綺羅綺羅(きらきら)寿司を撃退!その方法とは?
「シルクではないな、この生地は」
いつの間にか伽美亜の前に立っていたヤンキーファッションの少年が、ハッピの生地を見つめながら言った。
「ポリエステルの糸にポリウレタンの糸をより合わせて作った化学繊維だ。中性洗剤でのほぐし洗いをおすすめするぞ。なるべく短時間ですすいで、手早く水分を切って……」
「あ、あばばばばばあ!」
とつぜん目の前に現われたイケメン少年。
その姿を目の前にした伽美亜の口から、おかしな声が出た。
「だっ、誰か、みっ、水」
こちらも、少年の美しさに当てられてしまったのだろう。
顔を真っ赤にして
「み、水……」
と求める伽美亜に、
「な・る・ほ・ど・キャビアちゃん!お・み・ず・が飲み足りない! 」
と、綺羅綺羅寿司の男たちから次々と差し出されるミネラルウォーターのペットボトル。
それを、なぜだか氷を入れるためのアイスペールと呼ばれる容器になみなみと注ぎ込むと、
「イッキッキーのーキー!イッキッキーのーキー!」
「グイ!グイ! グイグイよし来い!」
という男たちのコールとともにイッキ飲みした伽美亜は、
「しっ、失礼ね!」
ぷはあと息を吐きながら、ただでさえ吊りあがっている目を、きゅいんとさらに吊り上げた。
「あたしの着ているハッピにケチをつけるつもり?」
「可哀想だぞ、このハッピが」
少年の眼差しが鋭くなった。
「化学繊維には化学繊維の良さがある。そしてこのハッピは、その性質をうまく活かして作られている。服にケチをつけているのはお前のほうだ」
「てめえ!」
「どこ中だ?」
「タタキにしてやろうか!」
「その後シメサバにしてやるぜ!」
と、怒鳴り声をあげながら、わらわらと少年のまわりを取り囲む男たち。
それから、信じられないものを、ハルミは見ることになる。
赤い髪の大柄な男が、少年に掴みかかろうとした時だった。
「え?」
とつぜん足もとをフラつかせて、地面の上に尻もちをついた。
「野郎!」
耳にピアスをじゃらつかせたサングラス姿の男が、少年に向かって拳を構える。
しかし、
「なに?」
やはり一歩踏み出したとたんに、前のめりに倒れこむ。
ほかの男たちも、
「えっ?」
「わっ?」
「ひゃっ!」
と、歩き出そうとした瞬間に足をもつれさせて、ぶざまに地面に転がっている。、
(こ、これは?)
ハルミは目を見張った。
地面に転がった綺羅綺羅寿司の従業員たちが穿いているズボン。
その全員のズボンの右足と左足の裾が、いつの間にか糸で縫いつけられていたからだった。
「ああ、その糸は無理に外さないほうがいいぞ」
という少年のことばを無視して、
「ふ、ふざけやがって!」
地面に転がった男たちが、両足を縫いつけていた糸を引きちぎって、立ちあがった時だった。
「!」
一瞬にして、伽美亜と闘龍風の着ていたハッピの縫い目がほどけて、バラバラとあたりに散らばった。
(い、いったい何が)
あ然とした表情でその様を見ていたハルミの前で、
「イヤイヤ、さすがにコレ絡んだら……死ぬんじゃね?」
と顔を見合わせる綺羅綺羅寿司の男たち。
「いや、死ぬね!」
「いや、死ぬわ!」
「逃げてから言え マジ黙れ!」
「ホイ!ホイ!」
「ホイ!ホイ!ホイ!ホイ! ホイ!」
と、逃げるときもコールを口にしながら走り去っていく、伽美亜、闘龍風、そして従業員男たち。
その背中を見おくったハルミは、
(あれ?)
地面に散らばったハッピの切れはしの前に、少年がしゃがみこんでいるのに気がついた。
「すまない……」
申し訳なさそうに呟く少年の声が聞こえた。
「ちゃんと洗ってから、もとの形に縫い直すからな」
(ひょっとして、服に話しかけているの?)
ハルミが見ている前で少年はハッピの切れはしを拾い集めると、栗色の髪を風になびかせながら商店街から去っていった―




