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「自分らしくあるため」の服とは?

 それから一週間後。


「二十年ぐらい前に、父さんが放浪修行のためにニッポンに留学した時のことなんだけど」


 港町に立ち並ぶ、レンガ造りに倉庫街。

 その一角を占める古ぼけた雑居ビルの一階で、ロックミシンと呼ばれる二本の針をそなえた、生地を縫いつけるための専門的なミシンの調整をしながらウォルフィが言った。


「うちの父さんは研究室にこもって生地(きじ)繊維(せんい)の開発をするのは大好きだけど、デザインを考えるのがまるでダメでさ。

 発表会に出す服のデザインがまとまらなくて。

 そのとき留学先で同級生だった母さんにコッソリ依頼(いらい)したんだ。

 そうしたら、すごい反響があって」


「なるほど、それがきっかけで、こずえさんは異世界でデザイナーになったんだ」 

 

 ハルミはウォルフィの話に相づちを打った。

「ちなみに、その時こずえさんはどんな服をデザインしたの?」


「ええと、たしか『自分らしくあるための服』だったっけ」


「へえ、なんだかカッコよさげな服じゃない。どんな服だったの?」


「その服を着ると、身につけた人の体形がとんでもなくデフォルメされるんだ」


「で、デフォルメ?どんな風に?」


「服の裏がわに着る人の体形を感知するセンサーがついた、空気を閉じ込めたパッドが入っててさ。

 太った人が着るとパッドの中に空気が送り込まれてお腹の部分がはち切れそうなくらいにふくれあがるんだ。

 逆に()せた人が着たら、肩や腰骨(こしぼね)といったこれ以上張り出すはずのない部分が横に伸びて、胴体をさらに貧弱で頼りなく見せるんだ」


「はあ?」


「そもそも人間の体なんて、左右対称じゃないだろ?

 けど、そんな部分までその服は忠実にデフォルメするから、その服を着た人間は生き物というよりは前衛的(ぜんえいてき)彫刻(ちょうこく)みたいになっちゃってさ」


「ぜ、前衛的な彫刻って……」


『人びとの眼のまえに服があらわれるときに隠れるもの。それを服を着ることによってあらわにする』

 という、コンセプトだったらしい。ひねくれてるだろ?」


「……親子ね、やっぱり」


 ため息をついたハルミは、先日家に送られてきた封筒をひらくと、中から引っ張り出した手紙をあらためて読みなおした。


『瀬戸内ハルミさま


 開店のお知らせ


 服でお悩みを解決します。

 仕立てとお直しのお店・D


 住所:えびす橋商店街九丁目××番地1F

 電話:なし


 ※土曜と日曜日のみの営業となります』


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