何かがそこに、息づいている
「ところで現役のデザイナーから見て、この作品に対するアドバイスのようなものはないの?」
というウォルフィの問いかけに、
「それは、服に聞いてちょうだい」
と、答えるこずえさん。
「服は、わたしたちの思いどおりにはならない。
だれも、服を支配することなんかできない。
わたしたちができるのは、それがあるべきかたちを取ろうとしているのを手伝うことだけ」
そう言ってこずえさんはふたたびウォルフィのドレスに歩み寄ると、愛おしそうにその生地に手をふれて言った。
「けれども、服はわたしたちに寄りそってくれる。
一人きりではとうてい受け入れることができないものを、受け入れなければならない時に。
人がなにかを始めるときや、終えるとき。
出会うときや、別れるとき。
結ばれるときや、離ればなれになるとき。
さまざまな変化を人が乗り越えようとするとき、それは服のすがたを借りてわたしたちと共にある」
こずえさんの言葉を聞きながら、先週行われたファッション・ショーをハルミは思い出した。
その時、ランウェイを囲んだ観客たちのすがたが、なにかを迎えるための器のようだと思ったことも。
目には見えない、手に触れることも、ことばにすることさえもできないもの。
糸や布地を縫い合わせたものを、服へと変えてしまうもの。
呼吸のように繰り返されながら、わたしたちと共にありつづけるもの。
―なにかが、そこに息づいている―
ウォルフィの作ったドレスの前で、ハルミはそっと耳を澄ました。
第二章 カンパネア編 終了
次回、いよいよ最終章!




