「紹介しよう、父だ」
モデルたちが登場するたびに、ランウェイを取りまく空気が熱を帯びていくのがわかる。
家臣を睥睨する女王のように堂々とした足どりであらわれる者や、夜明けとともに消えていく星々の瞬きのように儚げなステップを踏む者。
野生の獣を思い起させるしなやかな動きでポーズを決める者や、からだの奥深い場所をしめつけるような切なげな表情で振り返ってみせる者。
張りつめていた空気が揺れ、弾け、モデルたちを取りかこむ熱狂が更なる高みへとショーを押しあげてゆく。
何かを迎えるための器のようだ。
ランウェイを取り囲(かこ)んだ観客たちのすがたを見てハルミは思った。
髪の毛ひとすじの誤りも許されない、厳粛な手続きと熱狂の果てにだけ、降りてくる何か。
観客席はそれを受けとめようとする無数の人間でできた器のように、ハルミには見えたのだった。
そして、終幕。
鳴り響く拍手の中、ショーに登場したすべてのモデルたちがもう一度ランウェイにすがたを見せた。
ステージの中央では、デュエマのチーフ・デザイナーである黒ずくめの服を着た女性が、客席に向かって手を振っている。
やがてモデルたちが一人ずつすがたを消していき、そのたびにランウェイを照らす照明がひとつずつ落ちていく。
最後にチーフ・デザイナーがステージから消えるのと同時に、完全に照明が落ちた。
ショーが終わった。
何かに取り残されたような顔で照れくさそうに笑う人たちや、思いつめたような表情で顔を引きつらせている人。
体の奥に籠もった興奮を押さえこむのに必死な人や、今にも叫びだしそうな顔つきの人。
そして魂が抜けたような表情でポカンとしているハルミみたいな人。
その時だった。
「瀬戸宮ハルミさんですか?」
と、日本語で話しかけられたのは。
(で、でかい……)
その人物を見あげたハルミは、思わず声に出しそうになった。
年齢は、四十歳を越えたあたりだろうか。
筋肉質の体を包みこんでいる、生地も仕立ても抜群のダークグレーのスーツすがた。
長く伸ばした金髪を三つ編みにして肩の上で二つに振りわけているさまが、優雅な貴族のようでもあり、気高い戦士のようでもある。
そして見覚えのある、凍てついた氷のような青みがかった瞳。
気のせいだろうか。
その男性のまわりの空気が、やけに濃いようにハルミには感じられた。
まるでフル編成のオーケストラが演奏する嵐のような交響曲が、体の内側で鳴りひびいているような存在感。
「はじめまして、瀬戸内ハルミさん。エルリック・カンパネロ・デュエマと申します」
金髪の巨漢は腰を折って、流暢な日本語であいさつをした。
「紹介しよう、父だ」
となりに立っていたウォルフィが言った。
(ち、父?)
とつぜんの紹介におどろくハルミに向かって、ニッコリと笑みを浮かべるエルリック氏。
「お会いできて光栄です。よろしければ、別室でゆっくりとお話ししませんか?」




