さて、きみはどう思う?
発表会が、終わった。
会場の中央には留学した子どもたちが発表したすべての服が、マネキンに着せつけられて展示されている。
そのまわりでは、もっとも優れた作品に贈られる「青狼賞」を決める審査員たちが口々に意見をかわしあっていた。
「伸縮率三百パーセントだって?
よくこんな生地にプリーツを入れたな」
ウォルフィの作ったドレスを前にして、頭をツルツルに剃りあげたスキンヘッドの男性がうなった。
「裾にむかって流れ落ちる肩のドレープが、幅が広がることで左右が非対称になるとは」
「化学繊維ね。
これだけ伸びるってことはポリウレタンかしら?」
黒ぶちメガネの奥で目を輝かせながら、ドレスの生地に触れていた女性が言った。
「編みかたに工夫があるようね。伸
び縮みがしやすいように、ニットみたいに編んである」
「ドレスが広がったときに、左右でちがうシルエットにした理由は?」
「黒いイブニングドレスが、ミニのワンピースへと変化した意図は?」
「開いたプリーツの奥からあらわれた、あざやかな色が表現しているものは?」
「作品のコンセプトは『非可能性を共有することは可能である』と、とらえてよいのかしら?」
「ぜひ、型紙を見せてくれ!」
と、口ぐちに質問をあびせてくるのは、おもにデュエマの服づくりをする生産部門のデザイナーやパタンナーたちだ。
しかし、一方では、
「これは、ちょっと……」
と、表情を曇らせる人や、
「こんなものは話しにならん!」
と、顔を真っ赤にして怒りだす人も。
「わたしには、この服を欲しがるお客さまの顔が見えない」
マネキンの前で腕ぐみをしていた、ストライプの入ったスーツを着た男性が言った。
「あまりにも、これまでのデュエマのデザインから、かけ離れている」
「わたしも、おなじ意見です」
そのとなりに立っている、真紅のスーツすがたの女性もうなずいた。
「一人よがりです。
今のデュエマを支持してくれているお客さまの好みを、ないがしろにしています」
と、反対の意見を口にするのは、デュエマという会社の外で顧客と会う機会の多い、営業部門や管理部門の幹部たちである。
「なに言ってるのよ。
わたしたちの仕事は、客に揉み手をして、振り向いてもらうことじゃないわ。
振り向かせることよ!」
黒ぶちメガネをかけたデザイナーの女性が声をあげた。
「少なくともわたしたちの仕事は、業界のきまりごとをなぞって、あなたがたを安心させることじゃないわよ」
「アートじゃないのよ、お客さまが求めているのは」
赤いスーツすがたの営業部門の女性が言いかえす。
「良い服とは、たくさんの人々が欲しくなったり共感したりすることができるものでもあるのよ。
そこを理解して頂きたいわね」
「おれは、この服に賞を与えたい」
ツルツル頭のパタンナーが言った。
「デュエマは、完全ではないことを美しさと捉えることで出発したブランドだ。
この変化する服には、ブランドの精神が宿っている」
「かといって、今までのブランドの方向性をまったく無視していいわけではない」
ストライプのスーツを着た管理部門の男性が首を横に振る。
「いいいか、冷静に考えてくれ。
この服が新しいデュエマのスタイルになるということ。
それはデュエマを含んだあらゆる服飾メーカーの服すべてが、時代遅れのものになってしまうという事でもあるんだ。
そうなったら、抱えている在庫をどう処分すればいい?」
「……みごとに、評価がわかれたな」
放っておけば殴りあいでもはじめそうな勢いで、意見を交わしあう審査員たち。
そのすがたを審査員席で眺めていたエルリック氏は肩をすくめると、
「さて、きみはどう思う?」
と、となりに座っていた人物に声をかけた。




