摘発者(レイダース)
晴れあがった空が、ベランダの外に広がっている。
かなたには、おだやかな波が打ちよせる白い砂浜。
その向こうに見える、うっすらと煙を吐き続ける巨大な火山のシルエット。
そして、その麓に建ちならんだ石づくりの町なみ。
「ハルミ」
海に向かってせり出したバルコニーの手すりにもたれて、景色を眺めていたウォルフィが言った。
「ハルミには、どれくらい友だちがいる?」
「どれくらいっていわれても……」
やはりベランダの手すりに体をあずけながら、指を折って数えるハルミ。
そのすがたを横目で見ながら、
「俺には、いない」
ウォルフィが言った。
「学校に行っても、俺に話しかけてくる者は一人もいなかった。
だれもが俺と関わることを避けていた。
仕立て屋とか針子とか、服の生地やボタンを卸す問屋の子どもたちからは特にな。
なにしろ、検査に来るのがうちの父だったんだから」
「検査?」
「贋ブランド品を見つけ出すための、摘発検査のことだ」
そう言って、ウォルフィはため息をついた。
「今から七、八年ほど前、俺が学校の初等科に入学したばかりのころだった。
このカンパネアに、かなり大がかりなニセモノの服を作る組織が現れたんだ」
ただしその組織が作ったニセモノはゆったりとしたカンパネア・スタイルのものではなく、当時流行していたカッチリとした北部の有名ブランドの服だったらしい。
「何しろカンパネアの職人は手先が器用だからな。
型紙さえ見れば大抵の服は作ってしまう」
しかしそのおかげで、カンパネアの職人は二つの大きなものを失った。
一つ目は「信用」である。
なにしろ、金に目がくらんでニセモノの服を作ったのだ。
これは当然のこととだろう。
二つ目は、「誇り」だった。
もともとデュエマをはじめとする南部のゆったりとしたスタイルは、北部のカッチリとしたスタイルに対するアンチテーゼから発展したものだった。
にもかかわらず、南部の服づくりを代表するはずのカンパネアの職人が、北部のコピー品を作ったのだ。
それは、自分たちの作りだす服が北部の服よりも劣っていると、世のなかに宣言したのと同じことだった。
「信用を失くしたカンパネアの服は、まったく売れなくなった。
むかしながらの小さな仕立て屋や下請けの業者たちは次々と仕事を失い、まるでドミノ倒しみたいにたくさんの店が潰れていった」
そこでデュエマをはじめとするカンパネアの服飾メーカーは、贋ブランド品を作る業者を探し当てる摘発者という組織を結成した。
「そのリーダーに選ばれたのが、そのころデュエマの品質管理をしていた父さんだったんだ」
そう言ってウォルフィは唇を噛んだ。
「あれだけ家族に優しい父親が、どうして同級生たちの家族からは『悪魔』と呼ばれるのか。子どもの頃の俺には、まったく理解ができなかった。
もともと仕事には厳しい人だったけど、贋ブランド品を作る業者には特に容赦がなかったらしい」
“デュエマか、おれは気に入らないね”
“カンパネアのためだとか言って、ムチャばっかり押しつけやがって”
“自分たちを良く見せたいだけなんだよ、あいつらは”
ここに来るまでに聞いた若者たちの言葉を、ハルミは思い出す。
「だから、ずっとカンパネアから出たくて、中等科は別の町にある進学校に入学したんだ。
すると今度はデュエマの名前に媚を売ったり取り入ろうとする奴らばかりで。いつまでたっても友だちと呼べる人間が俺にはできなかった」
その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
続いて、
「ウォルフィさん」
わずかに開いた扉の隙間から、ヴィンセントさんの声が聞こえた。
「そろそろ、大広間でショーが始まる時間です」




