伯狼館(はくろうかん)のファッション・ショー
「お、王宮じゃないの、これって?」
から外に出たハルミの口が、あんぐりと開いた。
先ほどまで自分が中にいた建物が、まさかこれほど巨大なものだったとは。
「伯狼館」
タブレットの画面に、建物の名前が浮かびあがった。
手入れの行き届いた芝生の広がる、ひろびろとした敷地。
その中にそびえ立つ、壮大な石づくりの建築。
正面から見て右手にはとがった屋根をもつ塔が、左手には大広間のある別館が、それぞれ屋根つきの渡り廊下で繋がっている。
今をさかのぼること三百年。
この地に移り住んだマクシム・カンパネロ・デュエマ公爵によって建てられた館。
つまり、デュエマの本家。
「昔はここに、ジイちゃんとバアちゃんが住んでいたんだ」
色とりどりの花が植え込まれた、芝生の中に浮かんだ島のような生垣。
渡り廊下をならんで歩きながら、建物の由来をハルミに説明するウォルフィ。
「お祝いごとがあるたびに、親戚たちがここに集まってワイワイやってたんだけどさ。
築三百年を超えた時に文化財の指定を受けてから騒ぎづらくなっちゃって。
いまは本社の展示会とかパーティー以外では使ってない」
何なの、実家が文化財指定って。
ドアマンが開いてくれた扉から大広間に足を踏み入れたハルミは、
「は、華やかすぎる……」
と、思わず後ずさりをしてしまった。
大広間の奥に組みあげられた、まばゆい照明の放たれたステージ。
そこから客席に向かって真っすぐに伸びた、ランウェイと呼ばれる通路。
その上を歩くのは、優雅な足どりとは裏腹に、どこか挑発的な眼ざしをたたえたモデルたち。
百八十センチちかい長身と、「手のひらに収まっちゃうのでは?」と思えるぐらいに小さな顔。
そして努力だけでは絶対に手に入れることができない、生まれもった長い足。
モデルたちが身にまとっているのは、まるで素裸の体に炎を吐き出す竜が巻きついているように見える、透けたシフォン生地でできたジャンプスーツ。
あるいは肩から垂れさがったドレープと呼ばれる襞が、裾のあたりで花びらのように開いたパーティ・ドレス。
スカートの裾が丸く折りこまれた可愛らしいスカートに、あちこちから金属のトゲが突き出した黒革のハイヒールを合わせてランウェイを歩く者や、
むき出しの肩と背中で孔雀の羽のようなドレスを麗しげに着こなす者。
あるいは、厳かなまでに引きしまった腰のくびれで、月夜の浜辺に打ち寄せるさざ波をイメージしたイブニング・ドレスを着こなす者。
「これは何?なんかのお祭り?」
大音量のダンス・ミュージックの中、怒鳴るような大声で尋ねるハルミに、
「デュエマのファッション・ショーだ」
と、ハルミの耳もとにむかってやはり大声で答えるウォルフィ。
「今年の新作を見せるための発表会だよ」




