・・・」
その声を聞いて巴ちゃんが真っ先に挨拶をした
「あ、社長おはようございます!ってなんかよぼよぼですね・・・」
「昨日、面白いアイデアを考えついてな・・・試していたら朝になっていた・・・」
そんな社長を見ながら浩貴が俺に言った
「ああいう人なんだよ、面白い人だろ!」
なぜこいつは自慢げなんだ・・・
「それはそうと・・・もうミーティングの時間だ・・・みんな社長室に来るように・・・」
そう言って社長室に戻っていった社長は猫背でいつもより小さくなっていた
「茉莉花を呼んでこないとな」
そう言うと浩貴がニヤけながら言った
「『茉莉花』ねえ、気に入られたんだな、あの人に」
おれは少し困ったような顔をして返した
「どうなんだろうな、まだあの人がよく分からん・・・けど」
「けど?」
「なんだか茉莉花も社長も本気で作りたいものに必死で、俺は少し期待してるよ」
「答えになってねえよ」
浩貴はそうツッコミながら、俺の言いたいことが分かっていた様子だった
ーーー社長室
「みんな来たようだな!待っていたぞ!」
なんか社長元気になってるな
「社長、復活したんですね!?」
巴ちゃんが気になった様子で聞いた
「ああ、昨日寝ずに作業していたときにうっかり最強エナジードリンクを開発してしまってな!」
どんなうっかりだ
「これを1本飲めば、3日は眠くならないのだ!名付けて『エナギンギンX』だ!」
名前だっさぁ・・・
俺は仕方ないなという顔で言った
「開発楽しいのは良いことですけど、ちゃんと寝ないと体壊しますよ・・・ほんとに」
「3日後寝るぞ!」
「だめだ、今日は死ぬ気で寝てください」
俺と社長の会話を見ていた巴ちゃんと浩貴が仏のような顔をしてこっちを見ていた
「何だよお前ら・・・」
二人が微笑みながら答えた
「いやぁ、纏が社長の心配するなんてなぁ」
「そうですねぇ、すっかりリーダーって感じですねぇ」
何なんだよ・・・ほんとに
リーダーが何なのかはまだわからないけど、チームメンバーへの責任感のようなものは少しだけ生まれたのかもしれない
前の会社は責任感のない上司ばっかだったもんな・・・
俺は前の会社のチームリーダーの言葉を思い出していた
『こんな業務1時間あれば終わるだろ』
『本当に要領悪いな』
『タイパだよ、タイムパフォーマンス。時間の使い方悪すぎ』
タイパ・・・?時間・・・?
「そうか!分かったぞ!」
社長が俺を見て驚いたように言った
「なんだ!?何が分かった!?」
興奮した俺の耳にはその声が聞こえていなかった
「茉莉花を呼んでこないと・・・」
そう言いながら扉を開けようとした時、反対側から扉が開いた
ガチャ
「おはよう」
茉莉花だった
興奮したまま俺は茉莉花の肩を掴んで言った
「今から・・・アジを買いに行くぞ!」
「アジ・・・!」




