親子オオカミ
「いやはや、こんなに素敵なお嬢さんを見つけて帰ってくるとは」
伯狼館の応接室に、ハルミをむかえ入れたエルリック氏が言った。
「息子をニッポンへ留学させた甲斐があったというものです」
「父さん、何度も言うけれど、ハルミは―」
と、怒ったような声をあげるウォルフィに、
「ああ、失礼!事業主さまだったね」
と、うれしさを噛みころすようなエルリック氏の表情。
「さあ、お茶にしようか」
壁にはめこまれた時代がかった暖炉と、そのまわりを取りかこむ大理石でできた飾り棚。
床は黒っぽい木で出来ているようだったが、それが見えなくなるぐらいに何枚もの絨毯がパッチワークのように敷かれている。
どの絨毯にも、こみいった模様や可愛らしい絵柄が織りこまれていて、床に敷くのがもったいないほどだった。
「……なぜ、靴を脱ぐのですか?」
いいのか、やっぱり。
部屋の中央に置かれた、純白のテーブルクロスのかかったテーブル。
その上でシャンデリアの光を跳ね返している、真っ白な磁器でできたカップやソーサー。
そして丹念に磨きあげられた銀製のスプーンやフォーク。
「ああ、お茶はわたしが淹れよう。ヴィンセント、お前はお茶菓子の準備をしておくれ」
手押し車に乗せてヴィンセントさんが運んできたティーセット。
それを使ってエルリック氏は、みずからハルミに紅茶を淹れてくれた。
「この紅茶は、人間の世界から仕入れたものなんですよ。
ハルミさんのお口に合うといいんですが」
(お父さん、すごく嬉しそうなんだけど)
テーブルについたハルミは、いそいそとお茶の支度をするエルリック氏のすがたを見ながら思った。
エルリック・カンパネロ・デュエマ氏。
マクシム公の代から続くデュエマ家の六代目にして、高級服ブランド「デュエマ」の社長。
そして、カンパネアで贋ブランド服を作ろうとする業者を見つけ出す、摘発者のリーダー。
太い首とぶ厚い胸板。
見あげるような大きな体と、三つ編みに編んだ金色の髪。
会社の社長というよりは、プロレスラーと言われたほうがしっくりくるかもしれない。
聞くところによると、若い頃のエルリック氏がオオカミ人間に変化したときは、まともに相手ができるものはカンパネアにはいなかったそうだ。
にもかかわらず、
(めっちゃ、いい人じゃない?)
手押し車とテーブルのあいだを、かいがいしく動きまわる三つ編みすがたの大男。
手慣れた様子でカップにお茶を淹れる手つきは、板についていると言っていいほどだ。
放っておいたら、そのうちオーブンでマフィンでも焼き始めるんじゃないだろうか。




