誰もが同じ着こなしを、するべきではない服
(地震?)
誰もが、そう思った。
ずしん。
きしむ床、ざわめく観客たち。
ずしん。
地鳴りのような足音に合せて、天井から下がった照明が波うつように揺れる。
客席に広がっていく、ものものしい空気。
なかにはシートから腰をうかせて、その場から立ち去ろうとしている人もいる。
その前に、
「あれは?」
ステージの上にあらわれたのは、巨大な女性のシルエットだった。
縄のように編みこまれた、長い髪の毛。
飛び散った火花をとじこめたようにきらめく、赤い宝石のような瞳。
鍛えあげられた肉体に浮き出た筋肉の、鑿で彫りこまれたようなけわしい影。
「オーク族か!」
ランウェイの上を通りすぎていくのは、身の丈が三メートルに迫ろうかというオーク族のモデルだった。
もちろん彼女も、下着のほかには何も身につけてはいない。
そしてランウェイのうえでは、ドレスを脱ぎ終えたリザードマンのモデルが下着すがたにもどっている。
(まさか、この巨体であのドレスを?)
下着すがたのリザードマンが、脱ぎ終えたドレスをオーク族のモデルに手わたした。
身長も肩はばもからだの厚みも、リザードマンよりもはるかに大きなその体。
しかし、
「おお!」
シワだらけだったドレスの肩はばや胸まわりは、最終的にこの女性の体にフィットするように作られていたらしい。
オーク族の巨大な体が身にまとうことで完全に伸びきったドレスの生地。
その表面から、それまで刻まれていたシワやひだが次々と消えていく。
そこには、
「ああ……」
あざやかな色彩が、ランウェイに花ひらいた。
それまでドレスに刻まれていたシワやひだの、いちばん奥深いところに隠されていた色彩。
それは咲き誇ることを待ちわびていたつぼみが、いっせいに花ひらいた瞬間だった。
やがて、ランウェイの一番まえに座っていた観客が、パチパチと手のひらを打ちあわせ始めた。
拍手は前から後ろに、ランウェイを中心にどんどん外へ広がっていき、やがて嵐のような音となって大広間に鳴りわたった。
拍手のまんなかでポーズをとるオーク族のモデルの後ろから、さきほどランウェイを歩いたゴブリン族とリザードマンのモデルが、同じドレスを身につけてふたたびすがたを見せた。
それは、誰もが着ることができる服だった。
色も、かたちも、サイズも、何もかもがまったく同じ。
にもかかわらず、誰もが同じ着こなしを決してすることができない、いや、「するべきではない」服だった―




