それ自体が意志を持っているかのように
服というものは、いくつものパーツに分かれている。
ジャケットひとつとっても、身ごろと呼ばれる胴体の部分や、腕を通す袖。
襟やポケットやボタンなど、さまざまなパーツから成り立っている。
服をゼロから仕立てる場合、まずは着る人の体のサイズを計って、それに合わせて布地からパーツを切り分けて、それから糸で縫いあわせる。
この縫いあわせのしかたで、服がどれだけ着る人の身体になじむかが、左右されるのだ。
布と布をミシンでガチガチに縫いつけた場合、その服の作りそのものは確かに丈夫になる。
おそらく、シルエットも崩れにくいだろう。
しかし、腕の立つ職人によって手縫いで作られた服は、生地と生地との縫い合わせをワザとゆるく縫っている。
そうすると、体の出っぱった所が当たる部分には沢山の糸が取られて生地と生地との間隔がひろがり、体が動かしやすくなる。
そしてその分、体の引っこんでいる個所の糸は引っ張られて、自然と締まっていく仕組みになっている。
人間の体は、いくつもの出っぱった部分と引っこんだ部分でできている。
だからこそ、手縫いでゆるく縫いあげた服は、着れば着るほど身体になじんでいき、最後はその人の体形にぴったり合った服へと進化するわけだ。
「このスーツは、服が身体になじんでいく過程を、最新の技術におきかえたものです」
と、タブレットを操作しながら説明するエルリック氏。
そこには、すべての服がパーツごとに分割されて、着る者の体型に応じて伸び縮みをすることで、同じシルエットを保つことができる工夫が説明されていた。
まずはその服を着ると、中に仕込まれたセンサーが体の大きさを感知して、その人の体型を数値に置きかえたデータにする。
そのデータを電気信号に変えて、電圧よって伸び縮みをする素材に送りこむことで、布地そのものが伸び縮みして自動的に着る者にふさわしいシルエットにしてくれる。
まるで服じたいが意思を持って、着ている人間の身体に合わせて仕立てを行ってくれるようである。
「す、すごい……」
これまでのスーツは、布地と布地を縫いつける「縫製」の技術によって、布地を体になじませていた。
それを布地そのものの工夫によって体にフィットさせるという、逆転の発想である。
ちなみにセンサーを起動させたり生地に電圧を送る電気は、生地と生地とが擦れあったときに生じる静電気を利用しているとのことだった。
これで服を脱いだ時に生じるパチパチと言う音や火花も押さえることができる、 一石二鳥の仕組みである。




